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       第317回 公演の記録           吉村 高也
     公演日時: 平成17年 1月10日(月祝) 午後6時30分開演  

             出演者             演目

           林家   竹  丸平林
           桂     文  春代書屋
           笑福亭 伯  枝へっつい盗人
           桂    千  朝鴻池の犬 
              中入
           桂     九  雀御公家女房
           桂    文  珍七度狐
(主任)

             打出し 21時10分

             お囃子
  林家和女、勝 正子

  新年あけましておめでとうございます。

2005年の年頭を飾る『317回・新春初席公演』は、めっきり寒くなった1月10日に開催されました。

 前売券の売れ行きも絶好調で正月早々に完売。その後も「前売り券は?」「どうしたら入れるの?」「何時から並んだら?」と電話が鳴り止まない。その熱気は当日も変わらず、多くのお客様が列を作られる。定刻を前に開場となり、席が次々と埋まっていく。そして、開演前に席も全部埋まって立見大入りとなる。

  その公演のトップバッターは染丸一門から当席出演を待望されていた林家竹丸師が個性豊かな風貌を武器に元気一杯の高座を努める準えっ、何かおかしなことありましたですか?(この言葉と態度に、また場内から笑い)それをネタにマクラがスタート。

本日の「染丸一門会」の楽屋見舞いを、さっき楽屋で開けたら「ゴーフル」だった。と、笑いを誘った後、始まった本題は『平林』。東西を通じてお馴染みの噺であるが、当席では、あまり演じられる機会がない。理由はあまりにもポピュラーなためとサゲに問題があるためであろう。

その噺を登場人物を多岐(お姉さん風、お坊さんなど)に、富ませ、さらにサゲを変えて見事に変身させて演じる。登場人物が自身のキャラクターとダブって笑いも多い。大いに盛り上がった15分の初出演の高座であった。

 下りてきた竹丸師、「上がるまではそうでもなかったんですけど、高座へ上がると目の前が真っ白になってしまいましたわ。けど、憧れでしたから嬉しかったですわ。またお願いします」との感想であった。

 二つ目は、トリの文珍一門から桂文春師。師匠譲りの芸風にプラス個性的な高座は当席でもお馴染みで、元気一杯高座へ飛び出してくるように登場。

「えー、続きまして文珍一門の三番弟子、桂文春(ぶんしゅん)と申します。なぜこの名前が付いたかと申しますと、『週間文春』の社長によく飲みにや、ゴルフに連れて行ってもらったりしてもらいたいなぁ・・・・・。本当は春に名前が決まっただけの理由でして」と、マクラが始まる。

 そして、一門の新年会(神戸住吉の御寿司屋)での『マツケンサンバ』の総踊り。師匠が松平健氏よりの年賀状を持って「オレー。オレ・・・」、その後を、弟子が続き、その後を弟子の家族が続く、まるで妙な新興宗教と間違えられそうな光景と様子を紹介すると会場は爆笑に包まれる。

 そして、各地で開催されている一門会の宣伝をして始まった本題は、これもお馴染みの『代書屋』。

 「代書屋」とは、今の司法書士の役割を持つもので、履歴書などの書類も代筆してくれたそうで、文字が書けない人が多い時代にあった職業なのでしょう。

この噺は、四代目桂米團治師匠の作品で、その後、米朝師匠から三代目桂春團治師匠へと譲られました。桂枝雀師匠も十八番の一つでした。ちなみに、主人公の名前は演者によって異なり、米團治師匠が太田藤助、米朝師匠が田中彦次郎、春團治師匠は河合浅次郎、枝雀師匠は松本留五郎、そして席の文春師は「クサイケイスケ」と、盗人の噺でお馴染みの名前で登場。

春團治師匠の河合浅次郎とは、実父である二代目桂春團治師匠の本名で、枝雀師匠の松本留五郎の松本姓は枝雀師匠の祖父の旧姓なのは有名である。

 全編、師のキャラクターが前面に出た明るくて愉快な登場人物が繰り広げる爆笑噺。

 本来のサゲは「自署不能につき代書」という、代書が書くべきものを代わりに客が書いてしまったというものであったそうですが、現在は最後まで演じることはなくなったようです。三代目桂春團治師匠のサゲは町内の大食い競争での表彰の部分で終わり。桂枝雀師匠のサゲは職業が「ポン」という完全にオリジナルなものでした。

 文春師も、サゲにも自身で一工夫を加えた18分の高座。再演を大いに期待したい。

  三つ目は、笑福亭一門から笑福亭伯枝師。個性派の一門にあって、自身の個性で上方落語を、その風貌で数多く手がけられておられる師である。

今回もその十八番の中から名演を期待の中、『大拍子』の出囃子に乗って高座へ登場。

「えー、続きまして、逮捕された織田無道みたいなんが出てまいりまして、正月早々黒い紋付着てますが決して怪しいもんではございません。目元なんかは一昔前の少女漫画の主人公みたいな可愛い感じでございまして・・・」と自己紹介。

 さらに、「私も酒が好きでお陰で肝臓を悪くしまして・・・」と、病院で見習い看護士に注射を打たれて痛い思いした話題から本題に、「えー、今日の私のお話は、えー、へっついさんが出てまいります。若手の噺家に『知ってるか』と聞くと知ってます、七福神でっしゃろ(笑い)」。そして、始まった演題は『へっつい盗人』。

 笑福亭の豪放磊落の芸風そのままに全編、大爆笑の連続。随所に会場全体から沸き起こるような笑いが起こった好演であった。

 そして、中トリは、桂千朝師匠。昨年の八月の出演以来、再演を熱望されておられた声に応えての登場。『浪花の四季』の出囃子に乗って高座へ登場。

「えー、動物の世界も・・・・賢い犬もおりまして、ビックリしたのが、お目の悪い方が連れてはるコールデンレトリバーちゅう犬、この間、米朝一門会の客席におりますねん。この犬が、感心しましたわ。二時間でっせ。落語会を「ワン」とも吠えずにジッーと噺を聞いてまんねん。もっとも笑いまへんけど、偉い犬もおるもんでっせ。」と、動物のマクラで笑いを誘って始まった本題は、師匠直伝の『鴻池の犬』。

 この題名は事前に観客にネタばれ(噺の内容が分ってしまう)してしまうおそれのある演題ですがペーソスのある、フッと涙がこぼれそうになる、当席でもよく演じられる演題なのでご存知の方も多い名作である。

  発端の「常吉、ちょっと起きとぉくれ。いやいや、まだ起きる時間じゃありゃせんが、年取ると夜聡(ざと)ぉなってどもならん・・・」から千朝ワールドが始まる。米朝師匠にキッチリ基本から口伝されている演題だけに要所要所にキッチリ笑いが起こる。25分の名演であった。

なお、ここで出てくる「鴻池家」は明治時代に「鴻池銀行」を設立。昭和初期には、「三和銀行」。そして、「UFJ銀行」、今年「東京三菱UFJ銀行」と変貌を遂げている。

 中入り後は、枝雀一門の桂九雀師匠の登場。

その風貌そのもののホンワカした高座は当席でもお馴染みで、今回も師匠譲りの爆笑落語の何をと期待の中、登場。「えー、後、二席でございまして、まだ一回も笑ってない方、チャンスです」とあいさつから、若い時に栄養失調になった話題で笑いを誘って「おめでたい結婚のお噂を・・・」と、始まった演題は古典落語の『延陽伯』をアレンジした、『御公家女房』。

この演題は、九雀師の『延陽伯』は、名前のクダリがなかった。ある会で、「お客さんに名前を考えてください」、と言って決め(命名者は旭堂南湖師)そうである。

 サゲにも工夫。言葉も慣れるもので物売りとの会話もスムーズになる。難しい言葉を操る物売りのハッピの胸のところに「宮内庁ご用達」。

 そして、新春初席公演のトリは、昨年に続いて桂文珍師匠。

今や押しも押されぬ上方落語界の第一人者の地位もガッシリ築き、ますます重厚な芸を披露しておられる師匠、「恋雅亭の初席はわしや!」と出演を快諾いただいての登場。

楽屋で小佐田定雄先生と談笑し、九雀師の口演中は袖にいつもの様にドッシリ座って声を出さずに笑顔。実に楽しそう。

昨年は『三枚起請』、一昨年は『胴乱の幸助』、今年は・・と、お客様が期待の中『円馬囃子』が鳴り出すと、お囃子さんに「七度狐」と言って立ち上がる。「ツケは私が!」と小佐田先生が応える。いつものように、ゆっくりゆっくり高座へ登場すると会場から本日一番の拍手が起こる。「えー、良くお越しくださいました」。この一言で会場は大爆笑。反応は抜群。

「えー、この頃は人数も増えまして、なかなか出してもらえんもんで、出していただくのも久しぶりで、一年ぶりでございます。嬉しい限りでございます・・・。『延陽伯』をしようと思ってまいりましたら、『代書屋』も『鴻池の犬』も、何をしようかと迷って・・・。」「うちの弟子に楽珍というのがおりまして、芸を覚える前に女を覚えまして、ご両親が徳之島から来はって、ガラッ戸とを開けると、中に女の子がおるもんで、『誰や』ちゅうと『うううう妹』(会場からドッカンと笑いが。感度抜群)。」

 さて、と始まった演題は、『東の旅』の発端。そして、『煮売屋』、すり鉢に入っている「木の芽あえ」を盗んで、お馴染みの『七度狐』が始まる。

騙されて「河渡り」、「尼寺で怖い思いを」、「尻尾と間違って畑の大根を抜く」。ここでサゲとなるのだが、ここからが師匠の創作で題名通り七度騙される。「石段を登っているつもりが水車であったり」、今流行りの「オレオレ詐欺」、「宿屋町で露天風呂と思って川に浸かったり」、最後は「武士を狐と間違って殺して捕まり首を刎ねられる」と思ったら・・・・・・・。見事なサゲとなる。

昨年の、「88独演会」、「文珍+南光+鶴瓶の三人会」でも受けに受けた噺、当席でも大受けの35分の高座であった。

    (叶大入 1月10日)