もとまち寄席 恋雅亭
公演記録    第330回
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 公演日時: 平成18年 2月10日(金) 午後6時30分開演
  出演者      演目
  林家  染 弥 「煮売屋」
  桂   團 朝 「強情灸」
  笑福亭 三 喬 「花色木綿」
  桂   雀 松 「替り目」
  中入
  桂   枝 光 「鹿政断」
  林家  染 丸 「くっしゃみ講釈」(主任)
                  
   打出し 21時00分

     お囃子  林家和女 勝 正子
     手 伝  林家染左、露の 楓、笑福亭たま、呂竹、喬介

  「新春初席」は大入公演でお開きなり、続いての「如月公演」。今回も前売り(当日前日に売り切れ)、
メール予約も絶好調。 「寒くて、雨でも降ったらどうしよう」と、心配して当日を向かえましたが、雨は降らず、風も強くなく一安心。しかし、やはり寒い!!。本当に申し訳ありません。
 その中を一番のお客様は早くから会場に到着され、その後もお客様の出足は衰えることなく、開場時間の五時半には会場を囲むようにお客様の長い列が出来る。
 5時半の定刻に開場。列を作り待っておられたお客様がご入場され席が次々と埋まっていく。
飛び入りで出来たての「んなあほな・最新号」を三喬師匠が手売りされる。その中、六時半の開演時には客席は最後列に長椅子を並べるが立ち見のお客様も出る大入満席公演となる。
 前出の三喬師匠をはじめ、演者の師匠連も次々に楽屋入りされ準備万全。

 大入り公演のトップはトップで楽屋入りされていた、今席トリの染丸一門から林家染弥師。
師匠譲りのキッチリとした芸風で準備万全。『石段』の出囃子で元気一杯登場。会場全体から親しみをこめた大きな拍手が起こる。
「えー、お寒い中、ようこそご来場いただきましてありがとうございます。本日の前座を務めさせて頂きます林家染弥でございます・・・。トップバッターということで御陽気な旅のお噂を・・・」と、さっそく本題の『東の旅・煮売屋』が始まる。
『野辺』の部分でお囃子もタップリ入り華やかな高座となり、「さけさかないろうくうくうありやなきや」と、煮売屋の親父さんとの掛け合いの爆笑編。「酒臭い水」で切っての爆笑のうちの十五分の高座であった。
* この噺、ポピュラーな噺の割に当席での口演回数は今回で五度目と意外と少ない。この後、この煮売屋でイカの木の芽あえを盗んで、そのすり鉢が狐の頭に当たって、怒った狐が・・・・。『七度狐』の序の部分だからでしょうか。

 続いての二つ目は米朝一門から桂團朝師。『浪花小唄』の出囃子で高座へ登場。まずは、今、楽屋で三喬師匠のアドバイスの小咄(クーデターとプーデター)を披露。これが滑るとその反応で笑いを誘う。続いて話題の「東横イン」の話題。
ちょいちょい利用するので内情(朝食無料。電話無料)を、結構使い勝手のよいホテル詳しく説明する。
しかし、社長が面白い。最初、元気良かったけどそのうち「すんまへん」。子供みたいな社長や・・・。
続いて「姉歯事件」も、「頭も偽造、私らみたら判ります。後乗せや。私ら詳しいですわ、桂(かつら)やから」のマクラで笑いを誘って、本題の『強情灸』が始まる。
 意地っ張りの男が大きな灸をすえ、その暑さにもがき苦しむさまが笑いを誘う秀作。
マクラともで十八分の高座は大爆笑の連続であった。
 ここで登場する関口の隠居は、ざこば師匠の本名(関口弘)。
おそらく、ざこば師匠か都丸師匠からの口伝であろう。そして、石川五右衛門は、安土桃山時代の伝説的な盗賊である。

 三つ目は「上方落語界の熊のプーさん」で「三ちゃん」こと笑福亭三喬師匠。
昨年は二つの大きな賞を受賞され、弟子も二人(喬若・喬介)となり、ノリノリの師匠です。
今回もホンワカムードの高座を楽しみにされているファンから木戸口にいた三喬師匠に口々に「三ちゃん」「三ちゃん」と声がかかる。
巨体を屈めるように高座へ登場。「えー続きまして上方落語界の熊のプーさん、笑福亭三喬の方でお付き合いを願っておきます」と、あいさつからラジオの特番の「フィーリングカップル4対4」の話題。
「出演者は男性軍は、キダタロー先生、桂小春団治、桂団朝、笑福亭三喬でしてん。ふっと気がついて、隣の団朝に『おい、わし以外みんなカツラやなぁ』(場内大爆笑)」大受けに「ここ、カット」。
 そして、爆笑マクラの「我が家のアルバム」を披露。爆笑の後、すっと本題へ。今日の演題は、十八番の盗人ものから『花色木綿』。
これが実に結構で、師匠の人間性そのままの愛嬌溢れる憎めない間抜けな盗人が主人公。盗人に入られたことをいいことに盗まれてもいないものを並び立てる。
江戸小紋の万筋(まんすじ・細かい縦縞柄)や、ご存知花色木綿(花色とは、花の色のことではなく、薄い藍色だそうである)。遂に怒り心頭の盗人が登場すると、次の雀松師匠曰く「大変卑怯な笑わせ方」と称される「あー、つらいのう、すまんのー」と、横山たかし師匠のギャグに、会場は大爆笑。
爆笑の連続でサゲとなった二十二分の高座であった。

 中トリは、枝雀一門から桂雀松師匠。
『砂ほり』の出囃子に乗って高座へ。「えー、どうぞひとつ私のほうもお付き合いを願っております。
毎度申し上げておりますが、お付き合いを願うといっても結婚を前提としている訳ではございません」と、おなじみのフレーズで一瞬のうちに、実に見事に三喬ワールドから雀松ワールドへ変わる。
さらに「我々の商売は弱い商売で、皆様方の庇護の下、小鳥のように・・・えらい汚い小鳥や・・・。」
 そして、三人のお客様の前で演じたことを笑いのネタにして笑いを誘って「今年は寒い日が続いておりますが、こういう時は暖かい物が良いようで、熱燗で一杯なんかよろしいようで・・・」と、酒の話題から「犬はワンワン猫ニャアニャアで、豚はブーブー、象パオン」と、これも十八番『替り目』が始まる。
主人公は飲んだくれの男。この男が雀松師匠にかかると実にカワイイ男に描かれる。その飲んだくれに尽くす女房(師匠は「おかあちゃん」)。そのやり取りが実に面白く心温まる秀作であった。
 この噺、ここから先がある。おでんを買いに行った女房が戻って来ると燗が出来ている。うどん屋に無理をいったと判ったので、うどん屋へお詫びを言おうと、うどん屋を呼ぶ。「おい、うどん屋、あそこの家、呼んでるで」
「いいえ、あそこへは行かれしまへん」「何でやねん?」「今時分行ったらちょう〜ど銚子の替り目でっしゃろ。」が、サゲである。
 雀松師匠の口演では、主人公が女房に心から感謝する独白を女房に聞かれてしまうところで終わっているが、心情の変化、これも『替り目』で、良いのではないだろうか。

さて、中入り後に登場するのは、桂枝光師匠。実に九年ぶりの当席出演となる。早くから楽屋入りして懐かしそうに談笑。
 中入り後の祈が入り、『猩々』の出囃子で愛くるしい笑顔一杯で登場。場内から大きな拍手が起こる。「えー中入り後でございまして、上方落語界のえなりかずきと、呼ばれております」との自己紹介に場内大爆笑。
そして、当席は九年ぶりの出演になること。北海道での活動秘話。北海道の言葉、寒さ、寒波の中開催された落語会の話題と、次々と爆笑マクラが続く。
世界で一番短い小咄も披露。「一番短い小咄。天国・・・。あのよ」会場ドッカーン。
 北海道でのえぞ鹿との遭遇から、奈良の鹿の話題へ。奈良の鹿の餌の材料おばあさんが百円玉を餌に? 「鹿の餌・・百円」。ネタが判ってきた時とほぼ同時に「奈良の名物は、大仏に、鹿の巻筆、奈良ざらし、奈良茶、奈良漬、町の早起き」から、師匠直伝であろう『鹿政談』が始まる。
 この噺、登場人物も多岐にわたり難しい噺とされており、特に奉行(奈良町奉行・根岸肥前守)の立ち振る舞いや、「黙れ!」と、一括する威厳など風格ある口演が必要とされる。その難しい噺を見事に自分のものとした秀作となっている。サゲも「そのほう、商売はとうふ屋じゃの?」「はい。」「きらずに、やるぞ」「へえ、まめで帰ります。」と、間もピッタリであった。

 さて、今席のトリは四代目林家染丸師匠。早くから楽屋入りした師匠。ニコニコと楽屋で談笑しながら出番を待つ。
二十八分の熱演の枝光師匠のサゲを袖で確認して、『正札付き』の出囃子で威厳を持たせて高座へ。
会場からは本日一番の拍手が起こる。「えー一杯のお運びでありがたく御礼申し上げます・・・」と、
挨拶し「先ほどの枝光さん、年は私とえろう変わりません。あれだけ、白髪が似合わん男もすくのうございます」と続け、天満天神橋繁盛亭の寄付へのお願い。
「もうちょっとです。実は、まだ屋根が足りません」には場内大爆笑。「私のほうも干支(犬)が登場する噺を」と、始まった本題は『くっしゃみ講釈』(クイズ:犬はどこで出てくるでしょう?)。
 発端からサゲまでタップリキッチリと、特に講談は実に流暢。
朗々と歌いこむような『難波戦記』に会場から大きな拍手が起こる。ここで登場する後藤一山は明治時代に活躍した玉龍亭一山がモデルとされている。演者も会場のお客様も乗りに乗った大満足な三十分の好演であった。  
  (大入叶)