もとまち寄席 恋雅亭
公演記録    第377回 
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 公演日時: 平成22年 1月10日(日)      午後6時30分開演
  出演者     演目
 桂   二 乗  「普請ほめ」
 笑福亭 生 喬  「禁酒関所時」
 桂   團 朝  「金釣り」
 露の   都   「子はかすがい」
  中入
 林家  笑 丸  「ほうじの茶」
 笑福亭 松 喬  「お文さん」(主任)

   打出し 21時00分
   お囃子 林家和女、勝 正子
   手伝い 桂 治門、露の 紫、笑福亭生寿。
 平成二十二年一月の第377回恋雅亭・新春初席公演は、昨年の十二月十一日より前売券が発売。年が明けて寒さも厳しくなった日曜日、当日を迎えました。お寒い中、いつもながら長時間並んで頂くには申し訳ないことであります。今回も一杯届いたチラシの準備をお手伝いの噺家諸師も加わり人海戦術で折込を行い開場を迎える。
 一番太鼓と共にご入場されるお客様で会場一杯に用意した椅子が次々に埋まっていき、後方に長椅子を引き満席で定刻の六時半を迎える。

 その公演のトップバッターは米二一門の筆頭弟子桂二乗師です。
平成十五年入門以来、師匠の教えを守って若々しい高座で各地の落語会でも大活躍で、今回、同期一番乗りでの出演となりました。大張り切りで、早くから楽屋入りして開場準備。六時半、祈が入って、初席ならではの『十日戎』の出囃子で、にこやかに高座へ登場。
 「えー、今世紀最大の拍手ありがとうございます。只今より開演でございまして、まずは私、桂二乗の方で・・・」。さらに、嬉しそうに「私、当席には初出演でございまして嬉しい限りで・・・」と、あいさつ。「私、京都から参りまして、京都の二条に住んでおりまして、非常に判り易い、それで、二乗。四畳半の部屋に住んでおりまして、顔と名前と部屋の間取りをセットで覚えて帰っていただければ・・・」。
 マクラはTVでの人間の心理の特集から嘘をつく時は返事を二度する。ご飯を「うまい、うまい」。浮気を問いただされ「してへん、してへん。ほんま、ほんま」。落語を「好き、好き」。これが実に結構で場内は爆笑の連続となる。
 そして、「人の気持ちを持ち上げるのは難しい」と、始まった本題は『普請ほめ』。基本に忠実に口跡もキッチリした口演は時間を考えて、ご存じの『牛』をほめるクダリを省いた演出。
 サゲもキッチリ決まった十五分の熱演であった。

 二つ目は、トリの松喬一門から笑福亭生喬師匠。
貫禄の体型揃いで個性派揃いの一門で、落語精進に益々磨きがかかり、さらに愛弟子も出来、絶好調。常連の当席での笑顔一杯の笑福亭の爆笑落語は請け合い。
 「えー、続きまして笑福亭生喬で・・・。セイキョウと申しましても、笑福亭生活協同組合ではございません」と、あいさつして、大晦日はオールナイト落語会で座長は福笑師匠、元旦は松喬師匠宅へ集合してあいさつ周り、二日目は松喬師匠宅で新年会と酒の話題。「昔はお侍の世界では・・・」と、始まった演題は、松喬師匠十八番を直伝された、笑福亭のお家芸『禁酒関所』。侍の出て来る噺なので恰幅のある体型はピッタリ。演じられる落語は発端からサゲまで全編、爆笑の連続。
サゲ前の小便を飲むクダリからサゲまでは、客席の笑いのピークとの間もピッタリ。
 見事な二十二分であった。

 三つ目は米朝一門から「それいけ団長」の桂團朝師。
今回の高座も米朝師匠の教えを忠実に守って、プラス若さ一杯で演じられること請け合いで、今回も飛び出してくるように高座へ登場し、「えー、只今、拍手を頂いたお客様に限り厚く御礼申し上げます」と、あいさつして、地元福原の故松鶴師匠や米朝師匠もよく行かれたとういう松濤庵(しょうとうあん)で遭遇した、女優の松嶋菜々子さん。続いて、戎さんなどの縁日での的矢(てきや)さんの商売、卵の殻やミルク、蜂蜜、砂糖入りのベビーカステラ、金魚すくいの必勝法、などを紹介して、金儲けを熱望する男が登場する『金釣り』。当席では初めて演じられる噺である。鴻ノ池家の上を行く親ノ池家には金がタップリあると聞いて、金を釣りに行くなんとも奇妙な噺。
 思わず拍手喝采となるサゲもバッチリ決まった好演であった。

 中トリは女流No.1、露の都師匠に取って頂きます。
今やノリノリで恐い物なしの高座は大爆笑請け合いです。『都囃子』の出囃子で高座へ。ちょっと、間をおいて「松嶋菜々子でございます(客席から爆笑と拍手が起こる)。・・・ありがとうございます。も多いねん、松嶋菜々子とか、吉永小百合とかなぁ、よう言われんねん。年明けからちょっと調子が悪いねん、今日はちょっとぶさいく・・・」。
 原因は餅の食い過ぎだそうでと、あいさつすると場内は大爆笑。一気に都ワールドへ突入。
戎さん、浅草での買い物、占い(師匠に落語も同じ位に熱心にせえと言われた)、浅草で「綺麗、綺麗」と引っかけられた、昨年は孫が三人も出来たと、「・・・・・・なぁ」「・・・・・・やろ」と、世間話調でマクラが続く。そして、始まった演題は十八番の『子はかすがい』。上方ではちょっと珍しい人情噺で、離婚した男が子どもとの偶然の再会をきっかけに妻とよりを戻すお涙ものの秀作は半時間。
 場内からの大きな拍手でお中入りとなった。
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*落語ミニ情報 落語『子はかすがい』について
 この噺は大きく二つの型がある。東京で演じられているのは、子供と別れて出て行くのが、父親である。一方、上方では、子供を残して出て行くのは父親ではなく、母親である。
この噺は、『子別れ』として明治時代に創作されたらしく、上・中・下に分けて演じられることが多い。その下が『子はかすがい』である。東京では、故人となられた圓生、志ん生、馬生、小さん、志ん朝、圓楽などの師匠連が演じられておられるし、今も人情噺の大物として多くの演者がおられる。
 一方、上方へは、明治時代の落語の租、三遊亭圓朝師匠が「女の子別れ」と改作されたものが、四代目笑福亭松鶴、五代目松鶴、六代目松鶴、松之助師匠に口伝されており、両師匠(六代目松鶴、松之助)の名演が残っている。
 最後に、今回の都師匠が演じられる型は東京の型であることを付け加えておきたい。

 中入りカブリは初春らしくご陽気に林家笑丸師の出演。何が飛び出すか?
少なくとも普通の落語では納まりそうにありませんとお知らせ致しましたが元気一杯で高座へ登場。始まったのは上方ではほとんど演じ手がない噺の『ほうじの茶』。希望した人が登場して芸を披露する演出で、リクエスト紙切り、手を後ろへ回しての紙切りや、「後ろ面」の寄席の踊りなどの芸事が入る演出を取り入れ、落語に興味を持たないお客さまにも落語の楽しさが伝わる噺になったと自信溢れる噺。
 ・ ここで演じられた「後ろ面」は、体は後ろを向いて、後頭部に面をつけ、前を向いているかのように踊る伝統的な芸で、小松まことさんが最後の演者と言われた寄席芸である。
 客席のお客様の手拍子を貰ってのノリノリの高座は、「えっ、松喬師匠が下りてこい・・・。」と、上手くまとめてサゲとなった、お客様も演者も大満足な二十二分でした。

 そして、本年の初席のトリは上方落語界の重鎮・笑福亭松喬師匠にお願い致しました。
当席でもお馴染みの師匠で初席でもありネタはズバリ「****」。と、お知らせ致しましたが、演じられた演題は、同じ四文字の『お文さん』と一応的中。
 小生の予想の本命は初席でもあり縁起の良い『高津の富』だった。
『高砂丹前』の出囃子でゆったりと登場する師匠。
 まずは、北海道へ行って大阪で知っていることと聞くと「たこ焼き、ソースの二度付け、そして、御堂筋」と、御堂筋の名前のいわれを北と南に御堂さんがあったこと。浄土真宗中祖の「蓮如聖人」の手紙で西本願寺派では「御文書」東本願寺派では「お文さん」と呼ばれていること。そして、船場、四つ橋、島之内、と噺の舞台を説明。さらに、当時の船場の商家に必要なものは跡取りで、そのため、お手かけはんを鰻谷に置いてと、筋立てが女性蔑視になりがちであるので、当時の理由を分かりやすく説明される。元々、マクラには定評のある師匠であり、実に見事なマクラの組み立て。そして、本題がスタートする。
 現在では、やや問題ありであった噺を、昨年の初演以来、グッと明るい大爆笑噺に舵を切った内容に変化させておられ、発端の捨て子の災難に遭う丁稚さんから大旦那、若旦那、御寮人とお文さん、登場人物が生き生きと描かれた半時間強の口演であった。