もとまち寄席 恋雅亭
公演記録    第366回 
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 公演日時: 平成21年 2月10日(火)      午後6時30分開演
  出演者     演目
 林家 染 左  「兵庫船」
 桂  よね吉  「芝居道楽(七段目)」
 桂  珍 念  「憧れのカントリーライフ」
 桂  春 駒  「抜け雀」
  中入
 桂  米 平  「お玉牛」
 桂  文 珍  「粗忽長屋」(主任)

   打出し 21時10分
   お囃子 林家 和女、勝 正子
   
  平成21年・2月の第366回恋雅亭の前売り券は発売一週間で売切れ。
その後も電話やネットで前売券の有無、当日券の状況確認の電話が鳴り止まない。今年も初席に続いて、間違いなく大入りが予測される中、当日の十日を迎える。
 当日は火曜日。平日なのにお客様の出足は絶好調。お寒い中、長い列が出来る。長時間並んで頂くには底冷えの冬本番で申し訳ない。当日、長い列の当席に、「何や、何や」「落語か」「文珍が出んねん」と元町本通りの人通りの関心も高い。その中を多くのお客様が列を作られ寒い中、開場を待たれる。チラシの方も多く、全員で人海戦術で折込を行い、準備するといったてんてこ舞いの忙しさ。五時半に予定通り開場。一番太鼓と共にご入場されるお客様で会場一杯に用意した椅子が次々に埋まっていく。火曜日だが出足も早く、開場すぐに当日券の予定枚数も売切れ。最後尾に長椅子を入れ込んで席をご用意するが、お客様の出足は衰えず、立ち見となってしまう。会員様とお連れ様も百七十名様を超える勢い。定刻の六時半に開演を迎える。

※お詫び※大変申し訳ございません。出番の案内に間違いがありました。
 桂よね吉師・林家染左師。 ではなく林家染左師・桂よね吉師。の順でした。
 皆様方に大変ご迷惑をお掛け致しました。お詫び申し上げます。

 二月公演のトップバッターは染丸一門から、林家染左師。師匠の薫陶よろしく行儀の良い若々しく元気一杯の高座で各地の落語会で大活躍。当席へは昨年の「三十周年記念公演」の桂阿か枝師の代演以来のご出演となります。『石段』の出囃子で元気一杯に高座へ登場し、「えー、前回は代演ですみません。今回はプログラムミスですみません。あやまってばっかりで・・・」マクラも軽く、兵庫・鍛治屋町の浜から船に乗る所から『兵庫舟』が始まる。途中で師匠とのネタを教えて貰う処も紹介し笑いを誘ったりしたり、師匠の教えを忠実に守って、持ち前の明るさと若々しくて元気一杯の高座を努める。船中での謎掛けのクダリで切っての、会場全体を爆笑に包み込んだ12分の高座であった。
 この噺、上方落語の一つの柱である、「旅の噺」の一つ。
「旅の噺」には、東の旅『伊勢参宮神の賑わい』。西の旅『兵庫渡海(とかい)鱶(ふか)の魅入れ』。南へ向かうと『紀州飛脚』。北の旅『池田の猪買い』、昔は大阪から池田に行くのも旅。天へ昇ると『月宮殿星の都』。海を潜ると『竜宮界龍の都』。外国へは『島巡り大人の屁』。そして、あの世の旅が、『地獄八景亡者戯(じごくばっけいもうじゃのたわむれ)』となります。
 さらに、この前の場面の噺として、喜六、清八が讃岐の国は象頭山金毘羅ハンへ参詣を済ませての戻り道を、山陽道から明石、舞子、須磨、柳原と見物するクダリは『播州巡り』『明石名所』して演じられている。地元の皆様はご存知の通り、鍛冶屋町の浜は、現在の神戸市兵庫区のJR兵庫駅から程近い所にあり、現在も港もあるが主に物資運搬のための場所となっている。鍛治屋町の地名も残っているし、近所には兵庫大仏(現在の大仏は平成の作)のある能福寺や、一遍上人の終焉の地の真光寺などがある。

 二つ目は吉朝一門から桂よね吉師。先月のしん吉師同様に師匠から受け継いだ本格的で端正な落語は当席でもお馴染みです。『祇園小唄』の出囃子で登場すると、場内から「たっぷり」と声が掛かる。嬉しそうに「えー、ありがとうございます。客席ではお静かに・・・」と、自身の精進にプラス、礼儀正しくキッチリとした師匠譲りの高座が始まる。
 「久しぶりの恋雅亭でございまして、今日はお芝居のお噺を」と、マクラが始まる。落語と歌舞伎の違い、芝居の屋号、掛け声紹介、掛け方、と紹介して始まった演題は十八番の『芝居道楽』。
 この噺、芝居好きの若旦那と丁稚の定吉が繰り広げる爆笑編。二階で騒ぎすぎて定吉が階段から転げ落ちてサゲとなった、落語『七段目』をベースに自身の工夫で仕立て上げた噺らしく、さらに師匠が平成19年度NHK新人演芸大賞(落語部門・東京は二つ目、大阪は芸歴15年目までが参加資格)で大賞を受賞した演題で十八番の自信一杯の高座である。随所に会場一杯のお客様の拍手と笑いが象徴するように大満足させた、よね吉師の15分の高座であった。

 三つ目はトリの文珍一門から桂珍念師が登場。
いつもと同じ愛嬌一杯の顔と声で演じられる落語を楽しみにされておられる会場のお客様からの盛大な拍手と『ずぼらん』の出囃子で高座へ登場。「『たっぷり』ないですか?なければあっさりやらして頂きます。えー、続きまして文珍門下二番弟子の桂珍念と申します」とあいさつすると、会場はいつもの通り大きな拍手が起こる。
 「えー、ご勿体ない、ご勿体ない」と、マクラも軽く「限界集落を扱った桂三枝師匠がお作りになった噺で、と、言うことは面白くない訳がない。滑ったら私に腕がないか。お客様に愛がないか。いいですか。と、始まった演題は『憧れのカントリーライフ(桂三枝作)』。
 この噺、組立てはきっちり出来ていて、随所に散りばめられたクスグリも実に見事な秀作。
お弟子の三象師から口伝されたものを自身の個性を生かした演出で演じる。場内は愛くるしい師匠の笑顔と、秀作に笑いが絶えない。
 サゲも見事に決まって大きな拍手に包まれた18分の熱演であった。

 中トリは上方落語界の重鎮・桂春駒師匠にとって頂きます。
師匠はもう説明の必要のない処。昨年の独演会では、『地獄八景亡者の戯れ』を初演するなど、ますます磨きのかかった師匠、『白拍子』の出囃子で高座へゆっくり登場。
「えー、落語ブームでございまして、落語は大衆芸能で、知識がなくても、面白い・・・」と、芸術の話題から本題の『抜け雀』が始まる。
 この噺、春駒師匠は米朝師匠からの直伝とお伺いした。
当席での口演回数も今回で五度目を数える師匠の十八番の演題の一つであり「お所は、東海道は相州・小田原の宿。小松屋清兵衛方という宿屋さんの前にお立ちになりましたのが、年の頃なら三十前後の若い男。・・・」から始まった噺は、上品で、美談のような噺。笑いは極端に少ないなずなのであるが、出てくるご夫婦も絵師も、場面が小田原にもかかわらず大阪弁である。随所に会場全体から大爆笑が起こる。
 亭主が朝、障子を開け、朝陽が屏風に射しこむと、屏風の雀が飛んで出たのを見て言葉もしゃべれず、二階を指差し「す〜、す〜、す〜」。信用しないおかみさんも、「す〜、す〜、す〜」には、場内大爆笑。サゲもピッタリ決まった、中トリの重責をピシッと決めた半時間の春駒師匠であった、さずが!

 中入りカブリは、米朝一門から桂米平師匠。
上方落語界の巨体で愛嬌タップリの師匠。高座は爆笑物で当席でもお馴染み。今回も『大拍子』の出囃子でその巨体を揺すって高座へ。「えー、・・私が下りなければ文珍師匠を見られない訳で・・・」と、あいさつから始まった本題は『お玉牛』。
 この噺、三代目春團治師匠直伝で、細身の美人であろうお玉さんも、夜這い男(こつきの源太)の身の軽さも巨体を感じさせず、後味の悪い噺になることなくコミカルに演じられる。後半の夜這いのクダリの見せる仕草もバツグン。さすがである。
 場内からは切れることのない爆笑があった20分の好演であった。

 そして本年の二月公演のトリは、上方落語界の重鎮・桂文珍師匠にとって頂きます。
当席常連として毎年必ず一回ご出演され、毎回熱演の連続の師匠。今回も黒紋付に赤い羽織で『円馬囃子』の重厚な出囃子で高座へ登場。「ありがとうございます。えー地味な羽織で・・・、去年の暮れに還暦(場内から間髪入れずに拍手)になりまして、楽珍、珍念とマネージャーで祝ってくれまして・・・私より米平君が似合う、達磨大師。・・・」と嬉しそうに紹介し、楽しむようにマクラがスタート。
 当席ではいつも楽しむようにマクラから本題にと口演は展開されるのだが今回はマクラが特に充実。「この頃、妙に眠たい」「新しい発見・愛知で元気なのは、良い時代に定年になった人」「笑いと不景気は相性が良い」「全国独演会で違う反応」「インド人料理店での出来事」「亡くなられた名人」「昔、流行った歌」「公務員の同級生の弟子志願」「同級生のその後」。
 どんどん変わる話題は世間話の様に聞こえるが、練りに練った演出。これを感じさせないのが師匠のすごい処で、ツボツボで、場内は爆笑の渦に包まれる。いつもの様に高座の師匠と客席が一体となって進行していき、約半時間の大爆笑・文珍ワールドの後、あわてものの小咄から、始まった本題は『粗忽長屋』。舞台を大阪に置き換えて、まめであわてもの男と、のんびりしたあわてもの男が繰り広げる爆笑噺。師匠の一言、一言に場内は爆笑の渦に包まれる。お馴染みのサゲもズバリ決まって、大爆笑のうちにトリの重責を果された40分の見事な高座であった。