もとまち寄席 恋雅亭
公演記録    第338回
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 公演日時: 平成18年10月10日(火) 午後6時30分開演
 出演者      演目
    林家  染 左
子ほめ
  桂   三 若ちりとてちん
  桂   米 左 「七段目
  笑福亭 鶴 志 「らくだ
  中入
  林家  
小 染 「浮世床
  桂   小米朝猫の忠信(主任)
                  
   打出し 21時 20分
     お囃子  林家和女 勝 正子
     手 伝 笑福亭喬若、露の 楓

  「新春初席」から数えて十回目の十月公演。過去九回は全て大入り公演。
今回の十月公演も、小米朝師匠の初トリと、当席おなじみの出演者がズラリ揃ったとあって、前売も早くに完売。
メール予約も活発で今回も大入り、間違いなしの状況で当日を迎える。
 当日は快晴。今回も多くのお客様が列を作られる中、準備を急ぐ。チラシも次々に到着し、そのチラシを人海戦術で織り込む。その数、十枚を超える量。実に多い。そして、お客様の出足はいつも通り絶好調。
 その後もお客様の出足は衰えることなく、本通りから脇道へ長〜く続く。
先月同様、雨が降っていたらどうしようと胸をなでおろす。
 そして、定刻の五時半開場。
列を作って待っておられたお客様がご入場され席が次々と埋まっていく。最後に長いすもいれ、出来るだけ多くのお客様に座って頂く。
チラシの折り込み参加の染左師、繁盛亭との掛け持ちとなった三若師、にこにこ笑顔の米左師、「今日は中トリ、タップリやるで」と鶴志師、ネタ帳を寄席文字で記帳される小染師、そして、繁盛亭の昼の部のトリを終えられた小米朝師を最後に次々と到着し、準備万全。

 満席の会場に二番太鼓が鳴って、祈が入って林家和女、勝正子の両嬢の奏でる『石段』の出囃子に乗って本日のトップバッターの林家一門から林家染左師。
一門の伝統のもっちゃり・はんなりを引っさげて今回も全開疑いなしの高座で今回で2回目の出演。
「ありがとうございます。一杯のお客様でありがとうございます。お後お楽しみに・・・」と、挨拶からさっそく本題へ。
前座噺の定番『子ほめ』。この噺、当席での口演回数ランキングはベスト5である今回で二十一度目。ちなみにベスト1は『時うどん(二十六回)』、続いて『あみだ池』『牛ほめ』が二十三回、『青菜』が二十二回となっている。この噺、東西ともポピュラーな噺なだけに多くのお手本がある。
噺自体に力があり、良いお手本があるのでよく受ける噺であるので、ちょっと変えたくなるのであるがそれをせず、師匠よりの口伝をキッチリと受け継ぎ演じる。ツボツボで爆笑が起こるのは当然のことである。大爆笑に包まれた十五分の高座であった。

 二つ目は、三枝一門から桂三若師。
神戸生まれの神戸育ち。平成6年三枝師匠に弟子入りし、その才能を遺憾なく発揮。
「現代的センスを持ったスマートで華のある芸人」で、多くの賞を受賞、高い評価を受けている。古典から師匠譲りの創作落語、自作の落語まで幅広くこなす。と紹介したがその通りの爆笑高座が繰り広げられた。
『左妻』の出囃子で高座の袖から顔を出すと会場からは待ちかねたような拍手喝采が起こる。
「続きまして上方落語界の寝起きのジュリー、桂三若で・・」と、ツカミもバッチリ。
「神戸は地元でございまして生まれましたのはパルモア病院(JR元町駅の山側)・・・」と、紹介すると会場のあちこちで反応が有る。
さらにマクラで爆笑を誘った後、始まった演題は爆笑古典落語の『ちりとてちん』。
この噺は、元々、東京に古くからあった『酢豆腐』を、明治の名人三代目柳家小さん師匠の高弟が、改良を加え作り上げたのが『ちりとてちん』であり、それが上方に伝わり多くの演者の手が加わり爆笑噺に仕上がった。
 東京では、現在、その元となった『酢豆腐』は先代文楽、志ん朝師匠らが演じる腐った豆腐を食べさせられる若旦那が困り果てるおかしみのある噺として、『ちりとてちん』は柳家のお家芸として五代目小さん師匠らが十八番として有名な噺となっている。
 三若師のそれは知ったかぶりを困らせるために、同じく腐った豆腐に加工を加えて食べさせる噺で、こちらの方が強烈なので笑いも大きい。
 さらに、腐った豆腐を腕によりを掛け加工する。
色々な物を混ぜたり唾を掛け、仕上げに箱書きに「元祖」と付け加える。若さを生かして全編、押して押して演じる。十八分の充実しきった元気一杯の高座に会場は爆笑の連続であった。
汗を拭く拭き着替えを終え、「また頼みます」と、繁盛亭での三枝一門会に向かう三若師であった。

 三つ目は米朝一門から桂米左師が久々の出演(平成十六年八月以来)となった。
昭和五十九年入門でキャリア二十二年で、米朝師匠から多くの噺を口伝され、長唄囃子望月流名取を生かして磨きを掛けて演じる師匠である。
 当日は早くから楽屋入りされ実に嬉しそう。落語が好きで好きでたまらないといった様子である。
『勧進帳』で登場した米左師匠、「ありがとうございます。続きまして私の方でお付き合いを願っておきますが、笑い疲れもあると思いますが私の方は休憩時間と同じように考えて頂きまして・・・」と、「嬉しい限りでございます。
中にはお世辞の良いお客様などは『待ってました!』なんか言って頂ける」会場からはキッチリ『待ってました!』と声が掛かる。それを受けて「ありがとうございます。やれば出来るじゃないですか」と返す。実に計ったようなカエシである。
そして、「声を掛けて頂く商売。歌舞伎なんかがそうで・・」と、歌舞伎の掛け声の話題。息と間で掛ける実例や大阪と東京の掛け方の違いを説明して本題の『七段目』がスタート。
本日トリの十八番の噺である噺を師匠の目前で演じる。ここらが当席の真剣勝負の所以。この噺、当席では小米朝、文珍、新治、む雀師匠らの名演があり、特に故人となられた吉朝師匠は三度演じられておられる。
その達者な演者が手がけられた噺をこれも芸達者の米左師匠が演じるのだから悪かろう筈がない。
お囃子との息もピッタリで歌舞伎の一場面を演じる様、随所で拍手が起こる盛り上がった名演であった。

 中トリは松鶴一門から笑福亭鶴志師匠。師匠直伝の豪放磊落の上方落語の大物を数多く持ちネタにされている師匠。本日は中トリで大ネタを披露となった。
師匠である六代目松鶴師匠の出囃子の『船行き』をアレンジした『船行きくずし』で、巨体を揺すって高座へ登場。
会場から『タップリ!』と、声が掛かる。
 始まった演題は、師匠譲りの上方落語の大物『らくだ』。
 当席でのこの噺は過去、七師によって演じられている。昭和五十四年八月に初の独演会を控えての先代小染師匠が、当然のこと笑福亭松之助師匠。文紅師匠は文團治師匠直伝の噺として、さらに、六代目松喬師匠が『襲名お目見え公演』で、文珍、雀三郎師匠がトリで演じられた。
 そして、記憶に新しい昨年二月の鶴瓶師匠の熱演は記憶に新しい。
 その噺を弟子の中で最も師匠に似ていると自他共に認める鶴志師匠が。随所に松鶴師匠を感じるのだが、すっかり鶴志師匠の『らくだ』である。
脳天の熊五郎の迫力、酒で豹変するくず屋、を中心にゆったりとそしてテンポ良く噺が進展していく。
爆笑やホロリとさせるクダリを織り交ぜ、出棺の前で「らくだの半ばでございます」と高座を下りた師匠、自身も会場のお客様も大満足であった五十分の長講であった。

中入りをやや短めにとってカブリは、五代目林家小染師。
今回もこの位置(中入カブリ)で爆笑上方落語を愛嬌タップリに演じて頂けましたが今回もと多くのファンの期待の拍手の中、「ちゃかちゃんりん」と
いかにも上方らしい『たぬき』の出囃子で登場。
いつもながら愛くるしい笑顔で登場して、「今日は熱演揃いで私の方は、すっと下りますので」と、さっそく本題へ。演題は『浮世床』。上方では比較的珍しいといえる噺で、露の五郎兵衛師匠の十八番である。
 小染師匠も床屋でのスケッチを滑稽に演じる、実に結構な出来。会場も自身も大満足な十五分であった。
自身もHPの日記は嬉しいことに愛情タップリであった(詳しくはHPをご覧下さい)。

 そして今回のトリは桂小米朝師匠。しかも初のトリ。
会場入りされた師匠に挨拶に伺ったが、ピリピリと気迫が伝わってくる。
八時四十五分、『元禄花見踊り』に乗って高座へ登場する。会場からは待ちかねたように本日一番の大きさの拍手が起こる。
「えー、今、九時十五分前ですが、九時回ってもよろしいか?」と、会場に問いかける。勿論、会場は拍手でYESの意思表示。
 米朝師匠の近況を面白く伝え、始まった演題は『猫の忠信』。
発端からサゲまで半時間。実に結構な出来であった。
圧巻はサゲ前の芝居仕立てになるクダリ。「申ぉします、申ぉ〜します」と(芝居掛かり)となり、「頃はぁ人皇【にんのう・神代と区別を意味し、神武天皇以後の天皇のこと】、百六代。正親町(おぉぎまち)天皇【織田信長・豊臣秀吉らの時代の天皇】の御宇【ぎょう・天子の治世の期間】。山城大和二か国に、田鼠【でんそ・モグラの異名】といえる鼠はびこり、・・・・。高貴の方に飼われたる、
三毛猫の生皮をはぎ三味に張り、天に向かいて弾くときは、田鼠直ちに去るとある。わたくしの両親は、伏見院さまの手もとに飼われ、受けし果報が仇(あだ)となり、生皮剥がれ三味に張られました・・。
流れながれてその三味が、ご当家さまにありと聞き、かく常吉さまの姿をば借り受け、当家へこそは、入(い)り込みしが……、あれあれあれ、あれに掛かりしあの三味の、表皮は父の皮、裏皮は母の皮、
わたくしはあの三味線の、子でございます」
 その迫力に思わず身震いしてしまったのは小生だけではなかった筈である。
どうでもよいことであるが、この時代に三味線はないし、三毛猫のオスは非常に少なく、さらに、
生殖能力がない。この猫の父親は?
 会場を後にされる多くのお客様から大満足な感想を述べられた。(叶大入)