もとまち寄席 恋雅亭
公演記録    第381回 
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 公演日時: 平成22年 5月10日(月)      午後6時30分開演
  出演者     演目
 桂   しん吉  「金明竹」
 桂   三ノ助  「初恋」
 笑福亭 鶴 二  「天狗裁き」
 桂   米 二  「猫の忠信」
  中入
 桂   楽 珍  「半分垢」
 笑福亭 福 笑  「神通力」(主任)

   打出し  21時05分
   お囃子  勝 正子
   お手伝い 桂 治門。

 平成二十二年五月の第381回恋雅亭・五月公演の当日は雨模様。
しかし、熱心なお客様はいつもながら列を作られる。いつもながら長時間並んでいただくには申し訳ないことであります。チラシは今回も一杯で届いたチラシを人海戦術で折込を行い開場を迎える。
 一番太鼓と共にご入場されるお客様で会場一杯に用意した椅子が次々に埋まっていき定刻の六時半にはほぼ満席で開演を迎えました。

 公演のトップバッターは吉朝一門からのしん吉師で、亡き師匠から受け継いだ落語への前向きな取り組みで当席でもお馴染みで、『石段』の出囃子で元気一杯高座へ登場。
「えー、ありがとうございます。ここは、いつも早くから並んで頂いておりまして、今日も多くのお客様に並んで頂きましてありがとうございます。私の会でしたら並ばなくても大丈夫ですが・・・」と、笑いを誘って、最近の入門者は女性が多く着替えするのに隠れてせな。と、笑いを誘って始まった演題は上方でも演じ手の多くなった『金明竹』。
 この噺、東京ではよく演じられる噺で全体を通して演じると約半時間。二部構成となっており、前半は小僧が、来るお客様にトンチンカンな応対をして笑いを、後半の上方弁の男の口上部分が笑いと拍手を誘う見事な構成で時間の関係でどこでも切れる山場の多い構成となっている。
 元は前半部分は狂言の『骨川』が、後半は初代林屋(家ではない)正蔵師匠の自作の落語集「百歌撰」中の「阿呆の口上」が元になっているとのことで、さらに、東京では前座は最初に『寿限無』を覚え、すらすらと暗唱できる様になったら、『金明竹』の「加賀屋佐吉方の男の口上」とレベルUPするそうである。前座の口慣らしの基本中の基本ともいえるセオリーとなっているが難物である。東京では大阪弁の発音が難しいが、しん吉師の口演はその点は問題なく上方バージョンに置き換え、お時間に合わせて前半をズバッとカットして後半にポイントを置いた組み立てで、十二分の口演。
再演を大いに期待した拍手に送られてお後と交代となった。

 二つ目は、三枝一門で、地元出身の桂三ノ助師。
当席へはお手伝いで汗を流して頂いている師で高座では愛くるしく、人なつっこい笑顔で汗一杯の熱演はいつもながら。「ありがとうございます。続きまして、私、桂三ノ助でございまして、地元神戸出身でございます。(場内から拍手)滝川高校出身。(再び拍手)ありがとうございます。神戸ならではで拍手をいただけて嬉しい限りでございまして・・・」。野球部出身。肩を壊した。三塁のコーチャーズBOXで腕を廻しすぎて。とのマクラから、三枝一門は手拭いを携帯電話として演じますと紹介して始まったのは、師匠作の学園もの創作落語『初恋』。
 この噺、師匠である三枝師匠の創作落語で、高校で「しまざきふじむら」の「初恋」を学校で習った教え子とその先生が攻守ところを変えてとその初恋指南をする教え子のどこにでもありそうでなさそうな会話で物語が進展する爆笑落語。
 場内の同感の笑いを充分誘った二十分の高座であった。

 三つ目は笑福亭一門から笑福亭鶴二師。
いつも通り、多くのファンの拍手の中、いかにも楽しそうに、元気一杯『独楽』の心地よい出囃子に乗って高座へ登場。マクラは電車での落語の稽古での出来事。終電で熱心に練習して降りようとすると、隣で寝ていたおっさんが一言。「にーちゃん、間、悪いで」。会場を大爆笑に包み込んで、始まった演題は『天狗裁き』。
 この噺、元々は上方にあった長編落語『羽団扇』の前半部分が独立して、演じられていたものを米朝師匠が発掘・再構成し復活させた。発端からサゲまで、次々に変わる場面と登場人物を見事に演じ分ける秀作は二十二分、場内は爆笑の渦であったことは間違いない。

 中トリは、米朝一門から桂米二師匠。
一門一の理論派、さらに本格的な上方古典落語の名手として各地の落語会で大活躍。今回も大爆笑をと『五郎時致』の出囃子でゆったりと高座へ登場。
「えー、私で中入り休憩でございまして、もう少しの辛抱で・・・。」 ストレス発散には大声を出すことで、今ではカラオケ。昔は町内にあった浄瑠璃を教えるけいこ屋さんと、けいこ屋のお師匠はんのお弟子さんへの誉め殺し方法を紹介して始まった本題は『猫の忠信』。
 この噺は、歌舞伎、文楽で「仮名手本忠臣蔵」「菅原伝授手習鑑」と並んで三大名作と称される「義経千本桜」のパロディ。「鮓屋」「渡海屋」「吉野山」「川連法眼館(通称・四の切)」の段などは有名だし、噺の登場人物も源義経を始め、弁慶、静御前、亀井片岡伊勢駿河の四天王等々や佐藤忠信は狐が化けている設定で登場するし、前半に出てくる、もめさしの六さんも亀井六郎の名前と、オンパレード。「建て」とは、一つの演目を通し語ることで、「見取り」とはいろんな出し物から有名なところを少しずつ語る公演スタイルのことで、この落語でいう「千本の通し」とは、「義経千本桜」を全編語る設定となっている。
 発端から夫婦喧嘩を狙うが失敗、ちょっと怪談調になって、芝居風に種明かし、そして、「なーんや、猫やったんか」との一言でパッと舞台が明るくなって、名づくしとなってサゲとなる。
 三十五分の秀作であった。

 中入りカブリは、文珍一門から桂楽珍師。
いつも笑顔一杯で繰り広げられるローカル色溢れる高座はファンも多く、『ワイド節』の出囃子で登場すると会場から大きな拍手。
 「えー、判りませんなぁ。いろんなことが起こります」と、叔父弟子の参議院出馬。やわらちゃんの緊急出馬。そして、徳之島の自身の東京ドームと同じ大きさの土地が、2300円から1億8000万、さらに、4億4000万と暴騰。それをネットでのバッシング。話題は変わって息子が新聞の一面に「元ホスト、角界へ。その父親は有名落語家・・・の弟子」と、相撲の話題へ。これで客席を爆笑の渦に巻き込む。
 受けに受けて始まった演題は力士の登場する『半分垢』。体型も自身のニンもピッタリな噺だけにマクラから続く爆笑の渦はさらに増幅されて二十五分。大爆笑高座であった。

 そして、五月公演のトリは上方落語界の重鎮・笑福亭福笑師匠。
『佃くずし』の出囃子で登場すると拍手が鳴り止まない。
「えー、ありがとうございます・・・。」から爆笑ネタ、「松井・松坂・金本、上海万博はパクリ、桂きん枝は参院選、雨は降って大騒ぎで」から独演会の宣伝から始まった本題は『神通力』。
 この噺、福笑師匠の五月四日の繁昌亭GW特別興行でネタ下ろし間もない自作であり、今回、当席でも初お目見えとなった。
 貴方は一つだけ願いを叶えてもらうとすると何が良いですか、この噺はそこに焦点を当てて爆笑を誘う師匠の真骨頂。随所に散りばめられたクスグリは大爆発。サゲもあっと驚く展開。
 紙面ではご紹介しきれない是非、生をお勧めする半時間であった。

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『金明竹』で登場する道具七品は、今で言う重要文化財ばかりで、
@ 祐乗(ゆうじょう)光乗(こうじょう)宗乗(そうじょう)は、戦国時代の三代の金細工師の名人で、三作の三所物(みところもん)とは、『目貫(めぬき)』・『小柄(こづか)』・『笄(こうがい)』の三点セット。
A 鎌倉時代の備前の国の刀工の備前長船(びぜんおさふね)の則光(のりみつ)の打った名刀。
B 江戸時代中期の金工の絵画風彫金を考案した横谷宗a(よこやそうみん)四分一(しぶいち)ごしらえ小柄(こづか)付きの脇差。
C 京の楽焼の三代目楽吉左衛門道入の焼いたのんこ(「のんこう」)の茶碗。
D 黄檗山金明竹(おうばくさんきんめいちく)ずんどの花活(はないけ)とは、中国原産で黄金色で節の溝に緑色のたて筋が入っている竹(金明竹)を輪切りにして使った花活け。
E 芭蕉のペンネームの『風羅坊』が入った本人の真筆の掛け軸である風羅坊正筆(ふうらぼうしょうひつ)の掛け物。
F 臨済宗の高僧の沢庵(たくあん)和尚と、中国から渡来し、黄檗山萬福寺の住持を勤めた木庵隠元禅師(もくあん・いんげんぜんじ)の三僧の書いた書画を一つの屏風に張り混ぜた、張りまぜの小屏風(こびょうぶ)。