もとまち寄席 恋雅亭
公演記録    第327回
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 公演日時: 平成17年11月10日(木) 午後6時30分開演
  出演者      演目
 桂   しん吉  「時うどん」
 桂   文 華  「短命」
 笑福亭 純 瓶  「平の蔭」
 桂   雀三郎  「ちしゃ医者」
  中入
 露の  團四郎  「池田の猪買い」
 笑福亭 鶴 瓶  「お母ちゃんのクリスマスツリー」
          「愛宕山」           (主任) 

   打出し 21時30分

     お囃子  内海英華 勝 正子
     手 伝  桂 あやめ、珍念、出丸、まん我、露の 團姫、楓
          笑福亭遊喬、銀瓶、瓶生、天瓶
 2005年もあと50日を残すだけとなった十一月の公演を迎えました。
前景気は驚異的。まず、前売券が十月二十日過ぎに完売。続いてネット予約も枠一杯となり、十一月になると問い合わせの電話、メールが・・。そのピークは七日から当日。どうなるかと苦慮しつつ(嬉しい悲鳴)当日を迎えることとなりました。当日は絶好の日和となり一安心。
 一番のお客様は二時から会場に到着される。その後もお客様の出足は衰えることなくご来場。用意した若干の当日券もパンクし、五時過ぎには会場を囲むようにお客様の長い列が出来る。
もし雨が降っていれば・・・と、一瞬青ざめる。
 多く届いているチラシ(今回も多い)の折り込みを開始して、多くのお客様が列を作られ開場を待ちわびる。常連さんは口々に「びっくりしたわ。吉朝師匠」「おしいねぇ、ほんまに」「去年の福笑・吉朝の顔合わせ、よかったわ」「まだ。五十やろ、早すぎるわ」と、急死された吉朝師匠を惜しむ声が・・・。
 そして、5時半の定刻に開場。列を作り待っておられたお客様がご入場され席が次々と埋まっていく。六時過ぎには客席は満席。六時半の開演時には多くの立見のお客様も出る大入公演となる。会員様と同伴者も過去最高の百四十名様に迫った。
その大入公演のトップバッターは、前日の九日急死された吉朝師匠の一門から桂しん吉師(平成十年入門)。
石段の出囃子で元気一杯登場すると、会場全体から激励するかのように大きな拍手が起こる。「えー、一杯でございまして、まずは私、あちらにも名前が出ておりますけど、桂しん吉の方でお付き合いを願っておきます。決して、桂ーん吉ではありません。寄席文字ではこう書きます」と、自己紹介。そして、師匠の想い出を語る。思わず胸にこみ上げるものがあり一瞬絶句。すると、会場全体から、励ましの拍手が起こる。「えー、もう大丈夫です。今、師匠が下りてこられました」と、始まった演題は、上方バージョンと断って師匠直伝の『時うどん』。
師匠直伝の噺をキッチリと十八分で演じる。
上方落語でも最もポピュラーな噺で『子ほめ』と共に口演回数が多いが、この時刻の数え方が意外と難しいので判っているようで判らない。
まず、長さが変化する。日の出を「明け六つ」、日の入りを「暮れ六つ」とし、それぞれの間を六等分されている。よって、季節により昼夜の長さや、一刻の長さが違うのである。
時計で表現すると
【今】 【昔】
 3時 八つ  七つ

12時   6時 九つ   六つ

 9時 四つ 五つ

一年で一番昼が長い夏至は昼の長さは14時間、冬至では10時間と4時間の差となる。
それと、もう一つ、十六文は、今の貨幣価値に換算すると、一両=四分=十六朱。一両=四貫=四千文。一両が何万円かが難しいが、四万円とすると一文が十円、よって十六文は百六十円となる。
さて、二つ目は文枝一門から『上方落語界の妖怪人間ベロ』の桂文華師。
一番に楽屋入りして準備万全。まだお客様のいない高座や楽屋で念入りにマクラを準備し元気一杯高座へ登場。
「えー、今日は一杯のお客様でございまして、立ち見でございまして・・。私、四時半に着ましてん、
そしたら、しん吉君から電話で遅れそうです・・・。この会は噺家が出たいと思う会でして、私も十八年目でやっと二つ目で喜んでたら、先出て下さい。そんなあほなと思って、足袋、パッチ履いたら『おはようございます』、どないやねん。二つ目に出れてホッとしてますねん」そして、吉朝師匠の想い出(笛を習ったこと。出番前に緊張する)から、「今日は『短命』を・・。別に吉朝師匠が亡くなったからやのうて、暗黙のうちに過去、出てる噺をやらないことになってまして、そして、私の持ちネタの七十の中から三十五出てますねん、さらに絞っていくと三つしか残りまへんねん。後の二つはよう覚えてない。つまりこの噺しか出来ないと言うことで吉朝兄さんとは関係ない訳で・・・」と、断って『短命』がスタート。文華流のほのぼのとした主人公が巻き起こすストーリーは全編爆笑の連続。大満足の十七分であった。
三つ目はトリの鶴瓶一門から「純ちゃん」こと、笑福亭純瓶師。
今回も楽屋入りから元気いっぱい。愛くるしい笑顔を場内に振りまきながら高座へ登場。「えー、どうも、こんちわ。沢山の方に集まって頂きましてありがたい限りでございます・・・。便利になってきますと色々なことを忘れます・・」サインを求められて、「薔薇(ばら)」「檸檬(れもん)」が書けなかったことを、紹介して笑いを誘って本題の『平の蔭』が始まる。
 この噺、純瓶師にとっては大師匠にあたる六代目松鶴師匠の十八番。
 小生の手元には師匠の9種類のこの噺があるが、壮年から晩年まで好んで高座にかけられた。中には師匠自身が口演中に笑ってしまう口演もある。師匠が最も楽しんで演じられた噺ではないだろうか。
「あァ・・書いたある」「言うと書いておまんねんな」といった、とどこまでがネタで、どこまでがアドリブか、計算かが分からない噺であった。
 その噺を六代目の息を残して、かつ自身の個性を出した口演であった。
そして、中トリは「ジャクサン」こと桂雀三郎師匠。
いつもはトリでご出演の師匠ですが、今回はトリを鶴瓶師匠に譲って、かつ師匠の演じる『愛宕山』の後見役としての出演。お客様にとってはラッキー。
 軽妙な『じんじろ』の出囃子で登場し、医者のマクラからスタート。『手遅れ医者』『葛根湯医者』と、二つの小咄から始まった本日の演題は『ちしゃ医者』である。
持ちネタの多い師匠であるので、当席では三十三度目の口演であるが初演となる噺である。
 師匠のほんわかした表情とムードがこの主人公の人の良い医者にピッタリであり、発端からサゲまで、枝雀師匠直伝を思わせるテンポと師匠の口跡の良さがプラスされトントンと進む。全編、大爆笑の口演は大満足の十八分であった。
ここで登場するちしゃ(萵苣)は、キク科の草で地中海沿岸地方原産。葉を食用とする野菜で西洋レタ
スと紹介されている。
上方落語の伝統? の汚い噺であり、お手水(ちょうず)屋さんが登場して****を、顔に塗られるといった汚い噺の横綱である。
 ここで、大入り公演がお中入りとなる。
中入りカブリは、五郎一門から露の團四郎師匠。一門の伝統?のコッテリした演出での上方落語か、軽く演じて珍芸が出るか。お楽しみに。
 中入り中、既に楽屋入りしていた鶴瓶師匠と談笑しながら、演題を何にするかを思案中の師匠。「えー、何を演(し)ようかなぁ。」「よっしゃ、決まった『猪買い』。はめものいらんわ」と、『炭坑節』を自ら高座の袖で踊りながら、「ご苦労様です」と、愛弟子の團姫(まるこ)嬢らの声に送られ高座へ。「えー、続きましてこんなん出てきました」
「私の方は上方落語界のヨン様と呼ばれております。顔が似ている訳ではありません、團四郎の四をとっております」と、のマクラ。そのホンワカムードの一言一言に場内から笑いが起こる。
そして『池田の猪買い』が始まる。
この噺は「北の旅」とも言われ、古典の中でも最古に近い作品で、上方落語の祖である、初代露の五郎兵衛の「露休置土産」の中の「野猪の蘇生」が原点とされ、サゲも「あの新しきをご覧ぜ」で、今の「ほれ客人あの通り新しい」と変わらない。いわば、三百年間、人を笑わし続けている不朽の名作である。
このキッチリ演じると三十分を超える大作を、五郎兵衛師匠直伝の米朝・枝雀・仁鶴師匠らとは違う演出でトントンと進む。二十分の好演であった。
さて、お待ちかねのトリは鶴瓶師匠。「今回も是非、出演を!」との嬉しい言葉で出演が決定。2月の『らくだ』に続いての今回の師匠の演題は、今、最も旬(しゅん)な演題の『愛宕山』。
 二日前に師匠から電話で「新しい噺を作ったんや『お母ちゃんのクリスマスツリー』とちゅう、ええ噺や・・・。」
 そして、当席への思い入れと満員のお客様とのあうんの呼吸で二席を演じることとなったのである。
『愛宕山』は、上方では米朝、文枝、枝雀師匠。東京では文楽、志ん朝師匠らの名演が有名であるが鶴瓶師匠が土台に選んだのは、やはり六代目師匠。
他の師匠連とは多少違う人間の大阪の幇間と京都の旦那の意地の張り合いを笑いに変えての口演は爆笑の連続。
二つの噺の口演時間は六十五分。お開きは九時半であった。