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       第316回 公演の記録           吉村 高也
     公演日時: 平成16年12月10日(金) 午後6時30分開演  

             出演者             演目

           笑福亭 喬  楽花色木綿
           桂     出  丸狸の賽
           桂     春團治子ほめ
           笑福亭 仁  智スタディベースボール
              中入
           桂     枝三郎時計屋三代目染語楼 作
           笑福亭 松  喬尻餅
(主任)

             打出し 21時

             お囃子
  林家和女、勝 正子

 めっきり寒さを増してきた11月10日、意外と暖かい12月10日。『第316回・もとまち寄席・恋雅亭』が開催されました。

 11月中は、前売券の売れ行きがやや低調であったが、公演日が近づくと急に好調になる。当日のお客様の出足も好調で会場へ到着。次々と到着されるお客様の列が本通まで溢れた。定刻を5分早めて開場。

 開場と同時に会場一杯に並べられた椅子(パイプ椅子も増設)が埋まっていく。さらに洋酒のクリスマスプレゼントと、神戸大学の落語に関するアンケート付き。6時半の開演時間には、大入満席となる(240名)。

  それに応えるように出演者も次々に到着され(勿論、三代目師匠はあーちゃんをご同伴)、「今年は欠席が多かったわぁ」と英華嬢や「年に一度は恋雅亭」と枝三郎師、「HPの写真、写真」と出丸師と大賑わい。

 そこへ、芝居を終えられた松喬師匠が到着され準備万全。さっそく、三代目師匠と「落語家はあまり下半身を使いまへんでっしゃろ。立ってることは難しいですわ」との松喬師匠。「そやなぁ、けど、間の良し悪しで受ける受けへんは決まるやろ、間は難しいけど」と三代目師匠。芝居談義は続く。

 その公演のトップバッターはトリの松喬一門から笑福亭喬楽師。

『石段』の出囃子が鳴ると、楽屋やお囃子さんに「花色木綿、勉強させて頂きます」と、大声で挨拶して元気一杯の高座ヘ登場。「えー、ありがとうございます。トップは私、芸名を笑福亭喬楽、本名を市川海老蔵と申します」と、あいさつ。

アフロヘアーをばっさりと坊主頭にして落語に挑戦中。自宅に盗人が入った話題から「泥棒の噺を・・・」と、断って始まった演題は『花色木綿』。師匠から習った通りに演じる噺は15分と、前座としての重責を果たした喬楽師であった。

 二つ目は、ざこば一門から桂出丸師。師匠譲りの押して押して押す芸風で上方落語を演じる師、今回もその期待を裏切らない名演を期待しての拍手の中、登場。「続きまして出丸君の方でお付き合いを願っておきますが・・・・」と、学生時代の賭け事での失敗のマクラから始まった演題は『狸の賽』。

  大師匠にあたる米朝師匠譲りの思わせるような口演に会場は爆笑の渦。18分の高座であった。

 三つ目は、『野崎』の出囃子がなって三代目桂春團治師匠の登場となる。

今回もその十八番から何を・・・・。「えー一杯のお運びを頂きまして、ありがたく御礼申し上げます・・・」と、いつものフレーズから羽織をスッーと脱ぐ。「えー、今、横町でマンさんに会うたら」から始まる十八番は・・・・、今回は20分の『子ほめ』でした。

当席で師匠の『子ほめ』は、1983年2月・第59回公演。1988年2月・第118回公演についで、約17年ぶりとなる。

 その絶品の話芸に会場からは波を打ったような笑いが起こった名人芸であった

 そして、中トリは、仁鶴一門の総領・笑福亭仁智師匠の登場。そのホンワカした高座は当席でもお馴染みで、軽快な『オクラホマミキサー』の出囃子で高座へ登場。会場からは爆笑創作落語を期待して大きな拍手が起こる。

「えー、私以外の落語をお楽しみに・・・」と、いつものようにやや照れくさそうに爆笑マクラが始まる。TV各局のスポーツテーマソングの紹介。読売TV(日本TV)、関西TV(フジTV)、朝日放送(TV朝日)、毎日放送(TBS)、NHK、そしてサンTVと、その都度会場からは、「そう、そう」と相槌を打つような笑いが起こる。

 そして、昔からの個性豊かな解説陣、アナウンサーを紹介して始まった演題は『スタディベースボール』。師匠の野球ネタの『目指せ甲子園』と双璧な噺である。主役は阪神の岡田監督。勿論、選手として登場する。

 当席では約13年ぶりの口演であるが、練りに練られた、いつまでも古さを感じさせない秀作、サゲは勿論、「小生は知らない」。25分。

当席で演じられた二つの創作落語は、

82年8月・第053回『スタディベースボール』

83年8月・第065回『スタディベースボール』

87年8月・第113回『目指せ甲子園』

91年6月・第158回『スタディベースボール』

93年3月・第179回『目指せ甲子園』

97年8月・第228回『目指せ甲子園』

03年8月・第300回『目指せ甲子園』

 中入カブリは、三枝一門から「枝さん」こと桂枝三郎師。創作派が多い一門にあって本格上方古典落語を数多く手がけられておられる師、今回も多くの古典・創作十八番の中から選りすぐりの名演を期待したいものですと、紹介したが楽屋入りから「今日は極月の十日、昔は『大人のための童話集』やってましたなぁ」と、意味深な発言。

『中の舞』の出囃子に乗って登場。「えー、桂枝三郎と申しまして、さぞ、お力落としの方もございましょうが、出番が変わっておりますが、全て春團治師匠の都合で・・・今日は悪い日でございまして、文珍さんの誕生日でございまして・・・」といつもの導入部。

  マクラは家族を襲った「車上荒し」でのクレジットカード盗難を題材に、「すぐ使われてまして、四十万ですわ。恋雅亭へ年一回出てる私として四十年かかりまっせ」と笑いを誘う。

「落ち込んでるので、今日は楽しい落語会やぁ、と張り切って来ましたら、トップから『花色木綿』や、これ泥棒の噺。お金ないし何か儲かることないかなぁと思てたら次がギャンブルの噺や、手っ取り早く人でも誉めたらと思たら『子ほめ』やて、落語はうまいこと出来てますなぁ」と、さらに、十二月の特別企画での松鶴師匠の思い出噺から、「今日は艶笑落語を、艶笑といっても三遊亭円生師匠の落語ではありません」。

 さらに、今日の演題を紹介する形で、「落ち込んでるので、今日は」と、始まった艶笑小噺。

まずは、「長患いしてたご主人が臨終の間際に奥さんの手を握って『すまんな。いっつもわしばっかり先いって』」から、『下から松茸』。『壁松茸』などから『時計屋』。この噺は今の染語楼師匠の実父にあたる先代、三代目染語楼師匠作。

妊娠を心配した女性が産婦人科に電話をするのだが、間違って時計屋にかかったから、さあ大変。実にシャレの効いた秀品であった。

 そして、師走公演のトリは、六代目笑福亭松喬師匠に昨年に続いて一年の大トリをとっていただきます。本格的古典落語の第一人者の地位もガッシリ築き、ますます重厚な芸を披露しておられる師匠で、今回は芝居の合間を縫って「当席なら」と出演を快諾していただいての登場となりました。

 当席へ到着された師匠は、三代目師匠と芝居談義。

  そして、三代目師匠夫妻が「元ブラ(元町をブラブラすることで、これが判る方はちょっと古い)」に出かけられたので、本日のネタの検討。「今日は十二月やから何がええかなぁ。『尻餅』を是非、演りたいけど、去年は君(小生)があかんちゅうから、えーと(ネタ帳を見ながら)、そやそや、あまり演(や)ってない噺と思って『茶金』、その前は『佐々木裁き』『寝床』、そろそろええわなぁ」と、『尻餅』に決定。

その後、急遽、オフを利用して楽屋へ来られていた鶴瓶師匠と「ボソボソ」と、楽しそうに談笑(この楽しそうな談笑は深夜一時半まで続くのである)

 『高砂丹前』の出囃子に乗って万来の拍手に迎えれて高座へ登場した風格充分な師匠である。「もう、最近、頭を下げる時、こうせなあかんなぁと思いながら、松枝よりひどうないとは思うんですが・・・。まあ、年に一度、ここに出して頂くのが本当に楽しみになってきた訳でまいりまして」と、当席への意気込みを披露する。

 そして、生まれて初めてという芝居への出演秘話を色々と披露。これが実に面白い。身振り手振りで語る芸談に場内は爆笑の渦に包まれる。

十分のマクラの後、始まった演題は六代目松鶴直伝の『尻餅』。

 年末ムードタップリのこの噺は、演(や)れる時期が限定されており、松喬師匠曰く「十二月後半が旬の噺」である。「えー、昔は年末の雰囲気と言いますと『チン搗き屋』さん・・・」と、の一声で会場のムードがガラリと昔へタイムスリップする。

  貧乏だが仲の良い夫婦が周りへの見得のために繰り広げるお馴染みの噺であるが、師匠の工夫の一杯入った秀作は半時間。一年のお開き相応しい拍手喝采でお開きとなった。(叶大入 12月10日)

 さて、鶴瓶師匠も参加された忘年会は、「落語談義」で大いに盛り上がった。二、三紹介すると、「今日の『尻餅』で嫁はんのお尻叩く音なぁ、テンポな、うちの親っさんと違えってんねん。ポン、ポンや。親っさんはポン、ツ、ツ、ポンや(松喬)」「そやそや(鶴瓶)」「狙いは嫁はんにすかされる処や、ここでドット来たら成功や。音や仕草で手(拍手)が来る余裕無しのテンポがいるねん(松喬)」「『らくだ』やけど、兄さんへの親っさんのアドバイスは『ホンマもんの酔っ払いはあかん』やったですね。私への兄さんのアドバイスは?(鶴瓶)」「もう鶴瓶の『らくだ』や、やっぱり難しいのは脳天の熊五郎や、ポイントは三つや(松喬)」 以下、続いた。