もとまち寄席 恋雅亭
公演記録    第361回 
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 公演日時: 平成20年 9月10日(水)      午後6時30分開演
  出演者      演目
 桂   春 菜  「短気千里を走る」
 桂   あさ吉  「所帯念仏」
 笑福亭 竹  林  「親子酒」
 桂   文  太  「猫定」
  中入
 露の  團四郎  「眼鏡屋盗人」
 桂   雀三郎  「帰り車」(主任)

   打出し 20時55分
     お囃子  林家 和女
     
   一つの区切りである『三十周年記念公演』を無事お開き。
今回は九月の361回公演を迎えました。前売券も前景気も絶好調。その後も問合せが途切れないまま当日を迎える。九月十日の当日は残暑の水曜日。いつもの様に一番のお客様の出足は早い。人気は継続中で、その後も多くのお客様が列を作られ開場を待たれる。同時に木戸口では事前に準備された多くの折込まれたチラシを人海戦術で織り込んで開場の準備を進める。スピードアップして準備。定刻の五時半に開場となる。列を作って待っておられたお客様が入場される。出足は絶好調。次々と来場されるお客様で会場はどんどん埋まっていき、椅子席は開演時には、ほぼ満席となる。今回は立ち見のご迷惑はなし。二番太鼓から定刻の六時半、祈が入って、九月公演が開演となる。
 その公演のトップバッターは、春團治一門で、皆様よくご存じの実父の名跡・桂春蝶の三代目を襲名する桂春菜師です。『石段』の出囃子で高座へ登場すると、会場からは大きな拍手が起こる。「あーのー、最近になってやっと気が付いたんですけど、僕自身、この業界には向いてない様に思うんです。と、言うのはマイナス思考なんです。それも極度の。人から言われた一言に反応してしまうんです」と、マクラが始まる。「この前の落語会、僕、一人やったんです。司会の人が紹介してくれる言葉に反応してしまうんです。『今から聞いて頂きます。これが芸か。というものを聞いて頂きます」。
 さらに、自民党の総裁選では、「どの候補者を見ても全員、二世議員ですね、ボンボンはダメですね」と、マイナス思考を紹介して場内に爆笑の渦を巻き起こす。
 そして、逆に全く動じない極めてハイテンションな母親を紹介。「レストランに行きましてん。ボーイさんが『お煙草は?』に、『マイルドセブン』」に、場内はさらにドッカン、ドッカン。そして、母親の逸話を一本の落語にまとめたと、自身の創作落語『短期千里を走る』。 登場人物の親子四人(父:春蝶、母、自身:春菜、妹)を紹介して本題に。
 全編、実話の爆笑編。十八分の爆笑高座。今席もトップから全開のスタート。

 二つ目は、吉朝一門の総領・桂あさ吉師。師匠譲りのきっちりとした、端正な芸風と落語への真面目な取り組みそのままに、『お江戸日本橋』の出囃子で登場し、落ち着いたマクラが始まる。「えー、米朝一門も四十人以上おりますが、一門が初めて習う小咄はと、『くちなし』を紹介。そして、『くちなし』英語版を披露。続いて、日本語、韓国語で同じ小咄。さらに、ブルネイで落語会では、、宗教上の理由で、女性の出てくる噺、お酒の噺、犬の出てくる噺を禁じられて困った話題は爆笑の連続。信心か習慣か判らないと断って『所帯念仏』が始まる。
 この噺は、大師匠の米朝師匠から「自分で工夫してやりなさい」との助言によって作り上げた噺とあって、あさ吉流の十二分の秀演であった。

 三つ目は松鶴一門から笑福亭竹林師が登場。笑福亭伝統の豪放磊落の高座は爆笑物で当席でもお馴染み。今回も『山羊の郵便屋さん』のお馴染みの出囃子で登場し、「えー、決して怪しい者ではございません竹林です。ありがたいお客様を前に、私事ですが、インターネットで奈良県出身の「人物」を見ましたら、なんと聖徳太子の次に笑福亭竹林が載っておりました。ちょっと嬉しかったことを、まずもってご報告申し上げます」と、絶妙の間のツカミのあいさつ。さらに、「今日はお酒の噺でお付き合いを願っておきますが、ここ(恋雅亭)はネタ選びが難しくて困ります。前に出た噺は出来ませんし・・・」と酒の話題が始まる。さらに「自分自身が酒一滴も飲めません。入門当時は噺家で酒が飲めなかったのは僕だけでして、隠して入りましたよ、松鶴ですから師匠が、酒で売ってた方ですから、入門した初日に『おい、お前、煙草吸うのか?』と、聞かれたんで正直に『吸うてました』と言うたら『遠慮せんと吸え、どうせ隠れて吸うんやから』と、初日から師匠の前でどうどうと煙草吸えるという滅多にない一門で、三日目に『お前、酒、飲むのんか』と、聞かれて、あちゃ来た、と思たんですがおそるおそる正直に『一滴も飲めません』と言うと、ただ一言『病気か』。」会場ドッカーン。未だに六代目師匠の話題は良く受ける。
 そして、始まったのは『親子酒』。お酒の噺の定番である。酒飲みの親子が禁酒を誓うのだが、お父っつぁんは我慢できず約束を破る。橋下知事も登場したり、無理して酒を辞めて糖尿になったとかのクスグリで笑いが起こる中、息子がご帰還。息子も「へべのれけれけ」で言い訳。酒の笑福亭の本領発揮、豪放磊落の二十五分であった。

 そして、中トリは上方落語界の重鎮・桂文太師匠にとって頂きます。今回も多くの持ちネタの中から究極の一席を演じて頂けることでしょう。と、期待の中、会場から「待ってました!」「たっぷり」の声に迎えられて高座へ登場し、「日本はペット王国やそうで・・・、育てられんようになって捨てる人が多い。池にワニがおったり、川にピラニアがおったり、押入にサソリが・・・」と、ペットの話題から「大阪は高津さん、北裏の地蔵長屋に魚屋の定次郎という方がおりました」と、舞台をサラリと紹介して『猫定』が始まる。
 この噺、勿論、当席では初めて演じられる噺。東京でも珍しい噺で、一時は六代目圓生師匠しか演じ手がなかった噺。バクチ打ちの定次郎が、縄でしばってある黒猫を買い受け、家に帰って賽を見せると、丁半を鳴き声で当てる。博打場で懐の猫の言うとおり張って大儲けし親分と言われるようになる。飛田の遊女を女房にしたのだが、男と二人で親分を千日前で待ち伏せし殺す。しかし、男は懐の猫に殺され、家の女房は噛み付いて殺される。殺された親分の町内の人たちが葬儀をしいると死体に異変が、別れを惜しむ猫と判って、同じ棺桶に猫の死体を入れてやる。サゲは賽子があったので転がすと、棺桶の中の猫がニャア。贋作と文太師匠は称されておられたが、半時間の秀作であった。

 中入りカブリは五郎兵衛一門から露の團四郎師。何時までも童顔で愛嬌タップリの笑顔で、『炭坑節』の出囃子で高座へ登場すると、一杯のお客様に嬉しそうに「えーありがとうございます もう拍手なんかいただきましてこんな嬉しいことはございません。久しぶりにこんな大勢の前でおしゃべりいたします。久しぶりでございます。色んなとこでおしゃべりいたしますが風月堂が一番でございますなぁ(会場から拍手)。いやいや、ご勿体ない、べんちゃらではございません。ほんちゃらでございますよ。良いお客様で、ここで笑わなかったら・・・。今日もそうなりそうですが、(会場から笑いが)」と、もっちゃりこってりの師匠譲りの高座が始まる。
 中入り後の出番で大張り切りでパワー全開で、「いまや上方落語界では、ヨンさまと呼ばれております。あははやございません、芸名に四(よん)が付いているからだけでございまして、それでヨンさまや・・・」、さらに北京オリンピックの話題で笑いをとって、噺家は楽な仕事、もう一つの元手のかからない仕事として盗人と、始まったのは師匠直伝の『眼鏡屋盗人』。間抜けな「ど新米」が師匠のイメージとピッタリ一致して大爆笑連続の二十分の高座であった。

 そして、トリは枝雀一門からご存じ・桂雀三郎師匠にとって頂きます。
当席常連として毎回、上方古典落語や創作落語を演じられておられる師匠。お馴染みの『じんじろ』の出囃子で登場すると、「えーありがとうございます。もう一席、聞いていただきましておしまいということで、ひょっとして、まだ一回も笑ってないお客様は最後のチャンスです」と、さらに、「全国各地へ行かせてもらっておりまして、北は北海道から南はなんばまで・・・」と、雀さんワールドへ。
 始まった演題は『帰り車』。この噺、雀三郎師匠を知り尽くした落語作家の小佐田定雄先生の作品。さらに師匠の工夫がプラスされ十八番となっている秀作。仕事にあぶれ帰路についた車夫さんにお客が付く。そこから、次々に無理難題が、その都度、乗り越えるのだが、段々と過酷になって、最後はアッと驚く見事なサゲとなる噺なのである。
 当席でも昭和六十年、六十二年、平成八年、十二年についで今回が五回目となるが、今回も大爆笑の連続の二十五分の口演であった。
今回も会場全体が爆笑の連続に包まれた恋雅亭361回公演であった。