もとまち寄席 恋雅亭
公演記録    第348回
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 公演日時: 平成19年 8月10日(金) 午後6時30分開演
  出演者      演目
 桂   都んぼ  「動物園」
 桂   三 象  「真心サービスおじんタクシー」
 露の  新 治  「狼講釈」
 桂   文 我  「船弁慶」
  中入
 桂   あやめ  「アタックNO一番」
 笑福亭 呂 鶴  「青菜」(主任

   打出し 21時00分

     お囃子  林家和女、勝 正子
     手伝い  笑福亭呂竹

  平成十九年も八度目の公演となる八月の348回公演。
一年で一番暑い時期に開催される公演も前売券もネット予約も好調。 
そして猛暑の中、当日を迎える。その中をいつものように多くのお客様が列を作られ開場を待たれる。木戸口では事前に準備された多くの折込まれたチラシを人海戦術で、織り込み。今回も多く、焦ってスピードアップ。そして、天候を考慮して定刻の五時半に開場。いつもながら申し訳ない。列を作って待っておられたお客様がご入場され席が次々と埋まっていく。当日券のお客様の出足が良く、いつもよりスローペースながら、次々とご来場されるお客様で開演時には満席となる。

 二番太鼓から定刻の六時半、祈が入って、『石段』の出囃子で、八月公演のトップバッターの、都丸一門の桂都んぼ師が、愛くるしい笑顔をさらにくちゃくちゃにして元気一杯に登場。「えー、お暑い中・・・」とあいさつして始まった本題は『動物園』。
多くの噺家が手掛けるおなじみの爆笑噺であるが、都んぼ師の手に掛かると一段と明るく、元気一杯の「そんなあほなぁ」と言った口演になった。

 二つ目は、三枝一門から桂三象師。
明るく、独特の風貌で笑顔一杯に演じる師匠直伝の創作落語をお楽しみのご贔屓様も多くお待ちかねです。高座へ登場するやいなや会場全体が明るくなる。勿論、当席常連。
「えーご来場頂きましてありがとうございます。代わりまして私、桂三枝の弟子で桂三象と申します。あっ、そうそう念のために申し上げておきますが桂三枝の弟子です。決して師匠ではありません」のおなじみのツカミで笑いをとる。「最近、高座が落ち着いてきたとよく言われます。が、そうではありません。ただ単に体が弱ってるんです。そわそわするだけの元気がない・・・」とマクラが続く。「この舞台は私にとりまして久しぶりの芸能活動で終わりましたらゴールデンウィークです。いつまでもあると思うな仕事と髪の毛。この舞台が今年の仕事納めにならないように。自宅待機が続きますと体に水分がなくなり、パサパサのガサガサ、焼き場へ行ったらすぐ燃えます。舞台では燃えません。乾燥肌ですが、芸風は湿っぽい」と、爆笑マクラが続く。
 やりにくい宴会場での失敗談から始まった本題は師匠直伝の創作落語の『真心サービスおじんタクシー』。この噺、師匠の創作落語で、1982年の「花王名人劇場」での口演や、88年の当席の十周年記念公演がある。その噺を土台は崩さず自身の工夫をプラスアルファーした秀作であった。

 三つ目は五郎兵衛一門から露の新治師。
『金比羅船』の小気味の良い出囃子で顔を見せると、会場全体から拍手が起こり、この師匠が愛嬌一杯で出てくるだけで何となくほんわかムードとなる。
 マクラは孫の話題から、三象さんより年上なんですが頭の方は追いついてしまいまして、以前はヘアースタイルにはこだわってまして、なぜなら髪型(上方)落語(会場拍手喝采)。養毛剤に騙された話題で会場全体の笑いをとって本題の『狼講釈』が始まる。
 この噺、非常に珍しい噺で当席では二代目福郎師匠(91年10月)以来の口演である。
講釈師だと嘘を言ってご馳走になり逃げ出した噺家が、山で狼の群れに囲まれ、講釈をやるなら命を助けると言われ『難波戦記』の抜き読みを始めたが、途中からむちゃくちゃになる。気が付くと、狼は一匹もいなくなり、噺家は無事に山を越える。
 狼たちは悔しがって「偽講釈師をなぜ食わへん」「あれは猟師や仰山鉄砲を放しよった」とサゲになる。五代目笑福亭松鶴師匠の速記が残っている。
 圧巻は講釈の部分で、『くっしゃみ講釈』でも登場する『難波戦記』から『壷坂霊験記』、忠臣蔵の大高源吾、「父は元京都ぉの産にして・・」と、落語「延陽伯」、会津小鉄(あいづのこてつ)、紀伊国屋文左衛門、石松三十石代参、血煙荒神山の『清水次郎長伝』、中山安兵衛(高田馬場の決闘)荒獅子男之助(伽羅先代萩)』、三波春夫「大利根無情」、平手造酒(天保水滸伝)、梶川与惣兵衛(刃傷松の廊下)、幡随院長兵衛、水戸黄門、俵星玄蕃、国定忠治、番場の忠太郎と続々。会場は拍手喝采。

・・・師匠は感想をご自身のHPで・・・
 神戸風月堂ホールの恋雅亭。寄席は満員。最初の都んぼさんから、拍手、笑いの最高のお客さん。私は三つ目、ちょうどいい頃。マクラから拍手で、手応え充分の『狼講釈』。なんともいい気分で、サゲを言えました。
 こんな時があるから、やめられません。ありがたいです。願生ります。

 そして、中トリは枝雀一門の桂文我師匠。この師匠も当席常連。
 上方落語界でも屈指の幅広い演目を持つ師匠。
今回は初の中トリで上方落語の大物を演じるべく、先代同様の『せり』の出囃子で登場。「一杯のお運びありがたく御礼申し上げます。夏の暑い時、出難い時に来ていただくのが一番ありがたい・・・」と、あいさつして、「今まで一番冷たくて美味しいと思ったのは、子どもの頃食べた井戸で冷やしたスイカ」と、子供の頃の想い出のマクラがスタート。
 そして、「夏の遊びはと申しますと、東京は両国の川開き、大阪は大川の夕涼み、と申しまして」と、始まった演題は枝雀師匠の十八番であった『船弁慶』。
 この噺、上方落語の中で、夏のネタの代表傑作です。多くの噺が東西で演じられていますが、この噺と『遊山船』は、上方の香りムンムンですので、東京への移植は難しいのでは。聴かせ処の雷のお松っんの独り舞台や、怖い女房を語る喜公のクダリは圧巻で会場からは大きな拍手が起こる。サゲの前の喜六と雷のお松っんとの弁慶と知盛の祈りも、はめものもタップリ入って盛り上がり、発端からサゲまで師匠の工夫一杯の口演は半時間超。
 「川の真中へすっくと立って、『そもそも、これわ、桓武天皇九代の後胤、平の知盛亡霊なり』」「その時、喜六は、少しも騒がず、数珠さらさらと押しもんで『東方降三世(こぉざんぜ)夜叉明王、南方軍茶利(ぐんだり)夜叉明王 西方大威徳夜叉明王、北方金剛夜叉明王、中央大日大聖不動明王』」。

 中入りカブリは、文枝一門から桂あやめ師。
女流落語家の師匠も今や全国区で、女性の目からみた自作の創作落語は爆笑間違いなし。
中入り後、祈が入って『あやめ浴衣』の出囃子で高座へ。
「中入り開けまして桂あやめでございますが、夏休みということでしてね・・」と、もうすぐ五歳の独り娘との規則正しい生活から開放された話題からマクラがスタート。
 今日、元町で入った食べ物屋さんでの当席へ行かれる予定のお客様の会話を紹介。
「暑いわ、今日ら出はる落語家さんも大変やわ。天井低いし、ライト熱いと思うわ。若い人らほとんど着物ポリエステルやろ」。ネタは皆様方の何気ない会話と好きなものからと、小学生時代好きだったスポコン漫画に影響されたヒロインになりきった話題をマクラで会場を笑いの渦に。
 そして、始まった創作落語はスポコンドラマに、自分のヒロインへの憧れ、想い、スポコン漫画の思い出。
 ベースは女同士のいがみ合いの『アタックNO一番』。女子バレーボール部の魔球合戦を、横に飛んだり、前転をしたり、娘道成寺を踊ったりと体一杯使ってコミカルに演じる。
この噺、当席では97年以来十年ぶりの口演であるが、随所に新しいギャグを織り込んでバージョンUP。22分の熱演に場内からは大きな拍手が起こった。

 そして、八月公演のトリは笑福亭の重鎮・笑福亭呂鶴師匠にとっていただきます。
年一回のペースで当席に出演頂き、幅広い演題の中から熱演を頂いている師匠。
今回も『小鍛冶』の出囃子でゆっくり登場。
 「私、もう一席でお開きでございまして、・・・。ただ今のあやめさんでお開きとしてもよかったのですが、ここは地下でございましてお客様にお怪我があっては大変ですので、たまたま私が来ておりましたので、お怪我なく帰って頂くために私が出て・・・・」と、あいさつから白湯を口にし、「ご酒家のお噂を申し上げまして」と酒の小噺。本題は夏のお酒の噺の代表『青菜』。
 手入れの行き届いた縁側で、実に美味しそうに楽しそうに食べて呑む呂鶴師匠。立て込んだ一間の長屋で「おーくーや」「はい、だんはーん」と、苦し紛れに演じる夫婦の姿に会場は爆笑の連続。呑みたく食べたくなったお客様も多かったはずの二十二分の熱演であった。
この噺の青菜ですが? ホウレンソウ、コマツナ、ミズナ、ノザワナ。柳蔭(やなぎかげ)は、
焼酎にミリンを混ぜたもので醸造時かカクテルのどちらもあったらしい。