もとまち寄席 恋雅亭
公演記録    第355回
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 公演日時: 平成20年 3月10日(月) 午後6時30分開演
  出演者      演目
 桂   雀 喜  「犬の目」
 桂   珍 念  「くっしゃみ講釈」
 林家  うさぎ  「みかん屋」
 桂   千 朝  「肝つぶし」
  中入
 笑福亭 仁 勇  「死神」
 桂   文 珍  「百年目」(主任)

   打出し 21時15分
     お囃子  林家和女、

 平成二十年。寒さもちょっと和らぎつつある三月公演。びっくりするような前景気。
前売券は2月12日に、ネット予約は2月7日に早くも完売。その後も多くのお問い合わせの中、当日を迎える。当日は月曜日にもかかわらず、お客様が列を作られ開場を待たれる。木戸口では事前に準備された多くの折込まれたチラシを人海戦術で織り込み開場の準備。焦ってスピードアップ。定刻の五時半に開場。いつもながら申し訳ない。列を作って待っておられたお客様がご入場され、席が次々と埋まっていく。当日券のお客様には申し訳ないが即、売り切れ。出足も絶好調で次々とご来場されるお客様で会場はどんどん埋まっていき椅子席は満席。開演前には立見大入満席となる。二番太鼓から定刻の六時半、祈が入って『弥生公演』公演が開席。

 公演のトップバッターは、雀三郎一門の総領弟子・桂雀喜師。
師匠譲りの口跡の良さと笑顔一杯で演じる落語は爆笑物です。当席への出演も平成十年九月の241回公演の入門五年目で初出演以来、278回、335回、そして今回の355回四回目の多くを数える期待の本格派である。『石段』の出囃子乗って高座へ登場。
「えー、ありがとうございます。まず出て参りましたのが雀(すずめ)に喜ぶと書きましてジャッキと申します」と自己紹介。米朝師匠にどうしても名前を覚えてもらえない苦心談を爆笑マクラに仕立てて会場を爆笑に包み込んで始まった本題は前座噺の『犬の目』。当席では15回目の口演となるこの噺、二年に一度のペースで高座に掛けられた計算になるが、随所に工夫を凝らした演出で笑いのツボを外さない口演はさすが。サゲも「電子柱見たら片足上がります」で終わらず、一工夫を加えた新しいサゲで大爆笑を誘った十五分の好演であった。

 二つ目は、トリの文珍師匠の二番弟子一門から桂珍念師の登場となる。
この師匠も当席常連で、平成八年八月の216回公演で初出演以来、今回で八回目の多くを数える。文珍師匠の「おい、珍念、入門して何年や? ええ、キリや。何時辞めてもエエで」との愛情溢れる?教育と自身の努力で演じる落語は自身の個性と相まって爆笑高座は請け合いです。
 『ずぼらん』の出囃子、何かほんわかする結構な囃子に乗っていつもの童顔で愛くるしい笑顔で師が登場。会場からは、いつも通りの大きな拍手。「えー、かわりあいまして出てまいりました私が、桂文珍の二番弟子、桂珍念」と、あいさつすると会場からは再度、拍手が起こる。
「私もこう見えましても小学校六年生の娘がおりまして、国語の時間に落語のテストがありまして・・・」と、その解答用紙を見せながら爆笑マクラ。問題は「落語というものは演者によって何が違うのでしょう」だったそうで実に面白いマクラから始まった本題は『くっしゃみ講釈』。25分かかるこの噺を、前半をトントンと、講釈場へ乗り込む処を中心に演じる。講釈師のくっしゃみに苦しむ処は漫画チックに。場内爆笑に包まれた16分の熱演であった。

 三つ目は染丸一門から林家うさぎ師。この師匠も努力家で当席の常連である。ちなみに初出演は、平成六年の九月の197回公演で今回で7回目の登場。今回も愛嬌タップリでエキゾチックな風貌で演じる爆発爆笑高座に期待される多くのお客様の拍手と『うさぎのダンス』の出囃子で高座へ登場。
「えー。変わり合いまして林家うさぎでございまして、名前だけ見て頂きますと、どんな可愛いお嬢ちゃんが出てくるかと期待された方がほとんどやと思いますがこんなおっちゃんが出て参りましてさぞ、お力ら落としやと思いますが・・・」と、あいさつ。
 十二人なった高学歴揃いの林家一門の弟弟子勧められて「秋の味覚のみかん」と『みかん屋』を演じて下りてきた。楽屋で聞いておられた染丸師匠に「おい、うさぎ!みかんは冬や」と恥をかいた噺として、本題の『みかん屋』が始まる。
 この噺、東京では『かぼちゃ屋』として演じられるお馴染みの噺であるが原型は上方噺で、SPレコードの初代桂春團治師匠、二代目桂三木助師匠、口演が現在の元となっているし、三遊亭小円師匠(漫才の小円・栄子としての方が有名である)の口演も聞き比べてみると意外と変わっていない。その噺を原型に忠実に発端からサゲまで真面目な高座と同様にきっちり演じた25分の好演であった。

 そして、中トリは米朝一門から上方落語の本格派・桂千朝師匠です。
師匠直伝の本格的な上方落語の高座間違いなしです。『浪花の四季』の出囃子でゆっくりと高座へ登場。
「えー、私のほうもよろしくお付き合いを願っておきますが、・・・」と、新潟での若い女性との年齢ギャップをマクラに今昔の男女の恋の違い、恋煩いを題材にした始まった本題は『肝つぶし』。この噺、今では判らないことや理解に悩む部分もあって上方落語の中でも力がいり、難しい演題である。
「夢であった女性に恋煩い」した男の「大恩ある父親への義理」のため病気を直すために「年月揃った妹の生肝を薬」にするため殺す。という内容。この噺、今は米朝一門を中心に演じ手も多いが珍しい噺で、当席では、桂米朝、桂文紅師匠の二師匠が口演されている。
 文紅師匠が口演された第315回公演時にお伺いした。
「(中略)最近、みんな変えてるけど、師匠に教えてもろた通りに残しておこうと思ってなぁ。わしの『牛ほめ』は、途中ではめものが入るし。」
「(文團治師匠から)『高尾』『いかけや』『宇柴』『らくだ』『初天神』『質屋蔵』『鬼あざみ』『島巡り』。『古手買い』は残念ながら付けてもろてへんねん、これが残念でならんねん。若い時は、難しい噺を覚えるのが大変で、後に後になってしもて」
「(肝つぶし口演後)『肝つぶし』も師匠に習ったんや。15分位と意外と短いで」と、お伺いした。発端の、病気の原因を聞き出すクダリは夢での出来事を意識させず、後半は芝居がかった人情話風の口演もキッチリと、いつもながらの端正な高座で演じられた、25分の秀作であった。

 中入りカブリは、仁鶴一門から笑福亭仁勇師。『吉原雀』の出囃子で高座へ登場。
「えー、お後、文珍師匠お楽しみに、いつも一杯でございましてありがたい限りでございます」
 そして、ちりとてちんブーム、黄砂のシーズン、母さん偏重にもの申す、とマクラを振って始まった演題は『死神』。この噺、三遊亭円朝・作の江戸落語で、東京では故六代目円生師匠の十八番で、今も多くの演じ手が好演されている噺です。
 一方、円朝師匠の弟子が改作した『誉れの幇間』という噺があり、演出は大きく違い、先代三代目三遊亭金馬師匠はこの型でした。この『誉れの幇間』を初代桂春団治師匠が上方に直し『たいこ医者』としてSPレコードに残しておられます。
 上方で演じられる『死神』も両方の型があり、今回の仁嬌師匠は、この『たいこ医者』の型。破門になった幇間が繰り広げる展開。人の命にかかわる噺で暗くなりがちだが、明るい、明るい筋立てと演出、そして、師匠の口演で爆笑噺に仕上がった秀作であった。

 そしてトリは上方落語界の重鎮・桂文珍師匠。にとっていただきます。
今回は全国縦断落語会で当月の出演となりました。過去『天神山』『御神酒徳利』『七度狐』『三枚起請』。と爆笑文珍ワールド全開間違いなし。『円馬囃子』の重厚な出囃子でいつものようにゆったりと高座へ登場。
「えー、ありごとうございます。えーーー、この恋雅亭も毎年の一月の戎さんの時に出して頂いておるんですが、今年は全国で独演会を開いておりまして」と、当席への思い入れと独演会での全国の笑いの違いをマクラに文珍ワールド。
「本日は、その独演会で演じる中から一席(場内からは大喝采が起こる)。昔からこのォ人を使えば苦を使うてな事を言いますが・・・」と始まった演題は『百年目』。
  もう説明が必要もないこの噺、多くの登場人物や場面転換も多く、終盤の旦那が番頭を諭す際の大きさを出すクダリなど、上方落語屈指の大物と言われている噺、師匠の五代目文枝師匠も還暦を超えて演じ始めた噺。
 その噺を発端の番頭の小言、がらり変わっての桜ノ宮の花見の賑わい、旦那と出くわしてからの心の葛藤、そして旦那に呼ばれからサゲまで四十五分の長講に大満足な口演であった。

「桂文珍十夜連続独演会」での演題は、口演順に『老婆の休日』『らくだ』『茶屋迎い』『宿屋仇』『心中恋電脳』『はてなの茶碗』『能狂言』『包丁間男』『マニュアル時代』『地獄八景亡者戯』『天狗裁き』『不動坊』『星野屋』『胴乱の幸助』『老楽風呂』『愛宕山』『世帯念仏』『七度狐』『ヘイ・マスター』『百年目』。