もとまち寄席 恋雅亭
公演記録    第362回 
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 公演日時: 平成20年10月10日(金)      午後6時30分開演
  出演者      演目
 笑福亭 た ま  「動物園」
 桂   文 華  「近日息子」
 桂   春 雨  「ちりとてちん」
 桂   雀 松  「片棒 」
  中入
 桂   枝三郎  「雪隠の競争」
 笑福亭 松 枝  「口入屋」(主任)

   打出し 20時
     お囃子  林家 和女、勝 正子
     
 
一つの区切りである『三十周年記念公演』を無事お開き。今回は十月の362回公演を迎えました。
前売券も前景気も絶好調で、売り切れ。その後も問合せが途切れないまま当日を迎える。
 十月十日の当日は金曜日。いつものように一番のお客様の出足は早い。人気は継続中で、その後も多くのお客様が列を作られ開場を待たれる。同時に木戸口では事前に準備された多くの折込まれたチラシを人海戦術で織り込んで開場の準備を進める。スピードアップして準備。
 定刻の五時半に開場となる。列を作って待っておられたお客様が入場される。出足は絶好調。
次々と来場されるお客様で会場はどんどん埋まっていき、椅子席は開演時には、ほぼ満席となる。今回は立ち見のご迷惑はなし。二番太鼓から定刻の六時半、祈が入って、十月公演が開演となる。

 その公演のトップバッターは福笑一門で、皆様よくご存じの笑福亭たま師。
今回も知性溢れ、天衣無縫に聞こえて、練りに練られた爆笑高座を期待する満席の客席からの拍手と『石段』の出囃子で高座へ登場。
 「ありがとうございます。只今より開演でございます。まずは私、笑福亭たまの方でお付き合い願いますが、・・・」とショート落語で、ご挨拶がわりにスタート。『銃撃戦』『健康飲料』『高校球児』『伝票争い』『ローマ法王のデコピン』『遺跡発掘』『ドリアン』『神業』。
 そして『動物園』が始まる。この噺の原話はイギリスで、二代目桂文之助師匠が落語に仕立てたと言われている。
 現在では多くの演じ手のいる噺であるが、主人公がアルバイトのチラシを見て動物園に行くなど、自身の工夫一杯の十三分の高座は爆笑の連続であった。
 * 二代目桂文之助師は、京都の高台寺で甘酒屋(文之助茶屋)を営みながら、「電話の散財」「象の足跡」「動物園」など創作されたとある。

 二つ目は、文枝一門から桂文華師。いつまでも若々しい師、今回も元気一杯で、『千金丹』の出囃子で高座へ登場。
 「えー、ありがとうございます。もう場内割れんばかりの拍手を頂戴しまして、続きまして出て参りましたのは、こちらにも名前を書いていただいておりますが、桂文華と申しまして通称、上方落語界の妖怪人間ベロでお付き合いを(会場は大爆笑でツカミ成功)」。マクラは今日、行ってきた小学校の学校寄席の答えにくい質問。「文華さんの本当のお仕事は何をしてるんですか」「食べていけますか」
 続いて、一家揃ってのアホの小咄から「おい作次郎、・・・」と、始まった本題は上方落語屈指の爆笑編『近日息子』。
 この噺、全編笑いの連続に初代、二代目の春團治師匠が練り上げた噺で、前半部の息子と父親の会話でひとしきり笑った後、後半部の長屋連中のやりとりで笑いがさらに加速する。文華師も初代によく似た声質を生かして全編笑いの連続。二十三分の爆笑高座であった。

 三つ目は春團治一門から桂春雨師が登場。
上方落語界の栄養失調の若旦那。高座は爆笑物で当席でもお馴染みで、『春雨』の出囃子で高座へ顔を見せると大きな拍手が起こる。
「えー、続きまして、私、春雨でお付き合い願っておきますが、あらかじめ言っておきますが私、虚弱体質でございまして、文華君やたま君の様に大きな声は出しませんので、ご注意願っておきます」と、あいさつから「メタボ検診」のマクラが始まる。 痩せ過ぎで低体重で、血液検査の診断の結果は「日本人で良かった。食糧事情の悪い国なら栄養失調で死んでる」「あんまり頑張らないように頑張って下さい」。
 そして、「頑張ったらあかんので、体力を温存しながら。一席お付き合いを願っておきますが、」と、始まった演題は『ちりとてちん』。NHKの連ドラの番組名にもなったのでよくご存知。昨今の落語会のリクエストでもダントツの演題。当席では15度目の口演となる。
 そのポピュラーな噺を流暢に演じる。有名だけに筋立てはご存じのお客様が多く、演じにくいはずであるが、そこは春雨師、もちろん、ツボツボで笑いが起こったことは言うまでもない。高座を下りる際、フラフラで、いかにも熱演による低体重でクタクタの春雨師、最後まで大爆笑の二十四分の好演であった。

 そして、中トリは枝雀一門から桂雀松師匠にとって頂きます。
地元、神戸出身で達者な師匠。師匠直伝のきっちりとした土台に、落語への真面目な取り組みで多くの持ちネタの中から何が飛び出すか。期待の拍手と、テンポよいえー『砂ほり』の出囃子に乗って高座へ「えー、どうぞ続いて私の方もお付き合いを願っておきますが、まあ、お付き合いを願うと言いましても、みなさま方と結婚を前提としてお付き合いをする訳ではございませんのでどうぞ安心して聞いて下さい。忙しい中、こんな恋雅亭秘密倶楽部にご来場・・・」と、会場を一気に雀松ワールドに突入。
 話題は「株安から不景気になる」「麻生総理で大丈夫か。二世、三世の総理大臣で、親父さんがええ政治家やから、必ず息子がええ政治家になるか判らない。世間では親父っさんが偉かったら息子は悪い。パターンじゃないですか。落語の世界でも・・・(ここからカット)・・・」(場内・拍手大受け)
 話題は「落語はおかしい。一人で呼んで一人で返事する」「落語ブームといってもまだまだ知らない人がいまして、『こんにちわ』と、言いますと一番前のおばあちゃんが『こんにちわ』、『まあ、こっち上がっといでえなあ』と、言うと上がってこられたり」。さらに、高齢化社会、落語界の高齢化、理由は定年がない、松之助師匠と米朝師匠の元気な近況、お年寄りの気持ちを紹介。好きなことをしゃべっているようで見事な話の組み立てである。そして本題の十八番の『片棒』が始まる。
 この噺、東京の故九代目桂文治師匠の十八番。話題が古い。九代目師匠は当席が開席した昭和五十三年にお亡くなりになっている。上方では雀松師匠の十八番である。
 財産を引き継ぐのを誰にするかを決めるのに自分の葬儀の方法を聞く因業、ケチの伊勢屋幸兵衛。三人の息子はそれぞれの提案をする。長男、次男は金がかかる案を、末っ子は逆に金を一切かけない案をぶちあげる。随所に自身のくすぐりを織り交ぜ、大爆笑の好演。場内が大爆笑に包まれた二十五分の高座でお中入りとなる。

 中入りカブリは、文枝一門から「枝さん」こと桂枝三郎師匠。
祈が入って『本調子かっこ』の名調子で高座へ。「えー、私の方は桂枝三郎と申しまして、さぞ、お力落としの方もございましょうが」と、「恋雅亭は落語好きの方が集まっておられるので演り易い」と、切れの良いマクラ、題して「枝さん流・世相を斬る!」。「阪神がアッチソンが出てコッチソンや」「ヤクルトよりオロナミン(巨人)が強い」「子供の頃言われた『ウソ言うたら口ゆがむ』(現総理)」。
 さらに、「襲名、新米團治をシンマイ ダンジと読む」「弟弟子がざこば師匠の娘さんと結婚」「米朝師匠との落語談義。誰も演らん落語は面白くない」「『裏の裏』『嗅ぐ鼻長兵衛』『外法頭』と超レアな落語」「日本は米の国、字で書いたらよその国が米の国」「米を買うのは命令、決めてるのはライス」「不二家は頭を下げて謝る、ペコチャン。賞味期限を嘘。嘘つくはず、舌出してる」「ダンボール入り肉饅を食べる中国、大阪では食べずに寝たり住んだり」・・・。次々にテンポ良く切り口鋭く続く。
 始まった演題は『雪隠の競争』、この噺も超レア(東京では『開帳』当席では二十三年ぶりの口演)な演題。あっと驚くサゲとなる。爆笑連続の二十一分の高座であった。

 そしてトリは、上方落語界の重鎮・笑福亭松枝師匠。
全国を飛びまわって忙しい師匠。今回で37回目の出演となる当席ではリラックス。ゆったりと『早船』の出囃子で登場すると、「今席、十月のテーマは、もうお気づきですねぇ、トリの私が出てくるにおよんで確信を持たれたことでしょう。そうなんです。今席は上方落語界の顔のええ、上位六人の揃い踏みでございます」。
 「ただ今が有料雪隠、腐った豆腐、息子のアホさかげんにツウジがなくなってしまう噺、最後は格調高く・・・夜這いの噺を」と、上方落語の味わい深い船場の商家の噺の代表である、十八番の『口入屋』が始まる。
 師匠のニンがピッタリな登場人物が次々登場する噺、会場の笑いが止まらない。師匠自身も乗り乗りの半時間を超える好演であった。

・・・女子(おなごし)さんの挨拶に登場する言葉・いくつ判りますか?・・・
縫い物編 単(ひとえ)もん・袷(あわせ)・綿入れ・羽織・袴・襦袢(ジバン)・十徳(じっとく)・
被布(ひふ)コート・雪駄・畳の表替え・蝙蝠傘の修繕
唄編 地唄・江戸唄・義太夫・常磐津・清元・新内・一籌節・都々逸・大津絵・
とっちりとん・追分・よしこの・騒ぎ唄・チョンガレ・あほだら経
教養編 御家流・菊川流・裏千家・池坊・小笠原流・観世流・一刀流・渋川流・宝蔵院流・
大坪流・山鹿流・甲賀流
  さて、いかが。