もとまち寄席 恋雅亭
公演記録    第371回 
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 公演日時: 平成21年 7月10日(金)      午後6時30分開演
  出演者     演目
 桂   雀五郎  「子ほめ」
 笑福亭 右 喬  「鰻屋」
 林家  うさぎ  「腕喰い」
 笑福亭 呂 鶴  「近日息子」
  中入
 桂   枝曾丸  「祝い事」 和歌山弁落語
 桂   雀三郎  「遊山舟」(主任)

   打出し 20時45分
   お囃子 勝 正子
   手伝い 桂 三之助、笑福亭呂好

 平成二十一年七月の第371回恋雅亭は、六月十一日より、前売券が発売となりましたが、折からの新型インフルエンザの影響か売り切れずに当日を迎える。まだ、インフルエンザの影響があるのか電話での開催の有無、当日券の状況確認の電話が鳴り止まない。
 当日は、あいにくの雨模様の空模様でありましたが、お客様の出足はいつも通りで多くのお客様が列を作られ開場を待たれる。長時間並んで頂くには申し訳ないことである。一杯届いたチラシの準備も人海戦術で折込を行い開場を迎える。
 一番太鼓と共にご入場されるお客様で会場一杯に用意した椅子が次々に埋まっていくが、インフルエンザの影響もあって、立ち見は発生せず、ほぼ満席で定刻の六時半を迎える。

 その公演のトップバッターは、本日トリの雀三郎一門から桂雀五郎師。
平成十二年入門で当席へは初出演となる期待の星。
師匠の教えを忠実に守って各地の落語会で大活躍。張り切っての出演となりました。
 開演を告げる二番太鼓【着到】から『石段』の出囃子で高座へ登場。
「お足元のお悪いなかありがとうございます。只今よりもとまち寄席、いよいよ開演でございまして、お後、お楽しみに、まずは私桂雀五郎の方で・・・」と、あいさつ。
 始まった本題は、当席でも最も上演回数の多い『子ほめ』。
「こんちわぁ」「おっ、お前かいな、まぁこっち入り」「そこで万さんに逢うたら、すぐ行てよばれてこい、聞けばお宅にただの酒があるそうで・・・」のお馴染みのフレーズから始まった噺。
 原本に忠実に師匠の教えに忠実に演じるのだから、当然、場内は爆笑の連続である。
トップの役割も充分わきまえた行儀の良い十五分の高座であった。
 
 二つ目は、松喬一門から「天然の芸風」で当席でも人気の笑福亭右喬師。
『追っかけ』の小気味のよい出囃子に乗って元気・愛想一杯で高座へ登場。「えー、盛大な拍手で」との言葉と同時に場内は大爆笑に包まれる。実に得な、つかみバッチリの師匠。
 マクラもユニークで、ステーキハウスでの失敗談は、リーダーから「しゃべり下手」「ライスかパン」と言うところ「ライスかご飯」と言い間違ったり。さらに、名前を偽って、実父の運営する運送会社での出来事と爆笑の連続。いつまでも初々しい口演は芸と言えるものである。
 「なんで、こんな噺をしてるかと言いますと、実は噺が十分で終わってしまうんです。十五分でええのに二十分なんです、持ち時間が・・・」と、始まった本題は師匠も大師匠をはじめ、笑福亭で演じ手の多い『鰻屋』。右喬師のそれは松喬師匠直伝である。
本題もマクラ同様笑いの絶えなかった十八分の高座であった。

 三つ目は染丸一門から林家うさぎ師。
 師匠の教えを忠実に守って演じられる上方落語は当席でもお馴染みの師匠。今回も大いにお楽しみにされておられるお客様の拍手と『うさぎのダンス』の出囃子に乗って高座へ。
「えー、かわりまして・・・」と、あいさつから「厄年の災難・風呂場でビーチサンダル骨折災難事件」。「風呂場と舞台は滑り易い」と、つないで、「(ポン)、大阪の中船場に、相当商売をしておいでなさるお店の若旦那が、あらゆる極道の挙句に、勘当になって・・・」と始まった演題は『腕(かいな)喰い。
 非常に珍しい噺である。噺の筋立てが前半の苦労した若旦那が婿入りする辺りまでは明るい噺なのだが、後半、花嫁が・・・・・・。墓場、死んだ赤子、腕を・・・と、因果応報の暗い噺になってしまいがちであるが、サゲでパッと明るくして、二十分の好演を締めくくった師匠であった。

 中トリは笑福亭一門の笑福亭呂鶴師匠。
『ろーやん』の愛称の師匠も昭和四十四年入門で、四十年のキャリアの上方落語界の重鎮である。過去、当席では『饅頭怖い』『仏師屋盗人』『高津の富』『青菜』『借家怪談』と豪放磊落な笑福亭の上方落語を演じていただいている師匠。
 今回も『小鍛冶』の出囃子をゆっくり聞かせてゆったりと高座へ登場。
「えー、一杯のお客様でございまして、なんとありがたいことであろう。このままでは申し訳ない。今も関係者、楽屋一同感涙の涙を流している者は・・・、一人もおりませんが・・・」と、お馴染みのフレーズに場内、爆笑。
 そして、始まった本題は『近日息子』。
この噺、初代・二代目春団治師匠らの十八番として、さらに六代目松鶴、露の五郎兵衛師匠を初めとして多くの演者がいる。勿論、呂鶴師匠も十八番である上方落語屈指のパワー溢れる爆笑落語である。ちょっとおかしな息子と父親、そして、その父が死んだと勘違いに行くことになる近所の住人が巻き起こす、何のことのない他愛のないストーリーだが演者のまるで血管が切れそうな熱演が爆笑を誘う噺。呂鶴師匠も発端からパワー全開で、その頂点では舞台から立ち上がっての熱演で面白くないわけがない。
全編、笑いが絶えなかったに二十二分の熱演の高座でお仲入りとなった。

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『近日息子』は、昭和二十六年の十一月十三日から始まった朝日放送ラジオの「二代目桂春団治十三夜」の十三夜の口演が有名で、この口演は録音技術の進歩で可能になった録音テープで録音された日本最古ライブ録音である。
 『あみだ池』第一夜。『猫の災難』第二夜。『欠』第三夜。『壷算』第四夜『打飼盗人』第五夜。『祝のし』第六夜。『豆屋』第七夜。『欠』第八夜。『二番煎じ』第九夜。『欠』第十夜。『按摩のこたつ』第十一夜。『青菜』第十二夜。『近日息子』第十三夜。
 残念ながら第三、八、十夜はテープが残っていないそうである。
お亡くなりになられた五郎兵衛師匠に伺ったことがある。
「あのテープぁ。何本か欠けてるやろ。実はお父っさんの追善公演を戎橋松竹でやった時に会場で流すために、朝日さんから借りたんや。それがどっかへ・・・。残念やけど、もう出てけえへんやろなぁ。」実に残念なことである。
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 中入りカブリは、『和歌山のおばちゃん』桂枝曾丸師の登場です。
勿論、今回も和歌山落語で全開高座です。『かっぽれ』の出囃子で登場すると会場は待ってましたとドッと受ける。「ありがとうございます。私が『和歌山のおばちゃん』こと桂枝曾丸と申します」と、あいさつして和歌山弁の特徴を説明。「ざじずぜぞ」が「だぢづでど」が一緒。「ぜんざい」は「でんだい」。「ぜろ」は「でろ」。「さんぜんえん」は「さんでんえん」と、ややこしい。「象の銅像が出来た。どこよ」が「どうのどうどうがでけた。どこよ」と、「ど」が続く。
 充分、会場が暖まった後、これでもかと始まった本日の演題は和歌山弁落語と副題がついた『祝い事』。和歌山のおばちゃんが親戚の結婚式に出かけ繰り広げる大爆笑噺。
会場からは「あるある」「そうそう」と、相づちを打つような笑いが続く。
二十二分の狙い澄ましたような絶好調高座であった。

 そして、トリは『ジャクサン』こと・桂雀三郎師匠。
今回も、古典落語・創作落語、共OKの爆笑高座は健在。
 今回も軽妙な『じんじろ』の出囃子で登場。「えー、まだ梅雨でございますが、まもなく夏本番。私は完全に夏型の人間でございまして、上から直射日光がカーッ、下からコンクリートがムーッ、上からカー、下からムー・・・」。さらに、真夏に体育館での落語会での惨劇を紹介して、昔は夜に外に出ると涼しく、夕涼みは・・・と始まった本題は『遊山船』。大阪の夕涼みの風景が目に浮かぶような口演。「カチワリやカチワリ。新田西瓜や種まで赤いで。烏丸琵琶湯糖。玉屋上げてや、シューポン」。師匠譲りの漫画チックな演出に場内の笑いが絶えない。
お囃子との息もピッタリあった半時間。演者、お客様共、大満足な好演であった。
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・カチワリ=今もある割り氷のこと。現今では夏の甲子園の高校野球大会の名物。
・新田西瓜=大阪西区の名物。新田は大阪湾の埋め立てで出来た埋め立て地。
・烏丸枇杷湯糖(からすまるびわゆとう)=枇杷の葉に甘茶などを混ぜて煎じた清涼剤で、
 夏負けや暑気払いに効果がある。京都の「烏丸薬店」枇杷葉湯売りの本家。
・玉屋=江戸の花火屋の屋号で、鍵屋の分家あったが、失火により取りつぶしになった。が、
 語呂が良いため玉屋が有名。堺の花火職人から技術を学んだとも。