もとまち寄席 恋雅亭
公演記録    第372回 
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 公演日時: 平成21年 8月10日(月)      午後6時30分開演
  出演者     演目
 桂   紅 雀  「道具屋」
 林家  花 丸  「たいこ腹」
 月亭  八 天  「御神酒徳利」
 桂   文 太  「軒付け」
  中入
 内海  英 華  「女道楽」 
 桂   都 丸  「蛇含草」(主任)

   打出し 21時10分
   お囃子 勝 正子、内海英華(飛び入り)
   手伝い 桂 都まと、治門。

 平成二十一年八月の第372回恋雅亭は、七月十一日より、前売券が発売となりましたが、ほぼ売り切れで当日を迎える。しかし、当日まで電話での開催の有無、当日券の状況確認の電話が鳴り止まない。台風の影響も少し残るが、当日のお客様の出足はいつも通りで多くのお客様が列を作られ開場を待たれる。いつもながら長時間並んで頂くには申し訳ないことである。一杯届いたチラシの準備も人海戦術で折込を行い開場を迎える。
 一番太鼓と共にご入場されるお客様で会場一杯に用意した椅子が次々に埋まっていき、大入満席で定刻の六時半を迎える。

 その公演のトップバッターは、本日トリの枝雀一門から桂紅雀師。
師匠の教えを忠実に守って各地の落語会で大活躍。張り切っての出演となりました。『石段』の出囃子でにこやかに高座へ登場。会場全体からの万雷の拍手に対して「ただ今より恋雅亭開演で・・・・」と、あいさつ。再度の拍手に応えて「ありがとうございます。ごもったいない。お手にお怪我はございませんか?」とお礼を述べて、さっそく本題の『道具屋』がスタート。
 この噺、ポピュラーな噺で、師匠の枝雀師匠も十八番にされておられた。多くの演じ手のいる難しい噺を師匠の教えよろしく基本に忠実にキッチリと演じられる。【落語の口伝の基本は自分が教えてもらったことをそのまま教えることであるので枝雀師匠もそれにならって、まずは基本を、次にご自身の演出を口伝されたのであろう。この辺りは実にキッチリした口伝の方法である】随所に自身の工夫を散りばめた、二十分の好演に場内は爆笑の連続。サゲと同時に大きな拍手が起こった。
 この『道具屋』には多くのサゲが存在している。紅雀師のサゲは次の@であった。
サゲだけ書くとなんのこっちゃ判りにくいが、
@「そんな、足元みるな」「いや、手元みております」。
A「この鉄砲の台は?」「樫です」「値は?」「ズドーン」。
B「木刀では抜けない。何か抜けるものは?」「お雛さんの首が抜けます」
C「あー、家、一軒盗まれた」

 二つ目は、林家一門から林家花丸師。
名前通り、香るような陽気で、明るく若々しい師である。『ダーク』の出囃子で高座へ登場し、「ありがとうございます。二席目は私、花丸の方でお付き合いを願っておきます」と、あいさつ。
 「我々の寄席演芸は司会者が出てきません。司会者がいれば、例えば今日やったら『繊細かつ大胆、豪快でいて華やかに、迫力溢れるその熱演は桂紅雀さんでした』」と紹介するとその見事さに会場からは拍手。さらに、この間、一人で岡山に呼ばれて、初めて紹介を受けた時の話。責任者が司会で紹介するのでと打ち合わせを済ませ、いざ本番。しかし、緊張した司会者が「しゃ」と「か」を間違って紹介。場内は天井が落ちる程の爆笑が起こる。
 正:「これが芸達者、という感じの落語家に」。
 誤:「これが芸達家、という感じの落語者に」。
さらに、舞台袖での交代の間の会話。
会場から甲高い声が聞こえるので「子供さんいてるの?」と聞くと「お兄さん、僕、独身です」。
 初舞台の弟弟子に「がんばってね」と言うと「健康です」と、返され意味不明。
よく聞くと「がんばってね」と「癌だってね」との聞き違い。
 「そんなこと言う筈ないのに」と、マクラで爆笑をとる。
 そして、始まった本題は『たいこ腹』。
林家一門の『もっちゃり』『はんなり』を見事に受け継いだ秀作を伝統を土台に自身の独特の感性で繰り出すセンス溢れるギャグ。会場は爆笑の連続の二十四分であった。

 三つ目は月亭八天師。
『おかめ』の出囃子で登場し、マクラもなく、「物が紛失いたしますと騒動が・・・」と本題に突入。『御神酒徳利』がスタート。
 この噺、元々は上方噺で、明治の文豪夏目漱石氏が名人と称した三代目柳家小さん師匠が東京へ移植され、人間国宝の五代目柳家小さん師匠は『占い八百屋』として演じられていた。さらに、上方出身の五代目金原亭馬生師匠から口伝された六代目三遊亭圓生師匠が昭和天皇の前で演じられた御前落語【昭和四十八年三月九日】として有名な噺。
 八天師は、上方では長らく演じ手のなかったものを桂文珍師匠が本家還りされたものを口伝されて演じられた。
 舞台はいずれも由緒ある宿屋で、主人公は圓生師匠がその宿屋の番頭さん、小さん師匠が出入りの八百屋さん、そして、八天師匠は上方らしく出入りの左官の熊五郎(熊はん)。
 大切な御神酒徳利がなくなった。自分が原因なのだが言い出し難く、苦し紛れに占いで探し当てるのだが、占いの大先生と誤解されて物語は思わぬ方向へ発展し、舞台は大阪から、広島へ向かう途中の尾道へと展開する。その間、賑やかにお囃子もタップリ入って上方風に脚色。おしまいは・・・・・と、「あっ」と驚くサゲとなる、なんとものどかで、ほんわかとさせる噺であった。八天師の好演に場内からは惜しみない拍手が起こったのは言うまでもない。

 八月暑夏公演の中トリは上方落語界の大物・桂文太師匠。
『さわぎ』の出囃子で高座へ顔を見せると、「待ってました!」「タップリ!」と会場のあちこちから声が掛かる。「えー、『待ってました』なんというありがたい声を掛けて頂きまして、あっ、この間はオヒネリが飛んできましたが、やりくうて、その点、今日はやりやすいなぁ」・・・・・・・・」とあいさつして、文太師匠もマクラなしで、昔の大阪の言葉に「耳の浄瑠璃、目に歌舞伎」と言うのがありまして、また、私が大阪に着た当初、道頓堀にも五座の櫓が並んでおりました。朝日座、角座、中座、スバル座、オリオン座、アンドロメダ座・・・。始まった演題は『軒付け』。
 当席ではお馴染みの噺であるが文太師匠としては、当席は初演となる噺。発端からサゲまでたっぷりと演じられるいつもながら達者な師匠で、随所で爆笑が場内から起こる。
 サゲ前の耳の遠いおばあさんが、金山寺味噌でお茶漬けを食べるクダリでは美味しそうで場内からは生唾を飲み込む音が聞こえる(ちょっとオーバー)。
 大きな拍手と共に「お仲入りーーー」となった。

・・・・・・・・・・・・・・・
この噺で語られる浄瑠璃は、
・「菅原伝授手習鑑」松王丸の出
 「♪かかるところへ〜、春藤玄蕃(しゅんどぉげんば)ぁ〜。病苦を助くる駕籠乗り物、門口にぃ、」
・「鎌倉三代記」の三浦之助
 「♪先立つ涙、案内(あない)にて『物音ひびかば驚きたまわん、静かに、静かに』と、こころ鎮めて病所の口、立ち寄れば母の声『嫁女、よめんじょ』『お〜、お目が覚めましたか、三浦様がお帰 りぞや』『義村参上ぉ〜、つかまつるぅ〜ッ』」
・「朝顔日記」大井川の段
 「♪追ぉて行くぅ〜。名に高き街道一の大井川。篠を乱して降る雨に〜、打ち交りたる、はたた がみ。みなぎり落つる水音は物凄くも〜、また〜。すさ〜ま〜じ〜き〜」
 ※ 読まずに語って下さい。

 中入り後は内海英華嬢。楽屋入りするなり、本日の出演者と談笑。
自身の出番までお囃子方も努められる。祈が入って、あでやかに優雅な色気を会場に振りまきながら登場。登場して挨拶代わりに一曲。
 「えー、内海英華と申しまして、瀬戸内海のないかいに、はなぶさに、はなやか。実にええ名前で師匠に感謝。これが電話では判りにくい。『英語のえいに、中華のか』」
 そして、「籠で行くのーは、お軽じゃないか、私しゃ売られて行くわいなぁ・・・。はっ、ドンドン」と『ドンドン節』。キリネタは三味線の音締も鮮やかに『たぬき』。
 万来の拍手でトリの桂都丸師匠と交代。

 『猫じゃ猫じゃ』の出囃子に乗って高座へ登場。
「えー、あと一席のご辛抱でございまして」と、あいさつし始まったマクラは一門の先輩にあたる故枝雀師匠考案の『SR落語』。師匠いわく「サゲであっても何か少し残る噺」と断って、『流れ星』『犬の親子』『万年筆』『定期券』を次々と披露。会場からはちょっと残る反応の笑い。
 そして、始まった本題は夏の噺『蛇含草』。発端は、夏の暑さの演出。見事に場内は夏のムード。そして、餅の曲食いで見せる演出。半時間の好演は見事の一言。満足公演はお開きとなる

過去、当席で演じられた師匠連【口演順・敬称略】
『軒付け』桂文紅、桂南光、桂枝女太、月亭八方A、露の団四郎、桂九雀。
『蛇含草』 笑福亭福笑、桂枝雀、林家染丸A、月亭八方A、桂文珍、桂文枝、笑福亭松之助。両演題共、月亭八方師匠が二度、演じられている。