もとまち寄席 恋雅亭
公演記録    第374回 
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 公演日時: 平成21年10月10日(土)      午後6時30分開演
  出演者     演目
 林家  竹 丸  「酒の粕」
 桂   あさ吉  「天災」
 桂   福 車  「花色木綿」
 笑福亭 松 枝  「三枚起請」
  中入
 桂   三 象  「読書の時間」
 桂   雀 々  「疝気の虫 」(主任)

   打出し 21時00分
   お囃子 林家 和女、勝 正子。
   手伝い 桂 治門、優々。

 平成二十一年十月の第374回恋雅亭は、九月十一日より、前売券が発売となり、売り切れで当日を迎えることになりました。しかし、当日まで電話での開催の有無、当日券の状況確認の電話が鳴り止まず。当日は快晴の三連休の初日の土曜日。
 当日のお客様の出足はいつも通りで多くのお客様が列を作られ開場を待たれる。いつもながら長時間並んで頂くには申し訳ないことである。今回も一杯届いたチラシ(過去最高か?)の準備をお手伝いの噺家諸師も加わり人海戦術で折込を行い開場を迎える。当日は出来上がったばかりの上方落語協会の来年度のカレンダーと、トリの雀々師匠の自筆の『必死のパッチ』の即売会も企画し開場を迎える。一番太鼓と共にご入場されるお客様で会場一杯に用意した椅子が次々に埋まっていき、長椅子も入れるが後方に少し立ち見が出る大入満席で定刻の六時半を迎える。

 その公演のトップバッターは、林家一門から林家竹丸師。
神戸大学からNHK記者を経て平成7年に入門の経歴を持ち師匠の教えを守って各地の落語会で活躍中で、今回も大張り切り。
 早くから楽屋入りして開場準備。『石段』の出囃子でにこやかに高座へ登場。
「えー、ありがとうございます。第374回もとまち寄席開演でございまして、まずは子泣きじじいみたいなのが出てまいりまして林家竹丸と申しまして・・・」と、顔の特徴を上手につかったツカミもバッチリ決まる。早くから着いたので正面から入りかけるとお待ちのお客様の横を下りようとしたら、並んでおられる方から『兄ちゃん後へ並びや』
 そして、酒のマクラがスタート。「噺家も強い人、弱い人、また、豪快にグーッと飲む人から、チビチビ舐めるように時間をかけてゆっくりと飲む人、私はチビチビ派ですが、色々でございます。」「この間もある先輩と飲んでまして、もう帰ろうと『兄さん、もう、ぼちぼち』『なに言うとんや、まだ明るいがな』『兄さん、もう朝でっせ』」爆笑を誘って始まった本題は『酒の粕』。おなじみの噺で、基本に忠実にキッチリ語る。サゲも見事に決まって十二分の高座はお後と交代となる。「いや、久々で緊張しました。もうちょっと長く演(や)るつもりでしたが。もったいない」との感想であった。

 二つ目は、故吉朝一門の総領・桂あさ吉師。
師匠譲りのキッチリした芸風で演じられる落語は当席もお墨付き。笛の腕前も一流で、細身ながら健康体の師です。『お江戸日本橋』の出囃子で登場し、「大阪の人間は気が短い、落語の世界でも」と始まった演題は『天災』。
 この噺、ざこば師匠が師匠の人(にん)とピッタリな噺として十八番として練りに練られて演じられておられる噺で、あさ吉師の師匠にあたる故吉朝師匠も十八番として、当席でも平成8年8月の第216回公演と平成14年2月の第282回公演と二度熱演された。

 三つ目は福團治一門からキャリア25年超の桂福車師匠。
高座前の福車師、「いやっ、困りましてん。今日もこれは出てへんやろと思って三つ用意してきましてん。ところが、三つ共、一年半以内に出てますねん。『粗忽長屋』なんか、文珍師匠か私しかしませんで。ところが文珍師匠がやってはりますやろ。ここは怖いわ。」と、演題を『花色木綿』に決定。
 お馴染みの『草競馬』の出囃子に乗って高座へ登場。「事実は小説より奇なり、と申しまして」と、女子高で盗んだレオタードを着て、その女子高の前をウロウロして捕まった盗人、コンビニに強盗に入る前に電話で『金を用意しとけ』とし、その直後出向いて捕まった盗人と最近の実話を紹介して始まった演題は先程の『花色木綿』。
 お馴染みの噺であるのでお客様もよくご存じ。この手の噺ほど力量が必要。その噺のツボツボで場内の爆笑を誘った二十二分の好演であった。再演が待ち遠しい福車師であった。

 中トリは上方落語界の重鎮・笑福亭松枝師匠。
当席、お馴染みの師匠で、今回も上方落語の大物を演じるべく早くから楽屋入り。楽屋でネタ帳を、高座袖からお客様の反応を確認し、「よっしゃ」とばかりに『早舟』の出囃子で高座へ、万雷の拍手が起こる。「次から次、男ばかりでおぞましいことこの上もございません・・・」とお詫びから「しかし、昨今は女性が増えてまいりまして・・・」と、続けて、「男の願望ですが『春は娘、夏は芸者で秋は後家、冬が女郎で暮は女房』」と、男の願望を紹介して昔の女郎の手紙、起請文を「この起請文がどのくらい正式なものだったかというと、一枚書くごとに、誓いを立てた熊野神社の三本足の八咫烏(やたがらす=サッカー日本代表のエンブレムにも採用されている)が、三羽死ぬほどだと言われているのです。」と、熊野権現の起請誓紙を紹介して、「つまり、まだコクヨがなかった頃のお話で、(ポン)」と一気に上方落語の大物『三枚起請』が始まる。
 手取りの小山(おやま=女郎)の小輝(こてる)が、三人の男(仏壇屋の源兵衛、下駄屋の喜六、指物屋の清八)に「年(ねん=年季奉公)が明けたら、一緒に所帯を持とう」という約束を口約束ではなく起請文という正式な文書で交わす。自分だけがもらったと思うところが男性の可愛いいところ。この師匠にかかると、男三人を手玉に取った小山も悪女なのだが可愛い女性に、騙され三人組、特に悲壮感の塊の清八も悲壮感を感じさせず、実に生き生きと大活躍する。その各人の心の動きも実に可笑しげに演じ分ける松枝流の演出と、随所に散りばめられたクスグリの数々は実に見事。松枝ワールドにドップリ浸かった半時間であった。
 サゲはお馴染みの「私も勤めの身、三千世界の鴉を殺して、ゆっくり朝寝がしてみたい。」であるが、このサゲは「三千世界の鴉を殺し、ぬしと朝寝がしてみたい。」の都々逸からの引用で、作者は高杉晋作か、桂小五郎とされているそうである。

 中入後は、三枝一門から昭和61年の入門の桂三象師。
この師匠も早くから楽屋入りして、自身のテンションを最高潮に高めて、今回、初となる中入りカブリでの登場に備えられる。そして、そのユニークな風貌と芸風を生かしての高座をお待ちかねのお客様の拍手と早くも起こるクスクス笑いに迎えられ『芸者ワルツ』の出囃子に乗って高座へ顔を見せる。この瞬間から三象の世界に客席はドップリ。「私、恥ずかしがり」「しゃべりが苦手」「こう見えても研究熱心」と、次々飛び出すシャレかマジかわからない高座が続く。
 そして、始まった本日の演題は、師匠である三枝師匠の自作の創作落語『読書の時間』。勿論、師匠直伝。三枝師匠多くの自作創作落語の中でも、噺の舞台、内容は多くの人の共感を呼び、そして、会場全員の経験からくる爆笑を導く逸品、『読書の時間』。師匠の原作に忠実に自身の工夫を随所に加えて、爆笑の連続の二十二分の口演であった。

 そして、当席のトリもスッカリ板について、今回も汗ブルブルの熱演に超期待の桂雀々師匠の登場となる。高座の袖でハメものとサゲの後の演出を打ち合わせし、初代春団治師匠の出囃子でもあった『鍛冶屋』のテンポのある心地よい名調子に乗って高座へ登場。
「えー、私で今夜もラストでございまして、前半の四席が本当の上方落語でございまして、中入り後の二席はバラエティショーでございます。」とあいさつから雀々ワールドがスタート。
 マクラは、沖縄へ行った時の話題、「客席はジジジ、ババババババ・・・・・・ババジジババババババ」と実に判りやすい客層の紹介から、泊まったホテルで、名前とは正反対の鳥が大の苦手の話題。シャワーから出てくると何かの気配を感じ周りを見回すと、そこには孔雀。威嚇する孔雀の鳴き声(メコン)をキッカケに雀々と孔雀の一騎打ち。
 大爆笑の爆笑マクラから始まった演題は、十八番の『疝気の虫』。奇想天外な噺を枝雀師匠の動の落語を見事に継承し、さらに、自身の奇想天外な演出で演じるのだから、面白くない訳がない。
 舞台は大阪堺の大道九間町(だいどうくけんのちょう)。ここから=庖丁鍛冶菊一文字藤原四郎兼隆本家根本梶本平兵衛。と続くと『三十石』となる。ややマニアック。疝気の虫の好物は蕎麦から大寺餅(おおでらもち・堺、大寺餅河合堂の名物菓子)に、嫌いな物を唐辛子からお茶に変更しての大爆笑の連続で噺は進む。
 サゲも「別荘、別荘、・・・ない、えー、えー、・・・」と、座布団から立ち上がり高座の袖から、拍手喝采の客席を通って木戸口へ。そこで、『雀々の必死のパッチ』の自筆本の即売サイン会を汗だくで開催。見事、完売で大満足な師匠の口演であった。