もとまち寄席 恋雅亭
公演記録    第334回
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 公演日時: 平成18年 6月10日(土) 午後6時30分開演
  出演者      演目
  桂   三 ノ 助 「にぎやか寿司」
  桂   こごろう 「野崎詣り」
  露 の 吉  次 「夢  八」
  笑福亭 松  枝 「莨 の 火」
  中入
  笑福亭 学  光 「鬼 は 内」
  桂   南  光 「義  眼」(主任)
                  
   打出し 21時05分

     お囃子  林家和女 勝 正子
     手 伝  笑福亭たま、露の楓、団姫
 「新春初席」から数えて六回目の六月公演。過去五回は全て大入り公演。
今回は南光、松枝の両師匠の競演、土曜日、とあって、前売り、メール予約は絶好調。前売りは24日に売り切れ、メール予約も25日に締め切る。前月に前売り券が売り切れることはちょっとないこと。その後、電話が鳴りやまなくなってしまった。爆発的な大入り、間違いなしの状況で当日を迎える。
 五月は異常気象。日照時間が少ない。六月になって晴れの日が続いたが、梅雨間近。雨が振ったらどうしようと心配が募る。その念力が通じたのか当日は晴れ。土曜日とあってお客様の出足はいつもに倍して絶好調。チラシも次々に到着し、織り込みを急ぐ。その後もお客様の出足は衰えず、本通りから脇道へ長く続く。用意した当日券も売り切れ、立ち見整理券を配る。定刻の五時半を十分早めて開場。列を作って待っておられたお客様がご入場され席が次々と埋まっていく。すぐに椅子がなくなり、風月堂さんに無理を言って食堂の椅子まで借りる。長椅子も入れるがそれでも立ち見が出てしまう。
 その満席の会場に二番太鼓が鳴って、祈が入って林家和女、勝正子の両嬢の奏でる『石段』の出囃子に乗って本日のトップバッターの三枝一門の桂三ノ助師がその愛くるしい笑顔を会場いっぱいに振りまきながら巨体を揺らして高座へ登場する。場内から大きな声援と拍手が起こる。
桂三ノ助師は昭和46年1月生まれの35歳。キャリア10年になる。
地元神戸出身で、滝川学園高等学校(野球部)から、神戸学院大学(落語研究会)を卒業し三枝師匠の十番弟子となる。愛くるしい巨体を生かしてのパワフル落語を引っさげての嬉しい、待ちわびた初出演とあって元気一杯。
「えー、ただ今より開演でございます。恋雅亭始まりました。さあ一番最初に出て参りました私でございますが、恋雅亭、はしゅ、言えてませんか初出演でございます。大丈夫でございます。桂三ノ助でございます」と、噛んだことを笑いに変えスタート。
 自己紹介を兼ねたマクラは会場全体から笑いを誘う。高校の野球部では肩を壊して(ピッチャーではなくコーチBOXでの腕の廻し過ぎ)引退。六年かかって大学を卒業して、三枝師匠に入門。師匠に寿司を食べに連れて行って貰った時のスナップで笑いをとって本題へ。師匠の創作落語の直伝を受けた『にぎやか寿司』が始まる。
 この噺、三枝師匠の創作落語の中でも比較的初期の部類に入るもので昭和五十三年九月と、今から三十年も前の作であが古さを感じさせない良作。その噺を自身の工夫と明るい高座を生かして演じる。十六分の会場も自身も大満足な初出演であった。

 二つ目は、トリの南光一門の桂こごろう師。この師匠も愛くるしい笑顔でファンも多い。
早くから楽屋入りして、メクリの字を確認(「てでろう」と見える寄席文字)し、何やらネタ(『あみだ池』らしい)を繰りながら鳴り物の準備、鳴り物では笛を担当。師匠譲りの口跡の良さと鋭い切り口で当席への出演回数の多いいわゆる常連。『復興節』の景気の良い出囃子で高座へ登場。
「えーよろしくお願い致します。続きまして桂こごろうでお付き合いを願っておきます。まことに大胆な名前でございましていわゆる二代目でございまして、先代同様よろしくお願い致します。ありがとうございます。ひらがなで書いてあります寄席文字でございますので決して「てでろう」とは読まないで下さい」とのツカミからスタート。
 落語のキャラクターはちょっと抜けてるいわゆるアホが登場しますと紹介して本題『野崎詣り』がスタートする。この噺、三代目桂春団治師匠の十八番で、師匠から多くの噺家連中に口伝されているおなじみの噺。こごろう師匠は師匠の南光師匠からの口伝ではないだろうか。その噺を三代目師匠とは違った大爆笑噺に仕上げ演じるこごろう師、随所で会場から大きな笑い声が起こる二十分の高座であった。
この噺をちょっと解説。
 舞台の野崎観音は、大阪府大東市野崎の曹洞宗慈眼寺の通称で、ご本尊は十一面観世音。神戸からはJR東西線の野崎駅下車。そこで五月の一日から十日まで開催される無縁仏回向の法会に参詣することが野崎詣りである。
 昔は、寝屋川を舟に乗っている人と、堤を歩く人とが互いに悪口を言い合う奇習はあったようである。また、境内にはお染・久松の塚がある。「片町も過ぎ徳庵堤にかかるますと主従無礼講」の部分の徳庵は性格には、「とくあん」であるが「とっくぁん」と聞こえる。
 お囃子のタップリ入った噺であり、船が堤を出て行く処は太鼓で表現するのだが、太鼓の入れ方を楽屋で春駒師匠がたま師に、「うちの親父さんの時は、ここはまだ出てないから(船が)軽く小さく、船が出て行くときは岸を離れるから大きく。お客様の頭の中に思い浮かばせるように打つねん」と、身振り手振りで伝授されていた処に居合わせたが感心させられた。

 そして、三つ目は五郎兵衛一門から露の吉次師。
この師匠、師匠譲りで一門の特徴でもあるもっちゃり・こってりの高座である。楽しみにされておられるファンも多い。今回は一門の妹弟子の楓、団姫嬢のよき兄貴分としての貫禄をも見せ、楽屋に「お先、勉強させていただきます」と、挨拶して『かんちろりん』の出囃子で登場。
「えー(拍手に対して)ありがとうございます、もったいない、もったいない。芸人ですから色々な処でおしゃべりさせていただきますが、ここのお客様が一番ですなぁ。どこ行ってもおんなじように言うてんねやろ。と、思もてはるかもしれませんが、・・・言うてます。」と、ツカミからスタート。
 そして、師匠の名跡復活襲名で「露の五郎の名前が空いた・・・。つらい。ポスト小泉と一緒で、安倍官房長官の気持ちがよく判る。つらい。これ聞いた師匠はもっとつらい・・・。師匠にあこがれて近づくのが夢ですわ。昔は旅、お伊勢参りするのも夢でして・・・」と、本題に入る。
師匠十八番であり直伝の『夢見見の八兵衛・夢八』である。この噺、首吊りの出てくる噺なので、演じ方では、あまり気持ちの良い噺ではない。
しかし、この一門にかかると前半は陽気な噺。首吊りが登場し、猫が登場すると一瞬ゾッとするがすぐに爆笑に変わるという後味の良い噺に変化するのである。
 一日前の兵庫区民寄席で同門の兄弟子の団六師が同じくこの『夢八』を演じられた。ちなみに団六師は恋雅亭で演じられた五郎兵衛師匠のこの噺に惚れて入門した想い出の噺である。二日にわたって同門の噺を聞かれた会員様からは「よかったなぁ。けど、師弟や兄弟弟子はなんであんなに似るのかなぁ。一緒やで。けど、ちょっとずつ違うねんなぁ。そやから落語は面白いやで」とのコメントを頂いたことを付け加えておきたい。
二十分の名演であった。「この噺が出来ないと五郎襲名はない」とはご本人の談である。

 中トリは松鶴一門の笑福亭松枝師匠に飾って頂きます。
昭和四十四年入門の師匠、今や上方落語界の大御所の風格。笑福亭伝統の噺はもちろんネタの数も多く、今回も何を演じていただけるか大いに楽しみ。楽屋入りされた師匠に「今日は何を」伺うと、「前のネタによるけど『莨の火』を考えてるねん」との即答であった。
その後、南光師匠、春駒師匠も加わっての楽屋落語談義がスタート。
 今日の話題は、昔、覚えた噺はなかなか変えられない。
『口入屋』の、おなごしさんの言い立ての部分を例にして話題に花が咲く。
楽屋のムードは最高潮。
「お先・・・・」と、あいさつして『早船』の出囃子で松枝師匠の登場となり、袖口まで全員で見送る。
「ありがとうございます。私こう見えましても」とマクラがスタート。
上方落語協会の役職を紹介すると場内は爆笑。
「協会の理事(兼)番組編成委員長(兼)調査委員長(兼)繁盛亭運営委員筆頭(兼)選挙監理委員長」
 そして、始まった演題は師匠にとっては地元が舞台で当席では三度目の口演の『莨の火』。
上方落語の大物である。
 その噺を発端からユッタリと演じられる。途中、調査委員長の本領発揮しての裏話を紹介しつつ演じる。中トリに相応しい三十二分の好演は短くすら感じた。

 中入りカブリは、笑福亭一門から笑福亭学光師匠。
『深川くずし』の囃子で登場するとなんとなく暖かくなる。不思議。
当席へは四年ぶりと久々の出演。それをマクラに語りだすと暖かい。
 本題は「ちょっと季節外れですが・・」と遠慮しつつ自作の創作『鬼は内』が始まる。内容も口演もほんわかムード。百聞は一見にしかず皆様もご体験を。師匠の言葉を借りると四年後に(決してそんなことはありません)。

 さて、六月公演のトリは、枝雀一門から桂南光師匠。マスコミでの大活躍は勿論、落語でも文珍・南光・鶴瓶の三師匠競演などで皆様よくごご存知。
こごろう師の笛が響き渡る『猩々』の出囃子で登場すると万雷の拍手が起こる。
「えー、後一席、南光のほうでお付き合いを願います。自分で言うのも何ですが上方落語協会は脱退いたしております(場内大爆笑)」。復帰しない理由は松枝さんが理事をしているため(大爆笑)。米朝事務所の役員人事の裏話。と、爆笑マクラが続いて『義眼』が始まる。なんと当席では初めて演じられる珍しい噺。色街でもてない男が隣の部屋にそこには水と?の入ったコップが・・・。飲んでしまって便秘に。医者が登場してあっというサゲになる。
マクラも含めて半時間の口演は大爆笑の連続であった。(大入叶)