もとまち寄席 恋雅亭
公演記録    第382回 
◆春駒HOME◆恋雅亭TOP◆公演記録目次
 公演日時: 平成22年 6月10日(木)      午後6時30分開演
  出演者     演目
 笑福亭 智之介  「動物園」
 桂   よね吉  「けいこ屋」
 桂   坊 枝  「親子酒」
 桂   福團治  「南京屋政談」
  中入
 笑福亭 伯 枝  「遊山船」
 桂   都 丸  「はてなの茶碗」(主任)

   打出し  21時00分
   お囃子  林家 和女、勝 正子
   お手伝い 桂 治門。

 平成二十二年六月の第382回恋雅亭・六月公演の当日は夏本番を思わせる気温。
その中を熱心なお客様はいつもながら列を作られる。いつもながら長時間並んでいただくには申し訳ないことであります。チラシは今回も一杯で届いたチラシを人海戦術で折込を行い開場を迎える。一番太鼓と共にご入場されるお客様で会場一杯に用意した椅子が次々に埋まっていき、同時に「んなあほな」の最新号の即売も行われて定刻の六時半にはほぼ満席で開演を迎えました。

 今公演のトップバッターは仁智一門の総領で地元神戸出身の笑福亭智之介師。
早くから楽屋入りして、チラシの折り込みや機関誌の即売などと大活躍。智之介師は、師匠から受け継いだ落語への前向きな取り組みと自身の色々な分野へのチャレンジで腕もUPしている当席の推奨株。『石段』の出囃子で元気一杯高座へ登場。
 「えー、ありがとうございます。只今より開演でございまして、まずは笑福亭智之介のほうで・・・」と自己紹介して、小学校へ落語をしに行った時の話題。先生が「今日は落語を聞いてもらいます。みなさん静かに聴いて下さい」と注意して頂いたら、初めからしまいまで笑いなし。と、場内を笑いに包み込んで始まった本題は『動物園』。
 前座噺として当席でもお馴染みの噺で、多くの演じ手が改善を加えられておられますが智之介師の演出もバッチリで、ツボ・ツボで爆笑が起こった。随所で師匠(仁智)、大師匠(仁鶴)を彷彿させると多くのお客様が感じられた十五分の好演であった。

 二つ目は、吉朝一門から桂よね吉師。
色々な分野の上方落語に積極的に取り組んでいるイケメンの逸材で、今回もキッチリ・タップリ演じようと元気一杯に『熊野』の出囃子で高座へ登場。
 「えー、ありがとうございます。引き続きまして桂よね吉のほうでお付き合いを決して怪しいものではございません」と、挨拶して、NHKの生放送に出演していることを知っているかで会場の笑いを誘って「突発事項で休みが多いので、その時は習い事を・・・。」と、つないで習い事の話題へ。
 そして、昔のけいこ屋のお師匠はんはお弟子のつなぎ止めのためにお弟子を誉める方法を紹介するマクラから始まった本題は『けいこ屋』。前半の『色事根問』を、一から四の芸事までをツボを誇張し、キッチリと笑いを誘う。前半をコンパクトにまとめて、「アホ、膝付きをば懐へ入れますとポイと飛び出します。横町をクルッと曲がりますと稽古屋さん、表がズ〜ッと格子造りになっておりまして外は一面の人だかり。表が二間の踊り舞台になっておりまして、十(とぉ)ぐらいの女の子を舞台に上げまして越後獅子踊りの稽古の真っ最中。そこへ右のあほ、サ〜クサクやって来よった。」で、後半のご自身も好きな芸事を題材とした噺に進展する。
 「越後獅子」「狂乱の太鼓地」と、自身も楽しむように演じアホも大活躍して、サゲまで行かずに二十五分の好演となった。

 三つ目は文枝一門から桂坊枝師。
この師匠も当席常連で持ち前の笑顔で繰り広げられる上方落語は爆笑の連続で、今回も拍手喝采の高座をお楽しみのお客様の拍手に迎えられて『鯉』の出囃子で登場。
 あいさつから、「今日はちょっと出てくるのが気が重かったです。トップの智之介君、色白のイケメンでっしゃろ、次のよね吉君、同じくええ男ですわ。その後が私でっしゃろ。出にくいでっせ。なんで、間に、こけ枝か文三を入れといてくれへんのか。これは判る人だけでいいですけど」と、爆笑マクラがスタート。続いて、上方落語協会の機関紙「んなあほな」の宣伝。「今日も三十部、持ってきてます。売れなかったら廃刊の危機」と・・・。結果はこの宣伝効果があって完売となり一安心。
 「今日は何を演(し)ようか思って・・・」。『火焔太鼓』『野ざらし』『がまの油』『あみだ池』。と、始まった演題は酒飲みのお噂をと『親子酒』が始まる。親子揃って大酒飲みが巻き起こすお馴染みの爆笑編。まず親父っさんが帰って来る。「息子に意見する」と、ぐだぐだ言いながら寝てしまう。続いて、うどん屋をからかって息子が帰ってきてサゲとなる噺を発端からサゲまで、表情豊かに演じる師匠の好演に場内は爆笑の連続。サゲも見事に決まった名演であった。

 中トリは、上方落語界の重鎮・四代目桂福團治師匠。
もう説明不要の師匠で、語り出しから福團治ワールド全開でタップリ演じて頂けると期待のお客様の拍手と名調子『梅は咲いたか』に乗って、いつも通りゆっくりと登場。
 「えー、疲れますなぁ。もう四十五年やってますねん」とこの一言で福團治ワールドがスタートする。師匠である三代目春團治師匠の几帳面さを紹介して、春團治代々から親から息子に引き継ぐのは暖簾と振って始まった演題、師匠十八番の人情噺『南京屋政談(唐茄子屋政談)』。苦労知らずの勘当された若旦那が始めて額に汗して売った南京。そして、貧乏な親子に施しが仇となって・・・。師匠の口演に場内は咳き払い一つ起こらない。
 まさしく、会場全体が一体となった半時間の至芸であった。
当席で師匠のこの噺は、昭和59年7月76回、平成4年8月172回、平成13年7月275回、そして、平成22年7月382回と見事に9年サイクル、そのいずれもが名演であったことは言うまでもない。

 中入りカブリは、笑福亭一門から笑福亭伯枝師。
祈が入って『白妙』の出囃子で、いつも笑顔一杯で高座へ登場。
 「こんばんは、セント君です」この一言で場内から爆笑と拍手が起こる。ツカミが見事に決まって、爆笑マクラがスタート。「内の嫁はんは黒木瞳似で、・・・。近所の奥さんが言ってます。けど、正面は村田英雄。セント君と村田英雄の夫婦で・・・」から笑福亭のお家芸の『遊山舟』が始まる。
 いかにも大阪らしい噺(東京への移植は困難)で、「橋の下も遊行遊山(ゆっこぉゆさん)、三味や太鼓で、その賑ぃ〜ぎやかなこと・・・そ〜ら、割った割った割った割った、カチワリやカチワリや。冷とぉて、冷やこぉて、甘いで。カチワリやカチワリや、冷とぉて、冷やこぉて、甘いで・・・。新田西瓜はどぉじゃい、新田西瓜。種まで赤いで、烏丸枇杷湯糖(からすまるびわゆとぉ)・・・。玉屋ぁ〜ッ、上げてや〜、バァ〜〜ン、バァ〜〜ン」でグッとムード満点。コテコテの上方情緒満点の噺をキッチリ演じる。登場人物の全員が大活躍の笑福亭の『遊山船』でした。

 六月公演のトリは上方落語界の重鎮で桂塩鯛の名跡を襲名される桂都丸師匠に
お願い致しました。当席で聴くのは暫く中断となる『猫じゃ猫じゃ』に乗って高座へ。
「えー、私、もう一席で・・・」から、塩鯛襲名のあいさつをすると会場からは祝福の大きな拍手が起こる。三人の弟子も、米紫、塩蔵、小鯛とそれぞれ改名する嬉しい話題から始まった本題は師匠の地元の京都の噺『はてなの茶碗』。ご存じ上方落語の大ネタである。
 その噺をキッチリ演じられる師匠は大物の風格。
襲名後の更なる飛躍を期待させる半時間を超える好演であった。

 この噺にも多くの言葉が登場する。「気術無い(きずつない)」=切ない、苦しい、気が滅入る。「しょうことない」=どうしようもない。「冥利」=ある立場・状態にあることによって受ける恩恵・しあわせ。「まどう」=つぐなう、弁償する。「精進潔斎」=おこないを慎むことによって心身を清浄な状態におくこと。「口銭」=仲介手数料。サゲの十万八千両は、百八つの除夜の鐘と同じ数、煩悩の数である。