もとまち寄席 恋雅亭
公演記録    第336回
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 公演日時: 平成18年 8月10日(木) 午後6時30分開演
  出演者      演目
  桂   吉  弥 「青菜」
  笑福亭 銀  瓶 「千早振る」
  桂   坊  枝 「船弁慶」
  桂   小  米 「夏の医者」
  中入
  桂   文  福 「タヌキハブラシ」
  笑福亭 仁  智 「川柳は心の憂さの吹きだまり」(主任)
                  
   打出し 21時 5分
     お囃子  林家和女 勝 正子
     手 伝  笑福亭たま、智之介、桂 まめだ、露の 楓

「新春初席」から数えて八回目の八月公演。過去七回は全て大入り公演。
今回の八月公演は当席おなじみの出演者がズラリ揃っての公演とあって、前売、メール予約も好調に推移。前売りは前日までに完売寸前。今回も大入り、間違いなしの状況で当日を迎える。
 梅雨も明け、猛暑の当日、多くのお客様が列を作られる中、準備を急ぐ。チラシも次々に到着し、そのチラシを人海戦術で織り込む。その数、十枚を超える量。そして、お客様の出足はいつも通り絶好調。その後もお客様の出足は衰えることなく、本通りから脇道へ長く続く。
 定刻の五時半開場。列を作って待っておられたお客様がご入場され席が次々と埋まっていく。出演者も次々と到着し準備万全。

 その満席の会場に二番太鼓が鳴って、祈が入って林家和女、勝正子の両嬢の奏でる『石段』の出囃子に乗って本日のトップバッターの吉朝一門・二番弟子で神戸大学出身のご当地咄家でもある、桂吉弥師。師匠譲りの口跡の良さと明るい芸風で当席への出演回数も同期では群を抜く最多の五(『犬の目』『桃太郎』『軽業』『犬の目』『青菜』)を数える。
 その吉弥師、NHKの大河ドラマに出演したり、東京での会など、多方面で大活躍。早くから楽屋入りして準備万全で高座へ。マクラもそこそこに本題の夏の噺の代表作『青菜』が始まる。亡き吉朝師匠の薫陶よろしく実に見事。十七分の高座であった。

 二つ目は、鶴瓶一門の「銀ちゃん」こと笑福亭銀瓶師。
当席常連で七回目(『子ほめ』『書割盗人』『千早振る』『牛ほめ』『七度狐』『お近いうちに』『千早振る』)の出演。
ダンディにきめての楽屋入り、現代っ子のイメージではありますが、落語に真剣に取り組む姿勢は鶴瓶師匠も大いに期待する本格派であります。
一時期、師匠が、古くはダイマルラケット先生の出囃子でもあった『拳』の出囃子高座へ登場。
「えー、ただ今は吉弥さんでございまして、私の妻も『今日吉弥さんといっしょや』と言うと『吉弥さんとは仲良くしときよ』とアドバイス。『僕には期待してないんか』と言うと『だって、吉朝師匠のお弟子さんやもの』ですわ。どうせ、私は我流や、しゃあないやないか。師匠が教えてくれへんもの」と、爆笑マクラから、家族の話題を経て本題の『千早振る』がスタート。
百人一首の意味を珍解釈するおなじみの噺で別名を『竜田川』。爆笑噺とあって多くの演者が名演を披露している。その噺を背骨はキッチリと口伝通りに、随所に自身の工夫をこらしての好演である。
二十一分の高座は大喝采のうちにサゲとなった。
 ちなみに、古典落語に登場する百人一首を扱ったクダリは多数あるが、噺の骨子として演じられるのは「ちはやぶる神代もきかず竜田川からくれなゐに水くくるとは」在原業平朝臣(ありはらのなりひらあそん)と、「瀬を早やみ岩にせかるる滝川のわれても末にあはむとぞ思ふ」 。崇徳院(すとくいん)の二首でどちらも有名な噺。

 そして、三つ目は文枝一門から桂坊枝師。この師も当席常連で愛くるしい笑顔から繰り出される爆笑落語を楽しみにされておられるファンも多い。
 今回で十二回目となる師匠は過去、『時うどん』『手水廻し』『あみだ池』『色事根問』『牛ほめ』『天王寺詣り』『けいこ屋』『火焔太鼓』『野ざらし』と好演が続いている。
 特に前回は、三月十日の出演。師匠の文枝師匠の最後を看取ったのは坊枝師匠で、この日も「師匠、今から恋雅亭へ行ってきます」と挨拶しての『天王寺詣り』の口演であった。

今回も小生と談笑。
坊枝師 「今日は、師匠のここ(恋雅亭)での最後の口演になる『猿後家』か口演回数が一番多
 かったし季節柄『船弁慶』かと思ってるんやけど『船弁慶』は長いしなぁ。
劇場では、師匠途中で切ってようやってはった」
小 生 「『恐妻』でしたねぇ」
坊枝師 「そうそう。けど、ここでは中途半端やし」との会話の後、『鯉』の出囃子で高座へ登場。

 「えー、続きまして坊枝の方でお付き合いを願いますが、ここは皆、力が入りますねん。そやから長くなりますねん。えー、今日は『船弁慶』を演(や)ろうと思ったんですが、三人で一時間でと言われておりまして、一分でもオーバーすると二年間出演停止。五分オーバーで五年間出だしてもらえない。さらにそれ以上になりますとその上に前座からやりなおしの処分を受けますねん。二十二分残ってますけど、迷ってます・・・。まあ、小米師匠は小米ワールドですし、トリの仁智師匠は創作落語ですし、兄弟子の文福師匠は師匠(文枝)を受け継いでおられません」
 ここで袖から文福師匠が「こら!ええ加減にせえ!」と言いながら顔を覗かせる(会場大爆笑)。すかさず坊枝師匠がフォローを入れると太鼓をポンと叩いてOKの合図。
 そして、一呼吸あって「おい、暑いやないか家にいてるか・・・」から師匠の十八番で直伝の『船弁慶』が師匠と同じトーンの声の高さで始まる。
 喜六、清八、雷のお松っさんなど上方落語のスターがズラリ登場し、お囃子もタップリ入った大物である。
前回の『天王寺詣り』同様、師匠直伝を感じさせる好演。目をつぶって聴いていると、文枝師匠を彷彿とさせる。船での夫婦喧嘩の祈りのクダリでは会場から拍手が起こる名演。三十三分。一分で一年のペナルティで計算すると十三年出演が延びるのであるが、それを一気に反古にして来月も出演して頂きたいような好演・熱演であった。

 続いては中トリの米朝一門から桂小米師匠(当席は二十三回目の出演)。
 昭和四十四年の入門でキャリア三十七年。先代小米(故枝雀)師匠の出囃子でもある『さらしくずし』の軽快な囃子で登場し、「えー、迷ったんですが師匠の米朝が骨折しまして・・・」と、マクラに米朝師匠の近況をご紹介する。これが実に面白く、おそらく小米師匠でなければ語れないような内容(紙面では紹介しにくいのでカット)
そして、「体は大切ですし、お医者さんが頼りです」と師匠直伝の上方落語をベースに軽妙な小米落語を織り交ぜての『夏の医者』が始まる。
鳥取県出身の師匠ならではの、どこの方言か全くわからない落語国の言葉をたくみに使ってのホンワカムードの好演。季節感も真夏。古典落語の時代にはどこにでもあったような田舎でのありそうもないような事が起こり、お客様の頭の中のスクリーンにクッキリと情景が描き出せる落語の中でももっとも落語らしい噺である。
 ちなみに、ここで出てくる大蛇=ウワバミは蟒蛇と書く。
サゲの「夏の医者(チシャ)は腹に障る」のチシャは苣と書く。ところで、苣はキク科の一年草で、レタスやサニーレタスなどと同じ植物で、その食感の良さで古くから食されています。 急病の原因は葉に付いていた虫のためか、あまりにおいしかったので、食べ過ぎたのか貴方はどちらだと思いますか。

 中入りカブリは、文枝一門からご存知桂文福師匠。
この師匠も当席では常連で三十二回目の出演を数える。『マリと殿様』の出囃子で登場すると、「バァー。えーありがとうございます。芸名桂文福。本名を松浦アヤヤと申します」と、爆笑マクラがスタートする。ボクシングの亀田、相撲の白鵬と紹介して「相撲甚句」「なぞかけ」。
 そして、「河内音頭」と文福ワールド全開。十四分経過して、ここから本題と『タヌキハブラシ』がスタート。合計で二十八分の口演、会場は大満足であるし、ご当人も。

 さて、八月公演のトリは、当席出演五十回目となる笑福亭仁智師匠。
文福師匠の明るい高座を引き継ぐように『オクラホマミキサー』の軽快な出囃子で登場。「えー、後半はバラエティショーでございまして」と一言で、会場から大爆笑を誘い仁智ワールドへ。
「ただ今は文福さんでお客様満腹」。そして、ちょっとひねった小噺を三つ演じて、自作の創作落語『川柳は心の憂さの吹きだまり』がスタート。サラリーマン川柳をト書き風に織り込み、どこにでもあるサラリーマン家庭を描いた、肩のこらない秀作。その一つ一つの川柳に会場から「そうそう」大爆笑が起こる。
トップからトリまで、当席ならではの顔ぶれの大入公演であった。

** 笑福亭仁智編・サラリーマンの悲哀川柳 **
・ 我が家では、子供ポケモン、パパのけもん。 ・ 孝行を、したくないのに、親がいる。
・ ダイエット、今食べたのは、あしたの分。 ・ おーいお茶、自分で入れて、妻を呼ぶ。
・ まだ寝てる、帰って来たら、もう寝てる。 ・ ご飯よと、呼ばれていけば、タマだった。
・ 適量のお酒。大人の常備薬。  ・ 適量を、知った時には、入院中。
・ 飛び乗った、最終電車が、逆方向。 ・ JRなんばで乗ったのに又なんば。
・ 携帯の、電波届かぬ、マイホーム。 ・ 上司から、貰った犬も、頭が高い。
・ 朝出した、粗大ゴミが、夜帰る。  ・ なぜ太る、同じ食事で、妻だけが。
・ 目は一重、顎は二重で、腹は三重。 ・ 久々の、化粧に子供、あとずさり。
・ 共白髪、約束したのに、亭主ハゲ。 ・ 子は耳に、親は帳簿に、穴を開け。