もとまち寄席 恋雅亭
公演記録    第331回
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 公演日時: 平成18年 3月10日(金) 午後6時30分開演
  出演者      演目
  桂   か い 枝 「野ざらし」
  桂   き ん 枝 「看板のピン」
  桂   出  丸 「酒の粕」
  笑福亭 猿  笑 「お見立て」
  中入
  桂   九  雀 「釜盗人」
  桂   福 團 治 「たちぎれ線香」(主任)
                  
   打出し 21時00分

     お囃子  山澤由江 勝 正子
     手 伝  桂三ノ助、露の 楓

 「新春初席」続いての「如月公演」を大入でお開きとなり、今年三回目の公演となる「三月公演」。
今回も前売り(売り切れ寸前)、メール予約も絶好調で当日を迎える。
 「寒くて、雨でも降ったらどうしよう」と、恐れていたことが起こってしまった。朝から雨模様。
開場直前まで小雨が降ったりやんだり。本当に申し訳ありません。
 その中を一番のお客様は早くから会場に到着され、その後もお客様の出足は衰えることなく、開場時間の五時半には会場を囲むようにお客様の長い列が出来る。
 5時半の定刻に開場。列を作り待っておられたお客様がご入場され席が次々と埋まっていく。

 大入り公演のトップバッターは文枝一門から桂かい枝師。
若手ながら数多くの賞を受賞する実力派で、師匠譲りの古典落語をベースに自身の工夫をプラスして、今回も個性豊かな爆笑噺を演じてくれるはずとお知らせしましたがご自身も気合い充分。『石段』の出囃子で元気一杯登場。会場全体から親しみをこめた大きな拍手が起こる。
「えー、ありがとうございます。一杯でございまして・・・。」とのあいさつからオリンピックの話題へ。
オリンピックと落語会の対比。スケート場は−4℃、当席は23℃。料金、42000円、当席2000円。126師の落語が聞けます。顔に国旗を書くこともないし、2時間半も楽しめる。やはり落語会ですと、充分笑いをとる。
 そして、始まった演題は『野ざらし』。トップから大ネタである。発端から陽気で元気一杯の爆笑噺として演じられる口演に会場も爆笑で応える。発端から釣りの針が鼻に引っかかったくだりで切って舞台を下りるまで二十分。演者もお客様も大満足な口演であった。
なお、上方には『骨釣り』という同類の噺があるのだが、かい枝師は東京版である。ちょっと古くなるが東京の三代目春風亭柳好師匠の十八番と言われ、その明るくて歌い上げるような口演は語りぐさの噺でもある。

二つ目は、『相川』の出囃子が流れ、諸般の事情(当席の後、もう一本の仕事のため)で桂きん枝師匠の登場となる。ご自身で車を運転され早くから楽屋入りされ準備万全。
マスコミで大活躍はお馴染みですが、昨今、落語への情熱も沸騰中。今回も愛嬌タップリのお笑いを大いに期待しておられるお客様はメクリがかかると大きな拍手、そして、師匠が舞台に姿を見せるとどよめきが起こる(別に故意ではなく自然な反応なのだが演者がグッとくる反応であり、ここらが当席のお客様の「語らせ上手」の所以である)。
 その反応に師匠も最初からエンジン全開で、爆笑マクラがスタート。
オリンピックの話題から、酒は小染さんに、博打は横山やすしさんに教えられたと、「住之江銀行?」での大損した話題に会場は大爆笑。後で登場された出丸師が「笑いがドッ、ドッと小気味よく起こる」と表現されていた通りの反応である。
 そして、始まった演題は十八番の『看板のピン』。
お馴染みの話であるが師匠にかかると、老ばくち打ちが迫力タップリに、主人公が好人物に生き生きと描かれる。サゲもお馴染みだが、絶好の間でドッカンと笑いと拍手が起こる。

出番変更で二つ目から三つ目の登場となった、ざこば一門の桂出丸師。『せつほんかいな』の出囃子で登場。
「えー、続きまして桂出丸君の方でお付き合い願っておきますが・・・」とマクラが始まる。
「えー、今回が331回、次回が332回、次回も来ると言われるお客様、手を挙げて・・・」と、お客様に手を挙げさせて、「証拠写真を」と、カメラを取り出して撮す(詳しくは出丸師匠のHPを参照)。
中トリのきん枝師匠が登場した後だけに自分の世界へ引っ張り込むマクラが続く。酒をこよなく愛する師だけに、世界の二大酒の紹介。
 まずビール、これには歴史がある。ピラミッド作りで疲れた後の一杯、今も昔も最高。そして、もう一つは日本酒。これは冷やして良し、温めて良しの優れもの、そして、燗の種類を紹介する。
日向燗…三十℃前後。人肌燗…三十五℃前後。ぬる燗…四十℃前後。上燗…四十五℃前後。熱燗…五十℃前後。飛切燗…五十五℃前後。そして、六十℃以上は、もうあかんと締める。
「お酒をこよなく愛する人がいる反面、お酒を受け付けない人が・・」と始まった演題は『酒の粕』。
肩を張らずにサラリと演じて中トリの猿笑師につなぐ。
余談だが出丸師は翌週に金曜日「兵庫区民寄席」、日曜日「新開地寄席」と神戸出演が続く。

そして、中トリはきん枝師匠に代わって六代目松鶴一門から笑福亭猿笑師が『かごや』の出囃子で登場となる。
上方で唯一江戸落語を演じる師匠。今回は何を?粋でいなせな高座をどうぞご期待下さい。と、紹介したが、楽屋で福團治師匠に「今日は、『しらみ茶屋』をと思って来ましたが、中トリなので、『お見立て』をやらしてもらいます」とあいさつして高座へ登場。
 「私のほうは上方でただ一人江戸落語を演じ・・・」と自己紹介して、マクラで痴楽綴り方教室を紹介して、本題の『お見立て』へと続く。
東京でもトリネタである大ネタであり、もちろん当席では初めて演じられる演題である。
 遊郭はもちろん現在は存在しないが、存在していた過去でも関東と関西ではシステムが違ったらしい。詳しくは次に譲るとして、お客が花魁を選ぶように逆選別もあったようである。いやな相手を適当にあしらおうとする花魁とそれに巻き込まれる若い衆、知ってか知らずか次々と難題を繰り出すお客、場内は笑いの渦。大満足の半時間でお中入りとなる。

中入りカブリは、枝雀一門から桂九雀師。師匠譲りの口跡の良さと、自らの工夫で繰り出す爆笑落語を期待されるお客様の拍手の中、高座へ登場。
「えー、あと二人でございまして、まだ一回も笑ってないお客様、チャンスは少ないですよ」と、得意のツカミ。
 そして、始まった演題は、珍しい『釜盗人』。東西を通じて珍しい噺で、故人の六代目春風亭柳橋、三代目三遊亭小円朝、上方では桂米紫師匠らの師匠連が楽しんで演じておられる。
 その噺を九雀流に楽しく陽気に演じられ、場内からは小気味の良い笑いが起こる。カブリの大役を大受けでトリの福團治師匠へつなぐ名演であった。

さて、トリは、四代目桂福團治師匠。早くから楽屋入りされた師匠と談笑。
小生「おはようございます。いつもありがとうございます。大入りです」
師匠「いつもおおきに。ようけ入って結構なこっちゃ。みんな競争で演るさかい。
   今日も久しぶりに『くっしゃみ』と思ってきたけど、先月染丸さんがやってるし」
小生「師匠はようけありますやん(ネタ数)」
師匠「『しじみ売り(平成十四年五月)』『薮入り(平成六年十月)』は前に出たやろし、
    『ねずみ穴(昭和六三年八月)』でもと思ったんやけど・・・」

 お囃子に由江さんが来ているのを確認して、「ちょっと暗いけど、ここのお客さん明るいから『たちぎれ』・・・」「由江ちゃん、呼んで・・」と、飛んできた由江さんとキッカケの打ち合わせ。この瞬間、演題が決まった。
 『梅は咲いたか』の名調子に乗っていつものようにゆったりと高座へ「えー、疲れまっしゃろ。私も、ここへ出て来て休んでまんねん。こないだも近所の奥さんに『あんた、高座でくつろいでましたなぁ』と言われてねぇ。今日は明るい皆様にちょっと暗い人情噺を・・・。三十分ありますねん。小糸さんの出てくる・・・」と、断って『たちぎれ線香』が始まる。発端の番頭の策略で蔵に閉じ込められるクダリを簡単に語ってズバッとカットして、若旦那が蔵から出てくる処から噺が始まる演出。
 会場全体が師匠の口演に引き込まれていく。会場の最後尾から見ていたがジリ、ジリと客席全体が前によっていくような感じ。ちょっとした仕草(髪に手をやることで、女将さんの色気を)の一つ一つが素晴らしい。
そして、サゲ前の『雪の相方』のはめものでの若旦那の独白。三十分超のの口演は大喝采のうちにサ
ゲとなった。会場を後にされる多くのお客様から「よかった」「よかった」の声が聞こえた(大入叶)