公演記録目次へ戻る


       第314回 公演の記録           吉村 高也
     公演日時: 平成16年10月10日(日) 午後6時30分開演  

             出演者             演目

           桂   阿か枝「煮売屋
           笑福亭 仁 昇「黄金の大黒
           桂   米 二「茶の湯
           露の  五 郎「眼鏡屋盗人 
              中入
           笑福亭 呂 鶴「うどん屋」 林家染五楼休演のため
           桂   雀三郎「寝床
(主任)

             打出し 21時55分

             お囃子
  林家和女、勝 正子
             手伝い 露の團六、笑福亭呂竹、たま

 「記録ずくめな台風襲来を潜り抜けての開催か、それとも「元体育の日」そのままの気持ちの良い秋晴れの開催か」と、予測したが、結果は、前日(九日)に台風が日本列島を通り過ぎるといった間一髪の天気。10月10日の日曜日。『第314回・もとまち寄席・恋雅亭』が開催されました。前売券、電話・メール予約も、前週から上昇。当日は三連休の真ん中とあって元町通りの人出も最高潮。
二時半に一人目のお客様が会場へ到着。次々と到着されるお客様の列が本通まで溢れた5時25分開場(いつもならがありがたい悲鳴であるが、お客様に待っていただくのも気の毒であるし、風月堂さまにご迷惑もかけられずかといって早く開場もきりがなく難しいところである。三方一両得の名案はないものか)。開場と同時に会場一杯に並べられた椅子(元町イベントのパイプ椅子も借用)が埋まっていく。6時半の開演時間には、数名の立ち見の出る大入満席となった。

  その公演のトップバッターは文枝一門の末弟で、当席、初出演、地元、明石出身で待ちに待った桂阿か枝師。

早くから楽屋入りし、チラシの折込を手伝いながら、「嬉しいですわ。ここへ出るのが・・・。表に提灯飾ってもろて」「今、出来上がったばっかりの吊ったよ」「えー、ほんまですか、カメラ撮っとこ」と嬉しそう。

 そして、元気一杯、『石段』の出囃子に乗って高座へ登場。                  

「えーありがとうございます。私はここへ出してもらうのは初めてでございまして、桂阿か枝(あかし)と申します。芸名の由来は明石出身から付きまして、実にえいかげんな・・・・。今も明石に住んでおりまして、ここは、途中下車で・・・」と、自己紹介。さらに、「文枝一門は直系で二十名おりまして、私は二十番目(場内爆笑)でございます」と、文枝師匠そっくりの声と仕草で語る。弟子は師匠に似ると言われているが、それにしても極似。楽屋雀も声を揃えてビックリ。

  マクラもそこそこに、始まった演題は師匠直伝の『煮売屋』。「ここにございました・・・・大阪離れて、はや玉造」と、唄うような発端から、「水臭い酒や」「いや、酒くさい水や」までの十五分の高座はまさしく文枝師匠。結構であった。

・口演後、「お疲れ様でした」「嬉しかったですわ。12分の本題に3分もマクラ入れて15分。これが限界ですわ」と、トップの重責も良く理解された阿か枝師であった。

 二つ目は、仁鶴一門の末弟、笑福亭仁昇師。師匠譲りのほんわかムードの上方落語をキッチリと演じる師、今回もその期待を裏切らない名演をと期待の中、『鉄道唱歌』で登場し、「えー、本当に沢山のご来場ありがとうございます・・・。」から、「おれおれ詐欺」の話題。「大阪は被害者は少ない、けど、引っ掛けてるほうが多いから・・・」では場内大爆笑。

 そして、お金の話題から早々に本題へ、仁鶴師匠直伝の『黄金の大黒』である。昔、どこにでもあったような長屋の風景や住人が実に生き生きと鮮やかに描かれていく21分の爆笑の連続の高座であった。

 三つ目は、当席常連の米朝一門の中軸、桂米二師匠。師匠直伝の本格上方落語を、今回も、多くの十八番の中から選りすぐりの名演を期待したいものです。と、先月ご紹介したが、本日の演題は『茶の湯』(これは師匠直伝ではないのでは)。 マクラで、自身の色紙のネットでの販売(200円で落札)の話題で笑いを誘って、本題へ 。上方の演者が演じるのは珍しい噺であり、登場人物も多岐にわたっているストーリーであるが、上方風に演じても違和感はない。さらに、タイムリーにト書き風に説明が入るといった実に親切な演出。お茶の主原料は、青黄粉(あおぎなこ)。これは和菓子の鶯餅の材料。そして、泡立たないといって入れるのが、椋(むく)の皮。種子は黒色の固いので羽子板の球に用い、果皮は石鹸の代用としたぐらいなので泡がすごい。そんなものが飲めたのものかどうか判らないが、飲んだので下痢は当然。お茶菓子は、さつま芋を蒸かして、すり鉢でゴリゴリすって、砂糖は高いので糖蜜を使い、お猪口で抜こぉとするのだが粘りが出て抜けない。抜くために使ったのが灯し油(燃料)。これをお猪口の内らへ塗るとスポッと抜ける。形といぃ色艶、おいしそうな利休饅頭の出来上がり、となる。

 当席で初めて演じられた噺は25分。場内を爆笑の渦に巻き込んで中トリの五郎師匠と交代となった。

 そして、「不死鳥」の露の五郎師匠が満を持しての登場。

出番前、五郎師匠と

小 生「師匠、いつもありがとうございます。師匠も不死身ですね。お元気そうで」

五郎師「あきまへんわ、足が痛とうて、入院中に足の筋肉を痛めてしもてねぇ、いっそ足が折れとったら治り

も早いんやけど。(前に置いてあったコロッケを見て)これ、なんでんねん(笑)」

小 生「差し入れですわ」

五郎師「おもろい差し入れですなぁ(一同大爆笑)」

出囃子が鳴って師匠の出となる。

  『勧進帳』の出囃子と、会場全体の拍手に迎えられて、ゆっくりゆっくり高座へ登場すると、「えー、およろしいお後でお付き合いを願っておきますが、何編も何編も死にかけてその割に死なんもんですなぁ人間ちゅうもんはなんか真っ黒けの方までは行くんですがその都度戻されまして・・・」と、あいさつする。声がやや小さく元気がない・・・。

しかし、その心配が次の瞬間にすぐ無くなる。本題に入ったとたん、声、テンポとも以前の師匠に変身。

 皆様方のおさしさわりのない話題として「お耳の悪い方(ツ*ボ)、泥棒」の話題から演題は、師匠十八番の『眼鏡屋盗人』。袖の呂鶴師匠が「ねがねや」と、一声つぶやいてご自身のネタを再考。

 同じく袖の團六師が「師匠にとって高座が一番のリハビリですわ、しかし元気なもんやなぁ」と感想。 場内は師匠の話芸にウットリと聞きほれている様子で、ツボツボで爆笑が起こる。

  中入り中のお客様からは口々に「よかった」「名人や」「うまいなぁ」の感想が出た、「復活五郎」を思わせ

る15分の高座であった。

  着替えを終わられた師匠はお一人で小生の「また、お願いします」の言葉に笑顔で「またよろしく」と、元町本通りを帰路に着かれた。

 中入り後は、林家一門の「市ちゃん」こと林家染語楼師匠の登場であったが、休演のため、「呂やん」こと笑福亭呂鶴師匠が代演。「小鍛冶」の囃子で登場。

 「大阪一、不細工な顔の染語楼が休演でございます。どうぞ、私の方でご辛抱を願っておきます。染語楼目当てに来られた皆様には申し訳ございません。なお、来月11月のの松竹座へ行かれますと本まもんの染五郎が出ております」と、ツカミのマクラ。

 早々に「私のほうはお酒のお噂で・・」と、「私は皆様方がお飲みになるお酒がてんとあきまへん。嘘やとおぼしめして『呂鶴いったいどの位飲める』と、ここにサラの一升瓶をドーンと据えていただいたところが、こんな小さな、お猪口に、一杯か、無理して二杯・・・ほどしか、よう残さんたちでございます。懐かしい六代目のギャグでございます(場内大爆笑)。たいがい親父さんこのネタやっておりました」と、始まった演題は、笑福亭のお家芸、六代目直伝の三人上戸こと『うどん屋』の一席。

  全編、六代目譲りの噺を、弾けに弾けた18分の高座であった。

 そして、十月公演のトリは昭和46年入門組から桂雀三郎師匠が一年ぶりに出演。早くから楽屋入りし準備万全。今回も本格的で大爆笑確約の高座が期待できそう。『じんじろ』の出囃子でいつもの通り登場した師匠、「えー、一杯のお運びで・・・。私、もう一席でお開きでございまして、まだ、いっぺんもお笑いでないお客様は最後のチャンスで・・・」と、いつものツカミから、「落語という芸は力の入らない、普段喋っているのと同じように「こんにちは」「おー、まあ、こっち入りいなぁ」と軽いですが、一方、浄瑠璃となりますと、実にオーバーで「こんにーーちーは」「おーまあ、こっち入りいなーーー」と、太夫さん。ワキの三味線方はと自ら座布団の横で足を割って座っての手振り身振りで紹介。これには会場は拍手喝采。

 そして、始まった本題は、枝雀師匠直伝の『寝床』。お馴染みのストーリーであるが、枝雀流プラス雀三郎の演出であるから面白くない訳がない。発端からサゲまで30分。マクラを足すと35分の熱演に場内は大満足。無事お開きとなった。

・・・・・この噺にも判りにくい言葉が出てくる。解説を加えておきたい。

@豆腐屋さんがこれを作るので手が離せないと断りの言い訳にした商品の「飛竜頭(ひろうす)は、がんもど

きの別名で。崩した豆腐に、ゴボウ・ニンジン・昆布などを加えて丸くして油で揚げたもの。

A手伝いの熊五郎も言い訳をするが、手伝い(てったい)とは、土木の雑務を行う 雇い人夫。上方では建

築土木請負師や徒弟を「普請方」と総称する。

そして、「頼母子(たのもし)の親貰い」と断った「頼母子講」とは、「無尽講」とも言い、金銭の融通を目的とした今で言う「組合員相互扶助組織」。メンバーが一定の期日に一定額の掛け金を出し合って、くじ引きや入札によって集めた金を融通を受け、全員にいき渡るまで続けるもの。

「観音講」は観音の信者の集まりであり、「導師」は、法会に集まった僧の中心となり儀式を行う僧のことで、「夜伽(よとぎ)」とは、お通夜(つや)のことで夜通し起きていること。

 さらに判りにくい上方弁も多く登場する。「のっけ=最初」「よぉさん=たくさん」「一統=一同」のことである。

・『寝床』が314回の恋雅亭の歴史で演じられたのは、今回で19度目。

 口演回数が多い師匠は、その芸風は対照的であるが、林家染丸(6回)、笑福亭仁福(5回)の両師匠が東西の横綱。

 続いて、桂歌之助師匠が2回(晩年の口演は追悼版としてCD化された)。あと笑福亭松之助、笑福亭鶴光、桂梅団治、桂文喬、笑福亭松喬、そして今回の桂雀三郎師匠となるのである。いづれにしても上方落語の大物である。  (叶大入 10月10日)