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      第305回 平成16年初春公演の記録           吉村 高也
       公演日時: 平成16年 1月10日(土) 午後6時30分開演  観客:立見・大入満員

             出演者             演目

           笑福亭 生  喬  「つる」
           露の   吉  次  「ちりとてちん」
           桂     珍 念  「紙入れ」
           笑福亭 松之助  「くしゃみ講釈」
              中入
           桂   米 平 「正月丁稚」
           桂    文 珍  「三枚起請」
(主任)

             打出し 20時55分

             お囃子
  林家和女、草尾正子
                手伝い  桂 楽珍、桂 かい枝、笑福亭銀瓶、笑福亭呂竹。

前日から一段と寒さが増した1月10日の土曜日に第305回「もとまち寄席・恋雅亭・新春初席」が開催されました。

前売券は12月の師走公演から絶好調で、発売初日に30枚を販売。その勢いは新年に入ってからもうなぎ登りで前評判も絶好調。さらに、電話、メールでの問い合わせも加速し、当日の10日にはそのピークを迎える。    

  当日は寒さも厳しい中、一番のお客様は開場の3時間前の2時半に会場入り、その後も多くのお客様が階段に列を作られ、1階の売り場から本通りにまで溢れる。列を最前列から一歩ずつ寄ってもらうが、お客様のご来場は続き、定刻の5時半を15分前倒しての開場となる。

 開場後もお客様の勢いは衰えず、5時40分には当日券の販売を一時中断し、開演10分前に立ち見を条件に入場して頂く。(最終的には315名のお客様と会員様も過去最高となる77名様のご来場。ご迷惑をおかけ致しました)。  

 二番太鼓(着到)から、「チョンチョン」の祈と共に定刻の6時半、正月恒例の『十二月』の出囃子で開演となる。

お囃子は、三味線二挺、林家和女、勝正子嬢。太鼓を笑福亭銀瓶、呂竹、桂かい枝師がそれぞれ交互に担当。

 トップバッターは先月トリの松喬一門から笑福亭生喬師が巨体を揺すって元気一杯登場。「えー、あけましておめでとうございます。只今より305回もとまち寄席恋雅亭の開演でございまして・・・・」と、あいさつ。

 その生喬師、師匠の奮闘よろしく各地での落語会で大活躍。数々の大ネタへも積極的に挑戦し自分のものにされている勉強家。最近でも『質屋芝居』『蛸芝居』の芝居噺や『花の都』『殿集め』『苫ケ島』の珍しい噺などに積極的に挑戦されておられます。

当席ではトップらしく、又、師匠の教えである「ここでは、受けるからといって前座は15分以上するな」の教えに忠実に守っての高座。

 マクラで松喬一門の正月風景を紹介し、笑福亭のお家芸、六代目松鶴、師匠の松喬と伝えられた『つる』を15分で演じる。                     

 師匠直伝を思わせるところを随所に感じさせながらキッチリと演じる。高座を済ませた生喬師は、汗を拭き拭き「いやー、一杯のお客様ですなぁ。後ろに立ち見のお客様まで、やりがいがありました」との感想であった。 

 二つ目は当席へは二度目の出演となる五郎一門の露の吉次師。

コテコテの一門の伝統を受け継ぎ今回もどんな爆笑噺をと期待の中、「かんかんのぉー」の出囃子と、「待ってました」の掛け声に乗って高座へ登場。「えー、勿体ない、勿体ない、お手にはお怪我はございませんか」とツカミのあいさつから「私も四十になりました。(会場から「へー」との感想)前の生喬さんは三十五歳です。見えませんやろ、あの貫禄。それに比べてこの軽さ・・・・」とツカミの後、五郎一門のお正月を紹介して、始まった本題は『ちりとてちん』。

  多くの演じ手のいる噺であるので、自身の工夫を噺にどう反映するかが演じ手の腕の見せ所であるが、随所に自身の工夫が生かされて笑いが起こる。

お客様も演者も大満足の17分の高座であった。

 三つ目はトリの文珍一門から桂珍念師。愛くるしい笑顔でファンも多い師  匠。今回は師匠との競演とあって、ハリキリも緊張も今まで以上。       

軽快な出囃子に乗って登場し「どうもありがとうございます。桂珍念の方でおつき合いを願っておきます。私の方は『紙入れ』というお噺で」と、始まった。この噺、東京落語としては、有名な噺であるが上方では珍しい噺の部類に入るのではないだろうか。                                     

珍念師自身も自分のものにするべく現在、多くの落語会で演じておられる演題。

楽屋でも、前に出る生喬、吉次の両師に演題を確認して演じられることになった。

自分が可愛がっている若い衆を女将さんが誘惑するといったお定まりのストーリーである噺を主人公の若い衆にスポットを当てた、13分の高座は、お客様の拍手の多さが満足さを表していた秀作であった。

  そして、中トリは上方落語界の長老、笑福亭松之助師匠が芝居で忙しい中、久々の「恋雅亭」出演を快諾純上方噺を演じていただくことに、師匠もお客様も非常に待ち遠しい高座となった。

  早くから奥様とご一緒に楽屋入りされた師匠にごあいさつすると、「ごめんなぁ、久しぶりや。ちょっと、芝居で忙しかったさかい。これからはちょこちょこ出してなぁ」と嬉しいコメントを頂いた。

  「新曲浦島」の出囃子で、今日、一番の拍手で登場した師匠「えー、おめでとうございます。腹からそない思ったことはいっぺんもございません。」と衰えをしらない、毒舌で笑いをとる。さすが。

「えー、お陰様をもちまして、私も体が・・・あっちこっち痛みだしましてえー、この頃、ようお医者さまへ行きますんです。と言いますのが薬局で薬買うよりも、老人医療で非常に安い。お医者さんも詳しく聞きませんねん、あの問診ちゅうやつ。たいていカルテ見て、年齢を見て、年齢の標準で言うて、血圧図って、百六十もあんのに、よろしい言いますねん。標準やちゅうて、こないだも『先生、こないだもろいました薬効きまへんで』ちゅうたら『そうでしょう、効く薬は体に悪いんです』。声が出にくいから耳鼻咽喉科へ行きましてん『声帯が年齢です。なんでも年齢ちゅうて言いますねん。若い人と違ってハリがありません』当たり前やハリがあってたまるかいな。

『声の大きさを一段落として、おたくぐらいなったら、長いことやらんでも5分ほど出て、おにゃおにゃおにゃおにゃ言うたらお客様も得心しはりますせ』(お客様に対して)得心しはりまっか。それやったらええけど。ともかく、もう一段落として・・・。」と毒舌が続く。

 「とにかく、20分が限度で、・・・今日も20分が限度で、けど、出たらしゃべりたがりますねん。・・・・この頃ドラマが多い。なんで笑うねんなぁ。仕事や・・・。」とドラマの出演者の話題から、NHKの制作者の話題へ、そして、ドラマでの『くっしゃみ講釈』の話題へと、マクラが8分続き、会場のお客様に断って、拍手をもらって、五代目松鶴直伝で十八番の『くっしゃみ講釈』が始まる。

  師匠がこの噺を当席で演じられるのは4度目と、当席での師匠の42高座中で最多。

十八番とあって、又、久しぶりの当席とあって、喉の悪さも年齢も感じさせない18分のハイテンションの高座。発端から講釈へ、そして、一段とテンションが上がっての、くっしゃみ、そして、サゲ。好演・熱演・再演を望んでの拍手が鳴りやまない中、お中入りとなった。 

  中入りに備えて、文珍師匠の奥様と楽珍師がCD発売の準備。いつもながら誰とでもすぐ何年来の知り合いとうち解けられる底抜けに明るい奥様。地元灘区にお住まいとあって異人館の話題で盛り上がる。

そして、中入り中に、コーヒーやジュースに混じって、CDの即売会が始まる。昨年は、9集であったが3集増えて、今年は12集に。いづれも、師匠が手がけられた名演である。

 熱気ムンムンの会場に一息が入って、中入、カブリは、米朝一門から桂米平師が『大拍子』の囃子に乗っての登場となった。巨体と風貌で演じられる上方落語の爆笑高座は当席でもお馴染みで、出演回数10回目となる常連である。

  楽屋でもニコニコと愛嬌タップリで、トリの文珍師匠も「いつも機嫌ええなぁ。けど、その体型は噺家にはおしいなぁ」とお褒め?の言葉。

 「(ポン)えー、一杯のお運びまことにありがとうございます。早いもので年が明けて、もう本日十日でございます。本戎でございます。私も正月は家で過ごしました。仕事がなかったんで、すっかり太ってしまいました。落語家にとって太っていることは致命傷です。25分以上の落語が出来ません。

シビレ切れますから。着るものが選べません。着物は融通がききますが・・・」と、爆笑マクラが続いた後、始まった演題は、「お正月のお話を」と断って師匠直伝の『正月丁稚』の一席。

米朝師匠の口伝を忠実に守って発端からキッチリとツボ、ツボを抑えての熱演に客席から爆笑が起こる。中入り後で、トリへつなぐ重要な出番をキッチリとこなし、桂文珍師匠へバトンタッチとなった。

 そして、本年の初席のトリは『上方落語界の重鎮』桂文珍師匠。      

「恋雅亭の初席のトリは定位置」となって久しいが、今年も大入公演となった。早くから楽屋入りされた師匠、そでから会場の反応を確かめて準備OK時間を見て小生に、「今日、ちょっと早いなぁ。時間あうなぁ」小生が「タップリあります」と応えると、嬉しそうに、

「そうやなぁ。今日は短いのと長いのんの二つ予定しとったから長い方にするわ」と、お囃子の和女嬢へ、『三枚起請』。と小声でささやいて、満員の客席からの大喝采に迎えられて『円馬囃子』に乗って登場。いつもながらトリに相応しい恰幅である。  

 「えー、あけましておめでとうございます。」と、マクラが始まる。  

まずは、年末年始の紅白歌合戦の話題から、申年から、猿を扱った小噺を二つ。猿の鳴き声から烏の鳴き声。烏にせかされて朝起きてゴミを捨てるご自身で笑いをとって、携帯電話から今の恋愛、そして、昔は手紙と起請文を紹介。色々に話題を変えて、「えー、今日は、前がトントンときたせいか、ちょいと時間がありますので、タップリとやらして頂きますと、始まった演題が『三枚起請』。

なんの違和感もなく本題に入ったが、判り難い内容やサゲを全て仕込んだマクラのふり方がで、実に見事。本題も、文枝師匠の十八番の直伝とあって悪かろうはずもなく、発端からキッチリと演じられる。途中で前出の『くっしゃみ講釈』と、クスグリが付いた部分も笑いに替える等、自由自在。サゲも、烏も熊野権現の起請もマクラで織り込んであるので、実に見事。大入満員の客席も大満足で大受けの、40分の高座であった。「ありがとう、ございました。今年も良いお年でありますように、CDも売ってます」と締めの挨拶。

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  今回の三枚起請を含め、震災後、師匠が演じられた演題は、胴乱の幸助・軒付け・はてなの茶碗・星野屋・宿屋仇・七段目・らくだ・天狗裁き・たいこ腹と、なった。