もとまち寄席 恋雅亭
公演記録    第373回 
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 公演日時: 平成21年 9月10日(木)      午後6時30分開演
  出演者     演目
 桂   阿か枝  「延陽伯」
 桂   枝女太  「ピカピカの一年生」
 桂   きん枝  「悋気の独楽」
 林家  染 丸  「癪の合薬」
  中入
  襲名披露口上
    文三・染丸・きん枝・枝女太 
  つく枝改め五代目
 桂   文 三  「崇徳院 」(主任)

   打出し 21時00分
   お囃子 勝 正子
   手伝い 桂 三ノ助、三弥、治門、ちきん、林家愛染、笑福亭喬介。

 平成二十一年八月の第373回恋雅亭は、八月十一日より、前売券が発売となり、売り切れで当日を迎えることになりました。しかし、当日まで電話での開催の有無、当日券の状況確認の電話が鳴り止まず、当日を迎えました。
 当日のお客様の出足はいつも通りで、多くのお客様が列を作られ開場を待たれ、いつもながら長時間並んで頂くには申し訳ないことである。今回も一杯届いたチラシの準備をお手伝いの噺家諸師も加わり人海戦術で折込を行い開場を迎える。
 一番太鼓と共にご入場されるお客様で会場一杯に用意した椅子が次々に埋まっていき、後方に少し立ち見が出る大入満席で定刻の六時半を迎える。

 その披露公演のトップバッターは、一門の弟弟子に当たる桂阿か枝師。
師匠の教えを忠実に守って各地の落語会で大活躍。今回は兄弟子の晴れ舞台とあって張り切っての出演となりました。『石段』の出囃子でにこやかに高座へ登場。会場全体からの万雷の拍手、「タップリ」と声もかかる。「ありがとうございます。五代目桂文三襲名披露公演の開演でございまして、本日はいつもの恋雅亭と違いまして厳かな会で・・・」と、あいさつ。
 マクラは新たなビジネス、修学旅行の高松の小学六年生に京都の旅館へ出向き落語を演じた時の話題。噺の前の学生のあいさつ、「今日は阿か枝さんの話芸を堪能したいと思います。」終った後のあいさつ、「阿か枝さんの落語を聞いて色んなことを学びました。さまざまな表現、絶妙な言葉使い、これからも阿か枝さんの出られる落語会に足を運びたい」「高松から来れるか?」けど、きっちりしたあいさつ、言葉使いが出来ると括って『延陽伯』が始まる。
 随所に爆笑の地雷を仕込んでの口演は狙い通りの爆笑の連続で、十四分の口演は、「タップリ」の掛け声通りタップリであった。

 二つ目は、一門の兄弟子の桂枝女太師。
めっきり頭に貫禄が付いた「しめやん」。『岸の柳』の出囃子で登場し「ありがとうございます。桂枝女太と申しまして、私も落語家でございまして・・・、決してお寺さんから来たのではありません」と、バツグンのツカミ。
 マクラは、昨今の落語ブームと悲惨だった落語会、養老院の話題から、パワーを持った老人が多くなったと振って始まった演題は、創作落語『ピカピカの一年生』。高校生の息子の学校の夜間部へ、父親がピカピカの一年生として入学を決意したので、必死に思いとどまらせようと画策する息子、しかし、親父の意志は堅い。さあ大変。「やかん頭の夜間高校生」と意気盛んな父親。入学後、クラブ活動をしようと入部を試みるが失敗。自身でクラブの設立を計画。その名は「老人クラブ」。
 見事なサゲでお次と交代。創作落語も見事な「しめやん」であった。

 三つ目は同門で上方落語界の大御所・桂きん枝師匠。
落語への取り組みも、最近とみに熱心で本格的。もちろん当席でもお馴染みの師匠で、『相川』の出囃子で登場。「二年ぶりの恋雅亭でございまして、ネタ帳を見ますと前回は中トリでございまして、前で桂勢朝さんが『佐々木裁き』という大ネタ。その後で私は、『おねおね』。ネタやらずに、おねおね言うただけ。こんな噺家でして」と爆笑マクラがスタート。
 続いて、『彦八祭り』でのざこば・八方・きん枝・遊方の師匠が出演した『ちょいわる親父の会』。その会で、ざこば師匠の酩酊下ネタ連発事件が発生。これをドキュメント風に紹介すると場内は爆笑の渦。これが実に面白い。これで、高座を下りるかと思われたが、昨今のきん枝師匠の違う処。文枝師匠の十八番であった『悋気の独楽』が始まる。
 発端からサゲまで基本に忠実にキッチリ演じられる。見事。半時間を超える秀作であった。

 中トリは上方落語界の重鎮・林家染丸師匠。
当席、お馴染みの師匠、今回も名跡復活の公演に登場。
 トリを盛り上げる噺を演じるべく、名調『正札付き』で高座へ。「えー、一杯のご来場で・・・私の後が中入り、そして、文三襲名のご挨拶を申し上げます・・・」。「今のは、古典、上方落語の『悋気の独楽』という噺でございまして、きん枝君もやっと古典に目覚めたようでございまして・・・」と紹介して、変化した嫁はんの話題、女性が長生きで丈夫な原因を紹介して、場内を爆笑の渦に、昔の船場の女性の呼び名、「御寮さん(嫁入りしてきた女性)」、「お家さん(ご養子をとった女性)」の違いを説明して始まった演題は『癪の合薬』。癪とは、今で言う胃の辺りの痛み、胃痙攣、胆石、盲腸、尿道結石など。この噺も珍しい、別名を『茶瓶ねずり』『やかんなめ』とも言われる。
 染丸師匠の口演を聴くと実にのどかで、おかしみがあり、今後は多くの演者が爆笑高座を繰り広げる噺であると確信させられる名演であった。

 祈、「とざい、とーざい」と入って、幕が開く。
中入り後は、上手から染丸、文三、きん枝、枝女太の各師匠が黒門付でズラリ並んでの『襲名披露口上』。司会進行は枝女太師匠。
 「文三になったとたんに忙しくなって、彦八祭りの焼きうどんの店を欠席、花月での大喜利へも欠席ぎみ。忙しそうで」と、後輩を嬉しそうに紹介。「こんなんやったら、私が継いどったら良かった」と、くくってきん枝師匠を紹介。
 きん枝師匠は、「何でこんな奴が!」を枕詞に、上方落語研究会員らしく初代文三は桂派宗家・初代文枝の四天王の一人でと、代々の文三師匠を詳しく紹介。そして、「何でこんな奴が!」と愛情いっぱいに紹介。そして、「彼が文三を襲名するに当たって一門にアンケートをとった処、一人からあることを襲名を期に控えることとの条件付で承認との回答を得ました」と、意味深な言葉でしめくくられる。それを受けて枝女太師匠が「補足致しますと、あることとは、決して法に触れることではありません。」すかさず、きん枝師匠が「今はやりの夫婦ですることでもありません」と、つっこみを入れる。
 続いてのあいさつの染丸師匠が、「今後は『風俗』を慎む。お客様がもやもやしてはるから、謎を解いとかんと・・・。」さらに、文三夫妻の馴れ初めを紹介して、「大きな名前が出来ましたことはまことにうれしいことでございますが、お客様のご贔屓ご支援をいただきますことが本人にとっては何よりの力でございます。今日おいでになったのが何かの因果とお諦めになって新文三をご贔屓たまわりますよう私からもよろしく御願い申し上げます」と、門出を祝う口上を締めくくる。
 さらに「あのこのような落語の口上は本人は何も言わない、ただ頭を下げているだけでございますが、それでは面白くございません。この恋雅亭だけは本人に喋らせます。」と、
 本人の口上が実に嬉しそうに、照れくさそうに始まりかける。愛想を振りまく文三師匠に、「愛想はええから早、しゃべれ」「足もしびれてきた」「阪神も2対2や。こんなことやってる場合やないで」「これを持ちまして」と、チャチャが入る。「プレッシャーを感じておりまして、先代は文三襲名後、半年でお亡くなりになっておられますので、三枝会長からは、『そんな高い目標持たんでええから、せめて半年がんばれ』と言われております」と、あいさつ。
 口上のお開きは染丸師匠の発声による手締め(大阪締め)。
「打ちましょ、チョーンチョン、もう一つせ、チョーン、チョン、祝うて三度、チョチョンガチョン。」
いつもながらピタリと決まった。さすが、恋雅亭。

 襲名披露公演のトリはもちろん、五代目文三師匠。
『春藤』の出囃子で登場すると本日一番の拍手が起こり、しばらく鳴り止まない。
 一呼吸入れ、「ありがとうございます。この色々な思い出の詰まった恋雅亭でこんな会が出来ましてこんな嬉しいことはございません。入門当初、師匠のカバンを持って付いてきてまして、私、ここのゴーフルが、大好きでございまして、師匠の高座中にゴーフルを食べてまして、降りてこられた師匠に『お疲れ様でした』と言わなあかんのに『ご馳走様でした』と言うて師匠にえらい怒られました」と、当席の思い出から師匠にネタを付けてもらう時に「ええか、まずは真似から始まるんや」と言われて、師匠の口調で「まーこっち上がり・・・」とやって、「真似すな」と怒られましてん」と、思い出話は続く。本当に嬉しそう。
 マクラは続いて、ダイエット秘話。マクドのハンバーガーを大口を開けたとたんに顎が外れ、整骨院で顎をはめてもらった経験談を面白く語る。場内は爆笑の連続。
 そして、始まった本題は師匠の十八番でもあった『崇徳院』。
「大阪での襲名公演は何がなんだか判らない中での高座でしたが、だいぶ落ち着きました。文三と言う名前にもちょっと慣れてきました」との感想通り、高座は発端からサゲまで全編、新文三の門出にふさわしくハイテンションの口演となった。

 一皮も二皮も剥けて大きく成長した、つく枝が大名跡を襲名して演じた半時間を超える熱演に場内からは大きな拍手が起こり、新文三の晴れの席は最高の船出となった。