もとまち寄席 恋雅亭
公演記録    第344回
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 公演日時: 平成19年 4月10日(火) 午後6時30分開演
  出演者      演目
 桂   歌之助  「あみだ池」
 桂   こけ枝  「始末の極意」
 笑福亭 三 喬  「貧乏花見」
 桂   春 駒  「鴻池の犬」
  中入
 笑福亭 竹 林  「相撲場風景」
 桂   雀 々  「猿後家」(主任)

   打出し 21時20分

     お囃子  林家和女、勝 正子

 平成十九年も四度目の公演となる四月の343回公演。
今年も三公演を大入りでお開き。今回も前景気も高水準で、前売券とネット予約も好調に推移。そして、当日。先月と違い空模様も好調。いつものように多くのお客様が列を作られ開場を待たれる。木戸口では事前に準備された多くの折り込まれたチラシを人海戦術で織り込みもスピードアップ。そして、定刻の五時半に開場。いつもながら申し訳ない。
 列を作って待っておられたお客様がご入場され席が次々と埋まっていく。平日とあって、いつもよりややゆっくりのペースで次々とご来場されるお客様で開演の五分前に満席。立見のお客様も出る。

 二番太鼓から定刻の六時半、祈が入って、『石段』の出囃子に乗って、トップバッターの歌々志改め師匠の名前を襲名した桂歌之助師の登場。
 今年一月に、新たな上方落語の拠点となった「天満天神繁盛亭」での初となる襲名披露公演にて師匠の名跡を襲名したとあってノリノリで、師匠、一門の先輩から基礎をたたき込まれたとあってキッチリした芸風に自身の工夫を加えた高座は有名で、当席の常連さんからも「是非出演を」とリクエストも多かった師でもある。
 「えー、ただ今より開演でございまして、まずは私、桂歌之助のほうで」と、挨拶すると場内から「三代目」と声がかかり拍手が起こる。「えー、一月に襲名させていただきまして、こちら初めての出演で・・・」と一卵性の双子での失敗談を爆笑マクラに仕立てた自己紹介が始まる。
 そして、始まった演題は『あみだ池』。この噺、明治か大正初期に、桂文屋師匠の新作落語だそうで、中に日露戦争が出てくるので明治三十八年以後の作であるのは確実である。
 初演で最初の「阿弥陀が行けと言いました。」で、サゲと勘違いした下座さんが受け太鼓を入れたとの逸話があるそうである。
 この噺を有名にしたのは初代桂春団治師匠。『阿弥陀ヶ池』というタイトルでレコードも残っており、さらに、二代目春團治師匠も、おなじみの『春團治十三夜』の中にある口演が、もっとも古いテープ音源として残っている。
 多くの先人達の工夫で大爆笑噺に仕上がった噺をキッチリと演じる。ツボツボで大爆笑が起こったのは言うまでもなく、お客様も演者も大満足の二十分の名演であった。
 なお、この噺に登場する和光寺や阿弥陀池や、柔道と間違う十三の焼き餅屋さんも現存している。

 二つ目は、文枝一門から桂こけ枝師。
明るく漫画チックな芸風と風貌のこの師匠が『金比羅船』の出囃子で出てくるだけで会場全体が華やかになる。
 「えー、ありがとうございます。続きまして、桂こけ枝の方でお付き合いを願います。まあ、このこけしという芸名でございます、見て頂いたらいかにもこけしかなぁと、判りやすい芸名でございまして師匠から付けて頂きまして・・・」。さらに、二十代からこの風貌で毛はえ薬も効き目がなく、全部髭のほうへ・・・。しかし、地球環境へは良く、地球には優しい頭」と自己紹介。
 そして、節約・倹約は必要だが過ぎると、けちん坊になると、けちん坊の小咄から始まった演題は『始末の極意』。発端からスタートし、真ん中のクダリをズバッとカットし、極意の極意を教えてもらいに夜間に木に登ってサゲにあるまで十五分で演じる。随所に笑いが起こる秀作であった。

 そして、三つ目は皆様よくご存じ「三ちゃん」こと、笑福亭三喬師匠。
いつもの通り笑顔一杯で軽快な『米洗い』で高座へ登場。お馴染みの『我が家のアルバム』をズバッと省き、「三番、笑福亭三喬、貧乏花見。雨上がったなぁ」と、さっそく本題へ入る。
 この時季に演じられることの多い季節感タップリのこの噺。東京では『長屋の花見』として演じられているが、上方と江戸の気風の違いが出ている噺である。江戸では大家さんが酒や肴を用意して花見に出掛けるのに対して、上方では長屋の住人が持ち寄り散財よろしく我が家から色々な酒肴を持ち寄って、嫁はん同伴で職業も読み替えて出掛けるという庶民のパワー炸裂の噺である。
 花見に出かける母娘親子の着物と自分の着物の値段の違いから長屋中で行くことになった花見であるが、・・・。上方の庶民パワー炸裂の噺である。
 酒は勿論、お茶け。酒の肴は、ばってら(飯の上に海苔を乗せたハッテラ)、かまぼこ(飯のこげの釜底)、塩鮭(塩だけ)、ながいなり(おから=きらず)、卵の巻き焼き(こうこ)、鰻(きゅうりの古漬)。
 そして、工夫を凝らした?服装(総紙の着物、裸墨の洋服など)で桜ノ宮へ花見に出かける。道中も、到着し宴会が始まっても、随所にちりばめられたクスグリに場内は大爆笑が続く。
 サゲはこうこの卵を喉につめ、大騒ぎとなり場内の笑いも最高潮に達し、
「花の色はうつりにけりないたずらに、我が身世にふる、こうこの卵」と、川柳でのサゲとなる。
全編大爆笑の「三ちゃんパワー」大爆発の二十五分の高座であった。

 中トリは春團治一門から桂春駒師匠に飾って頂きます。
この師匠も神戸ではお馴染み。毎年一回の独演会も絶好調で、今回も選りすぐりの一席をと期待の中、『白拍子』の出囃子でゆったり登場。
本日の演題は昨年の独演会で披露された、ご自身とブレーンの工夫により従来のサゲから奥をやや人情噺風に付け足した『鴻池の犬』。その後も各地の落語会で板(高座)に掛けて、多くの同僚や多くの方に相談。その際の意見は色々あったそうですが、それを参考にさらに工夫を重ねて、どうだとばかりに当席での口演となったもの。
 マクラもそこそこに、「運、不運、人間の世界だけでは・・・」と、半時間の口演がスタート。
師匠の芸談に「この噺なぁ、前半は米朝師匠。犬に変ってからは六代目松鶴師匠のように演(や)れたら最高や」と、伺ったことがあるが、師匠のそれはまさしく最高。
 そして、弟犬に物を貰う処でサゲとなるのだが、紹介の通り登場犬として老婆犬が・・・。さて、どのような展開となりましたでしょうか?三十分の熱演であった。

 中入りカブリは、笑福亭一門から笑福亭竹林師。今回もこの位置(中入カブリ)で爆笑上方落語を愛嬌タップリに笑福亭伝統の豪放磊落の爆笑上方落語を演じて頂けることでしょう。と、紹介した。『山羊の郵便』で登場した師匠、お馴染みの爆笑マクラからスタート。
 「えー、ありがとうございます。一杯のお客様でありがとうございます。私も噺家生活二十七年、長いことやってます。最近が一番盛り上がってます。恋雅亭は昔から一杯のお客様ですけど、繁盛亭も一杯で、このきっかけは米朝師匠が人間国宝になりはって、文枝、春団治、五郎師匠と立て続けに賞をもらいはって、三枝師匠の紫綬褒章。大きいですわ。・・・・私事ですが私の地元の堺市から遂に・・・、生活保護を貰うことに(場内大爆笑)」。
 そして、始まった演題は師匠の十八番であった笑福亭のお家芸?『相撲場風景』。
この噺は、松鶴師匠を外しては語れない。道頓堀の角座や神戸新開地の松竹座で最も多く演じられた噺である。前後を漫才や音楽ショーに囲まれ、千人近くのお客様を前に受ける噺となると、この噺となったのであろう。もっとも、この噺ばかりだけではなく色々な噺を演じられたが、あまりにも印象が強烈であった。その噺を師匠と同様に豪快に演じる。勿論、サゲは「ジョンジョロリン」。
この噺はこれがないと。再演を熱望したい口演であった。

 そして四月公演のトリは「けいじゃんじゃん」こと、桂雀々師匠にとっていただきます。
早くから楽屋入りし、準備万全。この師匠がいると楽屋のムードも全開である。
 当席トリも今回で二度目とあって、軽妙な初代春団治師匠も愛用したお馴染みの『鍛冶屋』の出囃子で、会場一杯からの拍手とかん高い喝采と掛け声に迎えられ笑顔一杯で高座へ登場。
 「えー、ありがとうございます。一杯のお客様で、私でお開きでございます・・・」と、トリでしか言えないあいさつも板に付く。「この寄席の三百回のトークを文枝師匠とやらせてもらいまして、第一回目には松鶴、春蝶、松葉師匠や吾妻ひなこさんも出てはりますねぇ。みんな向うへ行き・・。言いましたら文枝師匠も行きはりま・・・。しかし、米朝師匠も春団治師匠も元気で」と爆笑マクラ。
 さらに、小さん師匠、中村メイコさんとの失敗談で充分笑いを取って、始まった演題は、その文枝師匠の十八番だった『猿後家』。発端から汗ブルブルの熱演。口跡よろしく、トントンとたたみかけるように噺は進む。この間、場内は爆笑の連続。圧巻は実になめらかに奈良の都の紹介。そして、喋り過ぎてつい言ってはいけない言葉を言ってしまう。
 サゲは、前に失敗した又兵衛さんの失敗談を聞き、「口は災いの元ですなぁ。私も舞台からサル」であった。半時間を超える熱演で、お開きとなった。