もとまち寄席 恋雅亭
公演記録    第320回
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 公演日時: 平成17年 4月10日(日) 午後6時30分開演
    出演者     演目
   桂   よね吉 「狸の賽」
   桂   勢 朝 「桃太郎」
   笑福亭 仁 勇 「貧乏花見」
   桂   福團治 「くっしゃみ講釈」
     中入
   露の   都   「青菜」
   林家  染 丸 「辻占茶屋」 (主任)

    打出し 21時00分

    お囃子 林家和女、勝 正子
     手 伝 林家卯三郎、桂佐ん吉、露の團姫(まるこ)
     飛入り 笑福亭福笑(独演会の切符の手売り)

 2005年も絶好調の当席、昨年十二月からの大入公演は、三月で、4。続いての四月公演も前評判は上々。四月になって前売券の売れ行きが伸び始めり、当日を迎える。
 ポカポカ陽気の日曜日。花見も今日あたりが見納めの頃となった四月十日の開催となった。先月同様、多くのお客様が待ちわびる中、開場は五時半。多くのお客様がご入場され、席が次々と埋まっていき、六時半の開演時間には最後列に長椅子を入れて対応(昨年十二月から五公演連続の大入)。

 その公演のトップバッターは、吉朝一門の三番弟子、桂よね吉師。弟弟子の佐ん吉師と一緒に一番に楽屋入りし、おおど(大太鼓)、締太鼓の組立てからマイクの音量調整、折込の手伝いと準備万全。
 定刻の六時半、そのよね吉師が『石段』の出囃子で元気一杯、高座へ登場。「一杯のお客様でございまして、まずは私、吉朝の三番弟子、よね吉のほうでお付き合いを願っておきます」と挨拶して、一杯のお客様に「落語新鮮度チェック」を披露。
 充分に反応を確かめて「私のほうは博打のお噂を」と、ギャンブルのマクラをニ、三振って、本題の『狸の賽』がスタートする。師匠直伝とあって、クスグリ、目線、仕草はバッチリで全編、師匠譲りのきっちりとした口演で、勿論大受けの15分であった。

 二つ目は、米朝一門の桂勢朝師。久々の出演とあって、師も御贔屓筋もおお張り切り。米朝一門にあっては、師自ら認める独特の芸風で、やはり異端児。しかし、その高座を楽しみにされているお客様も多く、大きな拍手で迎えられて元気一杯、高座へ登場。当初、楽屋入りするや「今日は『看板のピン』!」と、大張り切りだったのだが、よね吉師が「兄さん、すみません『狸の賽』演らしてもらいます」の申し出に急遽、演題を変更。
 「えー、続きまして、米朝一門の桂勢朝で・・・」と、大声でスタート。これが、メチャメチャハイテンション。「私は高齢者に優しい噺家と言われておりまして、・・・補聴器なしでも声が聞こえる。もっとも耳栓がいる」と、マクラが始まり、噺家の楽屋見舞いは、「花束より札束。アクシュ(握手)よりキャッシュ」と、本音を披露すると会場は大爆笑に包まれる。そして、始まった演題は、これも師匠直伝の『桃太郎』。全編、最初の勢いが落ちることなく、元気一杯、まさしく芸名に相応しい高座は全編爆笑の連続。再演を期待したい18分の好演であった。

 三つ目は、仁鶴一門から皇太子・笑福亭仁勇師。
仁智・仁福・仁扇・仁嬌・仁昇と個性派の揃いの一門にあって、古典落語の高座は師匠譲りの本格派。今回も久々の出演(前回は第289回・2年半ぶり)と、師匠もおお張り切り。いつものように『宮さん』の出囃子で高座へ登場しマクラで、「二時間前に楽屋入りして時間があったので花見を兼ねて諏訪山公演からヴィーナスブリッジへ行ってきまして、おっさんは私だけでした。もっともカップルの行くところですから」と、花見の話題をマクラをサラリと。
 そして、変わった小噺を三つ紹介して、「私のほうはお花見のお噂を」と、東京の『長屋の花見』と、上方の『貧乏花見』の説明をして、本題へ。
この噺、いかにも上方の匂いがプンプンする、上方のバイタリティを感じさせる噺で仁勇師も師匠直伝をベースに自身の工夫をプラスしての名演であった(21分)。

 そして、中トリ上方落語界の重鎮・桂福團治師匠に飾っていただきます。
人情話・滑稽話と持ちネタも幅広い師匠ですので、今回は? との期待されるファンも多い。

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 楽屋よもやま噺(福團治・染丸両師匠と楽屋で・・・)

小 生   「両師匠、ありがとうございます。大入です。」
染 丸師  「よかったなぁ。ここは、いつも新しいお客様が混じってはるから演(や)じやすい。
       広い範囲のお客様が来はるさかい」
福團治師 「神戸ではここだけやろ。月に一回開催してるのは。昔は松竹座があったけど。」
小 生     「松竹座の跡はパチンコ屋になってますわ。」
福團治師 「ところで、今でも八栄亭(焼鳥)は?松祷庵(蕎麦)は?」
小 生   「両方ともありまっせ。」
染  丸師 「新開地と新世界は昔からええ雰囲気やった。私ら好きですわ。花月も早く閉まるようになります
       ねん。午後五時に夜の部にお開きでっせ。名ビラも出えへんし」
福團治師 「昔は角座でメクリが替わって『ダイマル・ラケット』になると、会場全体が揺れましたで、そんで、
       桧板をドンドン踏みしめて出てきはる。」
染 丸師  「花月は靴や雪駄で舞台へ出る時代でっさかい。私ら慣れましたけど、最後まで奴師匠(三人奴)
            だけはこだわってはった。『雪駄では舞台へ出はらへん』ちゅうて、花月も毛氈引いてたわ」

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 「今日は、『貧乏花見』と思ってたんやが、前で出たなぁ」と、言い残して『梅は咲いたか』で高座へ福團治師匠がユックリ登場。「えー、疲れますなぁ。落語も四席目が一番疲れます。まあ、寝とくなはれ。私も、四十年以上やってますねん。疲れまっせ・・・・・。このまま死んでいきまんねやろなぁ。この頃ようけいってるしね。よう言われまんねん師匠おいくつですか? 気分悪いでっせ」と、いつもの独特のマクラ。会場から小気味の良い笑いが続く。
 そして、始まったのは十八番『くっしゃみ講釈』。
師匠のこの噺は当席では、79年7月、84年2月、97年6月についで4度目となる。随所随所で笑いが起こったことは間違いない。またこの噺には昔の言葉が数多く出てくる。ちょっと、紹介してみたい。ぎょ〜さん、ケッタイ、くすべる、ボロクソ、どんならん、イラチ、ねき、エグイ、らちが明く、などいくつお判りになり、お使いになるだろうか。
 そして、この噺には「八百屋お七の色男、駒込吉祥寺小姓の吉三」と「難波戦記」に二つの話が出てくるし、♪オケラ、毛虫、げ〜じ、蚊に、ぼうふり、げじ、かわず、やんま、蝶々、きりぎりすにはたはた、ぶんぶの背中はピーカピカ。いつ聞いても面白い唄「虫づくし」も登場するのである。
 タップリ・キッチリの口演は26分。大喝采の中、お中入りとなる。

 中入りカブリは、上方女流噺家の露の都師匠。当席では常連の師匠、女性が登場する噺を十八番にしている。と、ご紹介したが、楽屋入りから元気一杯の師匠、「おはようございます。この娘なぁ(横の可愛い女性を指して)、うちの團四郎さんのお弟子さんで、團姫(まるこ)ちゃん。可愛がったてや、と、楽屋中に大声で紹介。その後もトーンは落ちず、『都囃子』で高座へ。
 会場から「待ってました! タップリ」と、声がかかる。「ありがとうございます。タップリなんて出来ません。・・・・
両師匠だけでええと思ったんですが顔がええから出よか」と、挨拶し、マクラが始まる。これが実に面白く、会場をドカン、ドカンと笑いの渦に巻き込む。そして、始まった演題は『青菜』。この噺を古くから手がけられている師匠だけに手馴れた演出で、登場人物が全て女性というところが聞き処。
 主人公の植木屋=髪結い。旦那さん=御寮人。御寮人=お手伝い。そして、女房=妹。大工の友人=髪結いの友人。と、凝った演出。全員が生き生きと描かれた名作は21分であった。

 さて、四月公演のトリは林家一門の総帥・四代目林家染丸師匠。今や押しも押されぬ上方落語界の重鎮であり、上方落語協会副会長の重責でもある。
 当席では、毎年ご出演されて、今回も『正札付き』で高座へ、「ありがとうございます。私もう一席で・・・」と、挨拶から、前出の都師匠の話題「芸人の女性も四十位が一番よろしいなぁ。油も乗ってるし、言いたい放題で・・・」。
 そして、男女の小噺(三代目染丸師匠直伝)を披露し、本題の『辻占茶屋(当席では初口演となる演題)』が始まる。当席で演じられるのは、勿論初めてであるし、大変珍しい噺である。師匠のイメージピッタリの噺は、お囃子さんとの息もピッタリで、お囃子に乗ってトントンと進み、心中に行ってサゲとなる。

 サゲにも一工夫。
 源)「お、梅乃やないか!」
 梅)「まぁ、源やん。あんた風邪ひかなんだか?」を、
 梅)「まぁ、源やん。あんた泳ぎ、うまいなぁ」。
 結構なトリの演題であった。

 ・この噺、色々、判り難い言葉が出てきますので、ちょっと解説。
 「見徳(けんとく)」=予感。縁起。のこと
 「間夫(まぶ)」=遊女の本当に好きな人
 「しんねこ」=男女が人目を忍んで語り合うこと
 「心底(真底)」=本当の心の奥底で思っていること
 「いか上り(のぼり)」=凧上げのこと。「初天神」などでも、この言葉を使っている演出もある