もとまち寄席 恋雅亭
公演記録    第375回 
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 公演日時: 平成21年11月10日(火)      午後6時30分開演
  出演者     演目
 桂   佐ん吉  「田楽喰い」
 笑福亭 銀 瓶  「あみだ池」
 桂   春 駒  「お忘れ物承り所」
 笑福亭 福 笑  「所帯念仏」
  中入
 襲名披露口上
   春蝶・福笑・春駒・銀瓶

 春菜改め三代目
 桂   春 蝶  「山内一豊と千代 」(主任)

   打出し 21時00分
   お囃子 勝 正子。
   手伝い 笑福亭たま、喬介、桂三之助。

 平成二十一年十一月のもとまち寄席 恋雅亭は、
 『春菜改メ・三代目桂春蝶襲名披露公演』。十月十一日より、前売券が発売となり、売り切れで当日。しかし、当日まで電話での開催の有無、当日券の状況確認の電話が鳴り止まず前景気も絶好調。残念ながら当日は雨模様。お客様の出足はいつも通りで、多くのお客様が列を作られ開場を待たれ、いつもながら長時間並んで頂くには申し訳ないことである。今回も一杯届いたチラシの準備を人海戦術で折込を行い準備を急ぐ。雨のため、十分早め五時二十分に開場を迎える。
 一番太鼓と共にご入場されるお客様で会場一杯に用意した椅子が次々に埋まっていく。さらに、開席までの間、上方落語協会の来年度のカレンダーの展示即売会のおまけもあり、大入満席で定刻の六時半を迎える。

 その公演のトップバッターは吉朝一門から桂佐ん吉師。
入門以来、師匠の教えを守って若々しい高座で各地の落語会で活躍中で、祝公演を大張り切りの初出演で華を添えるべく、早くから楽屋入り。自己紹介すると会場から拍手が起こる。「えー、ありがとうございます」とお礼を述べて始まったマクラは、東京と大阪のおばちゃんの言葉遣いの違いをコミカルに紹介して、会場から大きな笑いを誘い、始まった本題は集まった若い衆が「ん」の字を言うと田楽を食べれる『田楽喰い』のお馴染みの一席で、どんな「ん」の字が飛び出すかは演者の腕の見せ処なこの噺であり、「先年、神前苑の薬店・・・」のクダリは変えようもないのか、初代春團治師匠以来の定番の最も受ける処であり、佐ん吉師の口演も大いに笑いが起こったことは言うまでもない。
再演を大いに期待したい達者な十五分の高座であった。

 二つ目は、鶴瓶一門、「銀ちゃん」こと笑福亭銀瓶師。
切り口の鋭い口演は益々磨きがかかり絶好調で常連の当席での爆笑落語は請け合いで、「えー、足元のお悪い中、ご来場賜りましてありがとうございます。本日は襲名でございまして、お後、お楽しみに・・・。私、出番前に何か食べんとあかんたちで・・・。」と、元町の第一旭(ラーメン店)での出来事をマクラに会場の大爆笑を誘う。続いて、おめでた続きの上方落語界を汚している一門が鶴瓶一門で、自身のセクハラを師匠(鶴瓶師匠)に注意され「内心、テレビで下半身を露出する人にだけは注意されたくなかった」のコメントに会場はドッカーン。「世の中にはいろんな事件があるもので・・・」と始まった本題は、これも初代春團治師匠の十八番だった『あみだ池』。
 発端からサゲまで、二十二分の高座は大爆笑の連続で、特にこの噺の最大の山場の盗人に遭遇する情景のクダリは自身の工夫を最大限盛り込んだ大熱演であった。

 三つ目は一門の兄弟子の桂春駒師匠。
今回も古典・創作の二刀流の高座は爆笑間違いなし。先代春蝶師匠への想い出も多く、喜んでの出演。『白拍子』の出囃子で登場し、「最近、年のせいか時が過ぎていくのが早くもうちょっとで年末です。この間、正月やったのに、偉い先生の話を聞きますと、人間、年をとると記憶力が低下するそうで、そういえば、若い時に師匠連から怒られ倒されて細かい所まで教えてもらいました噺は今でもハッキリ覚えていますが、一昨日に何を食べたかは思い出せません。」と、忘れぽくなった話題から本題の桂三枝師匠作の創作落語の『お忘れ物承り所』が始まる。
 大阪駅の構内の「お忘れ物承り所」で巻き起こる忘れ物を捜す人と駅員との大爆笑編で、春駒師匠は、原作と登場人物の設定を変え、違う味わいのある大爆笑噺に見事にリメイクした、二十分の口演であった。

 中トリは上方落語界の重鎮・笑福亭福笑師匠。
『佃くずし』で登場し、「えー、ありがとうございます。えー、風邪が流行っておりまして、場内にもマスクを」と、マスクの話題で、早くもヒートUP。これだけで場内は福笑ワールドへ突入。「えーね(恋雅亭)、なんか町内会の集まりのような暖かい雰囲気で・・・。本日は襲名披露の会ですので、先代とは新開地の松竹座で十日間いっしょでよう演(や)ってはった」と、『所帯念仏』が始まる。
 福笑師匠の『所帯念仏』の出来は皆様方、ご想像の通り最高。一言一言が爆笑の連続。特に娘の寝乱れ姿を見ての反応は・・・・・・。ご覧になられた方は思い出し笑いを、残念ながらご来場出来なかった方は頭の中でご想像の上、お笑い下さい。

 中入り後、祈、「とざい、とーざい」と入って、幕が開く。
上手から福笑、新・春蝶、春駒、銀瓶の各師匠が黒門付でズラリ並んでの『襲名披露口上』となる。司会進行は笑福亭銀瓶師匠。
 「本日は桂春菜改め桂春蝶襲名披露公演にご来場頂き・・・・・・。」と、あいさつ。さっそく、福笑師匠から突っ込みが入る、どうなるかと感じさせる披露口上がスタート。
 「まずは一門の兄弟子に当り、先代とは、ある時は弟弟子、ある時は博打の相手でもありました、桂春駒よりご挨拶申し上げます」との銀瓶師匠の紹介で、「えー、まず、お手元のパンフレットに・・・」と、自身の新劇の宣伝を始める。
 すかさず、福笑師匠が「銀瓶! 突っ込め」との指示が飛ぶ。さらに、パンフレットのミスプリントを、初代春朝(後の二代目桂春團治)の字が「蝶」ではなく「朝」が正しいと訂正し、「先代は私が入門当時、『昭和任侠伝』でブレイクしてまして、師匠は知らないことを聞いても応えてくれないので、先代から色々教わりました。」
 司会の銀瓶師匠は、「私が先代に始めてお会いしたのがここ(恋雅亭)でして、開場した後、楽屋の階段を、細い人がカバン一つ持ってフラフラしながら下りて来はりましたのが、先代でございまして、それを、楽屋からベロベロで『兄さん、お疲れ様です』と、迎えてはったのが、福笑師匠でございます。それでは、笑福亭福笑よりご挨拶申し上げます。」と、紹介。
 それを受けてあいさつの福笑師匠が、「えー、先代とは道頓堀の角座、神戸松竹座でご一緒でしたし、ここへもよう出てはりましたので、どうしても先代との思い出が中心となってしまいます。実は先代がお亡くなりになる二日前も、てっちりで一杯飲んでまして・・・」と、紹介。
 さらに、「大きな名前が出来ましたことはまことにうれしいことでございますが、皆様のご贔屓ご支援をいただきますことが本人にとっては何よりの力でございます。今日おいでになったのが何かの因果とお諦めになって新春蝶をご贔屓たまわりますよう私からもよろしく御願い申し上げます」。と、門出を祝う口上を実に嬉しそうに、目にはうっすら涙を浮かべながら締めくくる。
 さらに「今回はこんだけ(四名)でっさかい、このような落語の口上は本人は何も言わない、ただ頭を下げているだけでございますが、それでは面白くございません。この恋雅亭だけは本人に喋らせます。」と、本人の口上が実に嬉しそうに、照れくさそうに始まる。
 すかさず、福笑師匠が「何も考えてません」と突っ込む。新春蝶を挟んで、両脇での突っ込みあいがあって、春蝶師匠が、「楽屋でネタ帳を見ておりますと、柿落し公演(昭和五十三年四月)に先代の名前がありました。私が小さい時、よく『今日はどこ』と、聞くと『恋雅亭や』とよく聞きました。その思い出一杯のここで、さらに、福笑師匠は家に入り浸っておられまして、親戚の叔父さんのようでした」。「春駒師匠は、博打で目に一杯涙ためて土下座してたとこしか見たことがありませんでした。その両師匠に口上に並んでもらえ感無量でございます。ある先輩に、『先代も良かったけど』と言われるのと『先代は良かったけど』と、言われるのでは一字違いではございますが大きな違いやでとの言葉を頂きました。なにとぞ、よろしくお願い申し上げます。」と、見事に決める。拍手しながら「上手い」とベタほめ。
 口上のお開きは福笑師匠の発声による手締め(大阪締め)。事前練習を「打ちましょ、チョーンチョン、もう一つせ、チョーン、チョン、祝うて三度、チョチョン ガ チョン。」としたまでは良かったのだが本番を「それではお手を拝借。よーおーーーっ」と、東京式の三本締めが始まりそうになるのを春駒師匠が「ちゃう、ちゃう」制止しやり直し。
 今度は「打ちましょ・・・・・・」と、いつもながらピタリと決まった。さすが、恋雅亭のお客様。
 大爆笑で、口上に並ばれた師匠連も嬉しそうな披露口上であった。

 当公演のトリは勿論、三代目桂春蝶師匠。
出囃子は『井出の山吹』ではなく、飛び出してくるような『祭囃子』で高座へ。万雷の拍手で登場し、「えー、ここはトップでしか出してもろたことがありませんのに、いきなりトリで・・・」と、あいさつ。さらに、米團治師匠との二世の悩み、「坊ちゃんファイブ」のええ加減さをマクラに笑いを充分誘った後、本題が始まる。新春蝶師匠が襲名披露公演の演題に選んだのは、旭堂南海先生から直伝された講談、『山之内一豊と千代』を落語にバージョンUPした一席。
 槍一筋の一豊と貞女の千代の夫婦愛のお馴染みの物語を随所にクスグリも交えての口演。
笑いも有りホロリとさせる処もあり、物語の結末はハッピーエンド。
後味の心地よい半時間の秀作であった。