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       第306回 公演の記録           吉村 高也
       公演日時: 平成16年 2月10日(火) 午後6時30分開演  観客:立見・大入満員

             出演者             演目

           笑福亭 遊  喬  「池田の猪買い」
           桂    出  丸  「寄合酒」
           桂     春團冶  「高尾」
           桂   文 太  「五両残し」
              中入
           桂   三 風 「テレショップパニック」
           桂    ざこば  「強情」
(主任)

             打出し 21時00分

             お囃子
  林家和女 勝 正子
                手伝い 桂 阿か枝、吉坊、ひろば、ちょうば、笑福亭たま、瓶成、呂竹。


一時的にやや寒さが緩んだ感のある2月10日の火曜日に第306回「もとまち寄席・恋雅亭・如月公演」が開催されました。前売券は1月の新春初席公演から絶好調。その後もうなぎ登りで前評判も絶好調。さらに、電話、メールでの問い合わせも加速し、当日の10日にはそのピークを迎える。

  当日のお客様の列はすさまじく、5時には2列に並んでもらって整理を始めるが、その後も多くのお客様が階段に列を作られ、1階の売り場から本通りにまで溢れる。先月同様、定刻の5時半を10分前倒しての開場となる。

開場後もお客様の勢いは衰えず、5時50分には当日券の販売を一時中断し、立ち見を条件に入場して頂くという、12月、1月に引き続いての立ち見大入公演となった(会員様にもご迷惑をおかけ致しました)。

 出演者も次々に楽屋へ着到。三代目師匠は、いつも通りにあーちゃん(奥様)同伴。ざこば、文太師匠を始め、遊喬、出丸師も到着され準備OK。  

 二番太鼓(着到)から、「チョンチョン」の祈と共に定刻の6時半、『石段』の出囃子で開演となる。お囃子は、三味線二挺、林家和女、勝正子嬢。太鼓、笛などは手伝いの噺家諸師がそれぞれ交互に担当。

  その公演のトップバッターは、松喬門下から笑福亭遊喬師。一門の二番弟子として師匠の奮闘よろしく各地での落語会で大活躍。数々の大ネタへも積極的に挑戦されている当席常連である。

軽快な出囃子に乗って、やや巨体を折り曲げるように揺すって元気一杯登場。「えー、只今から開演ということでございまして、立ち見があるほど沢山入っていただきましてありがとうございます。結構なことでございまして、こちらは会場がこれだけ広いのにもかかわらず、楽屋がめちゃ狭いのでございます。楽屋で緊張しておりました笑福亭遊喬でございまして。私のほうは、ほんあっさりとしたところをおつき合いを願っておきますが・・・」と、あいさつし、マクラを振らずに本題の『池田の猪買い』に入る。

 この噺、ポピュラーな噺であるが、当席では以外と演じられていない。平成4年11月の第175回に松喬師匠が演じられて以来10年ぶりである。

 その噺を師匠直伝を思わせるようにキッチリと発端から演じる。道中付けも、『うちを表道は、これが丼池(どぶいけ)筋じゃ。これを北へとって北浜へドーンと突き当たる。北浜の丼池には橋が無い。そこをちょっと左へ行くと淀屋橋といぅ橋が出てくるなぁ。淀屋橋、大江橋、蜆橋と橋を三つ渡るわ。お初天神の西門のところに「紅う」といぅ寿司屋の看板がある。これが目印や。こっから北へ一本道、十三の渡し、三国の渡しを渡って、服部の天神さんを尻目に殺ろすと、岡町から池田。池田でも町中ではどんならんで山の手へかかって山猟師の六太夫さんと・・・・』とキッチリと。サゲまで20分の好演であった。

 二つ目はトリのざこば一門から桂出丸師。ラジオでも落語会でも大活躍の一門期待の星で、今回もどんな爆笑噺をと今から期待。と紹介したが、過去当席では『みかん屋』『牛ほめ』『餅屋問答』『二人癖』と今回で5回目となるが、いずれも好演である。

 高座へ登場すると「えー、ありがとうございます。替わりまして出丸君で一席・・・、

えー素晴らしいですなぁ、立ち見まで出て頂いて、緊張しますわ、と言うのは最近、高座からお客様の人数を数えられるところでしか、演(や)ってませんので・・・」と、笑いをとる。

  そして、「こう一杯だと打ち上げも楽しい」と、酒の話題。アルコールの王様は「ビール」と「日本酒」と紹介し、日本酒の燗の温度を「日なた燗」「人肌燗」「ぬる燗」「上燗」「熱燗」「とびきり燗」「もうあかん」とマクラで笑いをとって始まった本題は『寄合酒』。笑いも登場人物も多い、お馴染みの噺である。

     * 楽屋よもやま噺  『三代目師匠とざこば師匠』 **

早くから楽屋入りされた両師匠。

ざこば師「最近、物忘れが激しゅーて、困りますわ。けど、うちの師匠も、こないだ、高

座でネタ忘れて。うまいこと誤魔化してはったけど、私ら、上がりしょうで困

りますわ」

春團治師「そや、僕も上がりしょうやで、何年やっとても、出の時は緊張するしなぁ。間

違ったら笑ろたらあかんねん。こないだ、袖が先に間違いに気が付きよんねん。

そしたら、もうあかんわ、僕、ゲラやからつり込まれそうになって、忘れたり、

間違うのん、君とこの師匠だけと違うで、僕も文枝君も一緒やで」

ざこば師「六代目のお師匠(松鶴)はんやったら、忘れても、間違ってもええ芸風やけど・・・・」

(全員・大爆笑))

 酒を飲む肴を鯛、棒鱈、数の子、ねぶか、鰹節などを上手く調達し、準備をすることになるのだが・・・。

出丸師の熱演が続く。袖では、次の出番の春團治師匠が自身の十八番の噺を目をつぶって聞いておられる。どことなく嬉しそう。もちろん、高座の出丸師は知るよしもないが・・・・。

どこで切っても良い噺であるので、サゲは「わー、わー言っております。お馴染みのお笑いで」と、18分の高座であった。

  三つ目は、上方落語界の大御所・三代目桂春團治師匠が、昨年の「300回記念公演」に続いての出演となります。後のスケジュールの都合(実態は内緒・あーちゃんとのデートか?)で、出番が変わった師匠、いつもの通り高座の袖で出番待ち。

 ここから華麗な上方噺がスタートする。出囃子が『野崎』に変わり高座の準備が出来、メクリが変わると会場全体からどよめきが起こる。

 楽屋に「お先、勉強・・・」とあいさつし、「ご苦労様です」の声に送られて満員の客席からの拍手に迎えられて高座へ登場。満員の客席へ一礼。そして、座布団へ着いて一礼。「えー、大勢のお運び様で厚く御礼もうしあげましてございます。どうぞお後、お楽しみにごゆっくりお遊びの程を、私の方は、あいも替わりません、馬鹿馬鹿しいお笑いを申し上げまして・・・」と、まるで絵のように流れる高座である。羽織を脱いで本題へ。十八番の『高尾』文章にする必要のない24分の高座であった。

 拍手の数は5回。出て直ぐの一礼、座布団へ座って一礼、サゲ後の一礼、袖口での一礼、そして、煙の中から幽霊高尾登場のシーン。その点を書き添えておきたい。

  三代目師匠に変わって中トリは、『さわぎ』の出囃子で文枝一門の桂文太師が、今回も洗練された上方噺か、東京落語の移植版か、と楽しみにされている客席の拍手に迎えられ登場。「えー、三代目師匠は『後、頼んだで』と、おっしゃいまして仕事に行かれました・・・。

災難ですわ、こんなん、お客様の雰囲気が違います。パンフ見ながら『文太、知らんな。小便(しょんべん)行っといたれ』でっせ」とツカミ。「楽しみは背中に柱、前に酒、左右に女、懐に金」と男の楽しみの話題から、「東京では『お目かけさん』大阪は『お手かけさん』」と紹介し、二三の小咄。「旦さん、旦さんの持てはるその煙管(キセル)が欲しいの」「これかいな、これ大事にしてるやつや」「旦さんその煙管くれはったら、わて、何でも旦さんの言うこときくし」「そうかほな、やるわ」「うれしいわ、それで、旦さんの頼みは」「その煙管返して」良くできた『煙管返して』。本題は『五両残し』(口演の後、師匠に確認済み)。                 

  この噺、東京では、旦那さんの屋号をとって『星野屋』と呼ばれている噺で、当席では文珍師匠が後者の演題で演じられておられる。

  起承転結、特に場面転換とサゲが鮮やかに決まる面白い噺である。再演を期待したい。

ここで中入りとなる。                             

 中入りカブリは、三枝一門の桂三風師。師匠直伝の創作落語を引っさげ各地の落語会で活躍中で、当席常連である。「えー、こんな奥に出て緊張しております」と、あいさつし、最近の世間に対するぼやき、大阪人は大阪弁をと爆笑を誘って、始まった高座は、客席の全員に「わぁー、えー」と巻き込んだ、題して『全員参加落語・テレショップパニック』。

  短くてと断っておられたが、実にコンパクトにまとまっていて、会場全体からも天井が落ちるほどの全編爆笑の連続の逸品であった。

 そして、如月公演のトリは、桂ざこば師匠。「恋雅亭ならいつでも出るで!」の約束通り、忙しいスケジュールの合間に出演頂いた。

『月並丁稚』『狸の化寺』『坊主茶屋』『遊山船』『青菜』と過去、大ネタを披露されておられる師匠、「ここのお客様は、ええわ、ツボは判ってはるし、妙に通ぶってはらへんし、好きや」と楽屋での感想。               

  『御船』の出囃子で元気一杯高座へ登場して、羽織を脱ぎながら「脱ぐなら着てこなんだらええのに・・・」と、「二、三日、家へ帰えってまへん、嫁はんと喧嘩して」と、夫婦の強情と強情のマクラから、十八番の『強情』が始まる。

 師匠のイメージと登場人物の一人一人がピッタリのこれも逸品。内容は、申し訳ない、紙面の関係でここでストップとさせて頂く。