もとまち寄席 恋雅亭
公演記録    第364回 
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 公演日時: 平成20年12月10日(水)      午後6時30分開演
  出演者      演目
 笑福亭 智之介  「三人旅」
 林家   染 弥  「癪の合薬」
 桂    三 若  「紙入れ」
 桂   千 朝  「鹿政談」 (小米・代演)
  中入
 桂    九 雀  「平林」
 笑福亭 福 笑  「大道易者」(主任)

   打出し 21時10分
   お囃子 林家 和女、勝 正子
   お手伝 笑福亭三喬 笑福亭たま、桂 三之助
  今年の公演も今回限りとなった師走公演。前売券も絶好調で売り切れ。前景気も絶好調。その後も問合せが途切れないまま当日を迎える。当日は水曜日。いよいよ10日の水曜日。本年お開きの「第364回 もとまち寄席 恋雅亭」の当日を迎えました。
 恒例の「神戸ルミナリエ」の開催中とあって、元町本通りは最高の人出。入場を待たれるお客様の長蛇の列や、当席の提灯に目を止められ「落語や」「ここが恋雅亭や」と会話をされながらの通行人が多くおられる。いつものように一番のお客様の出足は早い。準備の方も急ピッチで人海戦術。いつもながら折込のチラシも多い。そして、定刻の五時半開場となる。「ドンとコイ、ドンとコイ」と打ち鳴らされる『一番太鼓』に吸い込まれるようにご入場されるお客様で席はどんどん埋まっていき、最後列の長椅子も埋まって大入満席となる。これで本年開催された十二公演は全て大入満席となりました。ありがとうございました。

 そして、開演五分前、『二番太鼓《着到》』が景気よく鳴り響き、祈と共に『石段』の出囃子に乗って、トップバッター、地元も地元、神戸市灘区在住の笑福亭智之介師の登場となる。地元神戸で、色々な落語会を開催したり、出演中の師だけにお馴染みも多く大きな拍手が起こる。「えー、初めての出演・・・・・」と挨拶。楽しそうにマクラを振って始まった本題は師匠直伝の東の旅より『三人旅』。この噺は、全編通じて演じると一時間の長編で別名を『三人旅浮かれの尼買い』。そして、その噺のもっとも受けて、きたない部分をチョイスして大爆笑噺として、今では笑福亭のお家芸となっている。
 智之介師へは、六代目松鶴、仁鶴、仁智師匠との直伝となっている。ラストの盛り上がりの屁のこき比べは爆笑を誘う場面であるが、演者が照れると面白さが半減する難しい噺である。今回の智之介師は照れることなく演じ、万来の笑いを誘ったことは言うまでもない秀作であった。

 二つ目は、林家一門から林家染弥師。
 入門十四年での二つ目での出演とあって、おお張り切り。長い歴史の当席では多くのネタが出ているとあって、ネタ選びも慎重にされて演じられることになった噺は『癪の合薬(しゃくのあいぐすり』。高座へ登場して「十三の出来事」をマクラに笑いを誘って、病気の話題から「癪」の説明をし本題がスタートする。
 さて、癪という字もカナを振らないと読めない字となってしまい何のこっちゃ判らない方も多い。まして病気の名前となると又、ややっこしくなる。癪(しゃく)とは、胸や腹のあたりに起こる激痛の総称でさしこみのこと。合薬(あいぐすり)とは、個人の症状に合った薬のことである。
 別名を東京では『やかんなめ』、上方では『茶瓶ねずり』。「ねずり」、この言葉も判り難い。なめる・ねぶる・ねずる・ねずり、こう書くとお判りいただけるか。
 この噺、捨てがたいおもしろさがあり、これからも残っていくネタではないでしょうか。時代の流れと逆行するようなこのような噺が、かえって昔ののんびりした噺を聞きたいとのニーズと合致するのではないでしょうか。あまり演じる師匠も少ない珍しい噺で、現在では東京では小三治師匠、上方では染丸師匠が演じられる。もちろん染弥師は師匠直伝である。師匠からの口伝を下敷きに自身の工夫をふんだんに盛り込んで練りに練り、随所に忍び込ませたクスグリが面白いように爆発して場内は大受け。大満足の二十分の高座であった。

 三つ目は三枝一門から桂三若師が登場。この師匠も神戸出身で多方面で大活躍中。
 自身の切り口での創作落語は皆様ご存知の通りで、さらに、ざこば師匠のお嬢さんと婚約、八月九日に挙式、公演日の翌十一日には披露宴を迎えられるおめでたい師である。『巽の左妻』の出囃子で登場。「昨年はオートバイで日本一周の旅をして、四百七十一回も落語をしまして・・・」と、苦心談、裏話で笑いを誘う。実話だけに実に面白い。始まった演題は『紙入れ』。婚約を機に手がけられた噺で、三若師にピッタリの演題である。
 主人公のなよなよした色男、思わずゾクッとする誘惑する艶妻、陽気で気楽な旦那。心の動きや意味深な会話、見事に演じ分けた二十二分の好演であった。

 本日の中トリは桂小米師匠。小米師匠、若き時代は上方落語界の三大男前(今で言うイケメン、桂朝太郎、春之輔、小米の三師)、その後、上方落語界の酒豪、現在は米朝師匠の飲み友達として有名。反面、近年は酒の飲みすぎが原因で五千人に一人の大病の両足の「大腿骨頭壊死症」を発病され、これをネタに高座では笑いをとられていた。完治後、出演を快諾いただいたが、急に調子が悪くなられて、同門の桂千朝師匠の代演となりました。
 その千朝師匠、過去、当席では師匠直伝の珍しい噺である『肝つぶし』。師匠作の『一文笛』。登場する犬が可愛い『鴻池の犬』。そして登場人物、一人一人が生き生きと描かれていた『植木屋娘』と、いずれも師匠譲りのきっちりした芸風で秀作揃いであった。
 さて、今回もと客席の期待の拍手に迎えられ『浪花の四季』の出囃子に乗って高座へ登場。
「えー、小米さんが体の調子が悪く、心配はないのですが・・・本日の処はは千朝でお付き合いをお願いしておきます。」と、ユッタリとした口調で、前の三若ワールドから千朝ワールドへ客席のムードをチェンジ。実に見事。
 そして、始まった演題はこれも師匠直伝の『鹿政談』。上方では珍しい人情溢れる噺で、威厳・恰幅の必要な奉行が登場し懐の深さが聞かせどころとなる力量のいる噺。上方では武士や大名の登場する噺は少ないが、奉行の登場する噺は多い。大阪が舞台の場合は必ず西の御番所、すなわち西町奉行所が舞台であるが、江戸、大坂、京都と各地の名物を紹介して見事に、この噺の舞台は奈良へご案内。千朝師匠は、人の良い老夫婦、老獪な役人、そして、背筋を伸ばし威風堂々とした名奉行が名裁きを行うクダリも見事に演じて、万来の拍手でサゲとなった。

 中入り後は、枝雀一門から桂九雀師の登場。『旅』の出囃子で、愛嬌タップリの笑顔で長身を前かがみにして満面の笑みで高座に姿を見せると客席から間髪入れずに拍手が起こる。
 「えー、世間は失業率が5%を超えているようですが、落語界では昔からで一日の落語会の数だと失業率90%。食っていけないようですが食えます。吉朝兄さんは『これが五年、十年経ったら食えるねん』『仕事が増えるですか』『ちゃう、食う量が減るねん』(笑)」。昔は、終身雇用、しかし、年若い丁稚さんを教育するのは大変でと、始まった演題は、「たいらばやしか、ひらりんか、いちはちじゅうのもくもく、ひとつとやっつでとっきっき」の『平林』。『寿限無』と並んで落語の中の落語である。
 当席では非常に珍しい噺で今回を入れて四度しか演じられていない。
 九雀師の演じられる多くのポケット中の持ちネタは、
@古典を忠実に演じる落語(本人曰くレア)。A古典に新味を加え改作したり、復活させたりした落語。 B創作落語。 に大別でき、この『平林』はAに該当する。
 練った噺とあって発端から爆笑の連続で、何故、名前を忘れたか、間違って名前を読む人の正体は?見事なサゲが光った、あっと言う間の二十分の口演であった。

 さて、本年の恋雅亭の大トリは上方落語界の爆笑王・笑福亭福笑師匠。
 当席へのご出演回数では、初席の染丸師匠と双璧。お馴染みもお馴染みの師匠でここは説明の必要もない処。独自の創作落語をパワー溢れる口演で毎回、当席の客席を爆笑の渦に巻き込んでおられる師匠、お馴染みの『佃くずし』の出囃子で、弾むように飛び出てこられた師匠を客席は本日一番の拍手で迎える。
 鳴り止まない拍手を待って「えー、」とトイレで煙草の火でチ○コを火傷しての奥様とのやりとりを紹介し、「こんなツカミどうですか」と、納得の反応から始まった本題は創作落語『大道易者』。当席、初口演である。
 次々に爆発するクスグリの客席の反応はバツグン。それに乗って師匠もノリノリ。
 大トリに相応しい四十分の大爆発高座であった。【叶 大入】