もとまち寄席 恋雅亭
公演記録    第343回
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 公演日時: 平成19年 3月10日(土) 午後6時30分開演
    出演者    演目
   林家  笑 丸「松山鏡」 
   桂   枝曾丸「半熟親子」 和歌山弁落語
   笑福亭 呂 鶴「三人上戸」
   桂   福団治「やぶ入り」
     中 入
   露の  団 六「鉄砲勇助」
   桂   雀三郎「胴乱の幸助」(主任)

    打ち出し 9時00分
     お囃子  林家和女、勝 正子
     手伝い  桂 三之助、林家 竹丸、笑福亭喬介

 平成十九年も三度目の公演となる「弥生公演」の343回公演。
二月公演を大入りでお開きとなった後から前景気も高水準。前売券とネット予約も絶好調。今回はまずネット予約が一杯となり、前日には前売券も売り切れとなる人気。
翌日からも風月堂さんでの前売券も売れ、ネット予約もどんどん入り、一月の二十日時点で売り切れ、締め切りとなった。そして、当日。折悪しく空模様が悪い。多くのお客様が列を作られ開場を待たれる中、お天道さんがシシたれを始める。列を詰め出来るだけ屋根のある場所へ並んで貰い、事前の準備の多く折り込まれたチラシを人海戦術で織り込みをスピードUPして、開場を十分早めて五時二十五分に開場。いつもながら申し訳ない。列を作って待っておられたお客様がご入場され席が次々と埋まっていく。開演の十五分前に満席。立見のお客様も出る。

 二番太鼓から定刻の六時半、祈が入って、『石段』の出囃子に乗って、トップバッターの林家笑丸師の登場となる。その笑丸師、楽屋入りするや、チラシの折り込みに参加するも舌の回転も絶好調。
 繁盛亭で開催されている『あほの会』にも、鶴瓶師匠の「あいつは・・・」と、お墨付きをあたえ常連メンバーになる。
当席でもその個性を充分生かした芸風をお楽しみにされている客席からの拍手に迎えられて登場。
 一礼したまま扇子をグルグル回して拍手を催促。再度、大きな拍手が起こる。
「えー、万雷の拍手ありがとうございます。私、林家染丸の弟子で、笑うに丸で『えみまる』です。
どうぞよろしくお願い致します」と挨拶。まず、自身の顔を『収入の少ないナイナイ岡村』と表現し、自身の名前での失敗談で再び笑いを。そして、TVに出ていた(四年前に終わった)ことでさらに笑いを誘う。
 さらに、トイレでの話題、老人ホーム慰問での爆笑話、夏祭りの余興、の話題から始まった演題は『松山鏡』。
舞台は越後の国(新潟県)としてスタート。サゲ前に自身の工夫を加えての十六分の秀作であった。

 二つ目は、文枝一門から桂枝曾丸師。
和歌山出身で和歌山弁を生かしての和歌山落語を各地で演じておられる師匠で、当席には平成十五年十一月以来の出演となる。(演題は『和歌山弁落語・親族一同』)「沖の暗いのに白帆が見える、あれは紀伊の国、みかん船」と、お馴染みの『カッポレ』の出囃子に乗って、絣の着物でおばちゃんかつらをかぶってのスタイルで登場。
「はぁー、久しぶりの神戸風月堂の寄席でございまして、私が和歌山のおばちゃんことかつらしそまると申します。今日は和歌山から電車乗り継いでやってまいりまして・・・」と自己紹介。
 そして、「ざ行」と「だ行」がごっちゃなる和歌山弁の紹介。
「ぜんざい」を「でんざい」、「ぜろ」を「でろ」。「ぜんぶ」を「でんぶ」。「全席座席指定(ぜんせきざせきしてい)」を、「でんせきだせきしてい」。と紹介して本題に入る。
 本日の演題は『和歌山弁落語・半熟親子』。
どこにでもある嫁姑のちょっとした行き違いをコミカルに描く。最後は分かり合ってハッピーエンドに終わる二十分の秀作であった。

 三つ目は笑福亭一門から笑福亭岐代松師。の予定だったが、骨折により代演。代演は『小鍛冶』の出囃子で登場の「ろーやん」こと笑福亭呂鶴師匠。代演のお願いを二つ返事で快諾頂き、当日は早くから着物姿で上機嫌で木戸口へあいさつに来られ、そのまま楽屋入り。
 「プログラムでは、笑福亭岐代松さんでございましたが、岐代松さんは、うちの小松と二人で飛びまして、これは冗談ですが・・・。私が代演でございまして、岐代松さんは事故りまして足を骨折でして正座が出来ないとのことで、お楽しみにお越しになったお客様は申し訳ございません。また、出演される時をお楽しみに・・」と、事情説明をマクラに爆笑を誘う。
 「今日はお酒のお噂を・・」と、始まった演題は師匠直伝の『三人上戸』。
この噺、別名を『うどん屋』であるが、ちょっとややこしいが、東京では、この噺は『そば屋』であり、東京の『うどん屋』は、上方の『風邪うどん』のことである。題名の『三人上戸』通り、一人の男が「笑い上戸、泣き上戸、怒り上戸」を見事に演じ分ける。どう対応、どう応えても絡まれるのあるから、うどん屋も大変である。
 多くのお客様も主人公の経験があるとみえて会場全体は大きな笑いに包まれた二十分の名演でお中入りとなった。

 中トリは上方落語界の重鎮・四代目桂福団治師匠皆様方よくご存じの通り「人情噺」「爆笑噺」何でも来いの師匠。さて、今回は何をと期待される大きくお客様の拍手に迎えられ高座へ。出囃子はもちろん『梅は咲いたか』である。
 「えー、なるだけマイクに近づけてねぇ。疲れてまんのでねぇ。よう入ってまんなぁ、ほんまによう入ってます。よう来てくれはって、おもろないと思っても、・・。ほんまにおもろないのもあるし、四十年やってますねん。疲れてます・・・・。扇子、商売道具ですけど、この頃、支えになってます」と、いつものようにゆっくり、ゆったりと語り出す。師匠の羽織の脱ぎ方、修業時代の几帳面さでの失敗談。おこうこを切るのも大変で失敗すると破門。と、修業のきびしさの話題から本題へ。師匠十八番の『やぶ入り』。
 この噺、当席での初演は平成元年二月で、今から十八年前。以後、平成四年、・・・十四年、今回と六回目。
 しかし、聴く度に違う。今回は父親が息子が帰って来たら連れて廻る空想するクダリより母親が息子のために着物を用意するクダリ、さらに、息子が両親への土産に喜ぶ親子のクダリに、やや力点を置きさらに、サゲとその伏線はズバッとカットした演出。
 「風呂から帰ってまいりまして三人で食べるご飯の温かさ。『かくばかり偽り多き世の中に子の可愛さはまことなりけり』と申します。やぶ入りのお話しでございます。」二十七分の名演であった。

 中入りカブリは、五郎兵衛一門から露の団六師の登場。
 地元神戸出身で当席で師匠の高座を見ての入門された師匠で勿論、当席常連の師匠。
今回も一門伝統の「もっちゃり・こってり」の爆笑上方落語を愛嬌タップリに演じていただけることでしょうと、先月ご紹介した。 この師匠も早くから楽屋入りし、熱心にネタ帳を見入る。
団 六師  「ネタちゅうのは、偏りがありまんなぁ。よう出るのがあったり、全然出てないのがあったり」
雀三郎師 「そやで、流行(はやり)もあるしなぁ。入門すぐには、うちの師匠がよう演じてはった『江戸荒物』。
                これなんか今、あんまり演(や)らへんけちょっと変えたら面白い噺になると思ってたんやけど、
                福笑兄さんがうまいこと変えて演じてはるで」
団 六師 「『七段目』も流行(はやり)ですわ。面白いし、寸法(時間)も二十分に納まるし。
       『からし医者』も出えへん。ここでも私がやった位で。今日は『鉄砲勇助』」 

 祈が入って軽妙で華やかな『かじや』の出囃子で団六師の出となる。
 「えー、変わり合いましてお願いを申し上げますが・・・」と、始まり修学旅行の自分の時代との違いで笑いをとって師匠直伝の本題が始まる。お馴染みの噺であるが、雌雄合体のイノシシ、凍る言葉、鴨、火事、そして小便と、次々繰り出されるウソのオンパレードは、同時に「そんなアホな」の連続の内容でもある。
いつ聴いても面白い。二十分の口演であった。

 弥生公演のトリは桂雀三郎師匠にとっていただきます。
当席お馴染みの師匠で過去、多くの演題で大熱演をしておられる師匠。
これも軽妙な『じんじろ』の出囃子で今日一番の拍手に迎えれられ高座へ登場。「えー、もう一席聴いて頂きますが、これでおしまいでございましてね、ひょっとして、まだ一回も笑ってない方はこれが最後のチャンスでございます。頑張って笑って頂くように」と挨拶もそこそこに趣味の話題から、本題の『胴乱の幸助』がスタートする。
 当席で師匠がこの演目を当席で演じられのは初めてである。幅広いネタ数を彷彿とさせるところである。創作落語はもとより『ちしゃ医者』『寝床』『親子酒』『崇徳院』『貧乏花見』『らくだ』『天王寺詣り』と、多くの古典落語演じる師匠であるが、またひとつ大ネタを演じて頂いた。
 発端からサゲまで、道端での酒の飲みたい一心の二人の男の相対喧嘩。小料理屋、稽古屋での笑いこらえる稽古屋と弟子連中。
 そして、京都の伏見の浜から柳馬場押小路の帯屋での勘違いと、舞台と登場人物が次々変わる半時間を超える大作をキッチリと三十四分。