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公演記録
       第318回 公演の記録           吉村 高也
     公演日時: 平成17年 2月10日(木) 午後6時30分開演  

             出演者             演目

           笑福亭 瓶  太大安売り
           桂     雀  松マキシム・ド・ゼンザイ
           桂     文  太文六豆腐

              中入
           海老一 鈴  娘 太神楽
           笑福亭 鶴  瓶らくだ
(主任)

             打出し 21時10分

             お囃子
   林家和女、勝 正子

           ・手伝   桂枝三郎、出丸、文鹿、笑福亭小つる、伯枝、
                   達瓶、恭瓶、銀瓶、瓶生、銀瓶、瓶成、山澤由江
、(順不動) 

                     ・東京から、津川雅彦氏がこの公演のために御来席

 2005年の年頭を飾る『317回・新春初席公演』は、めっきり寒くなった1月10日に開催され、大入満席でお開きとなりました。

 続いての如月公演は「トリで、笑福亭鶴瓶師匠が『長演・らくだ』を演じる」とあって前評判は絶好調。まず、前売券が一月二十日過ぎに完売。その流れは電話・Eメール予約へ転じて、そして、電話問い合わせから当日の長蛇の列へとつながるのである。

 当日の会員様の御来場者数は過去最高の99名。開場は五時半を早めて五時十五分、多くのお客様がご入場され、席が次々と埋まっていく。当日券のお客様は申し訳ないが六時前に早々と六時半まで待って頂いて立ち見となってしまった、その公演のトップバッターは、トリの鶴瓶一門から笑福亭瓶太師が元気一杯の高座を努める。

個性豊かな一門にあって落語への情熱は一番。今回は師匠の前でおお張り切り。早くから楽屋入りされてチラシの挟み込みを手伝ったり、楽屋の準備をしたりと大忙し。多くの一門の兄弟弟子の声援に大声で応えて『石段』の出囃子で「おーっす」と、元気いっぱいに高座へ登場。会場からの声援や拍手が起こる。「ありがとうございます。大変お待たせいたしました。ただ今より第318回もとまち恋雅亭、開演でございます・・・・。いっぱいのお客様でございまして、これが昨日(9日はサッカーの日本VS北朝鮮戦のTV放送)やったら、誰も来はらへんかも・・・。

すごかったですねぇ、最後の二十分で翌日には全国に名を轟かせましたが、今日の私の持ち時間が十五分でございまして(会場から大爆笑。ここらが当席のお客様の感度の良さ)、瓶太と申します(会場から「がんばれ」との声援や拍手が起こる)。ありがとうございます。今日は会場ももいっぱいでございますが楽屋も大入りでございます。みんなタダで聞いてますが、一門の一同が一緒になることは良いことでございます。」と、あいさつプラスマクラから、「えー、人気商売。名前と顔を覚えていただかんとあかん商売ですが、スポーツも」と相撲の話題から、「おい、向こうから来る奴、誰か知ってるか?」と始まった本題は『大安売り』。

 この噺、二人の男の会話の連続をベースに次からとススグリが続くいわいる根問物であるので結構難しい噺で、だんだん笑いが少なくなるケースが多いのだこの噺は師匠も古くから十八番にされていた噺だけに師匠をベースにして随所に瓶太師自身の個性がうまく入り、サゲまで笑いが絶えなかった11分の秀作になっていた。

 下りてきた瓶太師、一門の兄弟弟子や楽屋に鳴り響くような声で「お先に勉強させていただきました」とあいさつ。「いっぱいのええお客さんでよかったですわ。またお願いします」との感想であった。

二つ目は、枝雀一門から桂雀松師匠。師匠譲りの芸風にプラス、個性的な高座は当席でもお馴染み。今回もその期待を裏切らない名演をお願いしたいものです。と、ご紹介したが、早くから楽屋入りされ小生と談笑。

「いつも、ありがとうございます」

「こっち、こそ。今日は迷いまっせ。意外と難しい。トリだけがネタが出てまっしゃろ。それと持ち時間もありまっしゃろ」

「今日は十八番の『替り目』でも」

「ようそんなこと言いますなぁ。酒、喧嘩、葬式、演ったらあかんキーワードが、ようけありますやん。難しいでっせ」。

笑いながらの会話の中に自信がみなぎっていた。

『砂ほり』の出囃子で登場した雀松師「えー変わり合いまして私のほうもよろしくお付き合いを願っておきます。お付き合いと言いましても、皆様方と結婚を前提として、お付き合いをするわけではございませんのでご安心下さい」と、マクラで会場から笑いを誘い、雀松ワールドへ。

「今日はいっぱいのお客様でございまして、嬉しいことでございまして、お金を山貰うよりも・・・・、こっちも嬉しいですが・・・」。

「我々の商売は弱いもんで、こっちから押しかけていける商売ではありません。もっとも、ここに誰も来はらへんかったら私も来んでもええわけで・・・。しかし、サッカー、やっと勝ちました。ジーコ監督もほっとしたでしょうなぁ、大黒に助けられました、大黒の顔が仏に見えたでしょうなぁ、これが本当の『地獄(ジーコ)に仏』。会場からは拍手と笑いが起こる。「ありがとうございます。拍手まで頂いて、・・・・」。

そして、良さを知ってしまったら無くてはならないものになる、と、電気・ガス、電化製品、そして落語?(場内大爆笑)。そして、スッと本題に入る。『マキシム・ド・ゼンザイ』である。

この噺は、グルメブームを題材とした小佐田定雄先生の創作落語。『ぜんざい公社(四代目桂文三作の「改良善哉」を改良)』のリニューアル版だが、演者とのうまいジョイント作品の好例と言っていいのでは。

終演後、雀松師匠にお伺いした。「この噺は小佐田先生に作ってもろたんですが、私以外演(や)ってまへん。誰も付けて欲しいちゅうて、けえへんしね。もっとも、初演からガラッと変わってしもたからねぇ」ちなみに、当席での初演は、平成元年4月132回公演であった。

もう、十五年以上前の作品だが、今聞いても、ちっとも古くなく爆笑の連続の作品。マクラからサゲまで19分の好演であった。

 三つ目は、今回は中トリは文枝一門から桂文太師匠。個性派の実力者揃いの一門にあって、落語の実力は最右翼。今回もその十八番の中から名演を期待の中、『三下りさわぎ』の出囃子で、いつものようにゆっくり高座へ。

会場からは、「待ってました」と、声がかかり大きな拍手が起こる。「ありがとうございます。うー、暮れの二十八日、新町の吉田家の女将から五十両という金を借りまして大門をでる・・・・・」と、始まった噺は・・・。上方では小生も聞いたことがない。

 噺は江戸落語の名作人情噺『文七元結』であるのだが・・・・・。

文太師匠にお伺いした。「東京の『文七元結』をこっちに持ってきたんや、場所を設定してな、これが肝心や。イメージがわくやろ。それと、時代を明治にして元結やのうて豆腐屋にしたんや。東京の噺をこっち(上方)持ってきて演じてんねんけど昔はこっちから向こうへいったからなぁ。もう六十位演(や)ったかなぁまだまだあるで、ええ噺が多いからなぁ。

 ちなみに当席では、『五両残し(星野屋)』『よもぎ餅(黄金餅)』『幾代餅(同)』『火焔太鼓(同)』『桑名船(岸柳島)』『厩火事(同)』『二十四孝(同)』『高倉狐(王子の狐)』を演じられている。

橋の上から飛び込む処を助ける発端から文六が結婚し豆腐屋を始める大団円までを20分にまとめた秀作であった。

 中入後は膝替りとして、「太神楽」海老一鈴娘嬢に華やかに飾っていただきます。「百聞は一見に如かず」お楽しみに! と、ご紹介したが、まさしくその通りで、高座の前で演じられる太神楽に会場からはその都度大きな拍手が起こる。紙面で紹介できないのが残念である。

その代わりに経歴を紹介してみたい。関西で女神楽の大御所、海老一鈴子の娘として産まれる。十歳にしてテレビ番組に出演。

その後も厳しい修行を積み重ね師匠の相手役として舞台に上がり師匠の鈴子が平成九年に引退するまで「海老一鈴子・鈴娘」のコンビでファンの目を楽しませる。今や「太神楽のアイドル」と各方面から注目され、師匠の教えを守り基本を忘れず舞台を中心に活躍している。色が白うて、ちょっとぽっちゃりした童顔で、お目目が大きくて「かわいい」。なんと鶴瓶師匠の娘さんと同い年。(年齢不詳)」

 そして、如月公演のトリは、笑福亭鶴瓶師匠。それも、『長演・らくだ』で。当席では異例となる事前に演題を公表して。

東京の今話題の「ニッポン放送」から飛行機で戻ってこられた師匠が、万来の拍手で迎えられ高座へ。時刻は7時53分。まず、当席で『らくだ』を演じることになったいきさつをマクラで語る。

「まさか、ここを創ったうちのおやっさん(故六代目松鶴師匠)と、楠本先生(楠本喬章氏)が私が『らくだ』をやるとは思ってなかったやろねぇ」から始まって、津川雅彦氏が客席に居ることを紹介するなど、客席を笑いの渦に巻き込む。

その時、師匠が「客席をちょっと暗く」と言われていたので、照度を落としていた照明が故障でもないのに、細かな点滅が起こる

(小生には両氏が喜んであの世から「がんばれ」と、エールを送っているように感じ胸が熱くなった)。

 そして、本題が始まる。発端からサゲまで、六代目師匠の口演を土台に、多くの師匠を参考に随所に自身の工夫を交えた演出が冴える。

次々に変わる登場人物の関係、酒が入って逆転する屑屋と脳天の熊五郎。棺桶を担いで長屋を出る時、「ほれ、見てみい、長屋のガキ、みんな戸をピシャと閉めあがって、薄情な・・・・」のクダリでほろっとさせ、立て膝をして棺桶を担ぎ出す独特の演出が冴える。舞台をドンドン踏みしめて、火葬場(火屋)へ到着。皆が酔っ払って、グデングデンの中、サゲとなった。

客席からは大喝采が起こる。時間は9時6分。口演時間は73分であった。

師匠によると、ネタ下しは『露の都の会』、続いて『甲子園寄席(一門会)』、『研鑚会』、そして、『当席』で四度目の口演となり、

もう一度、大阪で演じられて暫く封印されるという。          (叶大入 2月10日)