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       第312回 公演の記録           吉村 高也
     公演日時: 平成16年 8月10日(火) 午後6時30分開演  

             出演者             演目

           桂   つく枝「延陽伯
           桂   米 左「青菜
           桂   梅團治「皿屋敷
           桂   文 枝「猿後家
              中入
           松旭斎 小天正 マジック
           笑福亭 松 枝「うなぎ屋
(主任)

             打出し 21時10分

             お囃子
  山澤由江、勝 正子
             手伝い 笑福亭遊喬、松五、桂 阿か枝、まん我、治ん太

 夏真っ盛り!! 猛暑が続く!! 8月10日の火曜日。『第312回・もとまち寄席・恋雅亭』が開催されました。

 前売券、電話・メール予約も例月に比べて、やや低調(今までが異常か?)それでも、開場予定時間の5時半を待たず、お客様の列が本通りまで伸びたため、25分に開場となり、6時半の開演時間には、空席を残すことなく満席となった(198名)。

 今公演ののトップバッターは文枝門下の桂つく枝師(キャリア14年でトップは贅沢)。

今回も早くから楽屋入りし準備万全。楽屋の準備も後輩に混じって一生懸命こなして出番を待つ。過去のネタを参考に演題を検討し、「『延陽伯』勉強させていただきます」と、定刻の六時半『石段』の出囃子に乗って高座へ登場。「えー、一杯のお客様でございまして、まずは私、つく枝の方で・・・」と、あいさつ

し、入門十四年の想い出噺、結婚生活の紹介、「私は進歩してませんけど嫁はんは強うなりまして、新婚当時はビンのふたは私が開けてましたけど、最近は『ちょっと貸してみ』ちゅうて嫁が開けます」と、笑いをとって、本題が始まる。

 発端からサゲ近くまで随所に自身の工夫が盛り込まれており、楽屋でトリの松枝師匠が「つく枝の『延陽伯』は完成品に近いな。トップではもったいないなぁ」と言わすほどの出来の良さ。25分の熱演であった。

二つ目は、米朝一門から桂米左師。行儀の良い芸風と、お囃子の名手でもある勘の良さを生かして各地で活躍中。当席へは2年ぶりの出演である楽屋では他の一門と和気藹々。実に楽しそうに出番を待つ。

 しかし、実は悩み多き出番待ちであった。当席では事前に演題を決めておらず、前や以前のネタを参考にして決めるのである。当の米左師も、何をしようかと開演までは思案顔。つく枝師の演題が判った後も、高座のソデでお客様の反応を確認してようやく決定となった。

三つ目の梅團治師も同じで、米左師の演題が『青菜』と判ると『皿屋敷』と決定。おもわず楽屋中から「黒い幽霊やなぁ」とツッコミが入ると「師匠にも『こら、噺家がそんな黒ろうなったらあかん』ちゅうて怒られました」と返す。

その米左師、『三下りさつま』の囃子で登場。

「かわりあいまして、私のほうで・・・さきほどのつく枝さんも汗ビッショリで、横から見てますと雪だるまが融けていくようで・・・。つく枝さんと美味しいおそばを食べに行ったんですが、注文は天丼・・・。」と、つく枝師の失敗談を紹介し、韓国ブームの「ヨン様」の話題で自分も「ヨネ様」と会場の笑いを誘って、韓国へグルメ旅行に行く話題から、料理の話題から本日の演題『青菜』が始まる。上方ではポピュラーなこの噺をキッチリとタップリと演じる。ツボツボで笑いが起こり、演じ手も乗り乗りの25分。結構な二つ目であった。

  三つ目は、当席常連である桂梅團治匠。

『龍神』の出囃子で登場すると、さっそく「地味な衣装(オレンジの紋付)で登場いたしまして、まるでカメレオンみたいなもんで、けど、噺家、こない焼けたらあきまへんなぁ(場内から「その通り」とハンジョウが入る)。師匠にも怒れましてん。『なんや、真っ黒けやなぁ』ちゅうて、真っ黒けということは仕事がないんで、・・・・」と、笑いをとる。

「日夜、炎天下、走り回ってます。山口、静岡、琵琶湖と汽車撮りに行ってますねん。そんで、行くとこに台風が来ますねん。仕事もありますねん。けど、中止になりますねん・・・」と、笑いを誘う。

  さらに、須磨寺、西明石、加古川で落語会をやらせて貰ってますと紹介。「この間、その加古川の温泉から、やっとCMの仕事が来ました。私にやなしに、息子(桂小梅師)にですけど(場内、大爆笑)、それではあまりに寂しいので、私も温泉に入って一言『ええ湯やなぁ』だけですわ。娘も出ますねん。娘のほうがセリフ多い、息子はクレーンに吊るられて色々ありますねん、なさけないわ」と、マクラが続き、「加古川から西へ行きますと姫路」と、師匠直伝の『皿屋敷』が始まる。

 これがまた結構で、師匠の名演をベースに所々に枝雀師匠を彷彿とさせるとさせるような演出を交えての口演に場内は大爆笑。サゲ近くの「・・・・十七枚、十八枚、・・・おしまい」には、ドッカーンと大受け。トントンと運んだ22分の高座であった。

 中トリは五代目桂文枝師匠。阿か枝師を伴って6時半過ぎに楽屋入り。ネタ帳に目を通される。

・・・・・・楽屋よもやま噺・・・・・・・・

文枝師「前はいつやったかなぁ」

小 生「昨年の八月です」

文枝師「もう、そないなるか。このないだ出たとこやと思たけどなぁ」

春駒師「前は『京の茶漬』ですわ、その前は『猫の忠信』。今日は『鹿政談』なんか・・・」

文枝師「(笑いながら)こら、そっちで勝手に決めるな。この頃、ネタ忘れるねん。特に人の名前が出て

けえへんねんし、やるネタないわ」

文枝師「(今年一月の文珍師匠の『三枚起請』を確認して、(うれしそうに)この頃、皆さん教えたら、すぐ

演(や)りはるしなぁ(笑)」

小 生「『軒付け』や『胴乱幸助』は、よく出ます」

文枝師「そやなぁ。結構なこっちゃ、みな勉強してるわ。この頃、演(や)る前にちょっとさらうねん。ほ

な、思い出すねん」と、会話が弾む。

 場内に『廓丹前』の出囃子が鳴って、お茶子さんがメクリを替えると場内一瞬どよめき、文枝師匠が高座に顔を見せると喝采に変わる。

「えー、お暑い中、一杯のお運びでお礼を申し上げます。ここへ出してもらうのは、半年ぶりやなぁと思てましたけど、一年ぶりやそうで、我々、こういうところで噺をさせていただくのが勉強でして、ありがたい限りでございます。ここへはよう出してもろてますので、私は疑り深い人間ですけど、ネタ帳見せてもらいまして納得しましたが、まあ、出してもらえるのはありがたいことで、家にじっとしてますと、忘れますねん。困ったもので、・・・・」と、マクラから「世の中にベンチャラくわん人間はいんそうでございまして・・・」と、始まった演題は、楽屋での会話とは反対の人や場所の名前がタップリ出てくる『猿後家』。もちろん文枝十八番である。

 25分の高座は、口ごもることも、言い違えることもなく、隆々とした喝舌で結構であった。それでも、帰り際に師匠は謙虚に「今日は声が出難くうてぁ。あかんわ」と一言。「また、一年後、お願いします」の声に手を挙げて、応えられ車で帰路に付かれた。

 中入り後は、久々の色物として『マジック』の松旭斎小天正師匠の登場。

お囃子を使わずに、大きな道具も使わずに実に見事。

師匠曰く、「私、落語家さんといっしょの舞台好きですねん」と言われるように話芸と手芸で場内を大いに満足させる。「ハンカチから鳩」「消えるビール瓶」「1,4,3、6と変わるカード」、そして、トリネタのお家芸の「リングマジック」で客席を充分満足させる。

 さらに、会場のお客様との掛け合いや、ウイットに飛んだ会話も最高。再演を熱望しての拍手喝采でトリと松枝師匠と交代となった。

 そして、八月公演のトリは笑福亭一門の中軸・笑福亭松枝師匠。昭和44年入門でキャリア35年。いつまでも若々しく、肩の凝らない高座は定評。

今回も過去一年の演題を事前に問い合わせ準備OK。当日も早くから楽屋入りしてトリに備える。「師匠、今日は何を?」に対して、「まだ判らん。トリやで。全員で今日の落語会の評価や、ハネ(終演)時間もトリの責任や」と、責任感一杯。(師匠の上がりは、8時45分)

 『早船』の出囃子で登場したが、舞台でお茶子さんと遭遇し、客席の笑いを誘う。「えー、私がせっかちやったんですね、・・・鮮やかなところで、面白い男です。去年十日ほど、いっしょに回りまして・・・」と

小天正師匠を紹介し、村上さん(元関西TV・プロジューサー。恋雅亭同人会)のマジックの本を紹介。

  そして、学校寄席の出来事をマクラとして紹介。体育館での落語会の風景を、先生が落語が始まる前に「今日は落語会だ、いいか、一時間半だ、静かに聞くように、一時間半だ、九十分だ、・・・九十分の辛抱だ(場内大爆笑)そうかもしれません、先生悪気はないんです。口癖なんです。本音なんです」と

マクラから「馬鹿馬鹿しい処をお付き合い願いますが、『おい』、『えー』『何してんねん』『立ってんねん』『立って何してんねん』『立ってーーーー立ってんねん』」で始まる、六代目松鶴十八番の『うなぎ屋』の一席。会場を爆笑の渦に巻き込んでの25分のトリの重責と意味合いを感じさせる高座であった。

(叶 大入)