もとまち寄席 恋雅亭
公演記録    第353回
◆春駒HOME◆恋雅亭TOP◆公演記録目次
 公演日時: 平成20年 1月10日(木) 午後6時30分開演
  出演者      演目
 桂   紅 雀 「つる」
 林家  染 雀 「豊竹屋」
 桂   福 車 「無い物買い」
 桂   南 光  「あみだ池」
  中入
 桂   枝 光 「今時のおばあちゃん」
 笑福亭 鶴 志 「試し酒」 (主任

   打出し 21時00分
  お囃子  山澤由江  勝 正子
  
  平成二十年の初公演となる一月の新春初席の三百五十三回公演。
前景気は絶好調で、前売券、ネット予約共、当日までに完売。その後も多くのお問い合わせの中、当日を迎える。平日の木曜日であるが、いつも以上に多くのお客様が列を作られ開場を待たれる。木戸口では事前に準備された多くの折込まれたチラシを人海戦術で織り込み開場の準備。焦ってスピードアップ。
 そして、定刻の五時半に開場。いつもながら申し訳ない。列を作って待っておられたお客様がご入場され、席が次々と埋まっていく。当日のお客様の出足は絶好調で次々とご来場されるお客様で会場はどんどん埋まっていき椅子席は満席。開演時には立ち見客も出る大入満席となる。
  二番太鼓から定刻の六時半、祈が入って『新春初席』公演が開席。
初席トップの出囃子はいつもの『石段』ではなく『正月娘』を使う。
 酒の噺、子供の噺と、よく似通った演題を演じることを「ネタが付く」との表現を使いますが、今回は演者の出囃子が付きました。南光師匠と枝光師匠が同じ『猩々』の出囃子を使われておられるので、今回は枝光師匠には正月らしい『十日戎』で出て頂くことになった。

 その初席公演のトップバッターは、枝雀一門の桂紅雀師。
平成7年入門(キャリアは十二年)で、師匠譲りの口跡の良さで、数多くの落語会で大活躍の師です。
「えー、ありがとうございます。2008年第一回目の恋雅亭でございまして、栄えあるトップバッターに選ばれました桂紅雀で一席お付き合いを願っておきますが、これが仕事納めにならないように頑張らなあかんなぁと思っております。しかし、若手は暇でございまして・・」と、それを表す「国勢調査」での出来事を紹介。
 「貴方のこの一週間の労働日は?」「一日」。「労働時間は?」「十五分」。
追い打ちを掛けるように「三十分以内は切る捨て」。
 「昔もこんな、気楽な人間が沢山おったようで・・・」と、始まった演題は、『つる』。お馴染みの噺をトントンと小気味よく元気一杯演じる。
トップからハイスピードでスタートした13分の好演であった。

 二つ目は、染丸一門から林家染雀師。師匠の教育よろしく達者な落語で定評がある。
幅広い芸能にも明るく、それを生かした幅広い上方落語を待つ会場全体の拍手と『どうぞ叶えて』の出囃子で登場。
 開場前の雰囲気をマクラで紹介して、小咄『音曲風呂』で会場全体から拍手喝采を浴びる。
本題は、師匠直伝の音曲噺『豊竹屋』。あらゆる芸能に造詣が深い師匠ならではの演題。
 さらに、よく通る声がマッチとテンポの良い展開が師匠直伝の秀作がさらに拡大した感のある17分の高座であった。

 三つ目は福団治一門から桂福車師。
当席の常連で、今回も愛嬌タップリの爆発高座から何が飛び出しますやら、楽しみの客席に『草競馬』の軽快な出囃子が鳴って高座へ登場。
「えー、一杯のお客様でございまして・・。私も福団治一門の秘密兵器と呼ばれて二十五年。・・大変でございます。そんなええ加減な男が登場しますと、笑いが・・・」と、始まった演題は『無いもの買い』。
 初代春団治師匠が十八番とした」爆笑噺である。随所に「饅頭屋で『赤福』あるか?」と、現代の話題を盛り込むなど自身の工夫と現代の事象を随所に折込んでパワーアップ。
 サゲにも工夫があった25分の口演は爆笑の連続であった。

 そして、中トリは枝雀一門から上方落語の重鎮・桂南光師匠。
今回はトリを鶴志師匠に譲ってゆったりと『猩々』の出囃子で登場。「えー、続きまして南光の方でお付き合いを願っておきます。落語ブームでして、先程ネタ帳を見ますと、ここへは一昨年の六月から出演しておりませんで、出たいんですけれど、トリの鶴志師匠と話をしますと『そら、噺家が多過ぎまんねん』。そうですわ、私ら今だに中堅です」と、始まったのは、爆笑マクラ。
 今だに「べかちゃん」と呼ばれます、南光を襲名して十五位年も経ちますのに、ざこば師匠と間違われてざこば師匠のイメージを害した話題など、南光ワールド。
 充分暖まった会場に始まった今日の演題は、米朝・枝雀の大師匠・師匠の十八番でもあり、上方落語屈指の爆笑噺の『あみだ池』。
 この噺の舞台となった阿弥陀池は、元禄11年(1698)開創のお寺。尼寺蓮山和光寺(浄土宗尼寺)の通称で、境内の池より善光寺の本尊が出現したという伝承に因んで建立されたお寺であるが、寺号よりも通称(あみだ池)のほうが一般に知られている。
 この噺は、日露戦争直後に桂文屋師の創作落語で作られたもので、いわば、当時のニュース落語、時事落語ともいうべきものだそうです。
 さらに、この噺を初代春団治師匠が作りかえ、大爆笑編に改作し、一世を風靡し、さらに、その弟子に当たる二代目・春団治師匠が、さらに練り上げた現在まで伝わる爆笑落語である。
 噺の構成は大きく二つに分かれ、創作当初、サゲを間違えて太鼓を入れ思わず「まだ。まだ」との逸話も残るほど噺自体にメリハリがある。
 この噺、師匠の十八番で、客席の反応を楽しむようにトントンと進む。
会場はツボツボで爆笑に包まれる。25分の大爆笑編であった。

 中入りカブリは、文枝一門から桂枝光師匠。
いつまでも童顔の師匠ですが噺家として油も乗り切り、数多くの師匠直伝の爆笑高座を演じるため満面笑みで高座へ登場。会場の雰囲気が一気に和む。
「えー、出て参りました私が、芸名、桂枝光、本名エナリカズキと申します。どうぞよろしくお願い致します。この季節になりますと飲む機会が増えまして・・・」と、パワー一杯のおばちゃんと、自身の嫁はんとの話題で笑いをとる。
 始まった本題は、自身の創作落語『今どきのおばあちゃん』。
どこにでもいるようなおばあちゃんとの会話が織りなす人間模様。最初は、頼りない行動や言動が続く、おばあちゃんもその後パワー全開。
 サゲ前にはなるほどと納得させられる立派な格言落語と仕上がっていた爆笑の連続の23分の高座であった。

 そして、新春初席のトリは笑福亭一門から笑福亭鶴志師匠。
当席で初席のトリを初めて飾っていただくとあって、楽屋入り後からエンジン全開。
当席では、六代目師匠譲りの『らくだ』『高津の富』『天王寺詣り』と熱演が続いている師匠ですので、熱演は今回も請け合い。
「えー、私、もう一席でございまして・・・」と、語りだし、自身のお孫さんの愛くるしいエピソードをマクラに笑いをとる。
「今日、何しょうかと迷ってますねん」。一呼吸あって「お酒飲みのお噂を」と、上方落語界の酒乱と酒乱ぶりを紹介。
先代小染師匠、春蝶師匠、先代文我師匠。そして、横綱は師匠でもある松鶴師匠。
 始まった演題は、笑福亭十八番の酒の噺『試し酒』
この噺、元々、小噺を東西の噺家諸師や今村信雄氏によって膨らまされた噺で、東京では先だって亡くなった人間国宝の五代目柳家小さん師の十八番であった。師匠の六代目の呼吸を継ぐ師匠だけに実に美味しそうに、五升の酒を飲むこの噺。いや、実は・・・・。
 酒の笑福亭の本領発揮のこの噺、五升ではなく倍の一斗(飲めるかどうか試しに)を飲み干した主人公。お見事。  (叶 大入)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
【初代春團治師匠・演題控・現存するSPレコードより】
赤子茶屋 あみだ池 按摩のこたつ いかけ屋 池田の猪買い
居酒屋 伊勢詣り いらち車 打飼盗人 浮世根問
浮世床 牛ほめ 嘘修行(鉄砲勇助) 鰻屋 馬の田楽
裏向丁稚 恵比寿小判 黄金の大黒 返り討ち 刀屋小僧
上方見物 からし医者 近日息子 口入屋 くっしゃみ講釈
首屋(試し斬り) 鞍馬の植木屋(青菜) けいこ屋 袈裟茶屋 けんかの仲裁
鯉船 千両富くじ(高津の富) 米揚げ笊 材木丁稚 逆様盗人
鷺取り 三十石 三人道中 地上げ 借家怪談
正月丁稚 正月のマクラ 商売根問 餅搗き(尻餅) 素人浄瑠璃
たい医者 旦那の御馳走(初廻り ちしゃ医者 提灯屋 ちりとてちん
壷算 田楽食い 道具屋 鳥屋坊主 無い物買い
二人癖 二番煎じ 人形買い 猫の災難 寝床
野崎詣り 八問答 八足 初天神 鼻ねじ
反対車 平の蔭 貧乏花見 二日酔い 振舞い酒
古手買い へっつい盗人 牡丹湯 豆屋 御神燈
みかん売り 無筆の親 無筆の手紙 無筆の棒屋 厄払い
宿替え 宿屋仇 遊山船 湯もじ誉め 寄合酒
らくだ 婿取り(ろくろ首)