もとまち寄席 恋雅亭
公演記録    第363回 
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 公演日時: 平成20年11月10日(月)      午後6時30分開演
  出演者      演目
 桂   阿か枝  「金明竹」
 林家 そめすけ  「看板のピン」
 桂    米 平  「七度狐」
 笑福亭 仁 智  「源太と兄貴 」
  中入
 桂    梅團治  「鬼の面」
 桂   雀 々  「代書屋」(主任)

   打出し 21時20分
   お囃子 林家 和女、勝 正子
   お手伝 桂 三之助、笑福亭瓶成
 今年の公演もあと2回を残すのみとなった十一月の363回公演を迎えました。
前売券も絶好調で売り切れ。前景気も絶好調。その後も問合せが途切れないまま当日を迎える。十一月十日の当日は月曜日。いつもの様に一番のお客様の出足は早い。人気は継続中で、その後も多くのお客様が列を作られ開場を待たれる。同時に木戸口では事前に準備された多くの折込まれたチラシを人海戦術で織り込んで開場の準備を進める。スピードアップして準備。定刻の五時半に開場となる。列を作って待っておられたお客様が入場される。出足は絶好調。次々と来場されるお客様で会場はどんどん埋まっていき、椅子席は開演時には満席となり、今回は久々に立ち見のお客様のご迷惑がでる。
 二番太鼓から定刻の六時半、祈が入って、十一月公演が開演となる。

 その公演のトップバッターは文枝一門の末弟で地元、明石出身の桂阿か枝師。
本年四月十二日の「開席三十周年記念公演に出演予定を涙の急病で今回の出演となりました。爆笑高座を期待する満席の客席からの拍手と『石段』の出囃子で高座へ登場。「えー、ありがとうございます、只今より開演でございまして」と、あいさつから師匠の運転手時代の失敗談で笑いを誘って、始まった本題は『金明竹』。
 この噺、前半が丁稚定吉の失敗談で、後半が道具七品をたて弁よろしくまくしたてる。前座噺の定番。こんな丁稚定吉がいると想像出来る阿か枝師の好演が笑いを誘い、後半もぐっと盛り上がった二十分の高座であった。

 二つ目は、染丸一門から林家そめすけ師。
いつまでも若々しい師、今回も元気一杯の落語だけではない爆笑高座を期待の拍手に迎えられて高座へ「えー、ようこそのお運びでありがたく御礼申し上げます。代わり合いまして林家そめすけの方でもお付きい・・・」と、あいさつ。それだけで、客席からは笑いが起こる。
 「落語ブームですから、我々のような者にも声を掛けられる」と、出るか十八番のモノマネ。笑福亭仁鶴、オール巨人、酒井とおる、の師匠連のモノマネで笑いと会場からわき起こる拍手。そして、博打の話題から始まったのは『看板のピン』。
 お馴染みの噺だが、そめすけ師の演出は上方の若い衆を相手に胴をとって対応する東京帰りの親父っさんが登場し江戸弁と上方弁が飛び交って元気一杯で噺が進む。全編、爆笑の渦の二十分の高座であった。

 三つ目は米朝一門から桂米平師が登場。
上方落語界の巨体で愛嬌タップリの師匠。高座は爆笑物で当席でもお馴染み。『大拍子』の出囃子で登場。前の二人の着物が派手だったことをツカミで使って「私の方は体重が百十キロございまして、体重言っただけでどよめきが起こるようで、もう慣れましたが、あちこちの落語会で言うと『おー』。これで百獣の王」。
 さらに、ペットのチワワとコンビでの散歩での爆笑マクラが続いて、痩せるには早足で歩くのが良いから昔の旅のお噂をと、師匠直伝の『七度狐』が始まる。
 直伝らしく実に行儀が良い。そこに、「悪い奴なぁー・・・」との狐の言葉には、「私が演(や)ると狸のようですが」とのギャグが入る演出は悪かろうはずがない。発端の狸には見えない狐が復讐を誓って消えてから、裸で川を「深いか浅いか」と渡ったり、尼寺へ迷い込んだり、色々な物を食べさせられ、金貸しのばあさんの幽霊が出たりとさあ大変。
 そして、大爆笑のうちに、大根を抜いて二十五分の熱演はサゲとなる。
 元々、この噺、別名を『庵寺』。サゲは百姓は狐に向かい、「いい加減に、旅の者を騙しておかぬかい」。すると狐、「いい加減に、庵寺つぶしておかぬかい」。「庵寺つぶす」は、”あんだら尽くす。(馬鹿な真似をするの意)の地口落ちで、今ではとても分かりにくい。

 そして、中トリは上方創作落語界の重鎮・笑福亭仁智師匠。
過去、当席で演じられた創作落語の、その全てが師匠のほのぼのとした芸風で演じられ好評であった師匠。今回もお馴染みの『オクラホマミキサー』の出囃子で登場の仁智師匠、
 「ありがとうございます。えー、実は昨日、散髪で失敗いたしまして、今日は来たくなかったんですが、前の方のお客様が気の毒そうな顔をしてはりまして・・・」「今朝も朝の冷え込みで目がさめまして」「頭に毛は生えませんけど心臓に毛が生えました」と、刈り込まれた頭を見せて笑いをとる。
 話題は野球の解説者へ、掛布、川藤、西本、福本、栗橋の各氏の話題に会場はドッカン、ドッカンと大受け。そして、「今や斜陽産業、やっちゃんの兄貴と弟分の噺」と前置きして、創作落語『源太と兄貴』が始まる。兄貴と弟分(源太)とが繰る広げるギャグの連発噺で、師匠のたたみかけるような高座と相俟って、これがまた絶品。
 高利貸しでは儲からなくなったので、何かで儲けようとするのだが、これが全て失敗。その度に会場全体が大きく揺れる。まず、スタートは便所から。「ちり紙」と「明治のチェルシー」の間違い。しのぎの方法を考えた二人は「小銭を溜めた年寄夫婦をかつあげ」。「金出せ!」で出てきたのは老婆の山田カネ。このパターンが続く。
 紙面ではその面白さが表現出来ないので残念。
 こんなパターンが連続し、その都度会場が大きく揺れる。弟分「兄貴、『豊臣の埋蔵金』ちゅうのんどうですか? 秘密の地図手に入れましてん。」兄貴「それ、ええやないか。掘りに行こか。」弟分「兄貴、壷みたいなん出てきましたでぇ。」兄貴「ぼろぼろの布が出てきたで、なんか書いてあるわ。・・・こらっ『豊臣のマイゾウキン』やないか。」「甲子園球場での売り子」として「アイスクリーム」を売ることになりサゲとなる。一番先に振った「高利貸し(コウリガシ)」と「アイスクリーム(氷菓子)」を掛けたシャレでサゲとなった二十七分の熱演であった。

 中入りカブリは、春團治一門から桂梅團治師匠。
今回も愛嬌タップリでホンワカムード、『龍神』の出囃子で登場。「えー、今回の恋雅亭は、新鋭・上方落語会に出演する、仁智、雀々、そして、私とメンバーが揃いましてその時のチラシを一番下したの私だけですわ。持ってこなんだ。口頭で連絡します、・・・。今日は神戸拘置所へ、毎年、この時期は慰問に行かせてもらって、慰問が終わってから送ってもらいまして、会場におられるはずです『見に行く』と言ってはりましたから、入ってはる人ちゃいまっせ」と、笑いを誘って始まった本題は『鬼の面』。十八番である。
 この噺、全編、何か昔話を聞くようなホンワカとした秀作で師匠のムードとピッタリで、師匠がこの噺を演じると、奉公先の主人を筆頭に隠れて博打をしている人も登場人物全員が善人に。ここらが落語の面白い処。
 二十分の熱演高座に会場は拍手が溢れてトリと交代になった。

 そしてトリは、上方落語界の売れっ子・桂雀々師匠にとって頂きます。
当席常連として毎回、汗ブルブルの熱演で上方爆笑落語を演じられておられる師匠。今回も楽屋入りしてさっそくネタ選び。「えー、『代書』『夢八』は出てる?」と確認(『代書屋』は46回ぶり。『夢八』は29回ぶり)。『かじや』の軽妙な出囃子に乗って満面の笑みで高座へ。
 「えー、私でラストでございまして・・・、『もうかった日も代書屋の同じ顔』と、いきなり本題か?」。話題は襲名の話題。新米團治襲名裏話。
 そして、『代書屋』が始まる。『代書屋』は先代(四代目)米團治師匠が創作された噺で米朝師匠から、三代目春團治師匠と二代目桂枝雀師匠に口伝され、現在では上方の新作落語でも古典に近く、東京でも柳家権太楼師匠や古今亭寿輔師匠らが手がけられ東西で広く演じられている名作である。雀々師匠は、もちろん枝雀師匠直伝。
 主人公の本名は「松本留五郎」。本業は「ポーン(何のこっちゃ)」。
 全編、師匠の枝雀流をベースにしているようで雀々流。
「こんなおっさん、おるかい」「ひょっとしたらおるで」「おったら楽しいで」「ようけおるで」と、留と代書屋の会話が続く。一言一言に会場は大爆笑。小学校時代の校門の桜。その花びらで作った輪っかを女の子にもらえなかった処ではホンワカさせて、「ポン」でサゲとなった、もう説明の必要のない秀作。四十分の熱演で十一月公演はお開きとなった。



・・・ 松屋町の加賀屋佐吉方で揃えた道具七品 ・・・
@ 刀身は備前長船の則光、祐乗光乗宗乗三作の三所物【刀剣の付属品である目貫(めぬき)、笄(こうがい)、小柄(こづか)の3種】、横谷宗ミン四分一拵え【銅3に銀1を混ぜた日本特有の合金】小柄付きの脇差。
A のんこう【京都の楽焼本家の三代、道入(どうにゅう)の俗称】の茶碗。
B 黄檗山【隠元が山城国宇治大和田に黄檗山万福寺を創建】金明竹【マダケの変種】の自在
C 遠州宗甫の銘がある金明竹の寸胴【上から下まで同じように太くて、くびれがない】の花活け。
D 風羅坊【松尾芭蕉の別名】正筆の掛物。
E 織部の香合。
F 沢庵・木庵・隠元禅師はりまぜの小屏風【茶席では珍重された】。
 どの品物も、超一級品で今に残っていたら、オープン・ザ・プライス。