もとまち寄席 恋雅亭
公演記録    第350回
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 公演日時: 平成19年10月10日(木) 午後6時30分開演
  出演者      演目
 桂   三 金  「二人癖」
 林家  染 二  「いらち車」
 桂   春 駒  「犬の目」
 笑福亭 松 喬  「首提灯」
  中入
 桂   小米朝  「掛取り」
 桂   三 枝  「誕生日」(主任

   打出し 20時55分
     お囃子  林家和女、勝 正子
     手伝い  桂 枝三郎、あやめ、三段、三昌、三弥、三四郎
          笑福亭遊喬、喬次郎。
  平成十九年も十度目の公演となる十月の三百五十回公演。
昭和五十三年四月の柿落し公演から、数えて三百五十回、その記念公演である。
前景気は絶好調。前売券は九月公演で大部分、9月12日までに完売。ネット予約も同時期に満杯。
その後も多くのお問い合わせの中、当日を迎える。その中、好調で当日を迎える。
 いつものように多くのお客様が列を作られ開場を待たれる。
木戸口では事前に準備された多くの折込まれたチラシを人海戦術で、織り込み。今回も多く、焦ってスピードアップ。そして、定刻の五時半に開場。いつもながら申し訳ない。列を作って待っておられたお客様がご入場され席が次々と埋まっていく。当日のお客様の出足は絶好調で次々とご来場されるお客様で会場はどんどん埋まっていき、椅子席は満席。開演時には立ち見客も出る大入満席となる。

 二番太鼓から定刻の六時半、祈が入って、『石段』の出囃子で、十月記念公演のトップバッターの、三枝一門から桂三金師が巨体を揺すりながら高座へ登場する。
「えー、ようこそお越し下さいましてありがとうございます、350回記念・もとまち寄席恋雅亭、
ただ今より開演でございますが、トップバッター、出て参りました私、落語界の橋田壽賀子(場内大爆笑)」と、ツカミの万全で、芸名の由来を説明。
 三は師匠の一字。金は元の勤め先の金融機関からと紹介。
「銀行マンから噺家への華麗なる転身。親は泣いております・・・。落語家も銀行員もどちらもコウザ(高座・口座)を大事する」と続け、ススッと本題に入る。本題は『二人癖』。
癖のマクラも振らずに本題へ。
癖を直す競争がどんどんエスカレートし、工夫に工夫を重ね、ついに禁句を引き出す。
次の瞬間「あっ」というサゲとなる。十三分の好演であった。

 二つ目は、染丸一門から林家染二師匠。
明るく、愛嬌タップリの笑顔で演じる滑稽噺、芝居噺、人情噺、パワフルな高座は当席常連である。
 受賞歴も文化庁芸術祭優秀賞、また優秀賞を初めて2度受賞。師弟で上方お笑い大賞最優秀技能賞も受賞と多数である。
 芸名同様、受け継いだ『藤娘』の出囃子で高座へ。会場のあちこちから声がかかる。
「えー、ありがとうございます。林家染二でございます・・・各一門が出るわけで林家一門を代表して師匠に代わりましての出演で」とあいさつして、マクラが始まる。
 「噺家になって色々な処へ行かせて頂きその先々で芸人を笑わせようと待っておられます。大胆ですねぇ。日本航空・JALの新サービスとして飛行機の客室乗務員は全員、スッポンポンでやります。着ない(機内)サービス」
 さらに、乗り物の話題から始まった演題は『いらち車』。この噺、元気のない車夫と元気一杯の車夫の違いのその落差が笑いを誘う爆笑噺である。その噺をパワフル染二の本領を遺憾なく発揮し演じる。
面白くない訳がなく場内は爆笑の連続。爆笑の連続の15分の高座であった。
 なお、師匠はこの噺を13日の自身の独演会で演じられた。

 三つ目は春団治一門、上方落語界の重鎮・桂春駒師匠。
皆様おなじみの実力派で当席の窓口でもある。いつもの『白拍子』の出囃子で高座へ登場。
「えー、ありがとうございます。お後、お楽しみでございます、ですから、今日は私のところは、もうクスッと笑って頂いて、すぐどんどんお待ちかねの処へいきますから・・」と、
 あいさつもそこそこに「八百八商売と申しますが、中でもお医者さん・・・・」と、医者のマクラから始まった演題は、前座噺の定番『犬の目』。
 おなじみの噺だけに会場の皆様もストーリーもサゲもご存知。
その噺で会場を沸かすのは力量が必要。もちろん十五分の高座は爆笑の連続であった。

 そして、中トリは笑福亭一門から、笑福亭松喬師匠。
当席の師走の大トリを過去四年、『はてなの茶碗』『尻餅』『禁酒関所』『崇徳院』の十八番で締めていただきましたが、今回は記念公演の中トリで登場。
 名調子『高砂丹前』で、ゆったり登場すると会場からは大きな拍手が起こる。
「えー、ありがとうございます。記念の会ということで一杯のお客様で、今日はこっちの話ですけど打ち上げもあるちゅうので、久しぶりに。いつも車で来るんですけど、電車で来たんですよ。この頃危ないですから・・・」と、マクラがスタート。
 題材はトレトレ、今日の大阪から元町間のJR社内での出来事。題して『前座車掌・すみませんアナンス』。これが実に面白い。「こんな車掌さん、おるおる」と納得の笑いが続く。
 そして、始まった本題は師匠が記念の会の一席として選ばれた師匠十八番中の十八番『首提灯』。
数多くの当席出演の師匠であるが、この噺は、第229回公演以来10年ぶり三度目の口演となる。
 この噺、東京では、町人の悪口雑言、殿様より拝領の紋付にタンをかけられ腹を立てた武士が、その町人の首を斬るのだが、上方ではこれが同じ題材かと感じる位に違う。
 「『上燗屋へいへいへいと逆らはず』。これは西田当百(にしだとうひゃく)の川柳で・・・・」と、
酒の噺『上燗屋』が始まる。そして、釣銭がないので、隣の道具屋へ、ガラリと舞台が変わる。
 さらに、仕込み杖を手に入れた主人公が家に帰った処から『首提灯』となるのである。
 一席の中に『上燗屋・道具屋・首提灯』と三席分が楽しめる噺である。
酒飲みと上燗屋との会話の一言一言に、道具屋の困りきった様子に会場から爆笑が起こる。
その絶妙の間に会場が酔いしれる名演である。
半時間を超える口演は大喝采の中、お中入りとなった。

 中入後は、『元禄花見踊り』の出囃子で桂小米朝師匠が高座へ。
来年には五代目桂米團治の襲名も決まって、ますます充実の師匠。
「お運びでまことにありがたく御礼申しておきます。えー、こちらも記念の会でございますが、私ごとでございますが、来年の秋に五代目桂米団治を襲させて頂く運びとなりました」と、あいさつすると会場から拍手と「おめでとう」「がんばって」と声援が起こる。
 マクラはその襲名への裏話。
「えー、いつまでも米朝の小さいのではないのでございまして、長かった・・・。二代目丸出しで、米朝の師匠の名前ですから、こないだも楽屋で春団治師匠が『来年からはお父さんが君のこと師匠と呼ばなあかんねんなぁ』。そういうことになりますねぇと言うといたんすが・・・。以前もざこば師に進められて親父(米朝師匠)の処へ『米朝を襲名させて』と言うと『ほたら、わしは何になんねん』と言われて立ち消え。『八十八』なんかの候補も上がったんです」と紹介。
 始まった演題は『掛取り』。古典落語に自身の工夫を入れての秀作。
大晦日に襲い掛かる借金取りの好きなものは、「クラシック音楽」「喧嘩」「芝居」。

 芝居好きの男への言い訳は神戸尽くし。
「雪晴るる布引の滝の夕間暮れ、紅葉の錦、谷の間に間に」「生田(幾多)の難関くぐり抜け、御影(陰)日向なく働いて、六甲(どこ)へも行かずに精出せど、眼が垂水(弛み)み、頭がポートピア(ぽーと)。涙、ごうごう灘五郷。そこへ晦日が北野阪(来た)。須磨(すわっ)一大事。金は少しも有馬(有りま)せん。神戸(頭)を下げてこの通り」「こんな事言う舞子(まいこ)と思えども、大開(だいかい)お前は扇(豪気)な事言うて、返す気持ちは長田(無かった)なぁ」
 「私の決意は石より硬い恋雅亭。花鳥風月変わらねど変わらぬ味は風月堂、菓子(貸し)は貴方の十八番。だから返済、元町(もっと待ち)」「再び巡る新春の摩耶のお山の雪も解け、住吉川の桜も過ぎて、メリケン波止場の秋の月。須磨寺の鐘を合図に必ずや」。大喝采の二十五分の名演であった。

 そして350回記念公演のトリは上方落語協会会長・桂三枝師匠。
『軒すだれ』の出囃子で高座へ登場。場内は今日一番の拍手。
 「えー、只今は桂小米朝さんでございまして、髪型が随分変わりまして、若々しくなりまして、だんだん私の方は変えようがなくなりまして・・・」。小学校の同窓会の話題から、会場のお客様を巻き込んで、「八十まで頑張るぞ」「おうっ!」の大合唱。場内は三枝ワールド。
 始まった演題は創作落語『誕生日(平成十七年作)』。
米寿の誕生会で巻き起こった騒動。行動・言動で巻き起こる爆笑を縦糸に親子・夫婦・兄弟愛でホロッとさせる部分を横糸に繰り広げらる創作落語。
 「なるほど」と唸らせるサゲの三十五分の大爆笑高座に超満員の客席は、大満足で大きな拍手に包まれた。
 拍手と打ち出し太鼓を一旦止めてのあいさつ。
「えー、本日はどうもありがとうございました。皆様のお陰で、350回。松鶴師匠と楠本さんがお始めになった会でござますけれど、この積み重ねが繁昌亭にもつながっていったんだと思います。本当に皆様、ありがとうございました」と締めくくり、お帰りになられるお客様にビール(キリン・サントリー・サッポロ)のサービスで記念公演はお開きとなった。 叶 大入