もとまち寄席 恋雅亭
公演記録    第359回 
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 公演日時: 平成20年 7月10日(木)      午後6時30分開演
  出演者      演目
 笑福亭 風 喬  「勘定板」
 桂   つく枝  「無筆の手紙」
 桂   米 左  「七段目」
 笑福亭 呂 鶴  「借家怪談」
  中入
 林家  小 染  「遊山船」
 桂   都 丸  「はてなの茶碗」(主任)

   打出し 21時00分
     お囃子  早川 久子、勝 正子
     手伝い  笑福亭 呂竹、呂好、桂 とま都
  一つの区切りである『三十周年記念公演』を無事お開き。今回は七月の359回公演を迎えました。前売券も早々売り切れて前景気も絶好調。その後も問合せが途切れないまま当日を迎える。
平成二十年、七月十日、当日は平日であるが、お客様の出足も絶好調である。いつもの様に一番のお客様の出足早い。人気は継続中。その後も多くのお客様が列を作られ開場を待たれる。同時に木戸口では事前に準備された多くの折込まれたチラシを人海戦術で織り込んで開場の準備を進める。今回も多い。焦ってスピードアップして準備。定刻の五時半、開場。列を作って待っておられたお客様が入場される。出足は絶好調で、次々と来場されるお客様で会場はどんどん埋まっていき椅子席は開演時にはほぼ満席となる。今回は立ち見のご迷惑はなし。
 二番太鼓から定刻の六時半、祈が入って、七月公演が開演。

 その公演のトップバッターは、松喬一門から笑福亭風喬師。
平成十年入門で過去、スケジュールがあわず遅れ、今回当席初出演、となりました。
 芸風は師匠譲りで明るく、笑福亭伝統の豪放磊落。その高座は爆笑物で飄々とした風貌が客席の笑いを誘う風喬師。2006年度の「NHK新人演芸大賞」を東西の若手63人の激戦を勝ち抜いて獲得した実力派である。ちなみに演題は、六代目松鶴師匠、笑福亭鶴志師匠と続く、笑福亭のお家芸で、「上町のおじ様より喜公へ」「あーあ、書いたある」「ちょっと、お尋ねいたします」「グッドバイいにさらせ」などの表現を見事受け継いだコテコテの上方落語『平の蔭』。今席の二つ目でつく枝師が演じられた『無筆の手紙』の別名である。
 その風喬師、『石段』の出囃子で、笑顔一杯高座へ登場する。本日のお囃子陣は充実で名手が顔を揃える。三味線は二丁。特に笛は、米左、小染、つく枝と三名手と豪華。
 「ありがとうございます。笑福亭風喬のほうでお付き合いを願っておきますが、十年になりますが、恋雅亭は初めてでございます(会場から拍手)」と、あいさつして海外へ行った時の話題。地元の親善大使で町の宣伝をして、地方の方言の話題から始まった本日の演題は、これも上方の伝統である、なんとも綺麗で上品な(?) 噺の『勘定板』。この噺、松喬師匠も一門でも多くの師匠が演じられているので、よく練りこまれた演出となっており、随所散りばめられたクスグリに客席からは笑いが起こった十七分の好演であった。

 二つ目は、文枝一門から桂つく枝師。いつも笑顔と元気一杯演じられる爆笑上方落語にファンも多く、本日も『春藤』の出囃子で登場。グッとスマートに引き締まった感のあるつく枝師、いつも通り愛嬌タップリの高座が始まる。平成三年入門であるので、今年で十七年のキャリア。「えー、続きましてつく枝でございます。つく師、つく枝・・・。十七年経ちますが師匠との思い出がいっぱい詰まった当席・・・」と、師匠に怒られたことでのマクラが始まる。実に楽しそうに怒られた想い出や、新しもん好きの師匠の想い出を語って始まった本題は、前出の『無筆の手紙』。
 この噺、簡単そうに見えて意外と難しい噺で一瞬の間の取り方で受けなかったり、爆笑となったりする。風喬師にこの噺を口伝した鶴志師匠は「この噺をすると師匠に怒られているみたいで」と、いつも楽しんで演じておられますし、六代目師匠も口演中に笑ってしまう口演もあるなど、最も楽しんで演じられた噺ではないだろうか。
 勿論、つく枝師の口演は間の狂いもなく大爆笑を誘ったことは言うまでもない、十八分の熱演であった。

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上方落語界も襲名が話題になっているのでちょっとご紹介してみたい。いずれの師匠も当席とは非常にゆかりの深い師匠連で、春蝶、枝鶴の名ビラと提灯は先代の分が残っており、日の目を見る事になる。
・ 桂    小米朝 改め 五代目桂米團治‥・・・・八月公演出演
・ 桂    つく枝  改め 五代目桂文三・・・‥・七月公演出演
・ 桂    春 菜  改め 三代目桂春蝶・・・・九月公演出演
・ 笑福亭 小つる  改め 六代目笑福亭枝鶴
 五代目文枝師匠の襲名後の一門の襲名を振り返って見ると、文枝師匠が小文枝から文枝を襲名し、「小」の字のみ付いている門弟の、小つぶ師が枝光、小國師が文昇、小茶久師が枝曾丸。又、師匠の前名のあやめを花枝師が襲名されている。そして、今回、桂つく枝師が平成の文三として、桂文三を五代目として襲名することが決定した。

 三つ目は本格派揃いの米朝一門の中でも本格派の桂米左師が登場。
当席でもおなじみで、昭和五十九年に桂米朝師匠に入門し、今年で二十五年目。趣味は歌舞伎・文楽鑑賞で、特技は邦楽囃子望月流名取とあって、お囃子にも秀でておられる。さらに、風貌、芸風共、非常に端正ときているのであるから、そこを生かして演じられる若旦那や歌舞伎に関係する落語が悪かろうはずがない。
 『勧進帳』の出囃子で登場し「ありがとうございます。お後お楽しみに」と、自分の出番は休憩変わりでとツカミのあいさつから好きな歌舞伎の話題、小道具の立派さ、随所に笑いを散りばめて屋号を紹介。そして、文楽の話題と続く。この間、手の動きが実に華麗。浄瑠璃の話題に噺が進んで、始まった今回の演題はズバリ『豊竹屋』。口から出任せの浄瑠璃を語る豊竹屋節右衛門さんと、口三味線の花梨(かりん)胴八さんが繰り広げる浄瑠璃合戦。発端からサゲまで実に見事な、二十分の高座であった。登場する花梨は、紅褐色のマメ科の木で、三味線の胴の部分に用いる。

 そして、中トリは笑福亭一門の重鎮・笑福亭呂鶴師匠にとって頂きます。
今回も笑福亭の高座をタップリと演じるべく、重厚な『小鍛冶』の出囃子に乗って薄地のいかにも涼しげな着物で高座へ登場する。もう説明の必要のない笑福亭一門・上方落語界の重鎮の落ち着きである。白湯で喉を潤しながら楽しむようにマクラを振る。
 繁昌亭の話題から、大阪市長と府知事が平松クニオと橋下トオルの名前がいかにも大阪らしい「くにお・とおる」(会場からはすかさず笑いと拍手)。アメリカでも、カーター大統領とモンデール副大統領で「カーター(肩)、モンデール(もむ)」。と、始まった演題は『借家怪談』。東京では『お化け長屋』の演題で演じられる東西でお馴染みの噺である。発端は、長屋の住人の生活の知恵で怪談仕立てで上手く借り手を追い返す、二人の会話で爆笑を誘う。そして、怖そうな借り手の登場で立場が逆転する。怪談話も逆効果。又、爆笑が続く。
 そして、困り果てた長屋の住人が知恵を出しての防衛策を考え実行となるのだが・・・・・。

 中入りカブリは、林家一門から、五代目林家小染師匠。
先代譲りのモッチャリした愛嬌タップリの高座。今回も中入り後の出番で大張り切りです。お楽しみに。小染師匠もこの位置での出演が二度目と板についた感がある。中入り後のシャギリの後、祈が入って、「チャカチャンリンチャンリン」と、お馴染みの『たぬき』の出囃子に乗って顔をくしゃくしゃにして五代目が登場。「どうもありがとうございます・‥・・・。若手から中途半端な年代になってしまいまして、話題は病院の話で」と、健康の話から始まった本題は『遊山船』。この噺、昨今、多くの上方落語が東京で演じられるようになったが、最も移植が不可能だと称される、上方風情一杯の夏の大川の夕涼みの噺、『遊山船』。随所にお囃子もタップリ入る噺であるが、今日のお囃子陣の充実でバッチリ。二十五分の熱演であった。

 そしてトリは、ざこば一門の総領・上方落語界の重鎮の桂都丸師匠にとって頂きます。
当席常連としてトリの貫禄充分、今回も期待です。『猫じゃ猫じゃ』の軽妙な出囃子で巨体を揺すって高座へ登場すると、本日一番の拍手が起こる。
 「物の値打ちは難しいのもで・・・」と、落語のギャラで始まった爆笑マクラもタップリです。
 そして、始まった演題は、大師匠がここまで仕上げられた上方落語の大物、天子様も登場する『はてなの茶碗』。典型的な大阪人の油屋、どっしりと落ち着き溢れる茶金さんと生き生きとした登場人物が大活躍するマクラからサゲまでタップリの三十八分の名演であった。