もとまち寄席 恋雅亭
公演記録    第341回
◆春駒HOME◆恋雅亭TOP◆公演記録目次
 公演日時: 平成19年 1月10日(水) 午後6時30分開演
   出演者      演目
    林家  染  雀
金明竹 
  桂   珍  念代脈 」
  月亭  八  天茶屋迎い
  桂   福  楽ふぐ鍋
    中入
  
桂   米  平 「桃太郎
   桂   文  珍 「天神山 (主任)
                  
   打出し 21時 05分
     お囃子  林家和女  勝 正子
     手 伝 笑福亭 智之介


  平成十八年納めの師走公演も大入りでお開きとなり、平成十九年の「新春初席」の341回公演を迎ることになりました。今回の公演も、当席おなじみの出演者がズラリ揃っての開催とあって、前売券、メール予約共、十二月中に完売・締切となって、当日券や問い合わせが多く入る。今回も大入りの状況で当日を迎えることになりました。
 当日は晴(今回もセーフ)。寒さも一段と厳しくなった中、平日にもかかわらず今回も多くのお客様が列を作られる。チラシも次々に到着し、そのチラシを人海戦術で織り込む。お客様の出足はいつも通り絶好調。その後もお客様の出足は衰えることなく、本通りから脇道へ長〜く続く。
 楽屋の方も出演者が次々と到着。トップの染雀師、独演会を控える珍念師、準備万全の八天、米平師、大師匠から頂戴したコートで暖かそうな福楽師匠。そして、トリの文珍師匠も開演直後に到着される。そして、定刻の五時半開場。列を作って待っておられたお客様がご入場され席が次々と埋まっていく。二番太鼓から定刻の六時半には、大入りとなる

 祈が入って、いつもの『石段』とは違う『十日戎』の出囃子に乗って初席のトップバッターの染丸一門から林家染雀師が登場する。一門の伝統のもっちゃりと、スマートで理知的な芸風で多くのファンを持つ師とあって、大きな拍手と掛け声が掛かる。
「えー、本日は十日戎でして、私も出囃子も「十日戎」で、出てまいりました・・・。去年は天満天神繁盛亭が開場いたしまして、嬉しい掛け声も掛かります」と、演者の十八番をリクエストする方法を伝授。「演者が頭を上げて語り出すそのわずかな間合いで『***』と、掛けて下さい。次の珍念さんには『ひっこめ』と・・」と、笑いを誘う。
 そして始まった演題は『金明竹』。東京では有名なこの噺の上方バージョン。
笑いの多い噺であるがツボを外すと難しいである。道具七品の言い立てでは会場全体から拍手が起こる。実に良い出来であった。
 道具七品とは、@祐乗(ゆうじょう)光乗(こうじょう)宗乗(そうじょう)三作の三所物(みところもん)。A備前長船(びぜんおさふね)の則光(のりみつ)。B四分一(しぶいち)ごしらえ横谷宗a(よこやそうみん)小柄(こづか)付きの脇差。Cのんこの茶碗。D黄檗山金明竹(おうばくさんきんめいちく)ずんどの花活(はないけ)。E風羅坊正筆(ふうらぼうしょうひつ)の掛け物。F沢庵木庵隠元禅師(たくあん・もくあん・いんげんぜんじ)張りまぜの小屏風(こびょうぶ)。三所物・船則光・脇差・茶碗・花活・掛軸・小屏風のこと。

 二つ目は、トリの文珍一門から桂珍念師。
明るく漫画チックな芸風でこの師匠が出てくるだけで会場全体が華やかにな師であるが今回も同様。
 軽快な『ずぼらん』の出囃子で登場すると「えー、引っ込みません」と、染雀師の仕込みを受けてのつかみである。場内は大受け。これで会場全体は一気に珍念ワールドへ突入。
 入門二十年で師匠に「辞めるにはええきりや」と言われながら開催する独演会の宣伝。出演者、木戸、お茶子、皆親戚の家内演会と紹介すると場内から再び大爆笑が起こる。
「独演会の宣伝も済みましたので、えー、それではこれで失礼いたします。(場内から拍手)えー、今日は、お医者様のお話を・・・」と、始まった本題は「代脈のちと見直した晩に死に」から始まる『代脈』。珍念師のイメージと主人公の医者の卵がピッタリで随所で爆笑が起こる。基本に忠実に自身の工夫をタップリ盛り込んだ十八分の秀作であった。

 そして、三つ目は八方一門から月亭八天師。
一門の雀三郎師匠から多くの演目を口伝されて絶好調。一ヶ月の努める高座の数も多い師匠。楽屋入りされた文珍師匠も、「お師匠はん、今日は何を?」と期待。
「えー、ちょっと珍しいものを」。文珍師匠の「袖で聴かせてもらいます」の声と会場からの拍手で、『おかめ』の出囃子で高座へ登場。「えー、続きまして・・・」と始まった演題は当席では平成三年以来(林家染丸演)のとなる『茶屋迎い』。大変珍しい噺で東京では『不幸者』として演じられていた。同趣向の噺として『ミイラ取り』がある。
 その噺について八天師は「『茶屋迎い』は珍しいネタのひとつです。私のもうひとりの師匠・桂雀三郎師にお稽古していただきました。やはり初演は1992年5月、太融寺に於て。私の持ちネタは雀三郎師からいただいたものが一番多いです」とあります。
 お茶屋遊びが過ぎる道楽息子を番頭らを迎えにやるのだが逆に取りこまれる。
それではと親旦那自ら変装し、お茶屋に乗り込む。小部屋で待つところに部屋を間違って芸者が飛び込んで来る。顔を見合わす二人・・・・。昔のお馴染み。いかがなりますか。

 中トリは福團治一門から桂福楽師匠に飾って頂きます。
 小福から福楽を襲名。今回も愛くるしい笑顔一杯で『ずんどこ』の出囃子で登場。
「えー、ここに出して貰うのは福楽襲名披露公演以来でございまして・・、実は干されてましてん(場内大爆笑)。私、ようありますねん。こないだも島之内寄席でも、都丸兄さんと一緒で、兄さんも久しぶりでしてんけど、けど、兄さんは協会を抜けてましたからねぇ。私はずっと協会員ですけど(再び場内大爆笑)」と、爆笑マクラがスタート。
 ぽっちゃりとした体型で演じる爆笑マクラが続き、始まった演題は『ふぐ鍋』。
おなじみの上方の匂いがプンプンする噺である。ふぐの毒名は「テトロドトキシン」。いかにも言いにくそうに言うところでは場内から含み笑いが起こる。
「あっ」というサゲまでトントンと噺が展開する。随所でクスグリと目線と仕草、そして、間で笑いが起こる。二十五分の高座は実に結構で御中入りとなった。

中入りカブリは、米朝一門から桂米平師。
今回もこの位置(中入カブリ)で、爆笑上方落語を愛嬌タップリに語るべく巨体を揺すりながら『大拍子』の出囃子で登場。
「えー、私も肥え過ぎで、以前は百十キロありまして、『百獣の王』でなことを言うてましたが・・・・。そんなことは言っておれなくなりつつあります。・・・・肥えてますと、弱点もありまして、シビレが切れますので長い落語が出来ません。二十五分が限度でして・・・。それと、あう着物がありません。こないだもステテコを買いに行きましてん。私は小、中、大、特大とありましてその特大が入りません。大将に『もっと大きいのは』と、聞きますと『あります』。もらって見ると赤い字で『肥満』と書いてありますねん。なさけないわ・・・。」と、マクラで爆笑を誘って始まった演題は『桃太郎』。
 トリの文珍師匠へのバトンタッチし、自身の存在感も発揮しなければならない重要な役割。米朝師匠直伝の噺をキッチリと演じる。愛くるしい笑顔の高座は再演を期待したい十八分であった。

 そして新春初席公演のトリは今年も桂文珍師匠にとっていただきます。
昨年の『御神酒徳利』を初め、『七度狐(完全版)』『三枚起請』『胴乱の幸助』『軒付け』『茶金』と十八番を当席で演じて頂いております。今回も大変お忙しい中、「恋雅亭の初席のトリはワタシ」と、おお張り切りの師匠。
 楽屋入りし談笑。「師匠、今日は何を?」「うーん、『天神山』。暫く出てへんやろ」。師匠のおしゃる通り四年ぶりとなる。「年と共に色々、考えてなぁ。この噺も昔はサゲまでやったこともあるけどな、最近は狐を買うところで盛り上げて終わるほうが、ええと思ってなあ。ちょっと因果噺になると暗くなるし、サゲもいまいちやしなぁ。」
 『円馬囃子』で、ゆっくり高座登場すると、場内からは本日一番の拍手が起こる。
「えー、ご参集いただきまして、ありがたい限りでございます」と、あいさつし爆笑マクラが始まる。歌舞伎と落語会の違い、当席の料金の安さ、そして、休みに訪れた石垣島での出来事と続く。充分に場内を笑いに巻き込んで始まった演題は『天神山』。文枝師匠直伝である。
 この噺、前半と後半は大きく展開が変わる。前半は東京の『野ざらし』と比較されるような噺で、狐と夫婦になる噺は、蘆屋道満大内鑑(あしやどうまんおおうちかがみ)、通称「葛の葉」の四段目の「子別れ」が下書きとなっている。
この噺は人形浄瑠璃のひとつで和泉国信太(しのだ)の森の白狐が女に化けて安倍保名(あべのやすな)の子となる安倍晴明を生んだという伝説を脚色したものである。
 狐を買い取るクダリでグッと盛り上げ、「子供に言い聞かせて姿を消します。ある春の日のお話しでございます」と、締めくくった。
 正月らしく華やかなシコロの囃子で満員のお客様をお送りする文珍師匠であった。
                                                          (叶大入)