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公演記録

       第319回 公演の記録           吉村 高也
     公演日時: 平成17年 3月10日(木) 午後6時30分開演  

             出演者             演目

           林家   染 左道具屋
           桂     紅 雀いらち車
           桂    坊 枝天王寺詣り
           桂    春 駒抜け雀
              中入
           笑福亭 仁 福手水廻し
           桂    南 光胴斬り
(主任)

             打出し 20時58分

             お囃子  林家和女、勝 正子

       手 伝 桂吉坊、桂 雀五郎


 2005年も絶好調の当席、『317回・新春初席公演』、『318回・如月公演』は、共に立見大入公演でお開きとなりました。

 続いての三月公演も前評判は絶好調。まず、前売券が二月末日に完売。その流れは電話・Eメール予約へ転じて、そして、電話問い合わせから当日の長蛇の列へとつながるのである。

 当日の会員様の御来場者数も先月同様好調。開場は五時半を早めて五時二十五分、多くのお客様がご入場され、席が次々と埋まっていき、六時半の開演時間には最後列に長椅子を入れて対応(昨年十二月から四公演連続の大入となった)。

 その公演のトップバッターは、来月トリの染丸一門から林家染左師が『石段』の出囃子で元気一杯、高座へ登場。「ありがとうございます。一杯のお客様でございまして、只今より開演でございます。まず出てまいりましたのが、こちらのほうに名前を出して頂いておりますが、林家染左と申しまして、こちらのほうには初めて出していただきまして、憧れの恋雅亭でございまして・・・。」と、挨拶して、さっそく本題の『道具屋』がスタート。

全編、師匠譲りのきっちりとした構成で大受けの13分であった。

 高座を下りてこられた師の感想は「上がる前はそうでもなかったんですがやっぱり緊張しました。お客様も一杯やし、うれしかったですわ」。

 二つ目は、枝雀一門から桂紅雀師。当席初出演。しかも二つ目で。これで枝雀一門は全師がご出演となった。師匠匠譲りの芸風にプラス、個性的な高座を楽しみにしておられるお客様も多く、『さいさい節』の出囃子が鳴り、メクリが変わると一段と大きな拍手が起こる。

「えー、ありがとうございまして変わり合いまして桂紅雀(こうじゃく)のほうでお付き合いを願っておきますが・・・」と、挨拶して交通機関の発達をマクラに、「この間、北海道から飛行機で帰ってきまして一時間半ですわ、速いもんで、関空から千里の自宅まで二時間半(爆笑)」。

  さらに、「交通事故を起こして気絶してしてましてん。その日は事務所からが丁度仕事を貰ってましてん。米朝事務所の社長が飛んできてくれましてうれしかったですわ。私ら末席でっせ。社長が『大丈夫か?』。嬉しい言葉ですわ。涙が出てきまして、けど、続いて社長が『今から行けるか?(仕事トホホ)(爆笑)』」。

 本日の本題は、口跡の良さを生かしての『いらち車』。全編、テンポよく元気一杯の高座は全編爆笑の連続。再演を期待したい15分の好演であった。

 三つ目は、文枝一門から桂坊枝師。個性派の実力者揃いの一門にあって、元気一杯の高座はピカ一。今回もその十八番の中から名演を期待しているのは小生だけではないはず。

  楽屋入りされる師匠と入り口でバッタリお会いした。あつかましくもリクエストする。
「おはようございます。今日は『天王寺』彼岸でっせ」。師匠も嬉しそうに「よろしいんか、ネタ帳見て出てなかったらやらしてもらいますわ」。
ネタ帳を確認して、さらに満面の笑みで「演(や)らしてもらいまっせ」と回答。
師匠自身も演(や)りたさがにじみ出ている。

『鯉』の出囃子で愛嬌のある笑顔を会場一杯に振りまきながら高座へ登場。「えー、・・・・・。尊敬する噺家には、@落語の腕が確かな人。Aマスコミで売れている人。Bとにかく人がいい人。今日の出演者で一人いてはります。誰とは言えませんが・・・」。
先輩への愛情一杯に爆笑マクラが進む。

「しかし、我慢にも限界がありまっしゃろ」と、島之内寄席での一コマを紹介。「『愛宕山』に挑戦した?師匠が谷底と頂上でのやり取りで、どちらも下を向いて喋るでっせ。『おかしい』と袖で喋っていると気が付かれて・・・・・」。会場は大爆笑。

 「それでは今日はお彼岸中の天王寺さんへ・・・・。」と『天王寺詣り』へ入ろうとするが、「誰やろ」と、前の方のお客様が犯人探し。「あのー、ミスターJさんとだけ言っておきます。犯人探しは中入りの時にお願いします。中入りの後に出てきますから・・・(場内大爆笑)」。 笑いの収まるのを待って、師匠直伝の本題が始まる。皆様、よくご存知の通り『天王寺詣り』は、四代、五代、六代松鶴の十八番で笑福亭のお家芸として有名ですが、五代目文枝師匠は五代目松鶴師匠からの口伝を受けた十八番です(この日までは・・・)。

  その師匠からの直伝で自らも十八番として演じられておられるだけに悪かろう筈がない。師匠からの教えに忠実に、なおかつ発端から元気一杯に発進し、随所に自身の工夫が見える。目を閉じて聞いていると情景が目に浮かぶし、スケッチ落語としての部分も抜群。「こう言っておりますと境内は誰もいない様ですが・・・」。の、キッカケからお囃子が入り見せ処となる。ここでは勿論、拍手が起こる(乞食が栄養万点なのはご愛嬌)。

 25分の口演はオーバーでなく、六代目松鶴、五代目文枝の両師匠と肩を並べた名演で、さらに、文枝師匠の最後を看取ったのは坊枝師匠(この時点では師匠危篤を知らされていての口演)であり、師匠へのはなむけの好演であったと考えるとジーンとしてしまった。

 中トリは桂春駒師匠。毎年一回の独演会も充実し、その中の究極の一席を今回も演じて頂けるはず。『白拍子』の出囃子で登場した師匠は、「えー、変わりまして、私の方でもお付き合いを願っておきますが・・・・・」と、挨拶し、マクラは「私らの商売は、いくらという相場があるようでないもので、よく頼まれるのですが『いくらですか?』と言われるのが一番困りますねん。最初は『予算の範囲で』と言っておったんですが、最近は『お気持ちだけて』にしてますが、どっちも一緒ですけど・・・・(場内大爆笑)」。

「同じ相場がないものとしては書画があります・・・」と、マクラをうまく導入部に使って本題の『抜け雀(米朝師匠直伝)』がスタート。

 師匠の十八番であるだけに当席での口演回数も今回で四度目となる。「お所は、東海道は相州・小田原の宿。小松屋清兵衛方という宿屋さんの前にお立ちになりましたのが、年の頃なら三十前後の若い男。・・・」から始まった噺は、上品で、美談のような噺。

絵描きさんの話でちょっと珍しいネタ。笑いは極端に少ないなずなのであるが、出てくるご夫婦も絵師も大阪弁であるので、随所に笑いが起こる。

 亭主が朝、障子を開け、朝陽が屏風に射しこむと、屏風の雀が飛んで出たのを見て言葉もしゃべれず、二階を指差し「す〜、す〜、す〜」。信用しないおかみさんも、「す〜、す〜、す〜」には、場内大爆笑。

サゲは、「あの鳥かごを描いたのは、この人のお父さん。道理で、おんなじような言い草してはったんやね。『かかる所に気が付かぬとは、まだまだ修行が足りませぬ。不幸の罪は、平にお許しいただきとうございます。』『何をおっしゃいますやら。これほどの絵を描かはったんでっさかいに、お父さんに、何の親不孝なことがございますかいな。』『いや亭主、親不孝ではあるまいか。現在、親にかごを描かせた。』

中トリの重責をピシッと決めた春駒師匠であった、さずが!

十分の中入りの後、『自転車節』の軽妙な出囃子で登場は「ミスターJさん」こと笑福亭仁福師匠。いつもは高座へ上がるとホンワカムードタッリとなるのであるが、本日は坊枝師の前振りが効いて、拍手と笑い、そして、掛け声が会場のあちこちから飛ぶ。『愛宕山!』の声に立ち上がって師匠が帰ろうとすると、場内の爆笑が最高潮に達する。「えー、ありがとうございます。色々な声を今までかけていただきましたけど、あの掛け声は・・・。聞きたいこともないのに『愛宕山!』出来ませんわ・・・・・。元々、向上心がおまへんから・・・。」と、爆笑マクラが始まる。これが実に面白い。とても文章に表わせない。

  そして、今日は別な噺を、と始まった演題は『手水廻し』の一席。登場人物が全て善人のこの噺と師匠の人の良さがマッチして実に面白い一席に仕上がっている。トリにつなぐ重要な出番であるカブリで、ある意味、トリを食う程の会場を爆笑に巻き込んだ20分の高座であった。

  さて、三月公演のトリは桂南光師匠。今回も当席への出演を快諾いただき、早くから楽屋入り。『恨み酒』『桜の宮』『花筏』『初天神』と、前に演じたネタを確認。

『猩々』の出囃子で高座へ登場すると会場からは待ちかねたように本日一番の拍手が起こる。「えー、私、もう一席・・・」と、マクラが始まる。物騒な世の中になったことを、前出の仁福師匠をネタに使って笑いをとって始まった演題は『胴斬り』。胴と足とが別々な所に働きにいくといった一種のSF落語で、枝雀師匠も十八番であった。

  その噺を御自身も楽しみながら、客席に「着いてきてますか?」と爆笑を誘いながらの口演・名演であった。     (3月公演・大入叶)