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       第309回 公演の記録           吉村 高也
     公演日時: 平成16年 5月10日(月) 午後6時30分開演  

             出演者             演目

           林家  花 丸「鉄砲勇助」
           桂   文 昇「書割盗人」
           桂     米 平「試し酒」
           笑福亭 鶴 志「胴乱の幸助」
              中入
           桂   文 我「花 筏」
           林家  染 丸「子はかすがい」
(主任)

             打出し 21時10分

             お囃子
  林家和女 勝 正子
             手伝い 林家染弥、染太、桂まん我(順不同)

新緑の5月10日の月曜日に「第309回もとまち寄席・恋雅亭」が開催されました。

GW疲れもあったのか、前売券も電話、メールでの問い合わせも、やや伸び悩みぎみで、当日を迎える。

 朝からの雨も上がった当日のお客様の列はいつも通り、2列、そして3列にと並んでもらって整理を始め、定刻の5時半開場となる。

  次々に会場へ入られるお客様の来場はいつも通りであるが、6ケ月連続の立ち見大入公演とならず開演となった。

 出演者の楽屋への到着はいつも通りで、6時には染丸、文我師匠を除いて顔が揃う。来場されたお客様から「染丸師匠、『つるてん』で蕎麦食べてはったで」と、情報が入り、まもなく到着。そして、走りこむように文我師匠も到着し、楽屋は大賑わい。

 二番太鼓(着到)から、「チョンチョン」の祈と共に定刻の6時半、三味線を林家和女、勝正子嬢。太鼓、笛を桂文昇、まん我、林家染弥師らが奏でる『石段』の出囃子で登場するのは林家花丸師。

 最近マスコミへの露出度もあがり、さらに平成3年入門の同期生の生喬、こごろう、つく枝の各師との落語会『出没!ラクゴリラ』で大活躍、元気一杯で当席へ、楽屋へ「お先に勉強させて頂きます」とあいさつし、高座へ登場。

「えー、ありがとうございます。いよいよ開演でございまして、のっけは、私、林家花丸のほうでお付き合いをお願いしておきますが、お足元のお悪い中・・・」とあいさつし、神戸の市役所前で開催された?「うそつきコンクール」の話題の小噺から、始まった演題は『鉄砲勇助』。

 上方は『鉄砲勇助』、東京では『嘘つき弥次郎』として、お馴染みであり当席でも十数度演じられている。

全編が爆笑編で、武者修行で訪れた木曽の山中での山賊、猪との対決。そして、噺は北海道へ移って次々に繰り広げられる『嘘』のオンパレードに場内は爆笑の連続。サゲは小便が凍る処での「お前の話はキリがないなぁ」「錐(キリ)はおまへん。くぎ抜きと荒縄」であった。

 二つ目は、文枝一門から桂文昇匠。陽気な中に品のある高座は当席でもお馴染み。今回も期待を裏切らない名演をと期待の中、高座へ登場。「はい、皆様方、惜しみのない拍手ありがとうございます・・・・」と、あいさつし、世間の犯罪の話から、自分が盗まれたもので一番情けないものは自転車のサドルの止め金と紹介してから、名前の紹介。盗人は、「ぬーと入ってきて、すっと物を盗って、とーと逃げるから」追いはぎは「向こうへ行く人をおーいと呼んで、着ているものをはぐから」盗賊は「入る家の戸の前で胸がゾクゾクするから」。

 そして、盗人の登場する『書割盗人(東京では、だくだく)』が始まる。落語にも、はやりがあるようで、よく演じられている噺である。しかし、前半の書割の設定がキッチリしていないと後半の盗人が忍び込んできた時のクスグリが生きてこない難しい噺である。その噺を、基本に忠実に自身の工夫のいたるところにちりばめられた22分の熱演高座であった。

 三つ目は、ざこば一門から桂喜丸師の予定でしたが、ご存じの通りお亡くなりになられました。

残念ですが。・・・・追憶・・・桂喜丸師匠・・・・・

  お亡くなりになられた喜丸師匠は当席へも数多くご出演された常連。その記録をご紹介してみたい。

86年 8月・101回『道具屋』。      89年 6月・134回『いらち車』

90年 2月・142回『みかん屋』。     91年 3月・155回『動物園』

92年 1月・165回『竜田川』。      93年 2月・178回『ふぐ鍋』

93年 9月・185回『骨釣り』。       94年 8月・196回『遊山船』

94年12月・200回『おごろもち盗人』。  97年 7月・227回『鰻屋』

98年11月・243回『粗忽長屋』。     00年 2月・258回『鬼の面』

02年 2月・282回『おごろもち盗人』。

ご覧の通り熱演の連続であった。        ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 代演は一門の桂米平師となった。巨体(110kg)を揺すって、『大拍子』の出囃子で登場し、「えー、替わりあいまして、出てまいりました桂米平の方でお付き合いを願うわけでございますが・・・」。じめじめした暑さに弱い、正座が長時間出来ない、相撲取りに間違えられた、無理やりお酒を勧められることなど、太っていると困る点をあげ、マクラが始まる。

 そして、お酒の弱い人を表した小噺で笑いをとった後、師匠直伝の『試し酒』が始まる。この噺の出所を前回(平成12年9月・第265回公演)、お伺いした内容をご紹介したい。

小 生「お疲れ様でした」

米平師「どうも、おおきに。いつもながらやり易いお客さんですわ」

小 生「今日の噺(『試し酒』)は、師匠からですか?」

米平師「へぇ、師匠のレコードの『珍品集』から覚えて、師匠に直してもろて・・・」

小 生「小さん師匠も演(や)りはりますね?」

米平師「元は小噺みたいな噺ですからね。私も勉強不足で、よう判かりまへんねん」

 さて、その本題は、「五升の酒が飲めるか」を賭けた主人の身代わりとして挑戦した権助が、見事に

五升の酒を飲み干してしまうという噺。

米平師のほんわかとしたムードで美味しそうに飲むお酒の仕草に会場全体からクスクスと、連続して笑いが起こる。今回も、ほんわか、ゆったり、そして、満足の高座であった。

 そして、中トリは笑福亭一門から笑福亭鶴志師匠が、「船行きくずし」に乗ってどっしりと登場。

 出を待つ鶴志師匠にちょっとしたハプニング。黒紋付に付ける新調の真っ赤で大きな羽織の紐のカンが外れてしまったのである。緊急に取り付けて、高座へ飛び出したが、お茶子さんは高座準備中で接近遭遇。

「えらい、無様なかっこを見せまして申し訳ございません。」と、第一声。理由を説明し、年金未納問題と上方落語協会の会費未納問題を引っ掛けて、六代目松鶴師匠の10人の内弟子の分まで一括払いする払いの良さと、三年過ぎた私(鶴志)に「自分で払え」との落差の紹介には会場は大爆笑。

 さらに、電車で遭遇した暴走族の会話、さらに、その筋の人と耳の遠い母親との携帯電話での会話などを紹介して笑いをとる。

  そして、師匠譲りのフレーズから本題の『胴乱の幸助』が始まる。その風貌と口調からはちょっと想像しにくいが落語への取り組みはいたって真面目(失礼)。この噺も口伝された通りキッチリ演じる。サゲは、柳馬場へ行かず、京都へ着いてすぐ場所を聞いた人の会話でサゲとなった。爆笑マクラ付で半時間の名高座であった。

  そして、中入り後は、枝雀一門から桂文我師匠。各地の落語会で絶好調の師匠。過去『しらみ茶屋』『さじ加減』『三十石』『後家殺し』『井戸の茶碗』と熱演揃い。出の前に『京の茶漬』と決めておられた演題を「昨年、文枝師匠が」との情報に「そんなら『花筏』。短いですからトリはタップリ」と即、変更。

さすが。先代譲りの『せり』の出囃子で登場した師匠、マクラで、「やっと、標準形の噺家が登場しまして・・・」と、まずツカミ。そして、本題の『花筏』が始まる。克明に演じると25分を超える噺を、トントンとテンポよく演じ、20分にまとめる。これが、手抜きかというとそうでなく、メリハリのあるポイントを絞った演出であった。高座を降りてこられた師匠とさっそく再演を約束していただいた。

 そして、五月公演のトリは林家染丸師匠。昨年、4月公演以来の出演で、今回も『正札付き』の囃子に乗って高座へ。「えー、毎度ごひいきを頂きありがとうございます。今日はちょっと雨模様で・・・・」と、あいさつし、年をとって物覚えが悪くなった小噺から、最近、やめてほしいことを列挙しファーストフードの店で「1万円からお預かりします」「こちら天丼になります」とぼやいて、ことわざの意味の取違いを紹介。

「可愛い子には旅をさせろ」「子供は夫婦の鎹(かすがい)」から始まった演題は、『子はかすがい』。287回に鶴瓶師匠が演じられたのは、母親が一人で出て行くのに際して、母親が子供を連れて出て行く東京流の演出。

 親子、夫婦の情愛一杯の口演に会場はしんみりと師匠の至芸のとりこ。半時間の染丸ワールドであった。

・・・・楽屋よもやま話・・・芸のこと、寄席のこと・・・・

 染丸、鶴志、文我の勉強家の師匠連が揃ったとあって、楽屋噺は、いたって真面目。その一端を

ご紹介してみたい。勿論、オフレコを除いて。

・師匠(松鶴)の『らくだ』は、おうこ(天秤棒)をもらっていない。

・松鶴師匠には『軽業』を付けてもらった(染丸)。わては、・・・・の小噺(鶴志)。うらやましい(文

我)。

・昔の三月裏、八月裏はやっぱり実在した?。そや、さかい筋をなんばから通天閣まで。通天閣が

出来た頃までは落語の世界そのままやったらしい。

・『土橋万歳』に出てくる土橋はどこ?(文我)。今の高島屋付近にかかっている橋。ようけのうちの

ひとつ(染丸)。

・先代染丸師匠の『三十石』に判からん名前が出てくるが?(文我)。あれは、吉本の役員の名前

や(染丸)。やっぱり、一番受ける名前は、長嶋茂茂雄(鶴志)。

・寄席の設立の話は?。天神橋筋の駐車場に作る予定やけど、建設費と維持費が・・・・。だれが

工面する・・・・(紙がなくなった。残念)。