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       第313回 公演の記録           吉村 高也
     公演日時: 平成16年 9月10日(金) 午後6時30分開演  

             出演者             演目

           桂   三 金「
           桂   團 朝「あみだ池
           林家  小 染「たいこ腹
           桂   吉 朝「住吉駕籠
              中入
           桂   一 蝶「運廻し・神戸編」
           笑福亭 福 笑「渚にて
(主任)

             打出し 21時15分

             お囃子
  林家和女、勝 正子
             手伝い 露の團六、笑福亭たま、桂 しん吉、吉坊

 ちょっと涼しくなった、9月10日の金曜日。『第313回・もとまち寄席・恋雅亭』が開催されました。前売券電話・メール予約も、9月になって急上昇で大入りの予感。

おり悪く小雨模様の中、お客様のご来場のスピードはいつも以上で、開場予定時間の5時半を待たずお客様の列が本通りに大きく伸びたため、25分に開場。(いつもならがありがたい悲鳴であるが、お客様に待っていただくのも気の毒であるし、風月堂さまにご迷惑もかけられず、かといって早く開場もきりがなく難しいところである。三方一両得の名案はないものか)

 開場と同時に会場一杯に並べられた椅子が埋まっていく。6時半の開演時間には、数名の立ち見の出る大入満席となった。

 今公演のトップバッターは、三枝門下の桂三金師(平成6年入門でキャリア8年)。初出演ながら常連のような慣れた感じでの楽屋入り。チラシの折込(自身の独演会をいの一番に)を手伝ったりして準備万全。楽屋の準備も後輩に混じって一生懸命こなして出番を待つ。過去のネタを参考に演題を検討し、演題も師匠の作となる『鯛』と決定し、定刻の六時半『石段』の出囃子に乗って高座へ登場。

「ようこそお越しくださいましてありがとうございます。私が落語界の橋田壽賀子、桂三金です」と自己紹介し、さらに「私は元銀行員で銀行員から落語家へ華麗なる転進と言いますか転落・・・。皆様方は笑っておられますが親は泣いてます・・・。落語家も銀行員もコウザを大事にする。」

 そして、パワフルな大阪のおばちゃんの話題、「体重108`、煩悩の数と一緒、体脂肪45%、マグロなら一級品。」と、世間話風で考え尽くされたマクラが続き、生簀(いけす)の有る料理屋へ師匠に連れて行ってもらった話題から始まった演題は『鯛』。

当席では初の演題で、主人公はある料理店の生簀の中で泳ぐ鯛。人間社会と同様に、新参者にアドバイスをする生簀で生き残った先輩が、網にすくわれずにこの生簀の中で長く生存するコツや、過去の勇猛果敢な鯛たち武勇伝などが面白く演じられる。人間社会の教訓にも当てはまる秀作を場内を爆笑に誘い込んで演じた18分の高座であった。

 二つ目は、米朝一門から桂團朝師。師匠譲りの本格的上方落語をキッチリと演じる師、今回もその期待を裏切らない名演をとの会場全体の拍手で迎えられて、『道頓堀行進曲』の出囃子で登場し、「えーただ今、拍手いただいたお客様のみ厚く御礼申し上げます」とあいさつ。

「若者の活字離れ」からスポーツ新聞の話題、今は旬の「断行決裂・プロ野球初のスト」 の話題から、「噺家がストしても影響は・・・。古田選手は一試合出て三百万ですわ、私らここに出ていくら貰えるか、入場料をいかに分けるかが気になると思いますが・・・。十人程で分けるんです。どうして分けるか・・・じゃんけんですわ」と、爆笑マクラが続く。

さらに、「私と吉朝兄さんは米朝事務所ですから事務所通しですわ。十日締めの二十五日払いですわ、今日のギャラで酒を飲んで生活してるのに今日はあきまへん・・・」と、「かといってストするわけにはいきません。『もう出ません』言うたら、『一生もとまち寄席には出なくていいです』言われますから」と、爆笑マクラが続く。そして、マクラから流れるように始まった演題は『あみだ池』。「鸚鵡返し(おうむがえし)」による笑いがメインであるこの噺、師匠直伝のしっかりした演出を土台に随所に工夫が入る。

特に、「米屋まで走ってきて暑いからプラッシー飲みに来た」は、ドッカンときた。トントンと流れるような口調で演じられる22分の口演に会場のは大爆笑で大満足。

・・・楽屋よもやま噺・・・「あみだ池」について・・・

この噺は、日露戦争の後に、桂文屋師匠が創作したとされており、大爆笑編に仕立て上げたのがご存知の初代春團治師匠とされており、初演直後には、前の「誰が行けと言うたんや」「あみだが行け」で、サゲと勘違いした楽屋が太鼓を鳴らしたとされている。

東京では『阿弥陀ヶ池』、又、改作され『新聞記事』。笑福亭仁智師匠の自作の『アフリカ探検』もこの噺が下地になっていると思われる。

小染師「今日はありがとうございます。これもあれもと思って、二つ(『試し酒』『たいこ腹』)に絞っ

て来たんですけど、やっぱり出てますわなぁ、ここは、ネタの取り合いやもん。真剣勝負

で・・・、ここで、『試し酒』試したかったんやけど残念。」

福笑師「そや、わしも『渚にて』か『ちりとてちん』と思ててんけど、出とるわなぁ」

※ 『試し酒』    04年5月:桂 米平 演。

 『ちりとてちん』 04年1月:露の吉次 演。

  三つ目は、当常連、「チャカ・チャンリン」の『たぬき』の出囃子でモッチャリと五代目林家小染師匠が登場。その愛くるしい笑顔で演じられる爆笑上方落語を持ち望んでいた会場から大きな拍手が起こる。

「どうも、沢山のご来場でございまして、ありがとうございます。」と、挨拶し、さっそく團朝師の後をとって、

「米朝事務所はまだよろしい、私ら吉本興業でっせ、会社通さん仕 事、公然とした闇の仕事でないと・・・・」と、本音と思われるマクラで笑いを誘って本題の『たいこ腹』がスタート。

林家のお家芸とあって、オーバーにタップリ、キッチリ、そして、モッチャリと演じる。その一言一言に会場が爆笑の渦の25分の高座であった。   

 そして、中トリは上方落語界の優・桂吉朝師匠。『外記猿』の出囃子でゆっくり登場し、「えー、楽屋では『今日は、どこへ飲みに行く』との話に私と團朝は・・・・(腕を目に当て泣く仕草)」から、「最近、やっと食えるようになりました。けど、別に仕事が増えたわけでも、ギャラが上がった訳でもないんですけど、考えらたら判りました。食べる量が減ったのです(場内大爆笑)」

そして、乗り物のマクラが始まる。「疲れたサラリーマンの一言」「元気なおばちゃん連中」「新幹線の形」と進んで、「リニアモーターカーは摩擦抵抗がないのでスピードが出る、浮くから乗り心地が良い、そして、磁気を使っておりますので肩のコリが取れる(ドッカーーン)」。

そして、本題の『住吉駕籠』が始まる。発端から三人上戸の男のやり取りをテンポ良く会場を爆笑の渦に巻き込んで物語が進み、「わいの言う事あらへんがな」「なかったら早よ帰りなはれ、おかみさん待ってまっせ」「えらいこと言うた、かか待っとう、あいつは貞女やぞ、あいつとのそも馴れ初めの話」「そんな聞いてられまへん」「住吉駕籠でございます」で中入りとなった。

  中入り後は、春蝶一門から桂一蝶師匠の登場。昭和53年入門で26年のキャリア。『蝶々』の出囃子が鳴り場内はホンワカムード。「どうも、ありがとうございます・・・」と愛想一杯にあいさつし、「私はつなぎですから変われと拍手が五名以上あるとやめることになっています・・・。」「どうです、そこの二十二、三の奥様・・・靴のサイズの」と、場内を巻き込んだマクラから「今日は古典です。それもご当地神戸に関連する噺・・・。へへぇ、何やるか楽しみですやろ」と始まった。

 古典落語を土台にし、神戸の名所を取り入れた名付けて『運廻し・神戸編』。

酒のあては田楽ではなく風月堂のゴーフル、「ん」を一回言う度にゴーフル一枚とは随分無理した設定だが、ご愛嬌である。師匠の独特のマジとも芸ともとれる熱演に場内も大満足。大受けの20分であった。

 そして、九月公演のトリは、上方落語界の優・笑福亭福笑師匠。高座へ登場すると鳴り止まない拍手にのりのりで、「えー、おおきに、ちょっと二日酔いです。でも大丈夫です。ようけ来てもろて・・・」と、マクラから全開。

「今日は九月十日とちょっと涼しくなりましたが、『渚にて』という、真夏のお笑いを聞いていただきます。」この噺、当席では三度目の口演となるが、初演は83年8月と21年前。

  出たとこ勝負のように見えるが練りに練った口演(そう見せないところが素晴らしい)で、追加・削除もある。「氷川きよし」などは初登場。大爆笑の連続で、拍手喝采のサゲであった。

さて『落語会は全部で一つの劇』と言われるが、今回がそうであった。出演者がそれぞれ、他の演者をマクラに使って笑いの連鎖が起こったのである。

團朝「他の演者は飲む相談ですが、私ら米朝事務所です。振込みです」

小染「米朝事務所より酷い吉本興業」

吉朝「小染は出番前にユンケル飲んどる。ドーピングや」

一蝶「私は吉朝さんと福笑さんのつなぎ。五人の拍手で変わります」

福笑「一蝶のがき、マクラの割にネタが短い」(叶 大入)