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       第315回 公演の記録           吉村 高也
     公演日時: 平成16年11月10日(水) 午後6時30分開演  

             出演者             演目

           桂   福 矢「みかん屋
           桂   宗 助「禍は下
           林家  うさぎ「餅屋問答
           桂   文 紅「肝つぶし
              中入
           桂   雀 々「疝気の虫
           立花家 千 橘「加賀見山
(主任)

             打出し 21時15分

             お囃子
  林家和女、勝 正子

 めっきり寒さを増してきた11月10日。『第315回・もとまち寄席・恋雅亭』が開催されました。
の寒い中、多くのお客様が会場へ到着。次々と到着されるお客様の列が本通まで溢れた。定刻の5時半開場。(いつもならがありがたい悲鳴であるがお客様に待っていただくのも気の毒であるし、風月堂さまにご迷惑もかけられずかといって早く開場もきりがなく難しいところである。三方一両得の名案はないものか)。開場と同時に会場一杯に並べられた椅子が埋まっていく。6時半の開演時間には、七分の入りとなる。(145名)。

  その頃、楽屋では大変なことになっていた。トリの千橘師匠が『加賀見山』を演じるとあって、キッカケ(お囃子の入るタイミング)の打ち合わせの真っ最中。

この噺、上方正本芝居噺と呼ばれる特に楽屋の手のかかる噺で千橘師匠を中心に、三味線の和女嬢、うさぎ、宗助、福矢の各師が打ち合わせ。そして、文紅、雀々師匠も楽屋入りされ開演までに全員集合。

  その公演のトップバッターは福團治一門から桂福矢師が元気一杯、『石段』の出囃子に乗って高座へ登場。

二、三のマクラから始まった演題は『みかん屋』。

発端からサゲまで、キッチリと基本に忠実に元気一杯に演じる。再演を大いに期待したい福矢師であった。

 二つ目は、米朝一門から桂宗助師。師匠譲りのキッチリした芸風で上方落語を演じる師。先席の阿か枝師が文枝師匠にソックリと表現したが、米朝師匠にソックリと言われた師であったが、もうそうでもないほど充実の師。今回もその期待を裏切らない名演をと期待の中、高座へ登場。

  マクラもそこそこに始まった演題は当席では初めての口演となる『禍は下』。

落語の中には東西で同じ様な志向の噺がある。この噺もそれで、東京では『権助魚』という演題で、寄席では割にポピュラーな噺。登場人物は多くないのだが、昔はよくあった光景(旦那・御寮人・お妾・丁稚)の登場人物が織り成す爆笑落語である。途中にお囃子も入ってムードもタップリで天満橋の網打ちには行かずお妾宅へ、言い訳を授けられて魚屋へ寄って帰路に着くのだが・・・・・・。

  三つ目は、染丸一門から林家うさぎ師。師匠直伝の本格上方落語を、今回も、多くの十八番の中から選りすぐりの名演を期待したいの中、『うさぎのダンス』の出囃子で登場。「えー、上方落語界のアリアス・・・デストラーゼ・・。私のほうは、よく外人に間違えられまして」と、自身の風貌をネタに笑いを誘う。

そして、深夜のTVショッピングで健康器具を買った話題から、本題の『餅屋問答』が始まる。

 東京で『こんにゃく問答』で、上方では『餅屋問答』で主に演じられるが、当席でも二つの名前で演じられているように、演者によって違う。その噺を自身の工夫をふんだんに盛り込んで演じ、随所に爆笑を誘っていた。

 そして、中トリは、上方落語界の重鎮桂文紅師匠。

 今回もその豊富な持ちネタの中から何をと期待の中、高座へ登場。  出番前、文紅師匠にお話を伺った。

小 生「いつも、ありがとうございます。お加減は?」

文紅師「おおきに。肝臓が悪うてなぁ。しばらく入院しとったんや。東京で独演会やってからな。きつかったから」

小 生「『堀川』『池田の猪買い』でしたか?」

文紅師「一回目はな、今回は3席、一人で、もう出きんわ。ところで、今日は『景清』演(や)ろ思てんけど、今

年に出とるし、なんぼなんでも今年はあかんわ。実はある人から口演残しときなはれ言われてな

ぁ。ここでは一度演てるから、まあええか(昭和56年2月・35回公演)。今日は別の・・・。最近、

みんな変えてるけど、師匠に教えてもろた通りに残しておこうと思ってなぁ。文我が通ってくる熱心

に。一番に何がええ言うたら『鬼あざみ』ちゅから、それから付けてんねん。わしの『牛ほめ』は、途

中ではめものが入るし。」

小 生「道中の野辺の部分ですか? 師匠はようけ(ネタ)、持ってはりますから」

文紅師「若い時に稽古付けてもろたやつは、年いっても忘れへんわ。テープで覚えたやつはあかんけど。こ

こで差が付くねんけど。」

小 生「文團治師匠からが多いですか?」

文紅師「そやな、『高尾』『いかけや』なんか。そや、わしが入門するまでに三代目(春團治)さんが付けても

ろてたんやで、『宇柴』なんかも。・・・・・・・『らくだ』『初天神』」・・・」

小 生「『質屋蔵』『鬼あざみ』『島巡り』・・・。『古手買い』は」

文紅師「これが残念ながら付けてもろてへんねん、これが残念でならんねん若い時は、難しい噺を覚えるの

が大変で、後に後になって」

小 生「『お紺殺し』もやってはりますねぇ。これも文團治師匠?」

文紅師「これは、講談をベースに、うちの師匠の書いたもんがあったんで、これを参考にしてな。この噺は

『雪の戸田川』やから雪の情景が目の前に浮かぶように演じれなあかんねん。難しい噺や」

小 生「文團治師匠の『近所付き合い』がありますねぇ。家で録音?」

文紅師「わしも持ってるわ。六代目(松鶴)に、もろたんや、その後、談志君にも同なじテープをなぁ。わし

は、朝日(ABC)の放送室で録ったように思うけど。けど、うちの師匠の艶笑落語は絶品やったで

わしの入門した時は七十超えてはった。それで、演じるんや、淡々とな。真似出来んわ」

話は延々と続いたが、紙面の関係でここらでストップ。

長身を前屈みにいつものように『おかねざらし』に乗って、「えー、寒くなりまして、いつまでも若いと思てるんですが堪えます」と、マクラが始まる。腸捻転から輸血によって肝炎になった、今年も入院したこと、それは東京での独演会(一人で2時間半)が堪えたこと、そして、「こんな噺もありますというところでご辛抱を・・・」と始まった演題は『肝つぶし』の一席。

 師匠の人情味溢れる噺に場内はシーンと聞き入る。

マクラも合わせて25分弱の高座は大満足うちにお中入りとなった。

 口演後、着替えを終わった師匠はいつものように『老祥記』の豚まんを片手に帰路に着かれる師匠に、「『肝つぶし』ありがとうございました」「いやっ、あの噺も師匠に習ったんや」「20分ですか」「いや15分位や、意外と短いで」「また。来年お願いいたします」「こちらこそ」。

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当席での師匠の口演演目をご紹介

・ふたなり・花筏・天神山・蛇含草・景清・いかけ屋・鬼あざみ・親子酒  ・天王寺詣り・兵庫船・植木屋娘・

・らくだ・宿屋仇・延陽伯・尿瓶の花活け・けんげしゃ茶屋・ 夏の医者・三枚起請・お紺殺し・ 質屋蔵

・ちしゃ医者・浮世床・けいこ屋・島巡り・肝つぶし                               

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中入となった楽屋では雀々師匠がヒートUP。「シャギリを景気良く、ここらで祈や、さあ行くで」と指揮して、高座へ飛び出すように登場。

「えー、続きまして私、桂雀々、又の名をケイジャンジャンと申します」と、いつものツカミのフレーズ。

 そして、名前とは正反対の鳥が大の苦手の話題を、外国のホテルで、孔雀と遭遇し怖かった。孔雀の鳴き声を初めて聞いた。と、爆笑マクラから始まった演題は『疝気の虫』。

 奇想天外な噺を奇想天外な演出で演じるのだから、面白くない訳がない。大爆笑の連続で噺は進み、サゲに。サゲも「別荘、別荘、・・・ない、えー、えー、・・・・終わり」と、ホット・ホットな高座であった。

  さて今公演のトリは、露の五郎一門の総領、立花家千橘師匠。師匠譲りにプラス努力家の師匠で本格

的で高座を努められます。

 過去から芝居噺か、怪談噺かと予測したが、今回は芝居噺。それも「上方正本芝居噺『加賀見山旧錦絵 

清水花見の場』」(かがみやまこきょうのにしきえ きよみずはなみのば)。

当席では初となる演題である。

上方落語にははめ物がふんだんに入った芝居噺がある。「蔵丁稚」「蛸芝居」「質屋芝居」などの落語の中に芝居のパロディが入っているものと、「正本(しょうほん)芝居噺」という芝居を一幕そっくり演じてしまうものの2種類がるが、『加賀見山』は後者。

人形浄瑠璃の容楊黛(ようようたい)作で、1782年初演の、松平周防守邸に起こった奥女中の仇討(あだう)ち事件に、加賀騒動の筋を加えての脚色された、「悪者 VS ええ者」のお馴染みの内容。

お家横領を企む悪者は、岩藤(局=つぼね)、天見郡司兵衛(悪家老)、主税(ちから)(岩藤の弟)、それを阻止するええ者は、尾上(中臈=ちゅうろう)、求女(もとめ)(若侍)、左枝(さえだ)(腰元)。岩藤→求女、主税→左枝が横恋慕するので複雑となる。

 それをお囃子鳴り物をふんだんに活用し、幕開きの光景描写から、まるで芝居見物をしているような感動?を与えようという、凝りに凝った噺。

  この噺を基本にキッチリと32分。芝居の筋を知っていなければ、やや判り難かったかも判らないが、当席トリの口演ならではの熱演であった。