もとまち寄席 恋雅亭 | ||
公演記録 | 第340回 | |
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公演日時: 平成18年12月10日(日) 午後6時30分開演 | ||
出演者 演目 桂 し ん 吉 「道具屋」 笑福亭 生 喬 「青空散髪」 桂 坊 枝 「がまの油」 立花家 千 橘 「東海道四谷怪談」 中入 桂 九 雀 「孝行糖」 笑福亭 松 喬 「崇徳院」(主任) 打出し 21時15分 お囃子 山澤由江、勝 正子 手伝い 笑福亭 喬楽 |
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「新春初席」から数えて十二回目の十二月師走公演。過去十一回は全て大入り公演の今年の納めの公演。今回の公演も、当席おなじみの出演者がズラリ揃っての開催となりました。 前売(ほぼ完売)、メール予約共、活発で今回も大入りの状況で当日を迎える。 当日は晴(今回もセーフ)。寒さも厳しくなった今回も多くのお客様が列を作られる。 当日は『神戸ルミナリエ』の最初の日曜日と会って本通りの人で溢れる中、準備を急ぐ。 チラシも次々に到着し、そのチラシを人海戦術で織り込む。 お客様の出足はいつも通り絶好調。その後もお客様の出足は衰えることなく、本通りから脇道へ長〜く続く。 楽屋の方も出演者が次々と到着される。トップのしん吉師は開場していない高座へ上がって声の通りを確かめる。生喬・坊枝・九雀の三師は何やらヒソヒソ相談中。中トリの千橘師匠はお囃子の由江嬢と五郎平兵衛師匠直伝の『東海道四谷怪談』のキッカケの打ち合わせと準備万全。 トリの松喬師匠は『ルミナリエ』見学のため、お出かけ(一方通行の人の流れで三宮まで行ってしまうことに気が付かれ引き返される)。そして、定刻の五時半開場。列を作って待っておられたお客様がご入場され席が次々と埋まっていく。 二番太鼓から定刻の六時半、祈が入って、『石段』の出囃子に乗ってトップバッターの吉朝一門から桂しん吉師が登場。前回の出演は平成十七年十一月、ちょうど師匠の吉朝師匠が急死された直後の公演であったため、おもわず高座で感極まったシーンを想い出されるお客様も多いらしく、場内の拍手も会場にこだます大きさである。 「えー、ルミナリエですのでどうかなぁと心配しておりましたが一杯のお客様で・・・・、来年こそ売れる」と爆笑マクラ。そして、「知っていても笑って下さいよ」と断って始まった演題は、お馴染みの『道具屋』。 亡き師匠にキッチリ基本を叩き込まれたとあって、一言一言、仕草の一つ一つが丁寧でツボを外さない。サゲは笛のクダリ、「そんな人の足下見るなよ」「いえ、手元見てます」であった。 二つ目は、トリの松喬一門から笑福亭生喬師。 多くの師匠連から数多くの噺を口伝され、笑福亭のお家芸の『三十石』『高津の富』や講釈ネタの『竹の水仙』、芝居噺の『質屋芝居』。さらに、珍しい『殿集め』『花の都』『紐落し』などと多くの持ちネタを持つ師で、今回も何を演じて頂けるか楽しみ。 さらにドッシリとした風格も師匠譲りで、今回も『さつまさ』の出囃子で高座へ登場。 小拍子と扇子ででお囃子を止め、間合いを計ってスタート。 「えー続きまして生喬(せいきょう)の方でお付き合い願っておきますが、決して生活協同組合ではございません、上方落語界の孫正義と呼ばれております」マクラは、今日デビューのお茶子さんの小拍子置き忘れで笑いをとってスタート。そして、角座のお茶子さんの想い出から、自身の頭を行きつけの散髪屋さんではない処で余計なことをされたことと進む。 始まった演題は『青空散髪』。創作落語である。 この噺、「市ちゃん」こと四代目林家染語楼師匠の実父の三代目染語楼師匠作の創作落語で、四代目は当席では六度演じられておられる、二代に渡る工夫の積み重なった十八番であった。 なお、多くのクスグリの中で「石鹸が笑ってる」「入れ歯でんがな」は当席生みの親の楠本さんの案を染語楼師匠が取り入れたものであり、いつも爆笑を誘うクスグリである。 舞台は天王寺公園の散髪屋であるが生喬師は現代に通じるよう工夫を凝らしての口演となっている。 テンポ、演出、クスグリと、どれをとっても生喬師の色に染まった実に結構な出来であった。二席で三十六分。 そして、三つ目は文枝一門から桂坊枝師。 亡き師匠の多くの十八番を手がけられる師で『天王寺詣り』『船弁慶』の当席での熱演はお耳新しいところです。楽屋入りされ顔を合わせた第一声は「今回は嬉しかったですわ。前回、二十分で下りるようにと言われて上がった(高座へ)のに、『船弁慶』を三十五分も演ってしもたから暫く出してもらえんやろと思てましたん」。 小生が「今回は『百年目』を一時間」と、つっこむと満面の笑み。 そして、「今日はうちの師匠からではないネタをトントンと演じます。それと四人(しん吉・生喬・坊枝・九雀)でテーマを考えましてん。どんなテーマかはお楽しみですわ」小気味の良い『鯉』の出囃子に乗って、三つ柏の紋が鮮やかな黒紋付に黒い袴で高座へ登場。 「えー、ルミナリエは、光の芸術を見るだけで、そこへいきますとここ繁盛亭、いえいえ、恋雅亭・・・は、生でっせ。今日の二番太鼓や石段なんかは素晴らしい出来で・・・。どっちが良いとは私は言いませんが・・・。生ですもん、ここは。もっとも私も家族で来週、観に行きます。」会場は大爆笑。 先程の趣向を紹介して、始まった演題は当席でも珍しい『がまの油』。 この噺、故人となられた桂春蝶師匠が米朝師匠に口伝され十八番として演じられておられたが、マクラにジャンジャン町の「叩き売り」や天王寺公園の「蛇の薬」がマクラとして付いていた。 坊枝師匠のそれも「叩き売り」は無かったが「蛇の薬」はあったので春蝶師匠系の口伝であると坊枝師には確認しなかったが推測される。 ブルブル汗をかいての高座はマクラから本題と二十六分。今回も好演であった。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 小生は「がまの油」の実演は実際に見たことはないが「蛇の薬」には想い出があるので、ちょっと紹介してみたい。 春蝶師匠演じるの「蛇の薬」の舞台は天王寺公園であったが新開地の湊川公にもあった。 昭和二十八年生まれの小生がまだ小学校低学年だったので、昭和三十年代、薬の値段が小使いでは買えない程、高かったので一度も買った事はないが、腕を小刀で斬り、その出血した傷口に薬を塗ると出血が止まったり、ほくろや虫歯がポロリと取れたりするのが実に不思議であった。 家に飛んで帰っては夕食の準備をする母や祖母に真剣にすごさを語り「高也(小生の本名)の又、蛇の薬の話が始まったで。」とよく呆れられたものであった。その「蛇の薬」の口上のスタートは真ん中に止めた自転車と無造作に地面に置いた布袋を中心にまずは地面に大きい円を描き、大空を見上げる処から始まりそしておもむろに口上が始まる。蛇年生まれの小生が毒の強い順に紹介する口上で、「キングコブラ、ウミヘビ、百歩蛇、そして、ハブ、マムシ・・」と名前を覚えた。 その薬にはたしか二種類あった。メンソレータムの様な円形の金属の器に入った軟膏タイプ(大・小)とコルクの栓で蓋をした透明のガラスの瓶に入った茶色の液状タイプ(大・小)。いずれも二種類であった。腕を噛ませる蛇は麻袋の中に入っており、小生も何時か出てくると思いながら蛇の頭を掴む紐の端を真剣に持ったりもしたものである。 はたして袋の中ははハブだったのだろうか?蛇だったのだろうか? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 中トリは五郎兵衛一門の重鎮、立花家千橘師匠。 当席では師匠直伝の上方落語の大物『淀川堤』『加賀見山』『累草紙』『雪の戸田川』と、大ネタ揃い。今回も、五郎平兵衛師匠直伝の『東海道四谷怪談』。 今回も準備万端『藪入り』の出囃子で高座へ。「えー、私の方は芝居噺・東海道四谷怪談を申し上げます。幕を開けます」と、手拭いを幕代わりにしてスタート。 お馴染みの鶴谷南北作の民谷伊右衛門と妻お岩を中心に繰り広げられる。 全三十七分の高座はお囃子もタップリ入り、客席も食い入るように聞きいる。 「はて恐ろしき、(チョン)執念じゃなぁ」で幕となった。 中入りカブリは、枝雀一門から桂九雀師。今回もこの位置(中入カブリ)で爆笑上方落語を愛嬌タップリに演じるべく『旅』の出囃子で登場し満面の笑みでマクラもそこそこに『孝行糖』が始まる。 ちょっと抜けている親孝行の男とその男を応援する長屋の住人の心の暖かくなり、笑いもタップリ入り九雀師のイメージとヒッタリマッチした秀作で会場はツボツボで笑いに包まれていた。 さて、四師の演じられた演目のテーマは『露天商』であった。 そして師走公演のトリは笑福亭の重鎮、笑福亭松喬師匠にとっていただきます。 過去『はてなの茶碗』『尻餅』『禁酒関所』と十八番が並びます。 「恋雅亭の年納めの大トリ」も今年で四年連続。おお張り切りの師匠、早くから楽屋入りいつもながらの談笑。『高砂丹前』の出囃子に乗って高座へ「私、もう一席でお開きでございまして・・・。久しぶりに実家(兵庫県小野市)へ帰りまして、母親と会ってきまして」と、近況報告マクラが始まる。 そして、「母親も見合い結婚で、・・・」と、始まった演題は『崇徳院』師匠の十八番である。 会場は松喬ワールドに酔いしれているように、ツボツボで爆笑が起こる。 発端からサゲまであっという間の半時間であった。 下りてこられた師匠「ええお客さんや、新しいお客さんも多いなぁ。最初床屋で見つかってよかったの反応やったで、サゲを言わずに余韻を持たせる演出にしたんや」との芸談を伺った。 (叶大入 |