もとまち寄席 恋雅亭
公演記録    第357回 
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 公演日時: 平成20年 5月10日(土)      午後6時30分開演
  出演者      演目
 笑福亭 由 瓶  「強情灸」
 桂   宗 助  「天狗裁き」
 桂   楽 珍  「こんにゃく問答」
 森乃  福 郎  「指南書」
  中入
 笑福亭 鶴 瓶  「回覧板」「死神」(主任)

   打出し 21時25分
     お囃子  山澤 由江、勝 正子
     手伝い  笑福亭 瓶生、
  一つの区切りである『三十周年記念公演』を無事お開きになって、今回は357回公演。
ネット予約は4月7日に、前売券は発売日当日の4月13日に即日完売の沸騰人気。その後も問合せが途切れないまま当日を迎える。
 平成二十年、五月十日、当日は朝から雨模様。さらに三月に戻ったように寒い。困った。
一番のお客様は開演の五時間前の午後一時過ぎ。ちょっと異常な位の人気。
四時半過ぎにはお客様の列は長く伸び、傘をさされて並ばれる。本当に申し訳ない。
 その後も多くのお客様が列を作られ開場を待たれる。木戸口では事前に準備された多くの折込まれたチラシを人海戦術で織り込み、開場の準備。今回も多い。焦ってスピードアップして準備。急遽、開場を十五分早めての開場。列を作って待っておられたお客様がご入場される。出足は絶好調で、次々とご来場されるお客様で会場はどんどん埋まっていき椅子席は開演時にはほぼ満席となる。好調で次々とご来場されるお客様で会場はどんどん埋まっていき、椅子席は開演前には満席。急遽椅子を増席するが立ち見が発生。

 二番太鼓から定刻の六時半、祈が入って、五月公演が開演。
その公演のトップバッターは、鶴瓶一門の十一番弟子となる笑福亭由瓶師。
平成九平成九年入門で初出演。誰が言っているかは不明であるが、上方落語界で最もセクシーな男と言われ、古典も創作落語もこなす逸材である。早くから楽屋入りして準備も万全で元気一杯、『石段』の出囃子に乗って高座へ登場。「沢山のお運び本当にありがとうございます。
 只今より開演でございましてまずは、笑福亭由瓶のほうで・・。立ち見のお客様いらっしゃって申し訳ございません。我々は座って・・・」と、あいさつして、落語家は普段は着物を着ていないのに、たまに着物を着た時にお寺さんに間違えられたことをマクラに笑いを誘って、すっと本題の『強情灸』が始まる。
 この噺、東京ではよく演じられる噺で、灸の熱さを堪え、顔が真っ赤になった五代目小さん師匠の名演をご記憶のお客様も多いことでしょうし、上方でも最近演じられる回数が増え、当席でも5回目の口演となる。
 関口の隠居に勧められてお灸をすえに行き熱かった話をする男にもう一人が意気込んで火を付けるのだが、やせ我慢も限界にきて・・・。
 自身の工夫と師匠譲りの明るい芸風、さらに、関口(ざこば師匠の本名)の隠居が登場するので、ざこば一門からの口伝ではないかとあってその練れた演出も相まって演じた15分の高座は爆笑の連続であった。

 二つ目は、米朝一門から桂宗助師。
師匠の教育と自身の努力で演じる落語は本格的な上方落語をお待ちのファンの拍手の中、『芸者ワルツ』の軽快な出囃子で高座へ登場。
 ちょうど楽屋入りされた鶴瓶師匠に米朝師匠の様子を尋ねられると、その応えうに、「よう似てるなぁ」とのコメント通り、米朝師匠の息をよくとっての口演が始まる。
「えー、今日は夢のお噺を・・・」と、「縁起の良い夢、一富士、二鷹、三茄子・・茄子・・・」から『夢なすび』。さらに夢にまつわる小咄を紹介して『天狗裁き』が始まる。この噺、米朝師匠の十八番。場面転換、登場人物の多さなど、力量のいる噺で、その噺直伝を受けてキッチリと実に行儀良く演じられる。発端からサゲまでの好演に場内からは惜しみない拍手が送られたのは言うまでもない。

 【この噺もいろいろいな古い言葉が出てくる】
・験(げん)=ゲンが良い、悪いなど。縁起(えんぎ)を反対から読んだギエンが変化したもの。
・スカタン=反対・失敗・当てのはずれたこと。タンは接尾語。
・しんど=「苦しい・疲れた・くたびれた」のしんどいから変化したもっとなまぬるい表現。
・悋気(りんき)しぃ=焼餅焼き。〜シイは「〜する者」の意味。
・どつく=打つ・殴る・小突き回す。
・マンダラ=まだらの変形で、種々の色が入りまじっているさま。
・ぬかす=言う・ほざく。
・ちゃんちゃらおかしい=滑稽なことの強調語。
・ ケッタイ=妙な・変な・へんてこな・おかしい・奇態な・嫌な・不思議ななどいろいろな意味を
     含んだ言葉。

 三つ目は文珍一門から桂楽珍師。当席の常連で、今回も愛嬌タップリの爆発爆笑高座は当席でもお馴染みで『ワイド節』に乗って巨体を揺すって高座に登場すると、会場からは待ちかねたように拍手が起こる。
 「えー、五月の十日でございまして、寒い中・・・。五月の半ばのあいさつとは思えません。楽珍と申しまして、これでくすり(薬)珍と読む方がいらっしゃいます。名前は楽珍ですが、生活は苦珍。不思議ですねぇ、楽してるのにだんだん肥えてきます」と、マクラが始まる。
 昨年は赤城農林大臣ばりに絆創膏張って受けたり、船場吉兆の女将の「頭っ白」の話題、そして、二十歳の息子がホストから力士に転身した話題と続き、相撲の噺をと思ったんですが感情が入るので私にちなんだ丸坊主の噺をと『こんにゃく問答』が始まる。
 この噺、師匠のイメージとピッタリ。
「禅宗の無言の行」など、難しい題材なのだが実に明るく陽気な高座、ギャグ満載で物語が続く。勿論場内は爆笑の連続。下りてこられた楽珍師匠に鶴瓶師匠が、「よう、受けとったそうに言葉がかかった名演であった。

 そして、中トリは久々のご出演となります森乃福郎師匠。
 平成12年11月の第267回の『二代目福郎襲名披露公演』以来、7年半ぶりの出演とあって、楽屋入りするや「久しぶりやなぁ、道の迷ったで、けど変わってへんなぁ。嬉しいし緊張するわ」との感想。同期生の鶴瓶師匠とも、「久しぶり。もう還暦やで・・・」と、会話が弾む。
 さらに、「何しょうかなぁ『京の茶漬』も、あまり出てへんし(平成十五年十二月の304回公演以来)、そや、京都ではお茶付けとは言わへんで、『ぶぶ付け』やで。『指南書』も(昭和五十六年四月の37回公演以来)、内の師匠しか演(や)ってはらへんし、難しいねん。どこも切られへんし、面白くないし、聞いて貰うと味わいがある噺やけど、ここのお客さんやったら聞いてくれはるわ。八時ちょっと前の中入りやけど、ええか」と、鶴瓶師匠にOKを貰って演題が決定する。
『獅子舞』の出囃子で高座へ登場。
「えー、久々ですので、緊張しますわ。二代目でございまして、顔が違うと言われますが先代が亡くなられたのが1998年。早いもので・・・・」と、自己紹介。京都出身ならではの「京都検定三級」の問題を紹介して、「京都が舞台の落語を・・・」と、始じまった演題は『指南書』。
 この噺、筋と場面転換で展開されるので、まるで、お伽噺を聞いているようである。しかし、演じ手は一言抜けると意味が通じなくなったり、受けなかったりするので非常に力がいる難しい噺といえる。その難しい噺を全編で半時間の口演は、笑いの連続。秀作であった。

 さて、五月公演のトリは笑福亭鶴瓶師匠。
中入り休憩のあと『新ラッパ』のいつもの出囃子で高座へ登場すると、会場からは本日一番の拍手から喚声が起こる。本日の口演は三部構成。
 まず、昨年の紅白歌合戦の裏話を得意の鶴瓶噺で面白おかしく二十分。北島三郎や和田アキ子、五木ひろしの実名が次々飛び出す。
次に私落語『回覧板』。奥方の令子さんとの遣り取りを軽妙に語る「おまえ・・・寝すぎやねん」のフレーズで爆笑を誘った二十分。

 そして、三遊亭円朝作の『死神』。
 この噺、六代目円生師匠の口演が有名であるが、原作はグリム童話『死神の名付け親』だとご教授頂いた。が、鶴瓶師匠の口演は、これがまた不思議な・・・一度も聴いたことのない新鮮さ。人情噺のようでもあるが、筋は一緒であり、随所に師匠の工夫が・・・。死神が幼馴染だったり、規律を破って命を助けたのが元の嫁さんだったり、サゲにも工夫を施した鶴瓶師匠の名演に拍手が鳴り止まなかったことは言うまでもなかった。

・・・・恋雅亭での鶴瓶師匠の落語への取り組み・・・・
平成五年・第187回公演。『胴斬り』。
平成六年・第191回公演。『鴻池の犬』。
 ・この頃から古典落語への思い入れ深まり、松鶴師匠十八番に挑戦。
平成六年・第200回公演。『ミスタードリーマー』。
平成七年・第203回公演。『化物使い』。・これは東京からの移植噺。
平成八年・第211回公演。小染襲名披露公演で、『大安売り』。
平成九年・第226回公演。『二人癖』。
平成十年・第238回公演。『長短』。
平成十一年・『化物使い』を小佐田先生の改作を加わえて再演。
平成十二年・第268回公演。『子はかすがい』。
平成十三年・第280回公演。『宮戸川』。
平成十四年・第287回公演。『子はかすがい』。随所に新工夫の再演。
  ・第292回公演。『はなし亀』。・小佐田先生の創作落語。
平成十五年・第300回公演。米朝師匠と対談と『宮戸川』を再演。
平成十六年・第307回公演。『実録。長屋の傘』。私落語。
平成十七年・第318回公演。『らくだ』。 80分の伝説の熱演。
  ・第327回公演。『お母ちゃんのクリスマスツリー』『愛宕山』。
平成十九年・第342回公演。『松岡』。『たちぎれ線香』。
そして、今回の口演となった。