もとまち寄席 恋雅亭
公演記録    第369回 
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 公演日時: 平成21年 5月10日(日)      午後6時30分開演
  出演者     演目
 林家  卯三郎  「風呂屋番」
 桂   出 丸  「狸の化寺」
 桂   三 風  「農といえる日本」
 桂   小 米  「交通安全」
  中入
 桂   楽 珍  「ちりとてちん」
 笑福亭 鶴 志  「野崎詣り」(主任)

   打出し 21時00分
   お囃子 林家和女、勝 正子
 平成21年5月の第369回恋雅亭は、4月11日より、発売された前売り券も、二週間で売切れ。その後も電話やネットで前売券の有無、当日券の状況確認の電話が鳴り止まない。間違いなく大入りが予測される中、当日の十日を迎える。
 当日は暖かい日曜日とあって、お客様の出足は早く絶好調。多くのお客様が列を作られ開場を待たれる。長時間並んで頂くには申し訳ないことである。一杯届いたチラシの準備も人海戦術で折込を行い、五時半ギリギリに完了し予定通り開場。一番太鼓と共にご入場されるお客様で会場一杯に用意した椅子が次々に埋まっていく。出足は先月と同様、早い。会員様とお連れ様も当日券も順調。満席で定刻の六時半を迎える。

 その公演のトップバッターは染丸一門から林家卯三郎師。
平成十一年入門で当席は初出演。上方落語界の「ドリトル先生」の異名を持つのは、北海道の酪農学園大学出身で動物と話が出来る? との評判からである。もっとも誰がどう判ったのか不明。待ちに待った出演とあって張り切って、髪の毛を短くして楽屋入りして鳴り物の準備やチラシの折り込みの手伝いに汗を流す。
 ※これで染丸一門の当席への出演者は、
  染二(1984年入門)、うさぎ( 85)、そめすけ(86)、花丸(91)、染雀(92)、染弥(94)、
  竹丸(95)、染左(96)、笑丸(98)、卯三郎(99)。
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 二番太鼓から『石段』の出囃子で高座へ登場。
「えー、開口一番を努めさせていただきます。林家卯三郎でございます。どうぞよろしくお願いいたします」。居候を扱った川柳を紹介して始まった演題は『風呂屋番』。
 東京の『湯屋番』である。前半をバッサリ切って、紹介状を持って風呂屋へ働きに行くクダリから、番台で空想にふけるクダリ、そして、サゲ。全編爆笑の十二分の充実した好演であった。

 二つ目は、ざこば一門から桂出丸師。昭和六十年に入門で師匠譲りのパワフルな落語は勿論、マジックの腕も超一流です。本日も楽屋へ到着しネタ帳を確認される。「今日は『化寺』をと思ってますねん。うちの師匠も最近あんまり演(や)りはらへんし【平成十二年以来九年ぶり】、サゲも変えて、クスグリも考えて」と、意気込みを語り演題は決定。そして、『せつほんかいな』の出囃子で高座へ。「えー、ありがとうございます。変わりまして私の方も軽く聴いていただきまして・・・」、さらに、デマルをシュツガン、マルダシと読まないでと自己紹介。そして、都丸師匠が塩鯛(しおだい)襲名で、ざこば一門では「丸」の名前が一人になり寂しくなりまして、さらに、入門当時の失敗談の紹介し、一門は良いもんやととの爆笑マクラ。そこから、うちの一門は、時々「ざこば一門」とは呼ばれず「ざこば組」と、笑いを誘って、「組と言いますと昔は黒鍬(くろくわ)組、土木作業を行う集団がありまして、・・・」と『狸の化寺』がスタートする。
 この噺、当席では三度目の口演となる珍しい噺。川の護岸工事のために村を訪れた三十名の一行、化け物が出るとの荒寺に乗り込む。まずは大掃除、寝静まった深夜、その化け物が出現。「日本むかし話」に、落語ならではのクスグリ、さらに自身の工夫のクスグリ、賑やかにお囃子もタップリ入って会場は爆笑の連続。上出来の二十二分の秀作であった。

 三つ目は三枝一門から当席常連の桂三風師。
いつも鋭い切り口で演じられる自作の創作落語は当席でもファンも多く、師匠自身も当席を「いつも満員で、やり易いし、よう笑ってくれるお客さん。けど、受けなかったらと思うと気が抜けない恐い寄席です」と称しておられる通り意気込みも人一倍。過去には『テレショップパニック』『カリスマ理容師』『動物園』『又、華々しき華燭の典』『振り込め!』と好演揃いである。
 師匠譲りの出囃子の『おそずけ』と、目にも鮮やかな青の繻子地の紋付で高座へ登場。
「地味な着物で失礼いたします、三風です」とあいさつ。ライトに照らされて光り輝く紋付が目立つ。そして、阪急電車で携帯電話を使っているおっさんに注意できなかった自分の不甲斐なさと注意したおばちゃんの見事さの対比のマクラ。さらに徳之島へプロペラ機で向かい現地の人とのかみ合わない言葉のやりとりで会場を温める。
 始まった本題は、自作の創作落語の『農といえる日本』。都会へ働きに出て、永らく音信不通だっ息子が突然、農業を継ぐため、無農薬の農業に意欲を燃やすフィアンセの彼女を連れて田舎の実家へ帰ってきたことで繰り広げられる爆笑落語。
 一種の社会ネタで、のんびりしたクスグリで演じられる。やさしい気持ちになれる秀作は、師匠の創作落語作りの暖かさを感じた秀作であった。

 中トリは米朝一門から上方落語界の重鎮・桂小米師匠にとって頂きます。
昨年、急病でご出演がお流れになり、今回、満を持しての出演。楽屋入りされたが、又、調子が悪いご様子で、「声が出にくうてなぁ。声帯にカビが生える病気やねん。四十年、吸うてた煙草は止めたで、酒はまだやけど」。いつもの『さらしくずし』の出囃子で高座へ登場し、「えー、声がちょっと出にくいで・・・。去年の十二月、ここの出番を休ませてもろて、三ヶ月休みまして治ったんですけど、昨日から又、出にくくなり・・・。お聞き苦しいので・・・。」と、申し訳なさそうにあいさつ。
 煙草は止めたが酒は止めない理由を飲み友達の米朝師匠からの誘いにした高座が続く。
「今日は新作で、・・・、新作のええ処は誰も知らない・・・。」と、始まった本題は『交通安全』。途中で、横に置いた白湯を飲もうとするのだが、上手くタイミングが合わず、苦笑会場からはその仕草に爆笑が起こる。多発する交通事故を防止するための町内老人・若葉会での対策会議で巻き起こる爆笑編。どこにでもある様な話題を誇張して、ダジャレの連続に場内は爆笑の連続となる。
サゲも途中で仕込んだクスグリがズバリ決まった好演であった。

 中入りカブリは、文珍一門の総領弟子の桂楽珍師。この師匠も当席へは数多く出演されて明るい高座にファンも多い。今回は、初の中入りカブリでの出演とあっておお張り切りで楽屋入り。祈が入って『ワイド節』の明るく浮き浮きとした出囃子で高座へ登場。
「えーーー、後半トップバッターございますが、ほんまにお坊さんの様な感じの男が出て参りまして、芸名が桂楽珍と申しまして、徳之島出身でございまして」と、徳之島の方言の紹介で、一気に楽珍ワールドへ突入。徳之島弁の『時うどん』、入門当時に、空港でトイレを探すのに困ったこと、さらに、毎年開催される独演会とマクラの後、ネタ下ろし(初演)の『ちりとてちん』が始まる。
 初演であっても師匠のイメージとピッタリの噺で、さらに充分練り込まれた口演であるので会場からは随所に笑いが起こった二十五分の好演。

 そして、トリは笑福亭一門から笑福亭鶴志師匠。
いつもながら存在感のある高座はお馴染み。楽屋入りされ出番が近づくと近寄り難い緊迫感を感じさせる。『船行きくずし』の出囃子に乗ってユッタリと高座へ、会場から拍手と共に「タップリ」と声が掛かると、「それ言わんといて欲しいわ。今日は皆、短いねん。今日は昼、孫のお守りしたから疲れてますねん」。と、苦笑しながら、反面、嬉しそうにマクラが続く。
 そして、「今日は『一人酒盛』と思ってましたが、前に『ちりとてちん』が出ましたのでと、この噺は入門三年に春団治師匠に直接付けて(教えて)いただきました『野崎詣り』を」と、教えていただいた裏話からスタートする。発端から、大爆発の口演に場内は大爆笑が連続して起こる。サゲまで全速力であった三十五分の高座でお開きを迎えた。