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       第307回 公演の記録           吉村 高也
     公演日時: 平成16年 3月10日(水) 午後6時30分開演  観客:大入満席(立見多数)

             出演者             演目

           林家  そめすけ「動物園」
           笑福亭 銀 瓶  「七度狐」
           桂     枝女太  「景清」
           桂   千 朝  「植木屋娘」
              中入
           桂   む 雀 「七段目」
           笑福亭 鶴 瓶 「実録・長屋の傘」
(主任)

             打出し 21時25分

             お囃子
  林家和女 勝 正子
             手伝い 笑福亭遊喬、達瓶、鉄瓶、瓶成、林家きょとすけ

前日からめっきり暖かくなった3月10日の水曜日に第307回「もとまち寄席・恋雅亭」が開催されました。前売券は2月公演から絶好調。その後もうなぎ登りで前評判も絶好調。さらに、電話、メールでの問い合わせも加速し、「中曽根VS鶴瓶」のTV放送があってから、そのピークを迎え、ついに完売。

  そして、当日のお客様の列はすさまじく、4時半には2列、そして3列にと並んでもらって整理を始めるが、その後も多くのお客様が階段に列を作られ、1階の売り場から本通りにまで溢れる。ついに異例の、定刻の5時半を25分前倒しての開場となる。

  次々に会場へ入られるお客様の来場の勢いは衰えず、5時30分には当日券の販売を一時中断し、立ち見を条件に入場して頂くという、12、1、2月と4ケ月連続の立ち見大入公演となった(会員様にもご迷惑をおかけ致しました)。

 トリの鶴瓶師匠を始めとして出演者も次々に楽屋へ着到。出演者全員が揃って、二番太鼓(着到)から、「チョンチョン」の祈と共に定刻の6時半、『石段』の出囃子で開演となる。お囃子は、三味線二挺、林家和女、勝正子嬢。太鼓をむ雀師が楽しそうに、笛、祈などは手伝いの噺家諸師がそれぞれ交互に担当。

  その公演のトップバッターは、染丸一門から林家そめすけ師。

平成3年、四代目林家染丸に入門し、古典落語にプラス師独自のボイスチェンジャーや道具?を駆使した創作落語を得意とされている。と先月の会報でご紹介したが、楽屋入りし、ネタ帳を見ながら「えーっ『ちりとてちん』出てる!。これ一本で来たのに、困ったなぁ。よっしゃ『動物園』や、これ短いから前にジャグリング付ける。」とやる気も絶好調。

  「お願いします」と声をかけ、石段の出囃子に乗って登場し、「えー、ようこそのおご来場ありがとうございます。まずは林家そめすけ師で・・・」と元気一杯のスタート。

マクラで笑福亭仁鶴、オール巨人、酒井とおるの各師匠の物まねを披露。これがうまい。会場も大爆笑。 

  そして、「307回記念」と称してジャグリングを披露。一本、二本、そして三本とうまく決まる。トリネタは目隠しで・・・・。大喝采をとって、すっと本題に入る。『そめすけ流動物園』である。トントンとテンポよくお馴染みの噺であるがよくまとまった秀作。トップとしては、やや長かったがマクラ10分、本題10分、充分満足の20分であった。

 二つ目はトリの鶴瓶一門から「銀ちゃん」こと笑福亭銀瓶師。

マスコミで大活躍。落語も、同期で開催している「はやかぶの会(63年入門で六三のはやかぶ)」などで腕を磨いておられる一門・当席期待の星。師匠の元の出囃子である『拳の合方(この囃子は漫才界の巨人。中田ダイマル・ラケット先生の出囃子でもある)』で登場。

 海外旅行でチップを渡した時の失敗談から、「大阪の馬の合いました・・喜六、清八がお伊勢詣りの道中・・・」と、始まった演題は『七度狐』。

この噺、当席では丁度、十回目の口演となる比較的お馴染みのお笑い。口演後、銀瓶師にお伺いした。「今日は緊張しました。まだまだ荒いですわこの噺」と、控えめであったがなんのなんの、発端の草むらに投げた石が狐にあたるくだりから、サゲまで、20分の大爆笑編であった。

この噺の本来のサゲは今は判りにくいので、米朝師匠は、「狐の尻尾が抜けた。よく見たら畑の大根を抜いておりました」として、仁鶴師匠は「また、狐に騙されているんやなぁ。助けに行こやないかと麦畑をお百姓さん二人が深いか浅いか」演じられたおられる。銀瓶師は後者であった。

 三つ目は、文枝一門から桂枝女太師。一門の中軸として、師匠直伝の古典落語を引っさげ各地の落語会で活躍中で、当席常連の師匠。『岸の柳』の出囃子で高座へ登場すると、やや薄かなった頭をツカミに使って、笑いを取って始まった演題は『景清』。この噺は、珍しく当席でも過去、二度しか演じられていない。もっとも現在放送しにくくなくなった噺である。

エロには比較的寛大であるマスメディアも、こと差別にかかわることには敏感であり、ことに体の一部分の障害を扱った落語は特に演じにくくなってしまった。

 この噺の主人公は底抜けに明るい盲人である。その盲人に光が戻るというおめでたい噺として演じられた桂枝女太師の楽屋で、「演(や)ろか、どうしようかと迷いましたが、ここやったら、きっちり聞いてもらえると思って演(や)りました。割と手慣れてるんですけど今日はちょっと、目の前が白くなった場面もありまして、自分で自分に『おかしいおかしい』と、思いながらやりました」との控えめな感想であったが、なかなかどうして28分の好演。

 そして、中トリは米朝一門から「138回公演」以来の桂千朝師匠。

今から、約15年前であるので、当席での高座をご存じでないお客様も多く「百聞は一見にしかず」と紹介したが、楽屋入りされた師匠もなつかしそうで、鶴瓶師匠も入って、昔話に華が咲いた。                         

  さて、その千朝師匠、『浪花の四季』の囃子に乗って万雷の拍手で登場して、男女の仲のマクラからスタート。

そして、「ここにございました、商売は植木屋さんで名を・・・・」と、十八番中の十八番の『植木屋娘』が始まる。

 起伏のとんだ内容の噺を、弾けに弾けた演出で、会場は爆笑の連続。あっという間の30分の高座であった。

高座を振り返って「いやっ、反応良かったですわ。この噺は植木屋の主人を会場のお客様が応援してもらわんとあかんのですわ。よう、何、アホなことやってんねんというような雰囲気になりますねん。演じててよう判りまんねん、そうなったらあきまへん。スベリですわ。今日は会場のお客様の「ガンバ」の後押しで乗って乗ってやれましたわ」と、大満足の感想であった。

  ここで、中入り。6時半に開演して中入りは8時15分と熱演の連続に会場もヒートアップ。中入り後は、異例の扉を全解放して少しでも涼しく聞いてもらおうと工夫する。

  10分の中入り後は、枝雀一門の桂む雀師が出演。師匠譲りのキッチリとして、達者で洗練された上方噺を聞こうとの拍手に迎えられて登場。「ありがとうございます。今度は、こちらの位牌のほうへ戒名が出てますが書いてありますが、ひらがなまじりの可愛い名前「かつらむじゃく」の方でおつき合いを願いますが、と、いうことはお目当ての鶴瓶さんは、私が下りないと見られません。約12時間半ほど喋りますが・・・」と、お馴染みのツカミから、歌舞伎の話題、見栄の切り方の実演では会場全体から拍手喝采。

そして、始まった演題は十八番の『七段目』。         

お囃子との息もピッタリで、オーバーアクションで演じられる高座は演者も客席も大満足。

 そして、三月公演のトリは、笑福亭鶴瓶師匠。今回も「是非、恋雅亭へ!」と、忙しいスケジュールの合間に出演頂いた。開演の数日前に小生に電話を頂戴し、ネタは『へっつい幽霊』『厩火事』『小言念仏』の古典か、師匠が暖められておられる『長屋の傘』のどれかに仮決定。当日は、早めに楽屋入りされお囃子さんとキッカケの打ち合わせを行って本日一番の拍手に迎えられ高座へ。

 マクラから全開で、新弟子時代の師匠と弟弟子との想い出を「鶴瓶噺」として披露。実はこの中に伏線があった。マクラで本題の粗筋だけ紹介するという新しい切り口の創作落語である。題して『実録・長屋の傘』。

 師匠に弟弟子の小松、松橋師と共に夜中、突然、傘で突かれる。思いあたらない三人は翌日、謝まりに行くことになるのだが、原因が思いつかない。

ここで、又、鶴瓶噺、題して、修業時代の裏話。これが実に面白い。紙面の関係で紹介できないのが残念。そして、師匠に謝ってサゲとなった。41分の爆笑高座、最後に当席への応援依頼も付いた大入公演であった。