もとまち寄席 恋雅亭
公演記録    第337回
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 公演日時: 平成18年 9月10日(日) 午後6時30分開演
  出演者      演目
  笑福亭 た  ま ホスピタル
  林家  そめすけ 「ろくろ首
  桂   春  雨 「悋気の独楽
  桂   千  朝 「一文笛
  中入
  桂   あ  「サカイのひとつだけの花
  笑福亭 福  笑入院(主任)
                  
   打出し 21時 5分
     お囃子  林家和女 勝 正子
     手 伝  桂 三ノ助、露の 楓

 「新春初席」から数えて九回目の九月公演。過去八回は全て大入り公演。
今回の九月公演も当席おなじみの出演者がズラリ揃って、さらに日曜日の公演とあって、前売、メール予約も四日前に締め切り。前売りは前日までに完売。今回も大入り、間違いなしの状況で当日を迎える。
当日は朝方、大雨。困った、困った。昼過ぎ雨も上がって一安心。今回も多くのお客様が列を作られる中、準備を急ぐ。チラシも次々に到着し、そのチラシを人海戦術で織り込む。その数、十枚を超える量。実に多い。そして、お客様の出足はいつも通り絶好調。その後もお客様の出足は衰えることなく、本通りから脇道へ長〜く続く。雨が降っていたらどうしようと胸をなでおろす。そして、定刻の五時半開場。列を作って待っておられたお客様がご入場され席が次々と埋まっていく。長いすもいれるがそれでもパンク。急遽、風月堂さんからパイプ椅子を借りて並べるが多くのお客様が立ち見となってしまう。申し訳ない。出演者も次々と到着し準備万全。

 その満席の会場に二番太鼓が鳴って、祈が入って林家和女、勝正子の両嬢の奏でる『石段』の出囃子に乗って本日のトップバッターのトリの福笑一門・総領弟子で京都大学出身の逸材、秀才笑福亭たま師。師匠譲りの切り口の鋭い笑いと口跡の良さと明るい芸風。上方落語界の逸材で当席の心待ちにされていた多くのファンが万来の拍手で迎える。「たま!」と声もかかる。「まあ、ご挨拶代わりにショートラクゴを」と、たま流の小咄が。
 『銃撃戦』「バキューン、バキューン、隊長、向こうから撃ってきました」「負けるな」「撃て、撃て」「うっつーーー」「隊長、どないしました、隊長、大丈夫ですか」「お前、足踏んでるねん」『駐車場』「うーん、キッ。あかん白線からはみ出たな。もういっぺんやり直しやなぁ」「うーん、またやり直しや。うまいこと白線入らへんなぁ」「早いこと救急車止めて下さい」『貧乏一家』「お父さん、私らなんでこんな、山菜とか鮎とかしか食べられへんの。もっと、お肉とかご飯とか食べたいわ」「しゃあないやないか、うちは上流家庭や」『ローマ法王のデコピン』「バチカン」で、始まった演題は自作の『ホスピタル』。
 古典落語の中にある笑いのポイントを師匠譲りの鋭い感性で練り上げた、創作落語は、「病院に伝わる怪談」をバックボーンに次から次に登場する個性豊かな登場人物が繰り広げる発端から考え抜いたストーリーと随所にちりばめられた笑いのポイントが場内を大爆笑に。「あっ」というサゲまでの高座は師匠の教え(トップは行儀良く)を忠実に守った十五分であったが、会場は満腹であった。

二つ目は、染丸一門から林家そめすけ師。この師匠、一門のもっちゃりこってりをベースに現代っ子のイメージ。やや一門のカラーとはやや違う芸風ですが、今回も元気一杯。
飛び出すように高座へ登場して天満繁盛亭の話題と、自身の味わった「恐怖の新快速内お小水漏れ防止事案」で笑いを誘って本題の『ろくろ首』が始まる。
 東西でお馴染みの滑稽噺だけに多くのお客様がご存じであるので、以外と難しい噺である。 その噺を発端からサゲまで十八分。オーソドックスに奇をてらうことなくキッチリと演じる。

 そして、三つ目は春団治一門から桂春雨師。この師も当席常連である。スマートな体型と一門伝統の風貌で演じる愛くるしい爆笑落語を期待されるお客様の拍手に迎えられ芸名と同名の『春雨』の出囃子で高座へ。
「えー、最初にお断り申しておきますが、顔色悪いでしょう。調子がむちゃくちゃ悪いです。血圧が上が九十しかありません。どんどん下がっておりまして、病院へ行ったら、判りやすく言うと『栄養失調』ですわ」と爆笑マクラ。
 始まった本題は風貌、イメージピッタリの『悋気の独楽』。発端からサゲまで、故人になられた文枝師匠や、兄弟子の春蝶師匠の十八番であった口演を彷彿とさせる二十二分のこれも名演であった。
 さて、ここで定吉が食べた上用の饅頭に入っていた熊野の牛黄散(ごおうさん)は、人参と調合された薬効のある薬で、効能は虚弱体質、肉体疲労、病中病後、胃腸虚弱、食欲不振、血色不良、冷え症など、決して嘘をついても血を吐いて死ぬことはない(春雨師匠の回復の特効薬か)。もっとも、『三枚起請』に登場する熊野誓紙に書いた起請文は、牛王宝印による誓約は、神に誓うことであり、その誓いを破れば、熊野の烏が死ぬとされている。

 中トリは米朝一門から桂千朝師匠。『本調子かっこ』の名調子に乗って高座へ登場し、ゆったり話し始める。「えー、この頃は色々な処で落語を聞くことが出来ますが、ちょっと前ですが私が、なんばで『たちぎれ線香』を演じている丁度その時、師匠の米朝が、本町で『たちぎれ線香』を・・・。私が東京で独演会を開いてた同じ日、小米朝が東京で・・・・。あの親子は私に挑戦的な態度を・・・。ちょっと言うてきかさなあかんと思っておりますが・・・」とマクラで笑いを誘って、盗人と言いましてもちょっと違うと思っておりますのがスリというやつでと本題の『一文笛』が始まる。
 原作者の米朝師匠からの口伝の噺であるので悪かろう筈はない千朝師匠の口演は、一門にあっても絶賛の声が挙がる逸品。余裕のある語り口調と安心感をもたらす高座態度、さらに、師匠に鍛えられた目線の確かさで語る上方人情噺。会場全体が出来の良さに唸り、満足した半時間であった。
 この噺にも多くの大阪弁が登場する。「あけへん」「ぎょうさん」「テコに合う」「ぬかす」「すっくり」。そして、サゲも「兄貴、わい、ギッチョやねん」と。

 中入りカブリは、文枝一門からご存知桂あやめ嬢。
神戸出身の女流。ここは説明は不要。今回もますます磨きのかかった自作の爆笑創作落語をお楽しみに。期待倒れは「O(ゼロ)」です。と、ご紹介したが絶好調での出演となった。事前に「女性自身」の取材を受けて、『あやめ浴衣』の名調子に乗って高座へ。会場全体からは「待ってました」とばかりに大きな拍手が。
 えー、・・・。繁盛亭が始まりました・・。」と、繁盛亭の話題からマクラが始まる。「上方笑女隊」の切符拡販。そして、愛娘の「なごみちゃん」のお誕生会を大阪・天王寺で「茶臼山舞台」で開いた話題と爆笑マクラが続く。そして、世界で一番唄われて曲として「ハッピバースデー」。スマップの「世界でひとつだけの花」を紹介して、その歌につっこみを入れた創作落語「フラワーアレンジメント落語」『サカイにひとつだけの花』が始まる。この噺、「花」を擬人化した見る噺である。
 見台の上に自ら作成した花を並べて細かいことまで調べに調べて、噺の中に織り込んでいる。まずは「フラワーショー」のぼたん・ばら・ゆりが登場。会場は好反応で爆笑。「カーネーション」「かすみ草」「菊」、そして、「胡蝶蘭」と次々と登場する花。「そうそう」とのクスグリに随所で大爆笑が起こる。 いつも感じることだが、噺の内容が、毎回判りやすく、シンプル。笑いのツボがどんどん投げ込まれ、再演を大いに期待したい二十二分の高座であった。

  さらに、当席には一昨年の師走公演に出演頂いた、林家染雀師との音曲漫才ユニット「姉様キングス」も三味線とバラライカを手に小唄、都々逸、阿呆陀羅経などに時事ネタを折り込み、ここでも「懐かしくて新しい」身近なことのネタを膨らませ笑いに変える。こちらも絶好調である。

  さて、九月公演のトリは、当席出演最多の笑福亭福笑師匠。
ネタは「恋雅亭では『入院』!」と、『彦八祭り』で公言されておられた。当日も楽屋入りされた師匠、本日もパワフル。エンジン全開である。『佃くずし』の軽快な出囃子で飛び出した師匠を会場全体から沸き起こるような拍手、掛け声が迎える。しばらく鳴り止まなかった拍手を待って「えー、もう一席でございまして・・・」「この頃、音に敏感になっておりまして・・・」と、のっけから福笑師匠ワールド。
「ピャ!ピャ!ピャ!」「ガチンコチン!」と、激しい擬音やギャグの大津波が押し寄せ、大旋風を巻き起こす。早口でグッと盛り上げ「・・・。そんな大変な中、ようこそお越しくださいまして」と、ドッと笑いを誘って本題へ。
 病院を舞台とした、ストーリーは、いつものように師匠が計算、計算しつくされた笑いの方程式なのであるが、それを感じさせない。なんで面白いのか分からないのにとにかく面白い。なんで笑てしまうのか分からないのに笑ってしまう。
会場の好反応に乗って師匠自身も高座で大暴れ。実に楽しそうに演じられた福笑師匠であった。