もとまち寄席 恋雅亭
公演記録    第335回
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 公演日時: 平成18年 7月10日(月) 午後6時30分開演
  出演者      演目
  桂   雀  喜 「鷺取り」
  月亭  遊  方 「戦え!サンダーマン」
  笑福亭 達  瓶 「ちゃめ八」
  桂   都  丸 「鯛」
  中入
  露 の   都   「みやこ噺」
  月亭  八  方 「算段の平兵衛」(主任)
                  
   打出し 21時30分
     お囃子  林家和女 勝 正子
     手 伝  桂 ちょうば、露の楓

 「新春初席」から数えて七回目の七月公演。過去六回は全て大入り公演。
今回も出演者も揃っての公演とあって、前売り、メール予約もは好調に推移。前売りは前日までに完売寸前。今回も大入り、間違いなしの状況で当日を迎える。当日は梅雨明け寸前であるが、雨が振ったらどうしようと心配が募る。その念力が通じたのか当日は晴れ。お客様の出足はいつも通り絶好調。チラシも次々に到着し、織り込みを急ぐ。その後もお客様の出足は衰えず、本通りから脇道へ長く続く。そして、定刻の五時半開場。列を作って待っておられたお客様がご入場され席が次々と埋まっていく。出演者も次々と到着し準備万全。

 その満席の会場に二番太鼓が鳴って、祈が入って林家和女、勝正子の両嬢の奏でる『石段』の出囃子に乗って本日のトップバッターの雀三郎師匠の総領弟子の桂雀喜師がその愛くるしい笑顔を会場いっぱいに振りまきなが高座へ登場する。紹介欄には二度目のご出演と紹介したが、三度目のご出演であり誤った情報を流してしまいました。謹んでお詫びいたします。
その雀喜師、師匠や大師匠(故枝雀師匠)譲りの口跡の良さで最初からパワー全開。「えー。雀(すずめ)喜ぶと書きまして雀喜(じゃっき)と申します」と、自己紹介して、各地で行われている食事付きの落語会を紹介。さらに、お寺での公演では、お葬式と初七日の間の二時間の落語会を紹介し満席の会場の爆笑を誘う。
 そして始まった演題は師匠、大師匠で上方落語屈指の爆笑落語に練り上げた『鷺取り』。この噺は『商売根問』から発展して主人公が鷺を取りに行く爆笑編。テンポ良くトントンと噺は進行し、天王寺の五重塔から飛び降りて一工夫されたサゲとなる。
この雀喜師、声が良く通る。最後部の閉まったドアを通り越して木戸口まで聞こえる。鍛えられた練習の成果であろう。

 二つ目は、トリの八方一門の月亭遊方師。この師匠も当席常連で、現代感覚で演じられる創作落語のファンも多い。今回も元気一杯の高座は疑いなし。早くから楽屋入りし、チラシの挟み込みも中心となって活躍。楽屋で今日の演題に悩む込む。自身の会の客層とやや違う当席で、今出来上がったばかりの噺をするか? 「まだ、繰れてないし、時間も長いし、けど、内容には自信が・・・・」
意を決して『岩見』の出囃子で高座へ。
「えー、ありがとうございます。今日は皆さんにも参加して頂く落語でございまして・・・」と、昔のヒーロー(ウルトラマン・仮面ライダー)を紹介して、スーパーの屋上であったヒーローショーの想い出から場全体が大声でヒーローの名前を呼び登場させる練習。二、三度会場全体を大声で叫ばして、本題の『戦え!サンダーマン』が始まる。家族連れで一杯のヒーローショーに突然、警察に追われた犯人が乱入。会場はパニックに・・・・。半時間に及ぶ大騒動の創作落語は会場全体から大きな笑いを誘ってサゲとなる。

そして、三つ目は鶴瓶一門から笑福亭達瓶師。
この師も現代派。男前の多い一門でも一二を争う師匠で、いつまでも若々しい高座にはファンも多い。今回は三つ目での登場。この師匠も早くから楽屋入りしてチラシの挟み込みを手伝う。「実は師匠に怒られましてん。『もっと、落語の勉強をせえ』。ちゅうて、『お前は行き易い処にしか習いに行かへん。そやからあかんねん』と、言われまして『この師匠のこの噺を付けてもらいに行ってこい』と、大変なこと言われましてん。三代目師匠に『お玉牛』でっせ。大変なことですわ。いきなり伺ったら失礼やし・・・」と、落語への意気込みを語る。
 元気一杯に高座へ登場して、「えーありがとうございます。続きまして、達瓶の方でお付き合いを願いまして・・・」と、鶴瓶師匠に連れていってもらった京都の床での爆笑噺を披露。鶴瓶師匠の策略と居合わせた人の勘違いで、ちょうど京都で公演中だった『ゆず』と間違われたのでさあ大変。最後まで騙しきって兄弟子に自分の荷物まで持たすおまけ付きの爆笑マクラである。
 そして始まった演題は『ちゃめ八』。
この噺、上方では三代目林家染丸、二代目桂枝雀の両師匠をはじめ現在も多くの噺家諸師が口演されていますし、東京では『王子の幇間』として『昭和の名人』八代目桂文楽師匠の十八番である幇間持ちが主人公の噺である。原作は明治初期、東京で大活躍した初代三遊亭円遊師匠作とあるが詳しくは薄学の小生としては存じ上げない。ええ加減な幇間をこらしめてやろうと、最初は乗せて、駆け落ちを持ちかけその気にさせて、これもあれもと荷物を持たす無理難題を持ちかけるおめかけさん。それに苦悩する幇間をいかにも軽く、師匠自身の持ち味を最大限生かし、滑稽に演じた二十八分の秀作であった。

中トリはざこば一門の総領、桂都丸師匠。前回、中トリで上方落語の大物『千両みかん』をタップリ演じている師匠で、今回も何が飛び出すか楽しみの会場にお馴染みの軽快な『猫じゃ猫じゃ』の出囃子を流れる。楽屋では過去のネタ帳をじっくり見ながら演題を考慮され袖にスタンバイ。
この時点で演題は決定していた。お茶子さんの高座準備が出来るのを待って、「タップリ」と小生が声を掛けると笑顔で応え巨体をゆすりながら高座へ登場。会場全体から大きな拍手が起こる。「えーどうぞ私の方もお付き合い願っておきますが・・・」と、最近お金を出しても食べられなくなった鯨の話題から、食べ物の話題の爆笑マクラ続いて始まった演題は、桂三枝師匠の創作落語『鯛』。
三枝師匠から多くの噺家諸師に口伝されている噺であるが、都丸師匠が当席の中トリの演題として選んだだけあって秀作である。
 とある居酒屋のいけすにやってきた(?)鯛の新入りロク。間一髪、板さんの手網から脱出し、いけすの仲間うちから歓声で出迎えられたヒーロー・新入りのロク。正真正銘、天然の明石の真鯛のロクをこのいけすの主(ぬし)ギンギロはんが自分の後継者として暖かく迎える。そして、ポイントは体力でなく知力といけすでの生き残り方を伝授。納得の連続のその時、板さん手網が迫っくる大ピンチ。ロクとギンギロはんは見事に切り抜けることができたのか、運命やいかに。手に汗握るいけすの中のスペクタル巨編である。大爆笑連続の三十四分の口演であった。

  大喝采のうちに中入りとなる。中入り後の都師匠のマクラで判るがいつもより半時間遅れの中入りとなった。中入りカブリは、五郎兵衛一門から女流露の都師匠。今回も明るい大阪のおばちゃん的高座は大爆笑疑いなし、昨年の四月から満を持しての再演。『都囃子』の出囃子で登場すると、さっそく都ワールドへ会場全体を誘う。
「えー、いつも風月堂さんは一杯で・・。違う違う恋雅亭さんや。私、食い意地が張ってるから、すぐ間違えますねん。餃子が食べたくてねぇ。元町には美味しい所が多いので頼み込んで出してもらいましてん」と、さらに、「実は今日は八方師匠がちょっと遅れはりますねん。『都さん長めに』と言われましてん。任せときですわ。こないだ東京でマクラ四十五分、ネタ五分ちゅうのんありましてん」と、場内を大爆笑に誘って『みやこ噺』がスパークする。
大阪のおばちゃん(神戸も含む)が繰り広げる世間話そのままに、次々繰り出される、みやこ噺は場内を爆笑の嵐に巻き込む。
 そして、二十分。狙い済ましたような降りる合図の遊方師匠の「チン」が鳴る。グットタイミング。文句なく面白い高座であった。

  さて、七月公演のトリは、TV・ラジオで大活躍の月亭八方師匠。
今回(当日も)も大変多忙の中、二つ返事でOK頂いての出演となり、到着。『夫婦萬歳』の出囃子(笛はちょうば師)で登場する。「えー暑いですぁ特に大阪の夏は、世界最高ですわ。花月に来てたケニアの人が『二度とこん』ちゅうてました。けど、昔、我々の子供の頃はクーラーなんかなかったです。避暑のこつは動かないこと・・・」と、爆笑マクラから本題の『算段の平兵衛』が始まる。この噺は八方師匠の大師匠にあたる桂米朝師匠が復活された噺で八方師匠も十八番として数多く(当席では二度目)演じられている。その噺を発端から丁寧に、自身のアドリブも随所に折り混ぜながら演じ、庄屋の死体に盆踊りをさせるところでは場内から拍手も起こる。
「さて、この後どうなりますか。八時間半ほどかかります。算段の平兵衛でございました」と締めくくった半時間の口演は大爆笑の連続であった。