もとまち寄席 恋雅亭
公演記録    第328回
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 公演日時: 平成17年12月10日(土) 午後6時30分開演
  出演者      演目
  笑福亭 右 喬 「商売根問」
  桂   珍 念 「二人癖  」
  桂   三 風 「又も華々しき華燭の典」
  立花家 千 橘 「十三の渡 」  原作は岡本綺堂作「利根の渡」
  中入
  林家  小 染 「ふぐ鍋 」
  笑福亭 松 喬 「禁酒関所」(主任)
                  
   打出し 21時20分

     お囃子  内海英華 勝 正子
     手 伝  露の 楓、笑福亭三喬、遊喬、鉄瓶、瓶成

 2005年のお開き公演となった十二月の師走公演を迎えました。
前景気も予約、問い合わせも順調で当日を迎える。当日は絶好の日和となり一安心だったが、やはり師走の風は寒い。元町本通りは前日から始まった「ルミナリエ」へ向う人で大混雑。とにかく凄い人の流れである。その中を一番のお客様は早くから会場に到着され、その後もお客様の出足は衰えることなく、開場時間の五時半には会場を囲むようにお客様の長い列が出来る。多く届いているチラシ(今回も多い)の折り込みを開始して、多くのお客様が列を作られ開場を待ちわびる。
そして、5時半の定刻に開場。列を作り待っておられたお客様がご入場され席が次々と埋まっていく。
六時半の開演時には客席は満席で、大入公演となる。
その大入公演のトップバッターは、トリの松喬一門から笑福亭右喬師。
師匠との競演で二度目の出演。大張り切りで一番に楽屋入りした右喬師のテンションはいつも通り。実に面白い。今回も個性豊かな高座が大いに楽しみ。石段の出囃子で元気一杯登場。会場全体から親しみをこめた大きな拍手が起こる。
「えー盛大な拍手ありがとうございます。えー久しぶりの落語です。頑張ろうと思っておる次第です」と、なんとも個性豊かなあいさつ。
 そして、アルバイト時代の失敗談をマクラに高座がスタート。
これが実に個性豊か。なんと表現してよいか?「ステーキハウスのウエイター時代はしゃべりへたくそ」「渡船場の助手時代・船長を乗せずにスタート事件」「実家の運送屋の社長息子だが、死んだことになっている」と続けて「もっとしっかりした兄さんに代わります」と、始まった演題は『商売根問』。
先月の『時うどん』と同じく、上方落語でも最もポピュラーな噺で共に口演回数が多い噺。「雀」「がたろ(河童)」の二つをマクラ共で十七分。なんとも言えないほんわかした高座であった。

 二つ目は、文珍一門から桂珍念師。当席常連の師匠で、その愛くるしい笑顔で当席でも熱烈なファンも多い。「ありがとうございます。代わりまして出てまいりましたのが、桂文珍門下二番弟子、桂珍念と申します」と、あいさつ。さっそく会場の数ケ所で笑いが起こる。
「私もこう見えましても師匠の元に入門しまして二十年・・」また、会場の数ケ所で笑いが起こる。「こないだも師匠に『お前も二十年か。ええ節目や。辞めるんやったら』」と、会場全体から笑いを取って始まった演題は、『二人癖』の一席。
落語は登場人物が少ない程、簡単なようで難しい噺と言われているが、この噺もその典型。登場人部は全員で三名。
 常に二名で展開する。言ってはいけない言葉(つまらん。一杯飲める)を言わすよう持ち込むために知恵を絞るのだが。
 拍子のもんやからトントントンを言葉をとアドバイスを受けて、テンポよく「田舎から大根、百本貰ろたけど、いっぺんには食べきらん。漬物にしようと思たが樽がない。家中を探していたらこれくらいの醤油樽。この樽に大根百本詰まろかなぁ」と、演じる。手拍子をしたくなるような心地のよいテンポである。
 筋と間で演じるこの噺を師匠自身も高座を楽しむように演じた明るい、明るい高座は十五分であった。
しかし、入門二十年で二つ目。もったにないような師匠に申し訳ないような出番であった。

 三つ目は三枝一門から桂三風師。師匠譲りの創作落語や自身工夫のお客様が落語に参加する客席参加型落語を引っさげて師匠の元の出囃子であった『おそずけ』で高座へ登場。
「えー、続きまして客席参加型落語の桂三風でお付き合いを願っておきます」と、あいさつ。
 そして、今話題の偽装住宅の小噺から「君の作った家は違法建築だ。地震が来たら」「大丈夫ですよ。避難地域に作ってありますから」「でも鉄骨が入ってないらしいじゃないか」「大丈夫ですよ。ダンボールの家だから」。問題事件だけに笑いは少ない。
 紀宮さまのご結婚の話題から、新婚時代、十年後の風景、を、対比しながら会場全体を暖めて、客席参加型落語がスタート。
まずは、乾杯の練習。お酒の飲み方。飲み終った後の拍手の練習。万歳三唱(五十台の方の仕方も)。と、関西ならでは、当席ならではの乗り。そして、始まった演題は、三枝師匠の自作の創作落語、『又、華々しき華燭の典』。
会場全体が乗りのりで知らず知らずに参加しているという高座は十八分であった。

 そして、中トリは露の五郎兵衛一門の総領、立花家千橘師匠。
今回も謙虚に落語に取り組む師匠、今回もその中から選りすぐりの一席を演じていただけることでしょうと、会報でご紹介したが、当日のお囃子方を確認し、当日も早くから楽屋入りするなり小染師匠らとキッカケの打ち合わせ。
きっかけの書類には『十三の渡し』とあった。また。当席では初めて演じられる噺である。
 この時、小生は噺の内容がピンとこなかった。五郎兵衛師匠の持ちネタの中にこの名前があるのは知っていたのだが・・・。あつかましくも千橘師匠に伺った。
小 生  「この噺、初めて聞く噺です」
千橘師  「『利根の渡』ですわ」
 ここで、気が付いた。
小 生  「正蔵師匠(先代・八代目)からの口伝ですねぇ」
千橘師 「親父さん(五郎兵衛師匠)が、舞台を利根から十三に変えて、演じてはってんけど、もう演
     らへん言うて、埋もれてしまうのも、もったいないと思って・・・・」
   この時点で三席で五十分とトントン進んで中トリとなっていた。
小 生  「時間もありますから、タップリ演じて下さい」
千橘師 「(嬉しそうに)よろしいですか、めったに演(や)る機会がおまへんねん。ここのお客様や
     ったら聞いてもらえるんですわ」
・この噺は、岡本綺堂作『青蛙堂鬼談』より「利根の渡」であり、正蔵師匠(先代・八代目)がお得意の文芸物として手がけられておられた。正蔵師匠はNHK東京落語会で一度、TBS落語研究会で二度演じられておられる記録はあるが、OAは昭和四十六年八月の第146回NHK東京落語会のみではないだろうか?
 ちなみに、座頭さんに親切にする爺さんを正蔵師匠は平助と原作通り演じておられたが、千橘師匠は彦六爺さんとなっていた。
 詳しい方はお気づきの通り彦六とは、八代目正蔵師匠が正蔵の名前を海老名家へ返した後、襲名された名前、初代林家彦六に由来するのではかないか。ちなみに正蔵の名跡は昨年こぶ平師匠が九代目を襲名された。
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師匠譲りの「藪入り」の出囃子で、ゆっくりと高座へ登場された師匠、マクラも余り振らずに本題へ。
場内を一気に引き込む。時代設定は原作通り、場所の設定は東京から大阪へ移して、きっちりと演じられる。
場内は聞き入っているようにシーンとしたまま。雪が降っている場面での怪談噺は一種独特でちょっと陰惨。放送はおそらく無理。四十分の口演は、噺の構成と師匠の語りで短くも感じられた秀作であった。

 中入りカブリは、林家一門から林家小染師匠。
早くから楽屋入りし、出演を嬉しそうに楽屋で談笑。「初めてですわ、カブリは、冬やし、しばらく出てない(平成十四年十一月から三年ぶり)し・・・」と、『ふぐ鍋』が本命となる。
 祈が入ってお馴染みの『たぬき』の出囃子で愛嬌タップリに登場。
「えー、ありがとうございます。上方落語界の天童よしみと呼ばれております」との得意のフレーズに場内はいきなりドッカーン。
そして、「おつですと言うがフグには手を出さず」から一門のお家芸で伝統でもあるコッテリ、もっちゃりした演出での上方落語『ふぐ鍋』が始まる。
手慣れた噺だけに随所で爆笑が起こる。再演を期待したい師匠であった。

 さて、師走公演のトリは、七月から続く笑福亭の福笑・呂鶴・仁智・鶴志・鶴瓶と当席でのトリのトリとなる笑福亭松喬師匠。
 当日は「ルミナリエ」の影響で大渋滞に巻き込まれ中入り前に楽屋入り。三喬師匠の「上方お笑い大賞・技能賞」のお祝いのコメントを楽屋で収録し、準備万全。『高砂丹前』の出囃子で登場し、渋滞に巻き込まれたマクラ。これが爆笑もの。会場全体を松喬ワールドへ。さらに、来夏開席する「天満繁盛亭」の紹介。
 袖の遊喬師が「師匠乗ってますわ。ここ、好きですねん。長いでっせ」とコメント。
大爆笑のマクラは実に二十二分。そして、本題の師匠自ら十八番と賞する『禁酒関所』の一席。
 本題が始まると松喬師匠が消え、丁稚、番頭、そして、村上の旦那、役人が生き生きと登場し大活躍する。
「この正直者めが」でサゲとなった時、九時二十分過ぎ。四十五分の熱演に客席から盛大な拍手が。出来の良さに大満足な師匠のテンションは、打ち上げの一次会、二次会(三時半お開き)まで下がることはなかった。(大入り叶)