もとまち寄席 恋雅亭
公演記録    第385回 
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 公演日時: 平成22年 9月10日(金)      午後6時30分開演
  出演者     演目
 桂   あさ吉  「青菜」
 林家  花 丸  「あくびのけいこ」
 笑福亭 竹 林  「みかん屋」
 桂   九 雀  「花筏」
  中入
 桂   三 風  「3年1組同窓会」
 笑福亭 松 枝  「寝床」(主任)

   打出し  21時00分
   お囃子  林家 和女、勝 正子
   お手伝い 笑福亭喬介、桂 治門

 平成二十二年九月の第385回恋雅亭・九月公演の当日は、まさしく残暑の陽気の陽気。
前景気も絶好調で、前売券も完売。熱心なお客様はいつも以上に早くから列を作られる。いつもながら長時間並んでいただくには申し訳ないことであります。今回もいつも以上に一杯で届いたチラシを人海戦術で折込を行い開場を迎える。
 一番太鼓と共にご入場されるお客様で会場一杯に用意した椅子が次々に埋まっていき、定刻の六時半には、後ろに空席を若干残す入りで開演を迎えました。

 九月公演のトップバッターは吉朝一門の総領弟子の桂あさ吉師。
阪南大学卒業後の平成5年入門ですので、キャリア17年の贅沢なトップバッターである。亡き師匠と大師匠(米朝師匠)から叩き込まれた落語への前向きな取組みを忠実に実行されている行儀正しい芸風の当席の常連です。
 そのあさ吉師、早くから楽屋入りして、楽屋の準備で大活躍で開演を迎えました。『石段』でトップバッターらしく羽織も着用せず(特に決まっていないが)高座へ登場し、「持ち時間も決まっておりまして非常に短い」と、本題の季節感あふれる夏の噺、『青菜』が始まる。おなじみの噺をキッチリ、カッチリと仕草、言葉、間、いずれも基本に忠実に演じられた十五分の好演であった。
 ここで登場する「柳陰(柳影・やなぎかげ)」とは味醂(みりん)を焼酎で割った古くから親しまれているお酒で今で言うカクテル。青菜は青い野菜の総称ですが、「固うしぼって胡麻でもかけて」との台詞から推測すると「ほうれん草」ではないでしょうか。予断ですが「ほうれん」というのはネパールの地名だそうです。

 二つ目は林家一門から林家花丸師で、この師匠も当席常連、一門伝統のもっちゃりに持ち前の現代風の笑顔で繰り広げられる上方落語はいつも爆笑の連続で平成3年入門のキャリア19年。『ダーク』の小気味良い出囃子で高座へ登場し、「ありがとうございます一杯のお運びで続きまして花丸のほうでお付き合い願いますが今日は開演前から笛のええ音色が聞こえておったと思いますが、あれはあさ吉さんでございまして上手いもんで・・・」と、習い事、さらに、一門で演じられる噺家芝居のマクラから始まった本題は、何とも落語らしい『あくびのけいこ』の一席。
 前半の色々な習い事に挑戦し失敗を繰り返すクダリの面白さと後半の『あくび』を習いに行く稽古所での真面目にけいこに取り組むアホらしさを明るく元気一杯に演じるとその都度、場内から大爆笑が起こり、絶妙のタイミングでサゲとなった二十分の熱演であった。

--「林家花丸」、いかにも華やかで良い名前で当代にピッタリである。
古い話で恐縮ですが先代の花丸師匠の高座は見たことがあります。先代は昭和32年、三代目林家染丸師匠に入門し染太楼から花丸となられた。事情があって四代目枝鶴時代の後の六代目笑福亭松鶴師匠の門下に移って笑福亭花丸を名乗られる。その後、昭和48年に廃業された。聞いたことある『親子酒』『相撲場風景』『天王寺詣り』などは六代目笑福亭松鶴師匠に声も語りもそっくりだった。

 三つ目は笑福亭一門から笑福亭竹林師。
独特の風貌で演じられる上方落語はといつも爆笑の連続で、今回もと期待されておられる客席の拍手と『山羊の郵便屋さん』のコミカルな出囃子に乗って高座へ。「決して怪しいものではございません。先ほどは花丸さん、今、上方落語界の若手の中でも、芸良し、声より、顔良しと有望株です。その後になんか胡散臭い男が登場しまして・・・」とあいさつ。「私事で申し訳ございませんが、この間、インターネットで『奈良の人物』のを見ておりましたら、聖徳太子の次に笑福亭竹林が載っておりまして、ちょっと嬉しかったことをご報告申し上げます。」と、いつもの爆笑マクラが始まる。
 「落語会で『待ってました』、『後家殺し』と掛け声が掛かりますが私には『人物』と掛けていただきますように・・・。」爆笑マクラが続き、「本日は、永らく演(や)っておりません『みかん屋』の一席を・・・」と、ある先輩から「『みかん!』と大きな声が良い」と褒めてもらってから自信をもって十八番として演じられておられた噺がスタート。
 竹林師匠によると、この噺の口伝は桂ざこば師匠が六代目松鶴師匠に電話で「師匠、『みかん屋』付けて(教えて)下さい」。電話口の松鶴師匠「ほな今から電話で」。とええ加減な口伝を受ける。そのざこば師匠がラジオで演じたものを、落研の後輩がテープに録って演じたものを聞いて覚えたとややこしい。勿論、入門直後に松鶴師匠に口伝された噺で発端からサゲまで主人公を元気良くアホ丸出しで、それを温かく見守る多くの登場人物を個性豊に演じられた二十五分の熱演であった。
 東京では『かぼちゃ屋』として演じられるこの噺は、元々は上方種で大正初年に四代目柳家小さん師匠が東京に移植。『青菜』は、三代目柳家小さん師匠(寄席によく通っていた明治の文豪夏目漱石氏が『三四郎』の中で「彼と時を同じうして生きている我々は大変な仕合せである」と称した程の名人)が東京に移植された噺だそうです。

 中トリは、枝雀一門から師匠と自身の芸風とのコラボでいつも爆笑高座の桂九雀師匠が初お目見えとなります。いつもの愛くるしい笑顔で高座へ登場。
 「三席が終わりまして、後三席です。まだ笑われておられないお客様は笑うチャンスがあと、三席ですので大いにお笑い頂きますように」とあいさつして、落語ブームからスポーツの話題とマクラを振って本題の師匠直伝の『花筏』の一席がスタート。
 『花筏』、別名を『提灯屋相撲』と言うこの噺、その名の通り、提灯屋の徳さんが大関花筏に成りすまして大活躍する噺。この噺のように人生そううまいことは続きませんが、間一髪で助かることもあるようです。相撲の噺は多くありますが、その中でもこの噺は、筋立てが良く出来ていてクスグリも多く入った一席でしょう。その噺を大きな笑顔(決して巨顔ということではありません)で、師匠譲りの愛嬌タップリの演出で演じられるのだから面白くないわけがなく、随所に散りばめられたクスグリが大爆発して場内は爆笑に包まれた二十五分の高座でお仲入りとなりました。

 中入りカブリは、三枝一門から当席常連の桂三風師匠。
師匠の当席への想いをご自身のHPで紹介します。
・いつも超満員。・毎月10日というのが覚えやすい。
・前売り1800円/当日2000円というのがリーズナブル。
・地域寄席としては番組(出演者)が豪華。
・入り口の提灯の香盤表(出番表)が寄席情緒を醸し出す。
いろんな理由があるだろうが、間違いなく地域寄席の勝ち組だ。お客様が良く、いつも前座からウケるので、オレの方がオレの方がとここの楽屋にいると、気のせいか?演者がギラギラしている。少なくともオレは・・・桂三風の出たい地域寄席のベスト3に入っている。
 その三風師、三枝師匠が以前使われておられた『おそずけ』の出囃子で高座へ登場。
「えー、ありがとうございます。ここはいいですねぇ。よう笑ってもらえるし、これからは学校寄席で、・・・」と、学生時代の想い出や同窓会の話題を簡単に振って本題の『3年1組同窓会』が始まる。
 この噺、師匠のオリジナルのお客様もキャストの一部になれる、新感覚の客席参加型落語である。20数年ぶりに開かれた同窓会。集まったメンバーが今だから話せる当時のいろんな想い出を告白する物語。学生時代不良だったが公務員として真面目に仕事に励んでいる山下君が学生時代の悪行の暴露話をする場面や、事情がありクラスのお金を盗んだという学生のしんみりする場面など、客席は同感との笑いに包まれる。勿論、客席参加型落語なので、全員が同窓生になり、コップを持って仕草で一緒に乾杯する事で参加したことは言うまでもない。臨場感たっぷりの落語に場内は暑さを吹き飛ばすさわやかな爆笑の連続であった。

 そして、九月公演のトリは、上方落語界の重鎮・笑福亭松枝師匠の登場となりました。
今回も上方落語の大物をタップリと演じるべく『早船』の出囃子で登場し「ありがとうございます。毎月色々コンセプトを考えて出演者を決めておりますが、この九月席は、そうです、その通りです、上方落語界の顔のええ順に六人で・・・」。これで客席は一気に松枝ワールドへ突入。
 浄瑠璃の話題をマクラに始まった本題はお馴染みの『寝床』この噺も元々は『寝床浄瑠璃』という上方落語で、明治中期に東京へ移植され、東京では昭和の名人と称された八代目桂文楽・五代目古今亭志ん生の両師匠が演じられ多くの演じ手のおられる噺。
 その爆笑編を純上方風のコテコテの演出で演じられる。その一言一言に場内は爆笑の連続。普段は人の良い旦那さんが浄瑠璃となると豹変し駄々っ子となる。困惑する番頭、手代、お長屋の連中を実に個性豊かにコミュカルに描き分けられる。その都度、場内は爆笑に包まれる。マクラからサゲまでの笑いっぱなしの半時間。お疲れ様でした。