もとまち寄席 恋雅亭
公演記録    第321回
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 公演日時: 平成17年 5月10日(火) 午後6時30分開演
   出演者       演目
   笑福亭 喬 若   「千早振る」
  月亭  八 天   「借家借り」
  笑福亭 岐代松  「花筏」
  桂   小米朝  「七段目」
    中入
  桂   あやめ  「私はおばさんにならない(韓流バージョン)」
  月亭  八 方  「蛇含草」(主任)

   打出し 21時10分

     お囃子  林家和女、勝 正子
     手 伝 笑福亭智之介、笑福亭呂竹
     飛入り 笑福亭福笑(独演会の切符の手売り・2ケ月連続)

 2005年も絶好調の当席、昨年十二月からの大入公演は、四月で、5。続いての五月公演も前評判は絶好調。
GWを前に前売券もうなぎのぼりで、百枚に迫り当日を迎える。
 ポカポカ陽気に誘われてお客様の出足も良く、多くのお客様が列を作られ開場を待ちわびる中、開場は五時半。多くのお客様がご入場され、席が次々と埋まっていき、六時半の開演時間には、客席は丁度一杯の大入満席(昨年十二月から6公演連続の大入)。

 その公演のトップバッターは、三喬門下から笑福亭喬若師が入門7年で嬉しい初出演となりました。「落語界の松坂」でお馴染みの師匠譲りの落語に熱心に取り組む勉強家で各地の落語会で大活躍中。
 『石段』の出囃子で元気一杯に登場すると、「えー、ありがとうございます。上方落語界の松坂大介でございます。(会場からは似てるの声)。それではこれで失礼いたします」と自らの顔を最大限利用してのツカミ。「ありがとうございます。実は私のほうが年上でございまして、彼が私に似てるのでございます。年収が七桁違います。彼が試合に出ると観客が二万人増えます。こないだ、私が落語会に出ますとお客様が二人帰ったですわ」と
いつもの手馴れたマクラで笑いを誘う。会場はホンワカムード。
 そして、始まった演題は『千早振る』。この噺、東西で演じられるお馴染みの噺で別名を『竜田川』と言う。随所に新しいクスグリが入り。勉強家らしく各地の落語会で語りなれた感のある秀作は16分。再演を期待する拍手に送られてトップの重責を果たした喬若師であった。

 二つ目は、八方一門から月亭八天師が久々の出演。「久しぶりですわ。何回かスケジュールが合わず残念でしてん。それに今日は師匠と一緒ですし、嬉しいですわ。ほんまにうちの師匠はエエ人でっせ。大好きですわ・・・・。今日はまで一回も出てない噺をやりますわ。『借家借り』。雀三郎師匠に付けてもらいましてん。テンポがあって好きな噺ですわ。東京では小言という言葉がありますけど、こっちではなんと言うのんですかねぇ?」と、お張り切り。
 古典落語は米朝一門の伝統を受け継ぐ逸材で、色々な師匠に噺を付けてもらってネタ数も多い(明日は三代目春團治師匠に『高尾』を付けてもらうという)。神戸では柳原で自身の会を開いておられ当席の出演を心待ちにしておられたお客様も多く、万来の拍手で高座へ登場。
 「えー、続きまして私の方で・・・・・うちの一門は師匠のほうから叱咤激励を受けることはありませんで、こっちのほうからはありますが・・・」とホンワカした一門の師弟関係を紹介し、本題へスッと入る。
 当席では初めて演じられることになる『借家借り』。この噺、『小言幸兵衛』を上方に移植した噺で東京ではポピュラーな噺である。小言を言いつづける大家さんとそこへ借家を借りに来た男との間で巻き起こる爆笑噺。流暢にテンポ良く演じられる口演に会場は大爆笑の連続。心中のクダリでのお経を「宮川左近ショー」のテーマソングに変えて高座を下りた結構な21分であった。

 三つ目は、松鶴一門から笑福亭岐代松師。好青年であった師匠も今や堂々たる風格が加わり、これぞ「笑福亭の芸」と言われる重厚な高座を期待されるお客様の拍手と『どて福』の出囃子で高座へ登場。
 「えー、この前に出して頂いたのが二年前でして、その時、湯飲みを左に置いて下さいと頼みましたら見台の上に置かれまして、今日は大丈夫とお茶子さんに確認したら『大丈夫です』。実は・・・と言うたら、『それ私です』」と会場から大爆笑を誘う。
 お茶子(神戸大学落語研究会の可愛家くろむちゃん)さんへは事前にマクラで使うでと了承済み)。
 マクラは住居のある大阪の高級住宅地(十三)の話題。そこでの「二千円ポッキリ」のお店での出来事・・・・。と、マクラが続けて、本題の『花筏』が始まる。発端からサゲまでキッチリと語りこんだ高座はマクラを入れて半時間の好演であった。

 そして、中トリ上方落語界の貴公子・桂小米朝師匠。師匠であり父である米朝師匠直伝の持ちネタに自身の工夫を満載し、今回も究極の一席を演じようと楽屋でネタ選び。
 最後まで迷った演題は、『天狗裁き』『地獄八景』『七段目』の三席で、その中で時間、客層、前の演題を考慮して本日の演題が決定。ここらが当席が「真剣勝負の落語会」である証明。『元禄花見踊り』の出囃子と会場全体から巻き起こる大喝采に迎えられて、高座へ。
 「えー、ありがとうございます。小米朝、小米朝でございます。又の名を桂七光りと申します」とスタートとなる。そして、テンポよく「人間国宝」の息子と弟子であることの葛藤を面白くおかしく語る。これが実に面白い。「同じ息子や孫でも、林家小三平(正蔵・こぶ平)、柳家小小さん(花禄)てな芸名ちゃいまっしゃろ。小米朝、重いわ・・・。上方落語界の四天王の息子さんも全員噺家やったんでっせ。私だけですわ、残ってるの。辞めんだけましでっしゃろ・・・・。」会場からは大きな拍手と笑い声が連続して起こる。そして、始まった演題は『七段目』。
 芝居好きの若旦那に困り果てた大旦那に二階へあがらされる。こりずに芝居セリフを大声で言う若旦那。困り果てた大旦那は丁稚の定吉に「静かにせえ」と言いにやらせるが、この定吉も大の芝居好き。若旦那と二人で忠臣蔵の七段目の真似を始めたから、さあ大変。・・・・という話。
その噺を歌舞伎に造詣の深い師匠が演じるのだから悪かろう筈が無い。団十郎、海老蔵の声色や、様々な歌舞伎のパロディが随所に入って随所で拍手が起こる。演者も客席も大満足の22分の口演で中入りとなる。

 ・・・・・さて、この噺では随所に歌舞伎の文句が登場する。・・・・・

  ・「枝振り悪しき桜木は、切って接木を致さねば、太宰の家が立ちがたし」
  ・「遅なわりしは拙者重々の誤り」
  ・「おぉ。父っつぁん、そのお嘆きはご無用ぉ」
  ・「晦日(みそか)に月の出る里も……」などである。

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 中入りカブリは、上方女流噺家の桂あやめ師匠。当席の常連で自ら「特別の寄席」と呼ぶ師匠、女性ならではの切り口で演じられる創作落語は今回も客席を笑いの渦に巻き込むこと請け合い。
 そのあやめ嬢も、キャリアは二十年を超え多くの受賞歴を持つ実力者へ。
(第八回ABC漫才落語新人コンクール最優秀新人賞、第一回大阪市きらめき賞、咲くやこの花賞大衆芸能部門、文化庁芸術祭演芸部門優秀賞など多数)
 また大阪・天王寺で「茶臼山舞台」という小さな寄席スペースを主宰するなど大活躍中。
 「えー、評判通り、後ろまで一杯のお客様でありがたい限りです。恋雅亭は私にとって特別な寄席で、古いネタ帳を見ますと、ああ、ここまでは客席で見てた。ここからは師匠に付いて来て楽屋へ来てた。と、懐かしい限りですが」と、当席への思い入れを語り、「私も、四十代に突入しまして・・・」と、おばちゃんのマクラを振って、OL、女子高生、おばちゃん、嫁姑など、身近な女性を主人公にしたネタをどんどん創作している師匠が今回選んだ演題は、『私はおばちゃんにならない・韓流バージョン』。
全編、会場からは肯定と納得の爆笑が連続しておこる。押して、かぶしてこれでもかとギャグが満載された秀作は18分であった。。

 さて、五月公演のトリは月亭八方師匠にとって頂きます。
今や押しも押されぬ上方落語界の重鎮ですが、その軽いマクラは健在であり当席へは、毎年ご出演され多くの古典落語をキッチリと演じられ名高座を披露されています。
 「えー、えらいことになりました。私もおじいちゃんになり老人の仲間入りですわ。孫が出来ます(会場から拍手)。老人ですわ、もうこれ以上ありませんねんこの年になって母親に感謝してます。大阪に生んでくれて。よう、がんばって東京、大阪に行くねんちゅう言葉がありますが、がんばらんでも大阪におるしね。もう田舎帰れ。帰られへんねん。田舎、大阪やもん・・・」と、大爆笑で軽いマクラが始まる。
 そして始まった演題は師匠も十八番として上演回数も多い『蛇含草』。
この噺と同種違題が東京の『そば清』。これが上方では餅となる。仲の良い二人の男の意地から餅の大食いが始まった。餅の曲食いでは会場から大きな拍手が起こる。餅を食いすぎて家へ帰った男がとった行動は?なんとも粋なサゲとなる、23分の名演であった。(五月十日・大入叶))

  ・・・この噺に出てくる言葉・・・

  かたびら=夏用の麻の小袖。  甚兵衛=甚兵衛羽織:夏の男子室内着。
  ほかす=捨てる。          愛想=相手を喜ばせること。
  のっけ=最初。           やつす=めかす。見えをよくすること。
  ずつない=苦しい。切ない。   もみない=まずい。