もとまち寄席 恋雅亭
公演記録    第352回
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 公演日時: 平成19年12月10日(月) 午後6時30分開演
  出演者      演目
 桂   かい枝 「ハル子とカズ子」
 桂   わかば 「いらち車」
 笑福亭 純 瓶 「黄金の大黒」
 桂   小 米 「祝いの壷」
  中入
 露の   都  「初天神」
 笑福亭 松 喬 「住吉駕篭」(主任

   打出し 21時05分
  お囃子  林家和女、勝 正子
  手伝い  笑福亭遊喬
  平成十九年のお開きとなるも十二月の三百五十一回師走公演。
前景気はネット予約、前売券も絶好調。
その後も多くのお問い合わせの中「ルミナリエ」真っ盛りの当日を絶好調で迎える。
 月曜日であるが、ルミナリエに向かわれる人で混雑する本通りに、いつも以上に多くのお客様が列を作られ開場を待たれる。木戸口では事前に準備された多くの折込まれたチラシを人海戦術で、織り込み。今回も多く、焦ってスピードアップ。そして、定刻の五時半に開場。いつもながら申し訳ない。列を作って待っておられたお客様がご入場され、席が次々と埋まっていく。
 当日のお客様の出足は絶好調で次々とご来場されるお客様で会場はどんどん埋まっていき椅子席は満席。開演時には立ち見客も出る大入満席となる。

二番太鼓から定刻の六時半、祈が入って、『石段』の出囃子で、師走公演のトップバッター。文枝一門から・桂かい枝師が登場。マスコミで大活躍の師ですが当席の前座での登場。もったいない顔付けとなりました。
 「えー、ようこそお越しを頂きまして・・・・。大変な数のお客様で私も人の波について歩いてますとルミナリエへ行ってしまいまして・・・」と、大張り切りのマクラ。
東京と関西の女性の違いを紹介して、女性は元気、特に大阪のおばちゃんはと断ってから、親しみを感じる笑顔と元気一杯で演じる自身の創作落語『ハル子とカズ子』がスタート。 全編、納得させられるストーリー。15分の高座で充分温ためて、お後と交代となりました。

----自身のHPからその感想を紹介します。----
 神戸の老舗落語会『もとまち寄席恋雅亭』の出番。毎月10日に開催されるこの落語会は、昨日で何と352回目。
 30年の歴史と伝統のある憧れの落語会だ。今年入門14年でようやく前座で出してもらえるという格式高い会。過去のネタ帳を見ると松鶴師匠、春蝶師匠、先代小染師匠、枝雀師匠、そして当然うちの師匠文枝の名前も。憧れと言うより、雲の上の存在である、歴史上の名人の方々の名前のあるネタ帳に自分の名前が加えられると考えただけでも嬉しい!
 ネタ出しのない会なので、どんな演目をやるかは楽屋に入ってネタ帳を見ながら決める。一番冷や冷やする瞬間だ。『時うどん』『いらち俥』『動物園』『手水回し』『秘伝書』『ちりとてちん』あとは、新作の『ハル子とカズ子』から『ちりとてちん』『ハル子とカズ子』で悩んだ結果、出来るだけ短めにということで、新作にした。
 トリの松喬師匠はタップリフルバージョンの『住吉籠篭』。力む訳でも気張る訳でもなく、普通に自然におしゃべりしてはるのに、あんなにリアルに落語の世界が目の前に迫って来る。いやあ〜! 落語ってすごい! 感動しました。
 本当に素晴らしい45分の高座でした。いつか、あの寄席でトリを取れる日が来るのかなあ?いや、いつかはきっとやりたい!
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 二つ目は、ざこば一門から桂わかば師。
今回も明るく、元気一杯、笑顔一杯で演じる上方落語には当席でもファンが多い。
『まかしょ』の軽快な出囃子に乗って高座へ登場。
「えー、どうぞよろしくお願い致します。続きましてわかばの方で・・」とあいさつして、入門時代の想い出のマクラが始まる。修業時代の車で失敗談。
「師匠の新車をその日に当てた」「米朝師匠に車の誘導をさせた」事件を紹介して本題の『いらち車』へすっと入る。
 東京では『反対車』の演題のこの噺、東西でよく演じられる。
元気のないのんびりとした車屋と、元気ないわいるいらちの車屋に乗って駅を目指すお客様の苦悩を面白おかしく演じる。爆笑の連続の15分の高座であった。

 三つ目は鶴瓶一門から「純ちゃん」こと笑福亭純瓶師。当席の常連で、今回も愛嬌タップリに『梅がえ』の出囃子に乗って高座へ登場。
NHKドラマ「ちりとてちん」で芸名が決定することはすごいことと断って自身も入門二日目に大師匠の松鶴師匠にあいさつに行き、大師匠から芸名を頂いた時の思い出を。
松鶴師匠の逸話を知らない純ちゃんに対して鶴瓶師匠が「大阪の人の三人に二人は知っていると『九官鳥事件』」を聞かされた設定で小噺として紹介して場内を爆笑を誘う。
 そして命名時に横で鶴瓶師匠が「ええ、名前や」と、聞こえるように呟いた芸名は「ええか、数字の四に、鶴瓶の瓶で『シビン(四瓶)』」。
 大師匠に付けて頂いたのですからしばらく名乗っておりましたが・・・と爆笑マクラから始まった
 本題は、数多い上方落語の中でも初代春団治師匠から続く屈指の爆笑ネタ、笑福亭一門でも演じ手の多い『黄金の大黒』。
貧乏長屋の住人がお家主さんから呼び出しを受けたから、さあ大変。それぞれ思い当たることを検討するのだが・・・・。心配に反してお祝いの席に招待された長屋の衆。飲めや唄えの大騒ぎととなる。
持ち前の明るさで元気一杯演じる熱演に場内爆笑に包まれた25分。

 そして、中トリは米朝一門から当席常連の上方落語の重鎮・桂小米師匠。
この桂小米という名前は良い名前とあって当代で十一代目。先代十代目は、皆様よくご存じの桂枝雀師匠。
 九代目は大阪から東京へ転じ上方落語を東京で演じ続けられ、滅ぶ寸前の上方落語を現在にバトンタッチされた二代目桂小文治師匠(昭和四十一年亡)。
 当代は、鳥取県西伯郡出身で本名は潮 邦雄(うしお くにお)氏。
入門は昭和四十四年。トリの松喬師匠、松枝、呂鶴、文枝一門のきん枝、文珍の各師匠連と同期である(同期生が全員残っているのは非常に珍しい)。
 入門するまでハンバーグを知らなかったため、食卓にのぼったそれを見て馬の糞と勘違いした逸話を持ち、米朝一門を代表する酒豪の一人としても知られている。入門初日から師匠の酌の相手を務め、現在も師匠とは『気の置けない飲み友達』である。鳥取弁の訛りをとるのに苦労したが現在はそれがホンワカした芸風につながっている。
 今回もホンワカ・ムードを満喫したいファンの拍手と『都鳥』の出囃子で高座へ、
「えー、ちょっと声が出にくくお聞き苦しいところお詫びいたしておきます。先生に診てもらいますと『煙草はやめ』『酒はええけど肝臓は保障んで』『しゃべったらあかん』これには『ご飯食べられまへん』と言うと『黙って食べ』」。
 場内は大爆笑に包まれる。
 「珍しい噺は、訳がわからん。面白くない。難しい・・・」と、断って始まった演題は当席では初演となる『祝いの壷』。
 この噺、東京の寄席では『祝い瓶』、この噺の元名の『肥瓶』として時間の関係で途中までは良く演じられるが、上方では珍しい噺であるし筋立ては大きく違う。
 兄いの新築に瓶を祝おうと古道具屋で使い古した肥瓶と承知で手配したのだが洗っても匂いが落ちない。持ち込み、水を張ってごまかすのだが・・。
 これに対して上方バージョンは小乃志(このじ)こと、芸妓のこのやんの出した新しい店の祝いとして、隠居さんが病気全快の呪いとして一度だけ使った瓶を持ち込むという設定と演じられている。
 サゲも東京版の「オリが沸いたので鮒を買ってきてくれ」「鮒にはおよばない。さっきまで鯉(肥こえ)が入っていた」に対して、小米師匠演は老芸者が浮かれるのを見て「婆(ババ)も浮くはずや。雪隠壷に水張ったんや」となる。二十分の名演。

 中入りカブリは、五郎兵衛一門から露の都師匠。
毎日放送の素人名人会に出演し好評価を得、その時の審査員の露の五郎(現:露の五郎兵衛)師匠に、日参し入門を許され、昭和四十九年に入門した落語界初の女流落語家である(本人曰くドラマ『ちりとてちん』の主人公の顔のモデル)。私生活では、6人の子を持つ母親である。そのバイタリティを生かして上方女流噺家として油も乗り切り、『都ワールド』は、今回も大爆発の見込み。
 怖いものなしの爆笑高座を期待されるお客様の拍手に迎えられ『都囃子』の出囃子に乗って高座へ。
「えー、ありがとうございます。上方落語協会・女性部長の露の都でござます」と、自己紹介。上方ショウジョ隊創りと言われまして、少ない女ちゃいまっせ。笑う女で笑女隊」と、都ワールドがスタート。
 毒舌マクラで会場を笑いの渦に巻き込んで始まった本題は『初天神』。
師匠直伝のこの噺を、親子が天神さんに出掛けるまでの色街のクダリを念入りに演じる。マクラを含め二十五分の好演であった。

 そして十二月公演のトリは笑福亭一門から上方落語界の重鎮・笑福亭松喬師匠。十月の記念公演に続いての出演となり、今年も本年の大トリを飾るべく『高砂丹前』出囃子でゆったりと高座へ登場。
「えー、もう一席でお開きでございまして」と、爆笑マクラが、二代目染丸、林家トミ、六代目邸、住吉、と繋いで始まった本題は師匠十八番の『住吉駕篭』。
発端、向かいの親父、夫婦連れ、浪人、酔っ払い、そして、堂島の旦那とフルバージョン四十五分。
 客席の反応を楽しむように演じられた秀作であった。(叶大入)