もとまち寄席 恋雅亭
公演記録    第380回 
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 公演日時: 平成22年 4月10日(土)      午後6時30分開演
  出演者     演目
 笑福亭 た ま  「青菜」
 桂   文 三  「芋俵」
 月亭  八 方  「質屋芝居」
 月亭   遊 方  「ゴーイング見合ウエイ」
  中入
 林家 そめすけ  「ものまね」
 桂   春 駒  「親子酒」(主任)

   打出し  20時55分
   お囃子  林家和女、勝 正子
   お手伝い 桂三ノ助、亭八斗、天使。

 平成二十二年四月の第380回恋雅亭・四月公演は、三月十一日より前売券が発売され、早々と十日で完売。そして、ひっきりなしの問い合わせが途切れぬまま、当日を迎えました。
 当日は晴天。雨模様。しかし、四月なのに寒暖の差が大きい。いつもながら長時間並んでいただくには申し訳ないことであります。チラシは今回も一杯。遊方、たま、三ノ助師らも一緒に届いたチラシを人海戦術で折込を行い開場を迎える。一番太鼓と共にご入場されるお客様で会場一杯に用意した椅子が次々に埋まっていき定刻の六時半を迎える。

 その公演のトップバッターは福笑一門からの笑福亭たま師です。
京都大学出身の秀才が奇才福笑師匠に入門し磨きがかかった高座は当席でもお馴染みで、チラシはさみの時からパワー全開。そのパワーを持続して『石段』の出囃子に乗って赤地に飛び柄の着物で高座へ登場。「えー、ありがとうございます。笑福亭たまと言います。お後お楽しみに・・・。ちょっと前まで『慢性疲労症候群』と言う原因不明の病気でして、ただただ疲れる。今日の出番の遊方兄さんに相談すると、『そら自律神経失調症やで、精神科に行き』と言われたんで病院行ったんです。」色々、訊かれて原因は「こんだけ喋れたら、ただ芸に行き詰まってるだけ」と場内を爆笑に誘う。「これ面白いと思って、東京でこの噺したら最初の神経でお客さんが『ドン引き』で、後、何を言っても受けませんでした。今日はその時に演(や)った『青菜』を」と、エンジン全開で本題へ入る。
 その本題も、マクラ同様、主人公の植木屋の留五郎は勿論、その女房も、全員がエンジン全開。全編、ペースも落ちず、演者は喋り廻った、お客様は笑い転げた十八分の爆笑高座であった。

 二つ目は、文枝一門で昨年、当席で襲名披露を行われた桂文三師。
愛くるしく、人なつっこい笑顔で演じる落語はいつも場内の爆笑を誘います。襲名後、初登場となりおお張り切りで、『春藤』の出囃子で高座へ「ありがとうございます。出てまいりました私、桂文三と申します」と、挨拶すると、再度、拍手が起こる。「ありがとうございます。襲名をしまして一年経ちますが、前名のつく枝の時代も『つくえ』さんとよく言われましたが『ぶんぞう』ではございません」と、続けて、「我々の方で、お客さんを取り込むと縁起の良い泥棒のお噺を」と、泥棒の小咄を披露。
「おい、石川無右衛門(なしえもん・五右衛門系の名前)、本名は?」
「へぇ、長十郎です」
「何時からこの稼業やってるねん」
「へぇ、二十世紀から」と、始まった演題は上方では珍しい『芋俵』の一席。
 終演後、文三師にお伺いしました。
「この噺は大好きだった五代目柳家小さん師匠がよく演じられていました。どうしても演(や)りたくて、お弟子さんの柳亭市馬師匠に付けて頂きました。『サゲの後、お客様の反応はすぐないかもしれんけど、下りて来る時に背中でジワジワと感じたら成功やで』と、教えて頂きました。今日は、ええお客さんでしたので、最初からガンガン受けました。」
 その感想通り、発端から明るくトントンと演じられる。勿論、随所にはめ込まれたクスグリへの客席もバツグンであった。

 三つ目はトリの月亭八方匠。
当席へは年に一回のペースでご出演され数々の上方落語を演じられている師匠、
 今回は、次の仕事の関係、ここでの登場。『夫婦漫才』に乗って高座へ、さっそく阪神タイガースの話題へ、巨人戦へ行ったが散々、年いって時間が経つのが遅い、趣味が必要、歌舞伎は綺麗けど高い、落語は安い、と爆笑マクラが続き始まった本題は、当席初演となる純上方芝居噺『質屋芝居』。『大丸屋騒動』など積極的に大物を手がけられておられる師匠ならでは演題である。
 この噺、楽屋も大変で三味線は林家和女、勝正子嬢、太鼓を桂三ノ助師、ツケを笑福亭たま師、掛け合いを月亭八斗師と総動員。汗一杯の熱演の師匠にお伺いしました。
 「今日は、三つ目やからちょっとマクラを長くして下りよかと迷ったんやけど、ここのお客さんはええし、トリやし、ここのお客さんやったらこの噺でも、ついて来てくれると思って演(や)ったんやぁ。声が出えへんから辛かったけど、思っとった通りの反応やった。
ええ、お客さんやなぁ。この噺は六代目(松鶴師匠)をベースにしてなぁ。難しい噺や。」

 中トリは三つ目の予定の八方一門の月亭遊方師。
『岩見』の出囃子とお客様の拍手で高座へ。「えー、ありがとうございます」と、あいさつして、師匠が何故早く上がったかを説明して、代わりに私が、実は結婚が決まったお祝いと嬉しそうにお客様に報告。これに、会場からは大きなお祝いの拍手が起こる。始まった演題は、「今日は話題的に絶対これ」と決めていた自作の『ゴーイング見合いウエイ』。
 見合いを進めるお節介などこにでもいるおばちゃんが、過大評価の略歴(学歴詐称・過大身長・過大年収)で、集めた見合い相手。あまり気乗りのしない男性に理由を聞くとおばちゃんの娘と付き合っていると判って態度が一変する。練りに練られた全編に盛り込まれたクスグリに場内はその都度、爆笑に包まれる。二十五分の大熱演でお中入り。

 中入りカブリは、林家そめすけ師が色変わりのものまねで登場。
何が飛び出すか? お待ちかねのお客様からの拍手に迎えられて高座へ登場。
「えー後半の始まりでございまして、まずは林家そめすけの方でもお付き合い願いまして、その後、トリの春駒師匠でゆっくりお楽しみ頂きます」と、あいさつから、生まれ育った場所の紹介。
 「大阪の南、住吉大社の山の帝塚山(会場から憧れの反応)・・・。その裏手の西成区、ええとこです(会場からは爆笑と『そやそや』の反応)。神戸とは信号も違いまして、青は進む、黄も進む、赤は勝負。」「青少年も地域ぐるみで教育しますね。泣いてる子供もいません。散髪屋でもうまくあやします。耳元で『泣くな、耳切るぞ』。」「物もなんでも安いです。食べ物、着る物とか靴、片一方とか。売れ残ってる物もあります、ピカピカに磨いた十円玉を二十円で売ってるの、これ売れません。」
そして、「我々の社会は縦社会でして」と、先輩のものまねを、笑福亭仁鶴、オール巨人、喜味こいしの各師匠を披露して拍手喝采。
 さらに「今日は落語ではなく色物としてものまねを、実はものまね新人王を貰ったことがあるんです」と、座っての高座から立っての高座へ変更。楽屋で早変わり出囃子付きで「中田カフス・ボタン」「酒井くにお」「中田ダイマル」「大久保礼」と師匠連が続き、トリネタは衣装、化粧も凝りに凝った「岸田今日子さん」。大受けの連続の二十分の高座であった。

 そして、四月公演のトリは月亭八方師匠に代わって、「駒ちゃん」こと桂春駒師匠にとって頂くことになりました。
 ご存知の当席の同人で、本格的な古典落語と爆笑創作落語でお馴染みで、『白拍子』の出囃子で登場。「えー、ありがとうございます。長々とご苦労様でございます。さぞお疲れでございましょう。もう一席のお付き合いでございまして、えー今日も一杯でございまして、落語ブーム、いつまで続くのか、落語を研究される方もいらっしゃいまして、『落語は三百年の歴史』と言いますが、今のそめすけも落語です・・・。基礎知識も要りません。頭をカラッポにして聞いて下さい。元々カラッポの方は・・・(場内爆笑)。御酒家のお噂を、酒百態と申しますが」と、お酒のマクラが始まる。
 その一言、一言に場内は好反応。充分に春駒ワールドを築いて始まった本題は、十八番の『親子酒』。大酒飲みの親子が巻き起こす、お馴染みの噺を、発端の親父さんは威厳を持たせて、息子さんは若さ一杯に演じられる。本当は酔いが廻るとロレツが廻らなくなって聞き取り難くなるのだが、ベロベロだが言葉は聞き取り易い。さすが。
 サゲもキッチリ決まった十八番の口演に拍手が鳴り止まなかった好演であった。